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大宮ふとん店、本日もたぶん営業中  作者: スパイク


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地域猫の“寝具チェック団”と、当たり布団の謎

大宮ふとん店は今日も通常運転──つまり“カオス運転”。

麗奈のダサいノボリと「いんすたバエ看板」がSNSでバズり、

客は増え、在庫は減り、店は妙に活気づいていた。


その一方で、静かに覇権を握りつつある存在がいた。

地域猫軍団 “寝具チェック団” である。


新しい布団が入荷しようものなら、

父よりも祖母よりも、誰よりも速く反応するのがこの猫たち。

トラックの荷台が開くと同時に、

ぬるり、と黒白トラ三毛が次々に忍び込み、

新品の布団にダイブ。


気がつけば布団の上は毛だらけ、肉球跡だらけ、猫の寝相見本市。


麗奈母はその光景を見て、

なぜか満足げに腕を組む。


「いいわぁ〜この寝方。ほら、見て。

 ほらこの三毛ちゃん、腹見せて爆睡してる。

 これは“当たり”よ。柔らかさがね、猫が証明してくれてるの」


客はポカン。

だが母はさらに追い打ちをかける。


「猫が寝た布団にハズレはない。

 伊達に何十年、この子たちと暮らしてないのよ?」


意味不明の“猫セールス理論”が店内に炸裂する。

しかし驚くべきことに、実際に寝心地がいいのだ。


理由は簡単。

猫たちは寝心地に妥協しない。

硬ければ乗らないし、匂いが気に入らなければ即退散。

“寝たら当たり、寝なければ外れ”という

ある意味わかりやすい指標を持っている。


常連客はいつしか、

新品布団を見るとまず猫の毛を探すようになった。


「あっ、この黒い毛はクロじいのかしら」

「三毛の模様の毛ついてる!これ当たりだよ!!」

「うわ、この布団“猫の圧”でちょっと凹んでる!買いだわ!」


──何かがおかしいが、勢いがあるので誰も止めない。


中でも、寝具チェック団のエースは

麗奈と義兄妹同然の仲で知られるボス猫・クロじい。


クロじいが堂々と

「フン(悪くないな)」

という顔で座った布団は秒で売れる。


祖母も負けじと販売トークを添える。


「クロじいが座った布団は縁起がいいんだよ。

 あの子、昔から女難の相があるからね。

 ほら、恋愛運も上がるんじゃないかい?」


客「恋愛運……上がるの……?」


──結果、売れる。


この店はあらゆる論理が破綻しているのに、

なぜか結果だけついてくる。


麗奈は仕事帰りに店に寄り、

猫毛まみれの布団を見て叫ぶ。


「ちょ…!これ売っちゃダメでしょ!?

 新品なんですけど!?

 猫の寝跡あるんですけど!?!?」


しかし母はすました顔で言う。


「麗奈、猫が気持ちよく寝た布団が売れないわけないじゃない」


クロじいは麗奈の足元で尻尾をパタパタ。

まるで

「わしらの仕事を邪魔するでない」

と言っているよう。


こうして今日も大宮ふとん店は、

地域猫の寝具チェック団を正式な品質管理部門として稼働させつつ、

毛だらけの“当たり布団”を販売し続けている。


──店は相変わらず杜撰なのに、

売れてしまう不思議。


そして麗奈の嘆きは、今日も上尾の空へ消えていった。


「……もう、なんの店なのよ、ここ……」

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