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大宮ふとん店、本日もたぶん営業中  作者: スパイク


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118/121

議題はお茶、出席者は猫 ――上尾中央商栄会・寄合過多症候群――

上尾中央商栄会には、誰も否定しない事実がある。

それは――客より寄合の方が多いということだ。


これは誇張ではない。

実際、商店街を歩いても人影はまばらで、

半分以上のシャッターは今日も律儀に下りている。


だが、商栄会会館の和室だけは違う。

ここだけは異様に使用頻度が高い。

畳は擦り切れ、座布団はへたり、急須の数だけが増えていく。


この日も「寄合」が開かれていた。


集まったのは、

八百屋、魚屋、金物屋、

大宮ふとん店の祖母・母・父、

そして――ベーカリー中村の修さん。


さらに当然のように、地域猫たち。


クロじいは上座。

ミケは湯呑みの横。

白い猫は配布資料の上で丸くなる。


誰も「猫は関係ない」とは言わない。

なぜなら、毎回来ているからだ。


修さんは、焼きたてパンの入った紙袋を抱えている。

「一応、会議のお供にと思ってさ」

と、いつもより少し得意げだ。


「修さん、気が利くねぇ」

祖母がにこやかに言う。


だが、会議はすぐには始まらない。


「その前に、お茶どうする?」


この一言で、すべてが止まる。


この商栄会において、

**最重要議題は常に“お茶”**である。


「今日は寒いから、濃いめがいい」

「この前のほうじ茶、猫が嫌がってた」

「煎茶だとせんべいが合わない」

「そもそも急須どれ使う?」


そこで、全員が気づく。


「……あれ?

 急須、また減ってない?」


前回は三つあった。

今日は二つしかない。


「修さん、知らない?」

「いや、パン屋に急須は置かないよ」

「誰か持って帰った?」

「持って帰る理由がない」


クロじいが、

「ニャ」

と一声。


「……違うって言ってるな」

と、なぜか全員が納得する。


急須問題は保留。


次に浮上するのが、せんべい問題だ。


「前回、余ったせんべいは?」

「箱ごとあったよね?」

「今日、見当たらない」


全員が一斉に視線を逸らす。


祖母が言う。

「私は食べてないよ。

 あれ固いからねぇ」


母も続く。

「私も覚えてない」


父は腕を組んで言う。

「競輪の日だったから、たぶん違う」


修さんは首をかしげる。

「俺はパンしか持ってきてないよ」


その瞬間、

ミケがせんべい袋の破片をくわえて走り抜ける。


「あ……」

「……犯人いたね」

「まあ、いいか」


誰も追わない。

ここでは、解決しないことが正解なのだ。


ようやく会議が始まりそうになる。


「えー、本日の議題は――」

と八百屋が言いかけたところで、祖母が遮る。


「修さんのパン、先に食べよう」


全会一致。


議題は再び宙に浮く。


修さんのパンは、

なぜか猫にも人にも好評だ。

クロじいはパンの袋の前から動かない。


「修さん、これ売り物?」

「いや、今日は会議用」


「じゃあ、無料だね」

と祖母が断言する。


誰も異議を唱えない。


パンを食べ、

お茶を飲み、

世間話が始まる。


話題は、

天気、

最近の腰、

昔の商店街、

そしてなぜか昭和のテレビ番組。


議題は一切進まない。


気づけば一時間。


「で、今日は何の会議だったっけ?」

と誰かが言う。


修さんが笑って答える。

「お茶の確認じゃなかった?」


「そうだったかも」

「決まったし、いいよね」


最終的な決定事項は三つ。


・お茶はいつもの

・急須はそのうち出てくる

・せんべいは猫のもの


全員、満足。


会議は無事終了だ。


外に出ると、商店街は相変わらず静かだ。

客はいない。

だが、誰も不安にならない。


修さんがパン屋に戻りながら言う。

「今日もいい会議だったな」


祖母がうなずく。

「うん、平和だったねぇ」


ここは、

昭和の薫りを色濃く残す

上尾のミステリーゾーン。


商売はおまけ。

会議が本業。

猫が常連。


そして今日も、

急須は見つからないままなのである。

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