七匹の猫侍 〜クロじい、麗奈を守るの巻〜
都内のイベント会場では、今日も戦隊ヒロイン大宮麗奈が
ステージの光を浴びていた。
華やかな衣装に完璧なスタイル、堂々としたMC。
“埼玉のオシャレ番長”は今日も絶好調。
だが彼女には 致命的な弱点 があった。
脇が甘い。とにかく甘い。
スマホは使いこなせない。
スキャンダル対策の危機管理も皆無。
週刊誌のカメラマンからすれば、
「宝の山。」
「最高の獲物。」
みたいな存在である。
そして──その日。
ついに決定的瞬間が訪れる。
◆青年実業家との2ショット!
“激写”寸前の麗奈
イベント後、人気実業家のイケメン兄さんとディナーに行く麗奈。
悪気はない。ただの食事……
のつもりなのだが。
通りの向こうで
望遠レンズを構えた黒スーツの男が二人──。
「……来たな、週刊誌!!」
小春やみのりが心配して電話をするが、
当の本人はのんきに
「今日はちょっとおしゃれしてきたの♡」
と無防備の極み。
その瞬間、ある影が動いた。
◆クロじい、出陣。
大宮ふとん店の軒先にいたクロじいは、
遠くの気配に目を細めた。
「……お嬢(麗奈)に危機じゃな」
高齢で足腰はヨボヨボだが、
かつて“上尾の火野正平”“和製シナトラ”と呼ばれた
伝説のプレイボーイ猫は、いまも判断だけは早い。
クロじいが「にゃっ」とひと声。
するとどこからともなく、
地域猫たちがぞろぞろと集まってきた。
シロばあ
茶トラのサブ
ハチワレのマサ
キジトラの銀二
ホクロのついたミケ姉
そして新人の三毛太郎
総勢七匹。
“七匹の猫侍” である。
◆黒沢映画顔負けの猫作戦、開幕
週刊誌カメラマンはビル影から狙っている。
麗奈は無防備に歩く。
青年実業家はイケメンで絵になる。
「完全にバレる!」
「終わった!!」
……と思った瞬間。
◆作戦その1:視界を奪え!
クロじいがカメラマンの足元にすり寄り、
「にゃあ(今だ、行け)」 と合図。
途端に地域猫たちが
レンズの前を縦横無尽に横切る。
シロばあは堂々。
サブは高速ダッシュ。
銀二は何故かモデル歩き。
「猫!? 見えない! なんだこいつら!!」
カメラマン大混乱。
◆作戦その2:音でかき乱せ!
ミケ姉が突然フェンスをよじ登り、
絶妙なタイミングで空き缶を落とす。
カランッ! カランカラカラッ!
カメラマンの注意が逸れる。
その隙に三毛太郎が
カメラバッグの上にドンと座り込み、
無表情で一点を見つめる。
「おい……動けよ……」
「どけ……」
三毛太郎はウインクした。
“任務遂行にゃ”
◆作戦その3:最終兵器・クロじい
カメラマンが最後の足掻きを見せる。
ビルの影から飛び出し、
麗奈を狙ってシャッターを切ろうとした瞬間──
クロじいが視界に“ド真ん中ジャンプ”。
しかも、
なぜかスローモーションに見える。
シャッターには
「麗奈 + イケメン」ではなく
「クロじいのどアップ」
だけが写った。
カメラマンは叫んだ。
「何で猫がピンで映ってんだ!?!?」
◆麗奈、無事帰還。
危機一髪でスキャンダルは回避。
翌日、ふとん店の裏で麗奈はクロじいを撫でながら言う。
「ほんと助かったよ……ありがとうクロじい」
クロじいは
「当然じゃ」
って顔で毛づくろいを続ける。
若い猫たちは尊敬の眼差し。
サブ「クロじいさん、マジ渋すぎっす」
銀二「レンズ前の飛び出し、完全に映画でしたよ」
ミケ姉「今度から“クロじい監督”って呼ぶ?」
クロじいは答えない。
ただ目を細めて、ふとん店の空気を吸い込んだ。
“お嬢(麗奈)は、ワシらが守る”
その背中が語っていた。
◆エピローグ:週刊誌の見出し
翌週発売の週刊誌には
こんな謎の記事が出た。
「上尾市、猫の動きが不自然に組織的
謎の猫集団の存在か!?」
もちろん麗奈の写真は一枚もない。
全てクロじいのドアップで埋まっていた。
地域猫たちの勝利である。
――こうして今日も、
上尾の七匹の猫侍は、
戦隊ヒロイン大宮麗奈の名誉を守るため、
静かに、そして派手に暗躍している。




