ここにふとん店あり、抱き枕あり
インスタバエ騒動から始まった大宮ふとん店の狂乱ブームは、
ついに危険水域へ突入していた。
SNSでは
「上尾の聖地」
「日本一ゆるい映えスポット」
などと投稿され、休日は遠征組まで来る始末。
店先では祖母がせっせとハエ取り紙を交換し、
母は地域猫に餌をやりながら「今日も繁盛ねえ」と他人事。
父だけはなぜか鼻息が荒く、
大宮ふとん店の歴史で初めて“やる気”を見せていた。
その“やる気”の方向が、例によっておかしい。
◆父、禁断の“麗奈抱き枕”を作る
ある日、帰宅した麗奈は衝撃の光景を見る。
店内の一角に、ど派手なポップが貼られていた。
『新商品!戦隊ヒロイン大宮麗奈 等身大抱き枕 5,000円』
『麗奈ちゃん枕カバー 1,000円』
写真は、麗奈の戦隊ヒロイン制服姿。
ポーズも可愛い。
明らかに父が勝手に撮影したステージ写真をデフォルメしたもの。
麗奈「……ちょっと待って。
いや、待て待て待て待て!!!!!」
父、腕を組みドヤ顔。
「いやぁ〜売れると思ってさぁ〜。
ほら、うちの店、今ノッてるじゃん?」
祖母「ちょうど抱き枕に良い生地があってねえ」
母「試作品の手触りがよくて、私もほしいくらい」
麗奈「アンタたち、なんで家族総出で犯罪みたいなことするの!?
許可、取ったの!?
私の!?
せめて私の許可!!」
父は“してやったり”の表情のまま。
「大丈夫大丈夫、親子だからノー問題。
ほら、波田司令長官にも送っといた!」
麗奈「送ったの!?」
◆波田司令長官&遥広報官、まさかの大絶賛
その後、戦隊ヒロインプロジェクト本部で電話会議。
遥広報官「麗奈ちゃん、あの抱き枕……可愛いねえ〜」
波田司令長官「いやぁ、よくできてるじゃねぇか。
……許可? そんなもん後から考えるもんだよ」
麗奈「後からじゃなくて先に考えて!?!?」
司令長官「まぁ作っちまったモンはしゃーねぇ。」
遥広報官「枕カバーは子どもたち喜びそうだし……
可愛いから良いと思いますよ、ふふっ」
麗奈「味方がいない!!」
◆飛ぶように売れる“等身大麗奈”
抱き枕は店頭に並んだ瞬間から爆売れ。
常連のおばちゃんが二つ抱えてレジ(そろばん)へ、
ファンの男性が三つ持って列に並び、
祖母が「孫の写真だよ〜」と得意気に包む。
そして──
抱き枕、発売初日で完売。
父「いやー予想以上だな! 第二ロット作るか?」
麗奈「絶対やめろ!!!!!」
結局、抱き枕は麗奈の猛抗議により“初回限定1ロットのみ”。
おかげで後日、オークションサイトで高値がつき、
レアグッズ化した。
◆唯一残った“枕カバー”
抱き枕は禁止されたが、枕カバーは残った。
子どもたちが嬉々として買っていき、
SNSでは
「娘の枕が麗奈ちゃんになりました!」
「息子が麗奈枕で毎晩寝てます!」
など投稿が増加。
麗奈(頭を抱えながら)
「もう……どうにでもなれ……」
◆エピローグ
大宮ふとん店、謎の黄金期へ
こうして大宮ふとん店は、
杜撰営業ながらも過去最高益を更新し、
在庫は空っぽ、店は行列、
SNSは「#上尾のふとん店」がトレンド入り。
麗奈はステージで今日も叫ぶ。
「大宮ふとん店、来なくていいからーー!!!」
観客「オーーー!!!!」
麗奈「……来なくていいのに……
本当に来ちゃってるじゃん……!」
こうして、麗奈と大宮ふとん店の伝説は
今日も更新され続けるのであった。




