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大宮ふとん店、本日もたぶん営業中  作者: スパイク


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使えないのに配る勇気――上尾中央商栄会・プリペイドカード大事件

上尾中央商栄会は、定期的にやらかす。

 しかも悪気なく、むしろ「いいことしてる顔」で。


 その日、商栄会の理事会で誰かが言った。


「今どきはキャッシュレスですよ」

「ポイントですよ」

「プリペイドですよ」


 全員が深くうなずいた。

 内容は誰も分かっていなかったが、うなずきだけは揃っていた。


「じゃあ作ろう」

「作ろう作ろう」


 こうして――

 麗奈がデザインされたプリペイドカードが、

 勝手に、当然のように、制作された。


 デザインは、例によって祖母。

 祖母は楽しそうに言った。


「昭和が一番かわいいんだよ」


 完成したカードには、

 セーラー服姿の麗奈が、

 やや斜めを向き、

 なぜか背景に朝顔と赤い夕焼け。


 配色は謎。

 フォントは丸ゴシック。

 全体的にダサかわいい。


 理事会は満足した。


「これはウケる」

「今は逆に昭和」

「エモいってやつだ」


 勢いづいた商栄会は、

 このカードを福引の景品にすることを決定。


 だが、致命的な問題が一つあった。


 ――使える店がほとんどない。


 加盟店の大半は、

 現金オンリー。

 そもそもプリペイド端末がない。

 レジがない店もある。


「まあ、いいだろ」

「当たることに意味がある」


 この理論で、すべてが押し切られた。


 数日後、麗奈のもとに話が届く。


「……また、勝手に作りましたね?」


 麗奈は慣れた足取りで、

 上尾中央商栄会の事務局へ向かった。


「勝手に作らないでって、いつも言ってますよね?」


 事務局は笑顔だった。


「まあまあ」

「地域活性化ですから」


 理事長は引き出しから、

 麗奈ちゃんプリペイドカード500円分を取り出した。


「これ、差し上げます」


 麗奈は一瞬黙り、

 受け取り、

 言った。


「……じゃあ、今回はいいです」


 事務局内に

「買収成功」という空気が流れた。


 帰り道、麗奈はカードを眺める。


「……で、どこで使えるんだろ」


 商店街を見渡す。

 魚屋、八百屋、理容室。

 全部無理そう。


「まあ、どっかで使うでしょ」


 この楽天性が、すべてを救う。


 数日後。


 麗奈は準レギュラー出演している

 FMさいたまの地元番組に出ていた。


 パーソナリティが振る。


「最近、上尾中央商栄会が何かやってるそうですね?」


 麗奈は元気よく答えた。


「はい!福引やってます!」

「特賞は大型カラーテレビです!」


 ここまでは普通。


 だが続けた。


「あと、ダサかわいい麗奈ちゃんプリペイドカードも当たります!」


 パーソナリティが吹き出す。


「使えるんですか?」


 麗奈は即答した。


「たぶん、あんまり使えません!」


 スタジオ爆笑。


 さらに追い打ち。


「なので!ぜひお買い物は上尾中央商栄会で!」

「大宮ふとん店には来なくていいですよ~!」


 この一言が、運命を変えた。


 放送後。


 なぜかリスナーが殺到。


「麗奈ちゃんプリペイドカード欲しい!」

「使えないって聞いたから逆に欲しい!」

「ダサかわいいの見たい!」


 商店街は一時的に賑わった。


 使えないカードを求めて。


 商栄会は混乱した。


「こんなに人来ると思わなかった」



 だが誰も反省しない。


 麗奈は自分のカードを財布にしまい、

 まだ使えていない。


 でも気にしていない。


「そのうちね」


 こうしてまた一つ、

 上尾中央商栄会の伝説が増えた。


 使えないのに、欲しがられる。

 勝手に作って、勝手に盛り上がる。


 そして誰も責任を取らない。


 ――上尾中央商栄会は半分以上がシャッターが閉じたままだが今日も平和である。

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