大宮ふとん店大パニック 「POS導入で店が壊れた日」
埼玉県上尾市──商店街の外れにある“大宮ふとん店”は、ここ最近ちょっとした異変を抱えていた。
麗奈のダサいノボリがSNSでバズり、祖母が誤解して貼った「いんすたバエ用ハエ取り紙」も話題になり、来客数が突然3倍に跳ね上がったのだ。
さらに、父が勝手に作った「麗奈ちゃん枕カバー」が予想外の大ヒット。
麗奈のファンが“聖地巡礼”よろしく押し寄せ、店は繁盛……というより混乱に近い状態に陥っていた。
そして、ついに決断が下された。
「うちも……POSシステム、導入するか」
父が競輪新聞を畳みながら、妙にキメた顔で言った。
祖母がそろばんを置いて聞き返す。
「ぽす……何それ、美味しいの?」
「違うよお母さん、時代の波に乗るってことよ」母が胸を張る。
その横で麗奈は、スマホを持ちながら必死にスクロールしていた。
「あの……POSより先に、私スマホの“戻るボタン”覚えたいんだけど?」
「それは後回しでいい」
なぜか家族全員が同じタイミングで即答した。
◆導入当日──地獄の開店準備
新品のタブレット型POSがレジ台に置かれた瞬間、家族全員が沈黙した。
触れたら爆発しそうな扱いだ。
父「……これ、どう押すの?」
母「光ってるのが電源じゃない?」
祖母「わし、そろばんのほうが速いよ?」
麗奈は恐る恐る触ってみる。
タブレット「ピッ」
麗奈「ひっ!? なんか鳴った!!」
父「お前、壊してないよな?」
「押しただけ!」
その瞬間、画面に“英語のエラーメッセージ”が表示された。
全員固まる。
「読めねぇ……」
母が震え声で言った。
クロじいがその横を通りかかり、なぜかタブレットの“電源長押し”に成功。
画面は真っ暗に。
神。
◆地獄の本番
店は混んでいた。
麗奈ファン、商店街の物見遊山、近所の年配客、猫目的の人までいる。
祖母「はい、この布団は3980円!」
客「値札5000円ですけど?」
祖母「POSのせいで値段変わったんだよ!」
POSは一度も起動していない。
父はタブレットを抱え、客に向かって宣言する。
「バーコードを読み取れば……いいのか?」
しかし商品にはバーコードが無い。
布団を抱えた父が叫ぶ。
「なぁ、布団にバーコードって貼っていいの?」
母「布団の毛が絡まって取れないよ?」
麗奈「ていうか、この店の在庫、POSに登録しないとダメなんじゃ……?」
全員「そこから!?」
◆麗奈ちゃん枕カバー暴走
売れ筋の“麗奈ちゃん枕カバー”に限って、タブレットが反応しない。
父がムキになり
「なんで麗奈だけ読み取れねぇんだよ!」
と叫ぶ。
麗奈「……私の顔、機械に嫌われてる?」
母「そんなことないよ、これPOSが悪いのよ」
祖母「機械は魂を読めないからねぇ」
そこへクロじいがまた現れ、枕カバーの上で丸くなった。
客が歓喜する。
「クロじいが座った!当たりだ!」
別の客も走る。
「それ買います‼」
興奮した客が棚にぶつかり、布団の山が崩れ落ち、POSタブレットがその中に飲み込まれた。
◆POS、死亡
父「POSが……止まった‼」
祖母「そろばんなら止まった」
麗奈「取り出したら静電気で爆発しない?」
誰一人、電気の仕組みを理解していない。
最終的に、タブレットは布団の圧力でスリープどころか再起不能になり
“導入初日、使用時間ゼロ”
という伝説を作った。
◆世界は元に戻る
翌日。
レジ台にはそろばんが戻り、タブレットは箱にしまわれた。
祖母は満足げに言う。
「ぽす? あれは幽霊みたいなもんだねぇ。触ると店が壊れるよ」
麗奈は苦笑しながらスマホと格闘する。
母は猫を撫で、父は競輪新聞を読み、クロじいは布団の上で眠っている。
そして店頭には、壊れかけのノボリが風に揺れていた。
──“戦隊ヒロイン大宮麗奈の店・創業祭開催中(年中)”──
大宮ふとん店は今日も、杜撰で、騒がしくて、妙に愛されている。




