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大宮ふとん店、本日もたぶん営業中  作者: スパイク


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117/121

議決権を持つ猫 ――上尾中央商栄会・最重要固定客クロじいの一日――

上尾中央商栄会には、誰も異を唱えない事実がある。

一番の固定客は人間ではない。猫である。


しかも一匹ではない。

複数匹だ。

さらに言えば、商店街の意思決定に関与している猫までいる。


その筆頭が、地域猫界の重鎮――クロじいである。


クロじいは、だいたい朝九時前後に大宮ふとん店の前に現れる。

開店していようが、閉まっていようが関係ない。

クロじいにとって大宮ふとん店は「店」ではなく、拠点だからだ。


店先の縁台にどっかり座り、

祖母が出してくる小皿の煮干しを無言で食べ、

その後は布団の上で寝る。


買わない。

選ばない。

値段も聞かない。


しかし――

毎日来る。


この「毎日来る」という点において、クロじいは商店街最強の固定客だった。


他の店主たちも、猫をぞんざいに扱わない。

なぜなら、猫は去らない客だからだ。


八百屋の前で寝る猫。

魚屋の裏口で待つ猫。

金物屋の段ボールを占拠する猫。


猫が居着いた店は、なぜか潰れない。

売上は低いが、消えない。


誰かが言った。


「猫が見切りをつけた店は、だいたい先に人間が撤退する」


そんな上尾中央商栄会では、月に一度、寄合が開かれる。

形式上は「商店街活性化会議」だが、実態は雑談とお茶と猫である。


この寄合に――

猫が参加する。


最初は偶然だった。


会館の扉が開け放たれていたため、クロじいが勝手に入ってきた。

そして、真ん中に座った。


誰も追い出さなかった。

なぜなら、追い出す理由がなかったからだ。


それ以来、寄合には自然と猫が集まるようになった。


クロじい。

ミケ。

チャトラ。

なぜか名前のない白いやつ。


彼らは会議中、

寝る。

伸びる。

たまに鳴く。


だが――

その鳴き声が、意見として扱われることがある。


ある日の議題は「麗奈ちゃん通りの看板、色を変えるかどうか」。


理事長が言う。

「もっと派手な方がいいんじゃないかな」


するとクロじいが、

「ニャー(低め)」

と鳴いた。


一瞬、沈黙。


ベーカリー中村の修さんが言った。

「……それは、派手すぎるってことだな」


全員うなずく。

議題終了。

現状維持。


また別の日は、

「福引の景品に何を出すか」。


トースター案が出た瞬間、

ミケが机に飛び乗り、紙袋をひっくり返した。


「……これは、やめとけってことだな」

「じゃあ無洗米で」


即決。


誰も「猫の意見なんて」とは言わない。

なぜなら、猫は忖度しないからだ。


人間はどうしても、

「前例が」とか

「予算が」とか

「責任が」とか言う。


猫は言わない。

気に入らなければ去るだけだ。


だから、猫の反応は信用されている。


当然、大宮ふとん店は猫の溜まり場である。


布団の上。

押し入れ。

干し台の下。


店の一日の来客数は、

人間:0〜3人

猫:5〜7匹


圧倒的である。


祖母は言う。

「猫が来なくなったら店畳むわ」


それは冗談ではなく、

経営指標だった。


今日もクロじいは縁台に座る。

寄合の帰りにそのまま来たらしい。


「今日の会議どうだった?」と誰かが聞くと、

祖母が答える。


「猫が静かだったから、特に問題なし」


それで十分だった。


買い物客は相変わらず少ない。

シャッターは半分以上閉まっている。

活性化とは程遠い。


それでも上尾中央商栄会は、今日も平和だ。


なぜなら――

一番の固定客が、毎日来ているから。


猫が寝ている商店街は、

まだ終わっていない。


ここは、

昭和の薫りを色濃く残す

上尾のミステリーゾーン。


そしてその中心には、

今日もクロじいがいる。

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