電波に流れる“使えない知恵”──FMさいたま発・麗奈ちゃんプリペイドカード大喜利地獄
その日のスタジオは、いつも通り平和だった。
麗奈が準レギュラーとして出演している地元ラジオ番組。軽快なジングル、穏やかなパーソナリティ、ほどよく脱力したトーク。だが、その平和は一通のメールで崩れた。
「リスナーの〇〇さんから。
『麗奈ちゃんプリペイドカードって、結局どう使えばいいんですか?』」
スタジオが一瞬、静止した。
麗奈は間を置き、正論を選んだ。
「えーと……麗奈ちゃんプリペイドカードは、ただのプリペイドカードなので。お近くのガソリンスタンドとか、コンビニとかで普通に使ってください」
空気が一度、真っ当に戻った。
パーソナリティも頷く。
「そうですよね。普通に使えますからね」
このとき、誰も気づいていなかった。
この“正論”が、地獄の蓋を開けたことに。
次の週。
番組のメールボックスは、見たことのない量で膨れ上がっていた。
「……えー、今日はですね」
パーソナリティが原稿をめくる手を止める。
「麗奈ちゃんプリペイドカードの“使用方法”が、やたら届いております」
読み始めた瞬間、スタジオは壊れた。
「『財布に入れると金運が下がるので、神棚に供えています』」
「『使わずに眺めると、心が落ち着きます』」
「『レジで出すと会話が生まれるので、コミュニケーションツールとして優秀』」
麗奈は頭を抱えた。
「それ、使ってないですよね……?」
止まらない。
「『使用不可店マップと一緒に額装して、現代アートに』」
「『大宮ふとん店で出すと、祖母に電話を勧められます』」
「『財布から出すだけで上尾を思い出せるので実質観光』」
パーソナリティがついに言った。
「……これ、コーナーにします?」
その場で決まった。
「今週の麗奈ちゃんプリペイドカード使用方法」
翌週から、番組は完全に様相を変えた。
「『鍋敷きにすると昭和感が出ます』」
「『会社で名刺代わりに出すと話題が広がる』」
「『使えない店で出して断られるところまでがセット』」
大喜利だった。
もはや実用性は誰も求めていない。
麗奈は半笑いで言う。
「最初に普通に使ってくださいって言ったの、完全に失敗でしたね」
番組の公式SNSには、
《今週の優秀使用方法》
《今週の意味不明》
《今週の危険》
という謎のタグが並び始めた。
ついには、こんな投稿まで来る。
「『使わないでいることが最大の使用法』」
スタジオ全員、沈黙。
パーソナリティがぽつりと呟いた。
「……哲学ですね」
番組の聴取率は、なぜか上がった。
ラジオの外では、麗奈ちゃんプリペイドカードを“どう使わないか”を競う動きまで出始めた。
麗奈はエンディングで締める。
「もうこれは、お金じゃないですね。概念です」
パーソナリティが即答する。
「電波に乗った瞬間、通貨じゃなくなりましたね」
こうして、FMさいたまの片隅で始まった小さな質問は、
「使えないものほど、想像力を刺激する」
という謎の真理だけを残し、今日も電波に乗り続けている。
次回予告はこうだ。
「来週は、
**“麗奈ちゃんプリペイドカードで起きたトラブル選手権”**です」
誰も止めない。
なぜなら、もう誰も正気で使おうとしていないのだから。




