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大宮ふとん店、本日もたぶん営業中  作者: スパイク


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121/123

議題は急須、決定権は猫──上尾中央商栄会・寄合という名の様子見大会

上尾中央商栄会の寄合は、だいたいいつも午後三時に始まる。

正確には「三時ごろ」とされているが、誰一人として時計を見ていないので、始まったと認識された瞬間が開始時刻だ。


この日の寄合も、商店街の古びた集会所で開かれていた。

参加者は、八百屋、文房具店、喫茶店、そしてなぜか毎回名前を呼ばれるが発言しない大宮ふとん店の祖母。


「では、本日の寄合を始めたいと思います」


理事長がそう言ったが、誰も拍手しない。

拍手をすると猫が驚くからだ。


「……で、クロじいは?」


最初に出る確認は、いつもそれだった。


「まだ来てないですね」


「今日は来るって言ってました?」


「猫に“言ってました”も何もないでしょ」


ざわつく室内。

クロじいが来ていない。

これは由々しき事態だった。


なぜなら――

クロじいがいない寄合では、重要事項が決議されない

という、誰が決めたか分からない不文律が存在するからだ。


「まあ、重要事項って言っても……」


八百屋が資料をめくる。


「今日の議題は、

一、寄合で出すお茶の銘柄

二、前回余ったせんべいの行方

以上ですけどね」


「重要じゃないですか!」


文房具店が食い気味に言う。


「お茶、前回と同じだと苦情出ましたよ。“渋すぎる”って」


「それ言ったの、猫ですよね?」


「ええ、サブでした」


全員が黙る。


猫の意見は、なぜか尊重される。

理由は誰も説明できないが、反対すると後で不思議と商売がうまくいかない、という都市伝説がある。


「……クロじいがいないと決められないな」


理事長が腕を組む。


「待ちます?」


「待ちましょう」


「待つしかない」


こうして寄合は、待ちのフェーズに入った。


十五分後。


「来ませんね」


「来ない日もありますから」


「今日は競輪……じゃないですよね?」


父の予定は誰も把握していないが、猫の予定も同様だった。


そこへ、入口がきぃ、と開いた。


「……来た」


黒い影。

ゆっくり、堂々と、クロじいが入ってきた。


「遅れてすまんにゃ」


誰も責めない。

クロじいが来ただけで、場の空気が引き締まる。


「では、重要事項に入りましょう」


理事長が背筋を伸ばす。


「まず、お茶の銘柄ですが……」


「今日は緑茶がいいにゃ」


クロじいが即答する。


「理由は?」


「渋い日は、渋い話しかしなくなる」


「……採用で」


即決だった。


「次、せんべいですが」


「前回余ったやつ、どこ行きました?」


全員が顔を見合わせる。


「たぶん、マサが持って帰った」


「いや、銀二かもしれない」


「三毛太郎が配ったって話も……」


そのとき。


「……それ、私です」


珍しく声を出したのは、白ばあだった。


全員が息を呑む。


白ばあの参加は極めてレアだ。

寄合に姿を見せるのは、年に一度あるかないか。


「腰が痛くて、来るつもりはなかったんだけどね」


「し、白ばあ……!」


「せんべい、家にあるよ。湿気ってるけど」


沈黙。


「……どうします?」


理事長が恐る恐る聞く。


クロじいは少し考えて、言った。


「それはもう、せんべいではない」


「……廃棄で」


「異議なし」


全会一致。


時計を見る者はいないが、寄合はここで終了した。


決まったことは二つ。


・お茶は緑茶

・せんべいは処分


所要時間、一時間半。


「今日も、有意義でしたね」


誰かが言った。


「ええ、猫が揃いましたし」


クロじいは立ち上がり、出口に向かう。


「またな」


その背中を見送りながら、理事長はつぶやいた。


「……次の寄合、何時でしたっけ?」


「たぶん、また三時ごろです」


上尾中央商栄会の寄合は、

今日も何も進まず、

しかしなぜか全員が納得して終わる。


結局のところ、

この商店街で一番偉いのは、

議題でも理事長でもなく、

気が向いたときに現れる猫なのだった。

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