ワシも、アホやねん
神の声が、優しく諭すように続く。まるで父親が子を慰めるように。
「迷惑とか違うで? 一応、気持ちはわかる。お前らだって、ちょっと米が欲しいから、うちの大切にしてるペットのワンちゃんあげますとか言われたら『あ〜、困ってるねんな。それなら米分けてあげようかな〜』って思うやろ?」
和葉の目が潤んだ。神の比喩が、心に染み入る。涙が一筋、頰を伝う。
「あぁ...なるほど。神様の気持ち、少し分かった気がします。私、なんて浅はかな考えだったんでしょう...」
神の霧が、そっと和葉の肩に触れるような温かさを帯びる。
「そうそう。でも冷静に考えたら、その後『でも犬育てるのも責任出てくるやん? この犬、私が責任持って幸せにせなアカンの?』ってなるやろ?」
和葉は膝を抱え、体を小さく丸めた。悟りのような静けさが、彼女を包む。
「そうですね...生贄って、結局誰も幸せになれない方法だったんですね...私、本当にバカでした...」
神の声に、優しさが滲む。責めるのではなく、寄り添うように。
「いや、追い詰められてそこまで判断出来なくのはわかるで? それに神のワシも全部をバランスよく調整とか忙しくて無理やねん。お前らの所に雨足りないの気づかないで、そこまで追い詰めたのはワシの非やわ」
和葉は涙を拭い、顔を上げた。神の言葉が、胸の奥を温かく溶かす。
「神様...優しすぎます。私たちのことを考えてくださって...これからは正しい方法で神様にお願いに来ます」
神の霧が、軽やかに揺れる。冗談めかした提案が、和葉の心を和らげる。
「ホンマ、酒ぐらいが一番ありがたいって言ってるけど、正直ここも文句言ってくれていいねんで? 『おい、神様、俺達の所雨降ってねぇぞ。お前何してんねん。なんとかせぇや』ぐらいの文句でいいで?」
和葉の唇に、初めて小さな笑みが浮かんだ。神様に文句を言うなんて、想像しただけで楽しくなる。
「神様に文句...ですか? なんだか、村の皆と神社にお参りに行くのが楽しみになってきました」
神の声が、くすくすと笑う。
「生贄とか、そんなん悪魔やろ?」
和葉は両手で顔を覆い、恥ずかしさと後悔が込み上げる。
「そうですね...私たち、なんて恐ろしいことを...神様、本当に申し訳ありませんでした...」
神の気配が、優しく包み込む。許しの言葉が、穏やかに響く。
「いや、いいでいいで。そもそもは雨降らさなアカンかった事に気づかんかったワシの失態や。ただ別に命はいらんねん。それで二三日我慢したらデッカイ雨降らしたるから、悪いけどそこは耐えてくれ」
和葉は深く頭を下げ、額を畳に擦りつけた。感謝の念が、溢れ出す。
「はい! 村の皆にも説明して、ちゃんと待機するよう伝えます。神様のお力、楽しみにしています...」
神の霧が、ゆっくりと薄れ始める。別れの時が来た。
「ほな、今日はもう帰り。酒も欲しい言うてたけど、それも余裕があればでええから。お前らかて雨降った記念に皆で飲みたいやろ?」
和葉の顔に、嬉しそうな表情が広がる。村の未来が、明るく見えた。
「はい! 村の皆と一緒にお祝いの酒が飲めるなんて...今日は本当にありがとうございました、神様」
神の声が、最後に温かく締めくくる。
「はい。じゃあ、今回の失態は本当に申し訳ありませんでした。村の皆に伝えておいて下さい。以後注意します。気をつけて帰り〜や」
和葉は立ち上がり、何度も振り返りながら石段を下りた。神社を後にする足取りは、軽やかだった。
「はい! 神様、本当にありがとうございました! また皆でお参りに来させていただきます!」
二日後、村に大雨が降った。川は満ち、畑は潤い、村人たちは酒を酌み交わして笑い合った。和葉は神社に、文句を言いながらも、心からの感謝を捧げた。あの神様は、きっと今も、霧のように優しく見守っているのだろう。生贄の誤解は、雨後の虹のように、美しい教訓を残して消えた。




