大宮ふとん店、まさかの“映え聖地”化
上尾の商店街の外れ。
看板の「と」の字が消えかかって「大宮ふ ん店」になって久しいのだが
突如として“新名物”が誕生した。
発端は、麗奈の父が調子に乗って設置した赤いノボリ。
昭和感満載のフォントで
「戦隊ヒロイン 大宮麗奈の店」
とデカデカ描かれ、さらに麗奈のデフォルメイラストが踊る。
最初は麗奈が悲鳴をあげ、「やめてよダサいから!」と懇願したものの、
SNSではこうだ。
「逆に良い」
「クセが強すぎて映える」
「上尾に聖地が爆誕」
投稿が増え、ついには“上尾の映えスポット”のタグまでつく始末。
ところが――
混乱の火にガソリンを注ぐのが、大宮ふとん店の店主で麗奈祖母の大宮タキ(82)。
祖母はスマホで「映えスポット」の文字を見てこう言った。
「インスタ……バエ? 新種のハエかね?」
翌朝、ノボリの隣にハエ取り紙3本が堂々と吊るされた。
揺れるハエ取り紙、揺れるノボリ。
カオスの風景にSNSは再炎上。
「#インスタバエw」
「#虫も映えるふとん店」
「#バエスポット」
「誰が虫呼べと言ったのよぉぉぉ!!」
麗奈は泣きそうだ。
しかし祖母は満面の笑み。
「ほら見てごらん、ハエもよく撮れとるよ。人気だろう?」
もはや何も伝わっていない。
そこへ父と母が追撃。
父:「目印になって便利じゃん」
母:「おばあちゃんの手作り、味があっていいのよ~」
麗奈は頭を抱えて膝から崩れ落ちる。
だが悲劇(?)はまだ続く。
祖母は「インスタバエ」の意味をさらに誤解し、
ついに手描きで看板を作りはじめたのだ。
しかも妙に絵心がある。
《インスタバエ ここ》
という文字とともに、
ほっぺが丸くて笑っている“ゆるキャラ風バエ”が描かれた
祖母渾身の看板が完成。
これがまたSNSでバズる。
「このバエめっちゃ可愛い」
「LINEスタンプにしてくれ」
「上尾のゆるキャラ新候補では?」
もはや“ふとん店”がどこへ向かっているか分からない。
麗奈は震える声で言う。
「おばあちゃん……お父さん……お母さん……
ほんとにやめて……マジでやめて……」
しかし三人は完全にスルーだ。
父:「評判いいらしいぞ?」
母:「新聞載るかもね」
祖母:「よし、次は“バエの館”って書いた横断幕を作ろうかねぇ」
麗奈は悟った。
「この家族はもう止められない」
そして今日も上尾の片隅で、
ノボリとハエ取り紙と“手描きバエ看板”が風に揺れる。
そこには――
笑いを求める客、写真を撮る客、ハエを取る紙。
そして、小さく呟く麗奈。
「……ここ、本当にふとん屋なんだよね……?」
上尾の“映え”は今日も絶好調である。




