電波事故多発地帯──FMさいたま「麗奈ちゃんプリペイドカードで起きたトラブル選手権」
その日のFMさいたまのスタジオは、放送前からどこか落ち着きがなかった。
理由は明白だ。
今日のコーナー名が、すでに嫌な予感しかしなかったからである。
――「麗奈ちゃんプリペイドカードで起きたトラブル選手権」
誰がこんな企画を通したのか。
だが今さら責任の所在を追及しても意味はない。電波は待ってくれない。
オープニングジングルが流れ、パーソナリティが明るい声を出す。
「さあ、今週も始まりました。問題のコーナーです」
麗奈は苦笑いのままマイクに向かった。
「問題って言わないでください……」
最初の投稿が読まれる。
「ラジオネーム・上尾の迷える巡礼者さん。
『コンビニで出したら、店員さんに“これは使えません”と言われ、後ろに行列ができました』」
スタジオが静まり返る。
パーソナリティが確認するように言う。
「……普通に使えるんですよね?」
麗奈は即答する。
「はい。普通のプリペイドカードです」
次。
「ラジオネーム・匿名希望。
『会計時に出したら、店員さんが二人で相談し始め、最終的に上司が出てきました』」
パーソナリティが呻く。
「カード一枚で現場指揮系統が立ち上がってる……」
麗奈は頭を抱えた。
「絵が問題なんですかね……」
三通目。
「ラジオネーム・経理は心が冷えるさん。
『会社で立て替え精算に使ったら、上司に“これは経費じゃなくて事件だ”と言われました』」
スタジオ、爆笑。
だが麗奈だけは笑えない。
さらに続く。
「『財布から出した瞬間、知らない人に“それ本物ですか?”と聞かれました』」
「『ガソリンスタンドで使ったら、給油より先に質問攻めにあいました』」
「『母に渡したら、神棚に置かれました』」
パーソナリティがまとめに入る。
「もはや使うたびにトラブルが発生してますね」
麗奈は小さくため息をついた。
「普通のカードなのに……」
極めつけが来た。
「ラジオネーム・クロじい推し。
『大宮ふとん店で出したら、祖母に“電話なら奥でどうぞ”と言われました』」
スタジオが完全に崩壊した。
パーソナリティは腹を抱え、スタッフは笑いをこらえるのを諦めた。
麗奈は笑いながらも、どこか諦観した表情で言う。
「……それは、まあ、あの店なので」
投稿はまだ続く。
「『使用不可店マップを見ながら、使える店を探して半日歩きました』」
「『結局使わずに帰宅しましたが、なぜか満足感はありました』」
ここで、パーソナリティが静かに宣言する。
「本日の優勝は……“結局使わずに満足した”さんです」
拍手のSEが流れる。
麗奈は苦笑しつつ、最後のまとめに入った。
「えー……改めてお伝えしますね。
麗奈ちゃんプリペイドカードは、普通のプリペイドカードです。
特別な効力も、試練も、儀式もありません」
一拍置いて、はっきりと言う。
「お近くのガソリンスタンドやコンビニエンスストアで、普通に使用してください」
スタジオが妙に静かになった。
パーソナリティがぽつりと補足する。
「……とはいえ、未使用のままの方、多いみたいですね」
麗奈は小さく笑った。
「多いですね。なんででしょうね」
エンディングジングルが流れる。
放送後、SNSにはこう書かれていた。
《使わなくても満足できるカード》
《持ってるだけで話題になる》
《今日も使えなかった》
結局、誰も悪くない。
ただ一つ確かなのは――
このカードは、使われるたびに事件を起こし、使われないことで完成する。
そして次週も、FMさいたまのスタジオでは、
誰かがまた、未使用のまま大切にしまったカードの話を送ってくるのだった。




