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大宮ふとん店、本日もたぶん営業中  作者: スパイク


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責任者不在──麗奈ちゃんプリペイドカード狂騒曲・最終話

結論から言えば、誰も悪くなかった。

 いや、正確に言えば――誰も責任者ではなかった。


 上尾中央商栄会が悪ノリの末に生み出してしまった

「麗奈ちゃんプリペイドカード」。

 見た目は昭和の香り漂う祖母作画の“ダサかわいい”麗奈イラスト。

 中身はごく普通のプリペイドカード。

 ただし、商店街の九割以上で使えないという一点を除けば。


 苦情は来た。

 問い合わせも殺到した。

 FMさいたまでは特集コーナーまで組まれ、

「使用不可店マップ」が観光ガイドとして流通し、

ついには「使えなさ」が魅力として評価される始末。


 それでも――

 誰も謝らなかった。


 商栄会の月例会議。

 いつもの公民館の和室で、丸テーブルを囲んで議題に上がる。


「……で、このカードの件なんですけど」


 事務局が恐る恐る切り出す。


「誰が作ったことになってるんでしたっけ?」


 一同、沈黙。


 八百屋の主人が首をひねる。

「理事長じゃなかったっけ?」


 理事長が即座に否定する。

「いやいや、言い出しっぺは文房具屋さんでしょ」


 文房具屋は驚く。

「え? でも印刷の話をまとめたのは喫茶店さんですよね?」


 喫茶店のマスターはコーヒーをすすりながら言う。

「うちは“面白そうですね”って言っただけ」


 誰も悪意はない。

 全員、軽いノリだった。

 そして気づいたら出来上がっていた。


 ――上尾中央商栄会名物

 「使えないプリペイドカード」


「責任者、決めます?」

 若手が一応聞いてみる。


 祖母世代の商店主が一斉に首を振る。

「今さらねぇ」

「めんどくさいねぇ」

「まあ、評判は悪くないし」


 結論は出た。


「現状維持」


 会議は五分で終わり、

 そのまま世間話とお茶菓子の時間に移行する。


 一方その頃、大宮ふとん店。


 祖母は相変わらずレジのない店内で座布団に腰を下ろし、

 未使用の麗奈ちゃんプリペイドカードの束を見て言う。


「これ、また増えたねぇ」


 父は競輪新聞を畳みながら答える。

「お釣りで渡しちゃったんだよ」


 母は苦笑いする。

「もう地域通貨みたいなもんね」


 麗奈本人は、カードを一枚手に取って呟く。

「……で、誰が責任取るの?」


 三人は声を揃える。

「誰も」


 麗奈は一瞬考え、肩をすくめた。

「まあ……それっぽいよね」


 夕方、商店街のシャッターは相変わらず半分以上閉まっている。

 風に揺れる「麗奈ちゃん通り」の看板。

 修正されない「→200km」の表示。

 誰も管理していないが、誰も困っていない。


 通り過ぎる観光客が言う。

「なんか……不思議な商店街ですね」


 それが、最大の褒め言葉だった。


 こうして

麗奈ちゃんプリペイドカード狂騒曲は、

誰も謝らず、誰も責任を取らず、

そして誰も片付けないまま、静かに終わった。


 ――いや、終わっていない。

 ただ、いつもの上尾中央商栄会の日常に戻っただけだ。


 今日もシャッターは閉まり、

 今日も誰かがカードを持ち歩き、

 そして今日も、誰も責任者はいない。


 それが、

 上尾中央商栄会の平常運転だった。

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