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大宮ふとん店、本日もたぶん営業中  作者: スパイク


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レジは死んだ、そろばんが生きている

大宮ふとん店のレジスターは、ある夏の午後に“プスン”と息絶えた。

誰も修理を呼ばなかった。理由は単純だ。

「売り上げが少ないから別に困らない」。

それ以来、この店では三者三様の計算方式が導入された。

名づけて――「家族式手計算システム」。


まず、最年長にして最強、伝説の店主・祖母。

彼女の武器は黒光りした木製のそろばんである。

「ピシ、パシ」と小気味よい音を立てながら計算し、

一度も“レジ違い”をしたことがない(気づいてないだけ)。

誤差が出ても「だいたい合ってるからいいのよ」で片づける。

お釣りが50円多くても「今日の運勢がいいのね」。

逆に足りなくても「前借り扱いでよろしくね」。

現金主義よりも人情主義。


次に、母。

一応、数字は強いが気分で暗算を行う。

レシートなど存在せず、すべて頭の中で“だいたい処理”。

「えーと、1980円と…520円だから…2,400円でいいわね!」

――下二桁は端数切り捨て。

だが疲れている日は逆に切り上げてくる。

「この前は安くしたし、今日はちょっと高めでバランス取るの」

家庭内で独自のインフレ政策を運用している。


そして最後に、麗奈の父。

昼間から競輪新聞を読む横で、使い込まれた安物の電卓を叩く。

ボタンの“5”と“8”が削れており、どっちを押しても結果が違う。

「1,800円ね」と言いながら1,580円を請求したり、

「3,600円ちょうど!」と言いつつ3,960円を受け取ったりする。

誤差が出ると深く考えずに言う。

「まあ、税金みたいなもんだ」

――日本経済に新風を吹き込むふとん屋である。


この三者の“計算芸”が一堂に会するのが、

月に数回の「家族営業デー」。

祖母がそろばん、母が暗算、父が電卓――

三人が同時に値段を告げると、結果が見事に三種類。

「3,200円です」「3,000円ね」「3,580円や」

最終的に客が一番納得した金額に決定する。


商店街の常連客はそれを見て笑う。

「計算が合う日より、合わない日のほうが楽しい」


そう、大宮ふとん店では――

レジが死んでも、笑いは生きている。

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