いんすたバエと布團の乱──ふとん戦線異常あり
ほぼシャッター通りと化した上尾中央商栄会の片隅で、
ひっそりと、しかし妙に元気な声が上がっている。
大宮ふとん店だ。
店先には麗奈の父が作った、
「戦隊ヒロイン大宮麗奈の店」のノボリ がはためき、
その隣には祖母が張り出した例の名物。
「いんすたバエ」看板。
ハエ取り紙の横にでかでかと描かれた文字は、
今日も全国から笑いを引き寄せている。
観光客が増えたことで、
店内のPOPにも注目が集まるようになった。
しかし、そのPOPが問題だった。
いや、問題ではない。
店の味である。
たとえば——
●『あたゝかい 布團』
麗奈「おばあちゃん、“團”て……」
祖母「昔はこうだったんだよ。あったかい感じが増すだろ」
客「なんか歴史ある……!」
●『すゝめ やはらか まくら』
麗奈「“すすめ”が時代をまたいでる!」
祖母「若いころはこう書いたんだよ」
母「すゝめって可愛いのよねぇ」
客「写真撮っていいですか!?」
●『ふかふた ふとん』
祖母「“か”と“た”が仲良くしすぎたねぇ」
客「ふかふた……新しい響き……」
麗奈「もはや概念……」
●『せんたく けます』
麗奈「“で”! “で”がいない!」
祖母「猫が手をぶつけたんだよ」
クロじい「ニャ(多分私です)」
●『本日 營業中』
父「戦前の名残みたいだな」
麗奈「字の格が強いのよ!」
祖母「氣合が入るだろ」
若者がPOPを撮影し、
“#インスタバエの後ろに布團がある店”
と投稿した瞬間、世界は変わった。
コメント欄は大騒ぎ。
「布團て書く店、初めて見た」
「旧仮名遣いの“すゝめ”が尊い」
「ふかふた……癒し」
「なんで営が“營”なのか説明して」
「大宮ふとん店の祖母、文豪説」
そして、今日も新しいPOPが貼られた。
『新入荷 ふとん 出來ました』
麗奈「“出来”が“出來”……また旧字に戻った!!」
祖母「こっちのほうが書きやすいからね」
母「趣があるわねぇ」
父「まぁ、店の格が上がる」
麗奈「格いらないってばぁぁぁ!」
しかし客は拍手。
「逆にこれを求めて来てる」
祖母のゆるい誤字、
旧仮名遣い、
旧字、
脱字、
そして麗奈のダサノボリとインスタバエ——
全部合わせて、
大宮ふとん店の味 なのである。




