令和に生きる昭和の番号──大宮ふとん店、電話だけ時空がズレてる件──
埼玉県上尾市。
商店街の外れに立つ大宮ふとん店は、
看板の「と」の字が消えかけて“ふ ん店”になっていることでも有名だが、
もうひとつ強烈な特徴がある。
家族全員、電話の市内局番が“3桁になったことを理解していない”。
理解していない、というより——
興味がない。
そもそも電話がほとんど鳴らないため、
記憶が昭和のままなのだ。
ある日、商店街の会合で誰かが言った。
「大宮さん、そろそろ正しい電話番号に直したほうが……」
祖母はキョトンとした。
祖母「え? うちは“ろくじゅうに”だけど?」
会長「違いますよ!今は“048-(略)”で——」
祖母「いや、うちにかかってきたら“62”で鳴るから大丈夫」
母が静かに同意する。
母「うん、電話番号なんて気持ちで覚えるものでしょ」
父「実際、誰も電話してこないから問題ないって」
会長「問題あるから言ってるんです!!!!!」
トークショーの帰りにファンから聞かれた。
ファン「大宮ふとん店の電話番号いくつなんですか?」
麗奈「来なくていいけど、0486の——」
ファン「え!?」
家族の会話を聞きすぎて、
知らぬ間に口が覚えてしまっていた。
客「お店の電話番号教えてください」
祖母「ろくじゅうにの……」
客「いや、3桁のはずですが」
祖母「でも、うちは“62”なんだよ」
父「048のあとに6が来るんだろ?
だったら“0486”じゃねぇか」
客「それは区切り方が変なんです!!!!」
母はもっと自由だ。
母「『ろくじゅうに』って言い慣れてるから、
数字変わっても言い直す気がしないのよねぇ」
客「気持ちの問題!?」
電話局の担当者が訪問。
技術員「市内局番が3桁になったのはご存じですよね?」
祖母「なんとなくは」
技術員「では“62”はもう使われません」
母「でも、電話鳴るじゃない?」
技術員「えっ」
父「たまにだが鳴るぞ。月1くらい」
説明すればするほど混乱が増える。
祖母「新しい番号、長くて覚えられないねぇ」
母「3桁は多いのよ」
父「2桁で十分だろ。昭和は良かった」
技術員「令和なんです!!!!」
配送ワゴンの側面にはこう書かれている。
大宮 とん店
TEL:62-XXXX
麗奈「……せめて“ふ”だけ直して……!」
祖母「今さら直してもバランスおかしくなるよ?」
母「電話番号よりそっち?」
父「むしろ“とん店”のほうが目立つだろ」
麗奈(……この家、価値観どうなってるの……)
市民の口コミ。
「大宮ふとん店は“62”でつながるらしい」
「時空が昭和で止まってる店」
「Googleマップの電話番号が正しくても、
家族が誰も覚えてない」
「店に行ったら“0486”って言われた」
「区切りがおかしい」
ついにはSNSでこう呼ばれる。
“上尾の時空歪曲店”
麗奈「……もう好きに呼んで……」
祖母「でも“62”は大事なんだよ」
母「だってうちの歴史だから」
父「覚えやすいしな」
麗奈「……歴史より正確さを優先して……!」
だが、大宮ふとん店は今日も平然としている。
なぜなら——
電話がほとんど鳴らないから。




