使えないほど欲しくなる――上尾中央商栄会プリペイドカード狂騒曲
上尾中央商栄会の福引は、いつの間にか逆ピラミッド型の人気構造を形成していた。
特賞・大型カラーテレビ。
1等・オーブントースター。
2等・無洗米2キロ。
3等・麗奈ちゃんプリペイドカード500円分。
普通なら上から順に欲しがられるはずだ。
だが現実は違った。
人気ランキングはこうだ。
3等 → 2等 → 1等 → 特賞。
理由は単純である。
「テレビ、もうある」
「トースターも壊れてない」
「米は助かる」
「でも麗奈ちゃんプリペイドカードは“よく分からない”から欲しい」
この“よく分からなさ”が人を狂わせた。
福引会場では、
「3等出ろ…!」
「お願い、カード!」
と、真剣な祈りが飛び交う。
無洗米2キロが当たると、
「おおっ!」
と歓声が上がるが、
プリペイドカードが出ると、
拍手が起きる。
商栄会の理事たちは首をかしげた。
「……あれ?」
「一番安いやつだよな?」
だが誰も止めない。
盛り上がっているから。
問題は、その後だった。
――使えない。
上尾中央商栄会の加盟店の多くは、
現金主義。
頑固。
レジがない。
そもそも電源が怪しい。
そして最大の難所が、
大宮ふとん店である。
ある日、観光客が
意を決したように言った。
「これで払えますか?」
差し出されたのは、
麗奈ちゃんプリペイドカード。
祖母はそれをじっと見て、
言った。
「あら、テレフォンカード?」
客が説明する間もなく、
祖母は奥を指差す。
「電話なら奥にあるの使っていいよ」
まさかの公衆電話扱い。
客はカードを引っ込め、
なぜか電話を借りて帰った。
母の場合は丁寧だった。
「ごめんなさいねぇ、
うちはプリペイドカード使えないの」
この対応は正しい。
だが問題は父である。
父はカードを見るなり言った。
「500円分ね。はいはい」
そして――
受け取った。
さらに、
お釣りを渡した。
「200円ね」
客は混乱した。
「え、使えたんですか?」
「まあ、いいでしょ」
この日から、
大宮ふとん店に
未使用の麗奈ちゃんプリペイドカードが溜まり始めた。
父は気にしなかった。
「お釣り、細かいのないな」
そう言って、
プリペイドカードを渡す。
「これでいい?」
客は受け取る。
使えないことは知っている。
だが嬉しい。
こうしてカードは
商店街を循環し始めた。
パン屋で釣りとして渡され、
八百屋で会話のネタになり、
なぜか理容室のレジ横に置かれる。
地域限定通貨化。
使えないのに、
価値がある。
商栄会は気づいた。
「……通貨、作った?」
誰も責任を取らない。
誰も止めない。
大宮ふとん店の祖母は言った。
「昔もあったよ、
商品券みたいなの」
昭和の記憶は万能である。
麗奈はこの事態を知り、
頭を抱えた。
「なんで私のカードが
お釣りになってるの…」
だが商店街は活気づいていた。
使えないカードが、
人を呼び、
話題を生み、
笑いを生む。
結局、誰も困っていない。
――上尾中央商栄会のプリペイドカードは、
使えないからこそ、使われ続ける。
今日もどこかで、
父は言う。
「お釣り?
これでいいでしょ」
そして誰も、
それを否定しない。
上尾中央商栄会は合理性が最後に来るようだ。




