大宮ふとん店・商店街活性化大騒動「シャッター通りが動いた日」
埼玉県上尾市──。
“シャッター通り”と自虐的に呼ばれる上尾中央商栄会には、
毎朝ほぼ同じ音だけが響いていた。
ガラガラ……(店を閉める音)
開店ではない。
「風が吹いたから閉める」
「客が来なそうだから閉める」
そんな基準でシャッターを降ろすのが日常だった。
そんな商店街の片隅に、奇跡的に生き残っていたのが
大宮ふとん店。
本来ならここも沈む運命だったが──
事態は急変した。
原因は、祖母が誤解して設置した
「インスタバエ用ハエトリガミ」
と、父が作った
“麗奈の顔が縦に伸びたダサいノボリ”。
この二つがSNSで大バズりし、
ついでに麗奈本人の人気も相まって、
全国のオタクが“聖地巡礼”に押し寄せてしまったのだ。
◆商店街の反応:最初は警戒
商栄会の古参メンバー会議。
八百屋の店主「……なんか昨日、人だかりができてたな」
文具屋の奥さん「ふとん店からキャーキャー声がしてねぇ……」
靴屋の主人「事件じゃないといいんだが」
みんな“悪いことが起きた”と思っていた。
ところが──
翌日、靴屋に若者が入ってきた。
「麗奈ちゃんの実家って、この商店街なんですか!?」
「ついでに寄りました!!」
靴屋は十年ぶりに“ついで”という言葉を聞いた。
さらに八百屋にも。
「麗奈ちゃん好きなので聖地に来ました!! りんごください!!」
八百屋、笑いすぎて腰を痛める。
「なんでうちでりんご!?」
文具屋にも。
「記念にシャープペン買います!」
文具屋の奥さん「記念って何!?」
いつの間にか、
商店街全体が大宮ふとん店の恩恵を受け始めた。
◆商栄会、調子に乗り始める
シャッター商店街の人々は、息を吹き返した。
喫茶「ふじさき」
→ 麗奈推しのファンが溢れ、コーヒー豆が足りない。
文具屋
→ 「インスタバエ・ハエトリガミステッカー」なる謎の商品を勝手に作り始める。
古着屋
→ 「麗奈コーデ(自称)」と書いたポップを出したら、本当に売れる。
そして商栄会会長の加藤が動いた。
「……この流れ、乗るしかねぇ」
翌週──商店街中に突如貼られたポスター。
『ようこそ!麗奈ちゃん商店街へ!』
麗奈本人に許諾は取っていない。
大宮ふとん店の祖母はポスターを見て
「あらまぁ、うちの孫は町おこしになったのかい」
と気軽に受け止めた。
父は競輪新聞を読みながら
「この流れで車券も当たんねぇかな」
と筋違いの願望を語った。
◆商栄会、痛恨の大失敗
勢いづいた商栄会は、ついに
「麗奈ちゃん感謝祭」
なるイベントを企画した。
内容はひどい。
・商店街全店で麗奈ポップ飾る
・妙に似てない麗奈の似顔絵を展示
・麗奈の等身大パネル(非許諾)設置
・スタンプラリーの景品が「昭和の蚊帳」
大宮ふとん店の倉庫から出した、あの蚊帳である。
麗奈は悲鳴を上げた。
「お願いだから、勝手にやめてぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
ファンはそれを“コラボ”と誤解し、大盛り上がり。
商栄会も調子に乗り、地元新聞社まで呼んだ。
ところが──
記者がポスターを見て言った。
「……許諾、取ってるんですよね?」
会長「……え?」
文具屋「え?」
古着屋「(無言)」
全員の顔色が一気に灰色に変わる。
そこへ麗奈が登場。
「取ってないよね?」
笑顔だったが、声のトーンが凍っていた。
商栄会「ひぃぃぃ!!!!」
◆商店街の“言い訳”が天才的
会長は震えながら言った。
「れ、麗奈ちゃん……
その……商栄会、もう……あなたの実家に頼るしかなくて……」
沈黙。
麗奈はため息をついた。
「……わかった。
私、怒りません。
ただし──」
商栄会全員が身を乗り出す。
麗奈は言った。
「大宮ふとん店を“商栄会の公式インスタ映え(バエ)スポット”にして。」
会長「……え?」
麗奈「うちだけ目立つと申し訳ないし、
商店街も盛り上げたいでしょ?」
祖母が嬉しそうに拍手した。
「インスタバエ、正式採用だねぇ!」
父「じゃあハエトリガミ増やすか」
母「猫が写り込むとバズるよ!」
クロじい「ニャァ」
こうして、上尾中央商栄会は
“インスタバエ商店街”
として新たなスタートを切った。
商店街中にハエ取り紙が揺れ、
猫が歩き、
昭和の空気がただよう。
来客数は増え、売上も回復。
ただひとつ問題があるとすれば……
毎週、誰かの顔にハエ取り紙が貼りついている。
それでも商栄会は今日も元気だ。
なぜなら──
「麗奈ちゃんの実家がある商店街」
これだけで、近隣のショッピングモールに流れていた客か゛
十分すぎるほど戻ってくるのであった。




