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大宮ふとん店、本日もたぶん営業中  作者: スパイク


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113/121

誰も始めていないのに、誰も終わらせられない

上尾中央商栄会には、ひとつの不思議な役職が存在する。

正式名称はない。規約にも載っていない。会費も出ない。

だが確実に「引き継がれている」役目がある。


通称――

「あれ担当」。


「あれ、どうする?」

「去年もやってたやつ」

「ほら、麗奈関係の……あれ」


会議で必ず誰かがそう言い、全員が分かったような顔をする。

しかし、誰一人として中身を説明できない。


問題は、その「あれ」が、毎年なぜか続いていることだ。


今年も商栄会の定例会議で、若手が恐る恐る聞いた。

「すみません……“あれ”って、そもそも誰が始めたんですか?」


沈黙。


理事長が咳払いをした。

「いやぁ……気づいたら、あったんだよ」


副理事長がうなずく。

「ワシが若い頃から、もう“あれ”はやってた気がする」


「じゃあ誰が担当なんですか?」

「前の人」

「その前の人」

「さらに前の人」


結果、誰も存在しない人物に引き継がれていることが判明した。


だが、なぜか仕事は回っている。

看板は立つ。チラシも刷られる。

予算も「まあ、こんなもんだろ」で処理される。


そのうち若手は悟る。

「あ、これ“担当になったら終わり”のやつだ」


だから全員、絶妙に視線を逸らす。

気づいた者が、気づかなかったふりをする。

それが上尾中央商栄会の伝統芸だった。


そんな人間たちを、軒先からじっと見ている存在がいる。

地域猫の長老、クロじいだ。


クロじいは、すべてを知っている。


「あれ」が始まった年も。

なぜ終わらなかったのかも。

誰が最初に「まあいいか」と言ったのかも。


会議のあと、麗奈の母がクロじいに話しかける。

「ねえ、あれって何なのかしらね」


クロじいは尻尾を一度だけ揺らし、低く鳴いた。

「にゃあ……あれは、“終わらせなかったこと”そのものにゃ」


麗奈の母は分からないが、クロじいは分かっている。

人間たちは、始めるよりも、終わらせる方が苦手なのだ。


翌年も、会議で同じ会話が繰り返される。

「あれ、今年どうする?」

「去年と同じで」


誰も始めていない。

誰も責任者じゃない。

それでも、なぜか続いている。


クロじいは今日も軒先で丸くなり、

人間たちのドタバタを眺めながら、静かに目を閉じる。


――理解しているのは、猫だけだった。


疑惑は、今日も深まっていく。

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