表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大宮ふとん店、本日もたぶん営業中  作者: スパイク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

109/118

使えないほど欲しくなる──上尾中央商栄会「使用不可店マップ」という観光資源

事の発端は、上尾中央商栄会が景気づけのつもりで作った「麗奈ちゃんプリペイドカード」だった。

 祖母の昭和テイスト全開イラストが印刷された、どこか懐かしく、どこかズレているそのカードは、福引の三等景品として配られた瞬間から、なぜか大型テレビやオーブントースターを差し置いて人気を独占した。


 問題は、その使い道だった。


 正確に言うと、使い道がほぼ存在しなかった。


 上尾中央商栄会の加盟店は三十数店舗ある。

 そのうち、実際に麗奈ちゃんプリペイドカードが「使える」店は、二、三軒あるかないかだった。

 レジがない店。

 現金しか受け付けない店。

 そもそも「カードって何?」という店。

 祖母が「なんか難しそう」と言った瞬間に却下された店。


 結果として、九割以上の店で使用不可という、前代未聞のプリペイドカードが完成した。


 当然、問い合わせが殺到した。


「これ、どこで使えるんですか?」

「買い物したいんですけど……」

「記念品ですか?」


 商栄会事務局は混乱した。

 当初は真面目に「使用可能店マップ」を作ろうとした。

 だが、いざ一覧にしてみると、地図のほとんどが空白になる。


「……これ、見栄え悪くないか?」


 誰かが呟いた。


 沈黙ののち、別の誰かが言った。


「逆にさ……使えない店を塗った方が早くね?」


 こうして誕生したのが、

**「麗奈ちゃんプリペイドカード使用不可店マップ」**である。


 地図一面に、真っ赤なバツ印。

 使える店は、片隅に小さく丸で囲まれているだけだった。


 ところが、これが異様に分かりやすいと評判になった。


「潔い」

「正直すぎる」

「逆に信用できる」


 SNSに写真が上がると、一気に火が付いた。


《上尾中央商栄会、使用不可店マップの方が役に立つ》

《9割使えないプリペイドカード、逆に欲しい》

《これは通貨ではなく概念》


 ハッシュタグはこうだ。


#使えないのに欲しい

#麗奈ちゃんカード

#使用不可店マップ


 観光客が増え始めた。


 彼らの目的は買い物ではない。

 「使えなさ」を見に来ているのだ。


 商店街を歩きながら、マップと照らし合わせて写真を撮る。


「ここもバツ!」

「こっちも使えない!」

「全部ダメじゃん!」


 なぜか皆、楽しそうだった。


 商栄会は最初こそ戸惑ったが、すぐに諦めた。


「……それはそれで、良いか」


 理事長は言った。


「どうせ昔から、ちゃんと管理してないし」


 いつの間にか観光案内所には、

「麗奈ちゃんプリペイドカード使用不可店マップ」が山積みになった。

 公式パンフレットより減りが早い。


 大宮ふとん店にも、巡礼者が立ち寄る。


「ここ、使えませんよね?」

「ええ、使えないわよ」

 母はにこやかに答える。


「でも欲しいんです」

「そう?」


 誰も買い物をしない。

 それでも満足して帰っていく。


 ある観光雑誌が、こう書いた。


「上尾中央商栄会は、“使えない”をここまで肯定した日本初の商店街である」


 商栄会はその記事をコピーして掲示した。

 場所は「使用不可店マップ」の隣だった。


 麗奈は首をかしげる。


「……なんでこんなことになってるの?」


 祖母は笑って言った。


「気にしない気にしない。

 使えないけど、困ってないでしょ」


 確かに、誰も困っていなかった。


 プリペイドカードは使えない。

 でも、商店街は久しぶりに人で賑わっている。


 上尾中央商栄会は今日も元気だ。

 理由は誰にも分からない。


 ただ一つ確かなのは、

「使えなさ」そのものが、いつの間にか観光資源になってしまった

という事実だけだった。


 そして、使用不可店マップは今日も更新されない。

 なぜなら、誰も「使えるようにしよう」と思っていないからである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ