上尾に“映えスポット”爆誕!? ~インスタバエ?捕獲作戦~
上尾の疑惑が深まるふとん店に、また一つ伝説が生まれた。
「戦隊ヒロイン大宮麗奈の店」のノボリ。
父・大宮雄三の手による、赤と金がまぶしい昭和テイスト満載の逸品。
その存在感があまりにも強烈すぎて、SNSでは連日投稿が相次いだ。
「上尾に突如現れた異界への入口」
「フォントが強い」
「逆にオシャレ。令和に昭和を感じる」
ハッシュタグは次第に定着していく。
「#大宮ふとん店映え」「#レトロレッド」「#ノボリが主役」
──そう、今や大宮ふとん店は、**“映えスポット”**として認知され始めたのだ。
だが、この「映え」という言葉が、すべての悲劇の始まりだった。
祖母・大宮タキ(82歳)は、孫の麗奈がニュースサイトで
「“映えスポット化”する上尾のふとん店」という記事を見て首をかしげた。
「……インスタバエ? 新種のハエかね?」
その翌日。
のぼりの隣に、堂々と吊るされたハエ取り紙(3連)。
商店街の通行人、二度見三度見。
「……本当に“ハエ”!?」
「いや、たしかに“映え”とは読めるけど!」
祖母は満足げにうなずいた。
「最近は蚊も多いし、ハエも飛ぶしね。対策は早めが肝心さ」
そこへ駆けつけた麗奈、顔を真っ赤にして叫ぶ。
「おばあちゃん!それ、違うの!! “インスタ映え”って、そういう意味じゃないの!!」
祖母は真顔で答えた。
「そうかい?みんな“バエがすごい”って言ってるけど?」
麗奈、絶望。
「それ、“ハエ”じゃなくて“映え”!! もう外してよ〜!!」
しかし、母と父が登場して、さらに事態は混迷を極めた。
母「でもさ、このハエ取り紙、けっこう評判いいのよ」
父「近所の人が“風に揺れて風情ある”って言ってたしな。
ほら、レトロ風インテリアってやつやろ?」
麗奈「風情とかいらないのッ!! ここ、ふとん屋だから!!」
祖母は穏やかにまとめる。
「ハエも来るし、人も来る。良いことじゃないかねぇ」
──SNSではこの騒動もまた大盛り上がり。
「#ハエ取り紙映え」
「#上尾のバエる店」
「#戦隊ヒロイン麗奈の実家つよい」
挙げ句の果てに、地元情報誌が取材に来て、
「上尾に新たな観光名所“インスタバエの店”誕生」
という、誤解しかない見出しで記事を掲載した。
その日、麗奈は頭を抱えた。
「……うちの実家、どこまで笑いを取りにいくの……」
祖母はその横で、ゆっくりハエ取り紙を交換しながらつぶやいた。
「この紙ねぇ、よくハエが取れるんだよ。
やっぱ“映える”ものは人も虫も寄ってくるんだねぇ」
――上尾の風に、今日も黄金色のハエ取り紙がキラリと揺れる。
のぼりと並んで、ふとん店の新たなシンボルとして――。
“インスタ映え”ならぬ、“インスタバエ”。
笑いと誤解が飛び交う街角で、また一つ、伝説が増えた。




