永遠に終わらないセール地獄
埼玉県上尾市──商店街の外れに立つ大宮ふとん店には、
他のどの店にも存在しない“恐るべき特徴”がある。
年間イベントが……終わらない。
いや、厳密に言うと、
終わる前に次のイベントが始まり、
さらにその上に別のイベントが積み重なり、
最後は何がなんだかわからなくなる。
店頭のガラスには、重なり合ったポスターが層になっており、
もはや木の年輪のようだ。
◆第一層:「創業祭」
時期:不明
理由:誰も覚えていない
貼付者:祖母
「創業祭開催中!」
と書かれた昭和フォントのポスターが貼られている。
祖母が胸を張って言う。
「うちはいつ創業したかは忘れたけど、記念日は毎日なんだよ」
記念日の概念が崩壊している。
◆第二層:「新生活応援セール」
時期:数年前の春
貼付者:母
母は“季節を感じた時に貼る”という方針だが、
剥がすという行為を知らない。
「新生活応援!」
の文字の上に
祖母の“創業祭”が重なっており、
さらに破れた角から“値引き30%”が半分だけ見える。
客「これって、新生活のセールですか?」
母「今日の気分は創業祭かな〜」
祖母「わしは新生活応援の日だと思うけどねぇ」
父「俺は閉店セール推し」
価値観が三つ巴で戦っている。
◆第三層:「閉店セール」
時期:不明
貼付者:不明
目的:不明
セール内容:不明
存在が:不安
“閉店セール!”
と書かれたポスターは、誰が貼ったのか本当にわからない。
祖母「私じゃないよ」
母「私も貼ってない」
父「俺が貼るわけねぇだろ」
麗奈「じゃあ……誰?」
祖母「幽霊かもしれんねぇ」
父「上尾の風のイタズラだな」
閉店セールポスターの上に
“創業祭”のポスターが貼られており、
閉店して創業して新生活応援している店になっている。
◆極めつけ:ポップの地層化
新しいセールを思いつくたび、
祖母と母は古いポップの上から貼る。
その結果──
・「創業祭」の上に「歳末大感謝」
・その上に「秋の寝具フェア」
・その上に「真夏の大特価」
・その上に「半額以下(“以外”に見える誤字)」
・さらに「新生活応援」
・最後に「閉店セール」
重なりすぎて、もはや
“歴史の年表”のような壁面が完成していた。
祖母は誇らしげに言う。
「ポスターって重ねると丈夫になるんだよ」
母「うん、破れないし便利」
麗奈「意味は破れてるよ!!!!!!」
◆混乱する客たち
客「今日って何のセールなんですか?」
祖母「全部やってるよ」
客「全部!?」
母「今日は気分で“新生活応援”の日かな〜」
父「俺は閉店セール派だけどな」
客「閉店するんですか?」
祖母「しないよ」
客「じゃあ閉店セールって……」
父「毎日シャッター下ろしているよ」
誰も核心には触れない。
その日のSNSには
「ポップの地層を持つ店」
として大宮ふとん店の写真が拡散され、
またしても“インスタバエ・スポット”としてバズった。
大宮ふとん店のイベントは、
今日も、明日も、来年も続く。
なぜなら──
誰も剥がさないから。




