表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大宮ふとん店、本日もたぶん営業中  作者: スパイク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

110/118

電波に流れる“使えない知恵”──FMさいたま発・麗奈ちゃんプリペイドカード大喜利地獄

その日のスタジオは、いつも通り平和だった。

 麗奈が準レギュラーとして出演している地元ラジオ番組。軽快なジングル、穏やかなパーソナリティ、ほどよく脱力したトーク。だが、その平和は一通のメールで崩れた。


「リスナーの〇〇さんから。

 『麗奈ちゃんプリペイドカードって、結局どう使えばいいんですか?』」


 スタジオが一瞬、静止した。


 麗奈は間を置き、正論を選んだ。

「えーと……麗奈ちゃんプリペイドカードは、ただのプリペイドカードなので。お近くのガソリンスタンドとか、コンビニとかで普通に使ってください」


 空気が一度、真っ当に戻った。


 パーソナリティも頷く。

「そうですよね。普通に使えますからね」


 このとき、誰も気づいていなかった。

 この“正論”が、地獄の蓋を開けたことに。


 次の週。


 番組のメールボックスは、見たことのない量で膨れ上がっていた。


「……えー、今日はですね」

 パーソナリティが原稿をめくる手を止める。

「麗奈ちゃんプリペイドカードの“使用方法”が、やたら届いております」


 読み始めた瞬間、スタジオは壊れた。


「『財布に入れると金運が下がるので、神棚に供えています』」

「『使わずに眺めると、心が落ち着きます』」

「『レジで出すと会話が生まれるので、コミュニケーションツールとして優秀』」


 麗奈は頭を抱えた。

「それ、使ってないですよね……?」


 止まらない。


「『使用不可店マップと一緒に額装して、現代アートに』」

「『大宮ふとん店で出すと、祖母に電話を勧められます』」

「『財布から出すだけで上尾を思い出せるので実質観光』」


 パーソナリティがついに言った。

「……これ、コーナーにします?」


 その場で決まった。


 「今週の麗奈ちゃんプリペイドカード使用方法」


 翌週から、番組は完全に様相を変えた。


「『鍋敷きにすると昭和感が出ます』」

「『会社で名刺代わりに出すと話題が広がる』」

「『使えない店で出して断られるところまでがセット』」


 大喜利だった。

 もはや実用性は誰も求めていない。


 麗奈は半笑いで言う。

「最初に普通に使ってくださいって言ったの、完全に失敗でしたね」


 番組の公式SNSには、

《今週の優秀使用方法》

《今週の意味不明》

《今週の危険》


 という謎のタグが並び始めた。


 ついには、こんな投稿まで来る。


「『使わないでいることが最大の使用法』」


 スタジオ全員、沈黙。


 パーソナリティがぽつりと呟いた。

「……哲学ですね」


 番組の聴取率は、なぜか上がった。

 ラジオの外では、麗奈ちゃんプリペイドカードを“どう使わないか”を競う動きまで出始めた。


 麗奈はエンディングで締める。

「もうこれは、お金じゃないですね。概念です」


 パーソナリティが即答する。

「電波に乗った瞬間、通貨じゃなくなりましたね」


 こうして、FMさいたまの片隅で始まった小さな質問は、

「使えないものほど、想像力を刺激する」

という謎の真理だけを残し、今日も電波に乗り続けている。


 次回予告はこうだ。


「来週は、

 **“麗奈ちゃんプリペイドカードで起きたトラブル選手権”**です」


 誰も止めない。

 なぜなら、もう誰も正気で使おうとしていないのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ