パン屋、逃げてもムダだった──大宮ふとん店の影、迫る
ベーカリー中村の修さんは、ただ平和にパンを焼きたいだけの男である。
朝4時に生地をこね、昼には常連にパンを渡し、夜はビールを飲む。
そんな質素で安定した日々が——
大宮ふとん店のおかげで、完全に壊れた。
最近どうにも“視線”を感じる。
背中をザワつかせる、あの感じ。
振り返ると——
「……修ちゃん……」
商店街の薄暗がりで、ふとん店の“祖母”が逆光に浮かんでいた。
朝6時。なぜかパン屋の裏口前。
顔が影に沈んでいるせいか、ホラー映画の導入そのまんまだ。
修さん「お、おはようございます!?
何してるんですかこんな時間に!」
祖母「FAXがねぇ……止まっちゃって……」
修さん「また!?いやウチに来ないで店の中で確認して!!」
祖母「修ちゃんが近くにいる“気がした”んだよ」
気配で来るな。
別の日。修さんが買い出し中にふと視線を感じ振り向くと——
今度は電柱の影から祖母が出てきた。
祖母「修ちゃん……ハエ取り紙がねぇ……いろんなものにくっついちゃって……」
修さん「毎回事件みたいに言わないでください!!
くっつくのわかってるなら撤去すればいいでしょ!?」
麗奈(近くの店から出てきて)
「私も言ってるんだけど、おばあちゃん全然言うこと聞かないの!」
修さん「ズラした?ズラしただけ!?何も解決してないんですけど!」
夕方になると、またパン屋の外に影が伸びてくる。
祖母が逆光で立っている。
出た、あの“事件前兆”のシルエット。
祖母「修ちゃん……紙がねぇ……切れたんだよ……」
修さん「FAXの紙くらい自分で補充してーー!!
なんで毎回、怪異の報告みたいなテンションなんですか!」
祖母「修ちゃんしか、頼れる気がしないんだよねぇ」
頼られる筋合いは無い。
逃げてもムダだった。
修さんが遠回りして帰っても……角を曲がると——
祖母「修ちゃん……」
修さん「ワープしてこないでーー!!」
祖母「パンがねぇ……ハエ取り紙にくっついちゃって……」
修さん「なんでウチのパンがふとん店にあるんですか!!」
祖母「修ちゃんに渡そうと思って……つい……ハエ取り紙のそばに……」
修さん「そこ、一番置いちゃいけない場所ですよ!!」
こうして修さんは悟った。
逃げれば逃げるほど、影は追ってくる。
その影の正体は——
大宮ふとん店の日常。
祖母「修ちゃん、今日もありがとねぇ」
修さん「……どうも……(慣れてきたのが怖い)」
気づけば修さんは、今日も、そして明日も、
理由もなく大宮ふとん店の“事件”に巻き込まれ続けるのだった。




