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大宮ふとん店、本日もたぶん営業中  作者: スパイク


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解こうとしたら迷子になる店 ――大宮ふとん店・永久未解決編――

大宮ふとん店には、あまりにも謎が多すぎる。


 昭和のテーストが濃縮還元されたようなダサい麗奈のノボリ。

 なぜか今も現役のハエトリガミ。

 祖母お手製、「いんすたバエ」と平仮名で書かれた看板。

 会計方法は三重構造――祖母はそろばん、母は暗算、父は安物の電卓。

 値札は信用できず、いわゆる“値札ガチャ”。

 そして、店内の壁に何十年も貼られ続ける謎のPOP――

 「大創業祭」。


 創業がいつなのかは誰も知らない。

 なのに祭っている。

 ずっと。


 このカオスに目を付けたのが、暇を持て余した大学生たちだった。


「これ、研究テーマにできるんじゃね?」

「フィールドワークとして最強じゃん」


 彼らはノートとICレコーダーを持ち、真剣な顔で店に入った。


「すみません、創業年についてお伺いしたいのですが」

 祖母は湯のみを差し出す。

「まあまあ、お茶飲みなさい。寒くなってきたから」


 質問は即、気温の話に変わる。

 昭和四十年代の冬の寒さ、石油ストーブの話、みかん箱の話。

 大学生はメモを取るが、創業年には一向に戻らない。


「では、この“いんすたバエ”という看板はどういう意図で?」

 母が答える。

「若い人が言ってたから」

「何を?」

「バエるって」


 意味の説明はない。

 その代わり、商店街の昔話が始まる。


 父は途中から競輪の話を始める。

「この店はな、三連単と一緒でな…」

 何の話か分からないが、全員が頷く。


 気づけば一時間。

 ノートは世間話で埋まり、核心ゼロ。


 別の日には、登録者数百万人の人気YouTuberが来た。


「今回は、上尾のミステリーゾーンを検証します!」

 カメラを回し、意気揚々と入店。


 だが、三分後。

 カメラは止まり、湯のみを持って座っている。


「ここ、買わなくていい店なんですよ」

 祖母の一言で、YouTuberは完全にペースを崩す。


「え、じゃあ何を撮れば…」

「猫かな」

 クロじいが画面に入り、自然と主役になる。


 値札を検証しようとすると、

「それは気分」

 会計を分析しようとすると、

「今日はそろばん」

 ハエトリガミの意義を問うと、

「虫がいるから」


 論理が一切通用しない。


 編集会議ではこうなった。

「オチが作れない」

「謎が深まるだけ」

「これ、動画にしていいのか?」


 結局、動画タイトルは

「【検証失敗】何も分からなかった店」

 再生数はなぜか伸びた。


 大学生たちは論文を諦め、YouTuberはシリーズ化を諦めた。


 誰かが言った。

「この店、ミステリーを解こうとした瞬間に、別の話題に連れていかれる」

 別の誰かが言った。

「脱線が本体なんじゃないか?」


 大宮ふとん店は、謎を隠しているわけではない。

 むしろ全部、丸見えだ。

 だが、見た瞬間に本筋から外れる。


 現代の叡智、分析、アルゴリズム、ビッグデータ。

 それらを総動員しても、この店の正体は掴めない。


 なぜなら――

 解明しようとする者が、必ず先にお茶を飲まされるからだ。


 今日も壁の「大創業祭」は剥がされない。

 明日も値札は信用できない。

 そして、謎は謎のまま、静かに営業を続ける。


 ここは上尾の――

 永久未解決ミステリーゾーン。

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