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大宮ふとん店、本日もたぶん営業中  作者: スパイク


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119/121

日本一平等な商店街 ――誰も儲かってないので、誰も妬まない――

上尾中央商栄会には、

経済学者が聞いたら頭を抱え、

社会学者が見たら論文を書き、

税務署が見たら首をかしげる特徴がある。


誰も儲かっていない。


これは比喩ではない。

「ちょっと厳しいですね」でもなく、

「今は我慢の時期」でもなく、

全店、堂々と儲かっていない。


八百屋は言う。

「売れ残りの方が多い」


魚屋は言う。

「今日は魚が新鮮すぎて売れなかった」


金物屋は言う。

「最後に売れたの、平成だったかな」


大宮ふとん店は、

そもそも「売れる・売れない」という概念がない。


だが、この商店会には――

妬みが一切ない。


普通なら、

「隣の店だけ繁盛している」

「アイツだけ儲けている」

という感情が生まれる。


だが、ここではそれが成立しない。


なぜなら、

誰も成功していないからだ。


寄合の席。


「最近どう?」

という問いに、

誰も自慢をしない。


できないのだ。

自慢できる材料がない。


「うちは今月も厳しい」

「うちも」

「うちも変わらない」

「うちはもう、どこが厳しいのか分からない」


全員が横一線。

驚くほどの平坦さ。


その結果、

競争心が芽生えない。


「向上心は?」

と聞かれても、

全員が首をかしげる。


「別に、今で困ってないし」


これが、上尾中央商栄会の恐ろしさだ。


誰かが突然、

「実は今月、黒字でさ」

などと言おうものなら、

場の空気が凍る。


なぜなら、

それは裏切り行為だからだ。


実際、過去に一度だけ事件があった。


パン屋が、

「今日はちょっと売れた」

と口を滑らせたのだ。


一瞬、沈黙。


「……ちょっと、って?」

と、全員が聞く。


「いや、気のせいかも」

と、本人が慌てて撤回。


その場は収まった。


成功は共有できないが、失敗は共有できる。

それが、この商店会の掟である。


大宮ふとん店の祖母は、

この状況をこう表現する。


「みんな同じくらいだから、楽だよ」


この一言に、

商栄会の哲学が凝縮されている。


儲かっていないが、

焦っていない。


売れていないが、

恥じていない。


隣を見て、

羨ましがる必要がない。


なぜなら、

隣も同じだから。


このため、

会議で揉める理由もない。


「誰が中心になる?」

という話も出ない。


誰もなりたくないからだ。


「責任者は?」

と聞くと、

全員が猫を見る。


クロじいは、

何も言わない。


ただ、

全体を把握している顔をしている。


地域猫ですら、

ここでは平等だ。


どの猫も、

同じくらい可愛がられ、

同じくらい放置されている。


この商店会には、

勝ち組も負け組もない。


あるのは、

ずっと引き分け。


その結果、

妬みも、

嫉妬も、

足の引っ張り合いも生まれない。


日本で一番、

平和で、

平等で、

発展性のない商店会。


シャッターは下りている。

売上は低い。

未来は不透明。


だが、

今日も誰も怒っていない。


誰も他人を責めていない。


そして誰も、

抜けようとしない。


ここは――

上尾のミステリーゾーン。


儲からないことによって、

完全な平和を手に入れた、

世界でも稀有な商店街なのである。

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