5話(寒波襲来)
5話(寒波襲来)
1
※ 緊急クエスト(カーメリアエリアの異変調査)自動受諾
レーヴォン達、早朝、王都を発つ……。
馬車内にて……。
「ねぇ、ひとつご質問よろしいですか?」
「ええ、どうぞご自由に」
「は、はい、それでは……。えっとね、ナギトさんは……?」
「そんなこと、聞くまでもないでしょ⁉ 今朝から、すごく寝込んでいるわよ!」
「ありゃりゃー……案の定だね。ごめん、エマール……昨日はね、私も、調子に乗りすぎちゃったから、ナギトの不在はね、私にも、責任があると思うの。したがって、処分はね、私も受けるよ」
「マリカさん⁉ そんなこと言うと、僕だって、そうですよ。すごく傍観をしていましたので……」
「二人共、落ち着きなさい。あなた達がね、気に病む必要はね、ないわ。全ての発端はね、彼が招いたことなのよ。したがって、彼の自業自得なのよ。それ以上でも、それ以下でも、ないわ」
(うーん……それはね、そうなんだけど、私も、挑発に乗っちゃったことはね、事実だから、反省はしなきゃいけないよね)
(えっと、ナギトさんはね、すごく酒乱……うん、今後に備えて、覚えておかなきゃいけないよね)
……。
「おほんっ! あのね、それじゃあ、改めてね、ご説明をするわよ。よろしいかしら?」
「うん、私はね、大丈夫だよ」
「はい、僕も、よろしくお願いします」
「ええ、了解よ。えっとね、これから赴【おもむ】く、カーメリアエリアはね、レイバー州の農業を支えている街よ。なお、アルカナ州南部の都市も、一部ね、すごくお世話になっているわ。そして、農業の心臓部であるエリアで、異変が起きている現実……無論、それがね、何を意味しているのか、分かるわよね?」
「はい……近い将来、食糧不足に陥って、すごく高騰しますよね」
「……そうね……」
「高騰ね……。確かに、それはね、一目瞭然だね。でもね、その程度の被害で済むのなら、すごくマシな部類だと思うよ」
「えっ、ミニマムレベル……どうしてですか⁉」
「レーヴォン君、街全体がね、凍結してるんだよ。栽培がね、できないんだよ。ディメンションな世界なんだよ」
「あ、そうでしたね。すごく肝心なところを、忘れていましたね」
「したがって、今回はね、時間との勝負になるわ。カオスな状況に陥る前にね、至急、原因の元凶をね、突き止めるわよ」
「そうだね。場合によっては、火炙りも辞さないかもしれないね」
「ひ、火炙りって……⁉」
「勘違いしないで。そのままの意味じゃないから。農地全体を、火で囲み、適性温度を維持する手法だよ」
「あ、そういうことでしたか⁉」
「ごめんね。すごく語弊がある言い方だったね」
「いえ、僕こそ、すごくしつこくしてしまって、ごめんなさい」
「さあ、急ぐわよ。運転手さん、お願いいたしますわ!」
「ああ、了解……って⁉」
と、運転手、異変に気づき、急遽【きゅうきょ】、急ブレーキをかける……!
キュウウウウー……!
「あああああー……⁉ 痛っ⁉」
「きゃああっ⁉」
「ねぇ、ちょっと⁉ 何なの⁉」
そして、停止……。
「「「…………(呆然)」」」
「あのね、運転手さん……合図もなく、突然さ、止まんないでよ! すごく危ないでしょ⁉」
「あっ、ごめんなさい! 僕も、あまりのことで、すごく驚愕してしまったのでね……」
「ええっ⁉」
「痛たたたたぁ……⁉」
「レーヴォン君、大丈夫⁉」
「は、はい……ご心配をおかけしました。少し頭を打っただけなのでね、大丈夫です」
「ホ、ホント⁉ ……。少し頭を失礼するわね」
「わあぁっ⁉ エ、エマールさん⁉」
エマール、レーヴォンのおでこに、自身のおでこを重ね、容態をチェック中……(レーヴォン、少し照れている♥)。
「ええ、心配いらないみたいね」
「は、はい……ありがとうございます……。ポオッ♥」
「うん、レーヴォン君、どうしたの⁉ すごく顔が赤いよ! 熱でもあるの⁉」
「い、いえ、ご心配なく……」
「そう、だったらね、構わないんだけど」
「うふふっ」
そして、運転手さん、静かに呟【つぶや】く……。
「あの、大変ね、申し訳ございませんが、これより先はね、通行することが、すごく困難ですね」
「「「ええっ⁉」」」
レーヴォン達、目の前に広がる光景を見渡す……。
「うわぁ⁉」
「何よ、これ⁉」
「これは、思っていたより、すごく深刻みたいだね」
「はい、凍結って、ホントの凍結じゃないですか⁉」
「ええ、すごくクレイジーな光景ね」
カーメリアにつづく街道を含め、一面、氷雪の世界と化していた……。
「これはね……すごく予断を許さないわね。大至急、住民の方々の安否確認をとらないと……」
「ああっ、うぐっ⁉」
と、レーヴォン、顔色の様子が……。
「ねぇ、レーヴォン君⁉ すごく辛【つら】くなったらいいなよ! 無理をする必要はないんだからね」
「ええ、マリカのおっしゃる通りよ。あなたはね、新人さんなのですから、少しでも、不安を覚えたのなら、私【わたし】たちにね、おっしゃいなさい」
「は、はい! お気遣いいただきありがとうございます。僕はね、ホントに大丈夫ですから。それより、住民の方々のね、救護を急がないと!」
「じー……。うん、今はね、思考停止をしている場合じゃないっか⁉ エマール、ホントに、ダメなの⁉」
「そうね。私【わたし】には、すごく判断をしかねるわ。運転手さん……ホントに、走行はね、不可能でございますの?」
「はい、申し訳ございません。すごくバンピーですので、すごくリスキーかと⁉」
「いえ、致し方ありませんわ。ひとまず、メルラのお支払いをいたしますわね」
「あっ、はい! かしこまりました」
エマール、メルラを支払う……。
「みなさま、どうかお気をつけて」
「ええ、ご心配ね、感謝いたしますわ」
「運転者さんも、気をつけて帰ってね」
「王都まで、油断しないでくださいね」
「はい。それでは、僕はね、これで」
……。
2
レイバー州/カーメリアエリア
「うーん……」
「あら、レーヴォン君、どうしたのかしら? やっぱり、すごく辛【つら】いの?」
「あっ、いえ……そういうことではないです。えっと、馬車移動の時にはね、気がつかなかったのですが、すごく長い一本の街道で繋がっていたんですね⁉」
「ああー……そういうことね。そういえば、レーヴォン君、レイバー州はね、初めてですものね」
「はい、そうですね。少なくとも、王都以外はね、未踏の地ですね」
「ふふっ。未踏の地とは、すごく大層なネーミングセンスだね(ニヤリ)」
「マリカ、からかわないの!」
「えへっ、ごめんね」
「おほんっ! あのね、名称はね、セルフィス街道というのよ。王都とカーメリアをね、東西でね、貫いているすごく長い一本の街道よ」
「へえぇー……まさに、大動脈の街道なんですね」
「うふふっ、そうね。もっとも、大半はね、平原なのですけどね」
「えへへ、確かに、そうですね」
「うーん……すごく初々しいよね」
「さあ、立ち話はね、これくらいにして、急ぎましょう!」
「はい、承知しました!」
「了解!」
レーヴォン達、歩いて、セルフィス街道を東へ……。
「ヘェ、ヘェ……ヘックション! さ、寒い⁉ すごく寒くなって来ましたね⁉」
「レーヴォン君、大丈夫⁉ 遠慮しないで、着込みなさい! 風邪を引いてしまうわ」
「は、はい……(震)」
「うーん……まさか、レーヴォン君が、すごく寒がりだったとはね……うんうん、君の新たな一面が分かってね、お姉さん、すごく嬉しいよ」
「コラッ⁉ マリカ、あまり調子に乗っているとね……」
「えっ、エマール……って、ああーっ⁉」
ツルゥー……ドオォーン!
「あっ、痛ぁああぁー⁉」
「ほらっ、言っているそばから⁉」
マリカ、氷で滑って、激しく尻餅をつく!
レーヴォン、痛がるマリカを見て、すごく表情が歪【ゆが】む……!
「あのね、相手のことをね、宥【なだ】めている時間があるのなら、ご自身の自己決定ができてからにしなさい」
「えへへ、確かに、そうだね。失敗、失敗……」
「マリカさん、大丈夫ですか?」
と、レーヴォン、マリカに手を差し伸べながら……。
「あうぅー……すごく面目ない。レーヴォン君、ありがとね」
と、マリカ、レーヴォンの力を借りて、立ち上がる……。
「おっとっとっ⁉ それにしても、すごくバンピーだね。足元にはね、気をつけなきゃいけないね」
「はい、おっしゃる通りですね。即【すなわ】ち、事実上のアイスバーンですからね」
「ええ、おそらく、目的地にね、近づくほど、そのような傾向はね、すごく強いでしょう。したがって、細心の注意を払いながらね、出発をするわよ」
「はいっ!」
「やれやれ、すごく前途多難だね」
3
セルフィス街道……。
ヒュウウウゥゥゥー……。
冷たい風が吹きつけながら、雪が舞う……。
「それにしても、都会というのは、すごく摩訶不思議ですね。まさか、ピンポイントでね、寒波に襲われるなんて……僕の地元では、とても考えられないことですので……」
「「ええー……⁉」」
「レーヴォン君、その間違いはね……」
「うん、すごく憂慮するべき問題だね」
「ええっ⁉ エマールさん、マリカさん、やっぱり……そうだったんですか⁉」
「いえ、ごめんなさい。すごく意外な反応でしたので、すごく呆気にとられてしまって……」
「あっ、ああー……失礼しました。僕もまだまだ、都会に慣れていないですね。日々、精進をいたします」
「あ、あのね、レーヴォン君⁉ 私【わたし】たちが、申し上げたいのはね、そういうことではないのよ」
「えっ⁉」
「あのね、私だってね、初めての事案なの」
「うっ⁉」
「えっとね、私がね、すごく憂慮するべき問題と言ったのはね、君の都会に対する、すごく大きな溝のことだよ」
「ぁぁあああぁぁー⁉ し、失礼しました! 先輩方にね、すごくお手数をかけてしまいまして……!」
と、レーヴォン、恥辱のあまり、すごく顔を真っ赤にして……そして、詫びる……。
「いえいえ、ごめんなさい。あなたがね、謝らなくてもいいのよ。私【わたし】たちもね、すごく言葉足らずだったわ」
「うん、ごめんね。すごく語弊を招く表現をしちゃってね」
「あ、あのー……今度、王都について、詳しく、教えてくださいね」
「うふっ、了解よ(苦)」
「うん、そうだね。すごく大きな溝だもんね」
「あ、ありがとうございます」
……そして。
「さあ、それじゃあ、早速ね、ウェザーラインをね、確認してみましょう」
「うん、すごく無難だね」
「ゴクンッ(呑)」
エマール、ウェザーライン(気象情報モニター)を確認‼
「うんー……。ふぅんんー……」
「エ、エマール、黙っていないで、何とか言いなよ! 眉間に皺【しわ】を寄せて、すごくおっかないよ」
『何か、異変でもね、認知したのでしょうか⁉』
『そ、そうなのかなぁ……?』
「なるほど……。レーヴォン君、マリカ⁉ お待たせをして、すごく申し訳なかったわね。まずはね、こちらをご覧なさい」
「ええ、何ですか⁉」
「うんっ⁉」
レーヴォンとマリカ、ウェザーラインを確認する……。
「「⁉」」
「はああぁぁー……」
「うううぅぅぅー……」
「うふっ。どうやら、ぐうの音も出ないといったところかしらね。ええ、ご覧のように、現在の天候状況はね、スタンダードよ。所謂、暑くもなく、寒くもなく、すごく快適な陽気ね。まあ、出発時の王都の天気を鑑【かんが】みると、到底ね、予測が困難を極めることは想定できたわよね」
「……そうだね。つまるところ、外的要因はね、皆無ということだよね」
「なるほど、局地的な寒波ですか……」
〈ウェザーライン〉
この世界の気象情報である。主に、モニターで確認をすることができる。
スタンダードを中間に、上昇すると(ホット)、下降すると(コールド)がある。
ホット傾向が強くなると暑くなり、コールド傾向が強くなると寒くなる。
基本的には、一定の周期で訪れる。全世界共通の気象条件である。
「さあ、すごく困ったわね。果たして、私【わたし】たちだけでね、原因の究明はね、可能なのかしら?」
「えっ、そんなに、難題な問題なんですか⁉」
「いえ、時間をかければ、解決をすることはね、不可能ではないわよ。しかし……」
「先ほども言ったように、時間との勝負だよ。このままだと、住民はね、凍死……街はね、廃村になっちゃう……少なくとも、今週が限界だろうね」
「そ、そんな……でも、どうして……」
「おそらく、人為的な要因の可能性が、すごく高いわね」
「うん、私も、そう思う」
「こんな、残虐なこと……どうして、できるの⁉」
「可能性として、すごく濃厚なのは、怨恨による暴挙……所謂、同じ苦しみを味わさせる……即【すなわ】ち、反攻ね」
「もちろん、反攻行為をする時点で、同類ともって然るべきなんだけど、少なくとも、恨まれる側にとってはね、自業自得でもあるんだよね。第三者からみると、どちらもね、すごく愚かなことなんだけどね」
「それって、悪魔が悪魔を生み出す行為なんじゃ……」
「ええ、レーヴォン君のおっしゃる通り、負の連鎖反応、そのものよね」
「それに、悪魔になっちゃうと、自身で制御できなくなっちゃうからね」
「加えて、強欲の塊ですしね」
「さ、さ、最悪のスパイラルですよね? あっ、そうだ! ねぇ、エマールさん⁉ 他の要因は……」
「そうね。これがね、もっとも、恐ろしいことよ」
「うん、言うまでもないよね」
「ええ……」
「所謂、何者かによる、侵略行為よ」
「ああ……」
「まあ、当然の反応だよね」
「ひょ、ひょっとして……また、知能魔獣の仕業【しわざ】……⁉」
「レーヴォン君⁉ 憶測だけでね、判断をするのはね、すごく愚考よ。ひとまず、調査をね、優先させましょう」
「は、はいっ、そうですよね⁉」
『ねぇねぇ、エマール⁉ 先ほどのレーヴォン君の推理……』
『ええ、皆【みな】まで言わないで。温泉郷と同様の事態でしょ⁉』
『まさか、新たなテリトリーの発掘……ゼロじゃないよね⁉』
『仮に、温泉郷の侵攻作戦が失敗に終わったとして、性懲りもなく、新たな侵攻拠点を模索……知性の向上、それに伴う、自己犠牲の確立……果たして、どこまでが、ホントなのかしらね。すごく信憑性はね、高いのだけれど、私【わたし】はね、時期早々だと思うのよ』
『ねぇ、エマール⁉ 私ね、すごく懸念していることがね、あるの?』
『あら、何かしら⁉』
『あ、あのね……』
マリカ、すごく神妙な面持ちで、エマールに、長期間秘めていた胸の内を打ち明ける……。
『そう、そのようなことをね、想定をしていたのね』
『うん、可能性としてね、どうだろう?』
『ええ、否定できないところが、すごく事の重大さを物語っているわね。自力ではなく、他力が加わればね……』
『ごめんね。すごく偉そうなことをね、言っておいて、私こそ、すごくダブルスタンダードだよね』
『あら、どうして、謝るのかしら? 私【わたし】とね、すごくおあいこじゃない?』
『エマール……』
『あのね、私【わたし】はね、申し上げたはずよ。片隅に置いておくとね。それに、考えることはね、自由なのよ。様々な要素を、想定しておかなきゃいけないのですからね』
『うん、そうだね。エマール、ありがとう。心のつかえがね、取れた気がするよ』
『ええ、すごく安心したわ』
『ひとまず、予測が外れていることをね、祈るよ』
『そうね』
4
レイバー州/カーメリア
……そして、時間をかけて、カーメリアに到着。
「うわぁ⁉」
「こ、これは……」
「もはや、原形がないわね」
凍りつく建物……。なお、よく確認をしないと、建物なのかどうかも分からない状態である……。
「ねぇ、どうしよう⁉」
「ええ、人はおろか、動物の気配すら、感じられないわね」
「で、でも……まだ、あまり時間は経っていないですよね⁉ ひ、ひとまず、住民のみなさんをね、探しましょう! きっと、どこかに、避難をしているはずですから……」
完全に動揺を隠せない様子のレーヴォン……。
「レーヴォン君⁉ ひとまず、地に足をね、つけなさい。すごく浮き足立っているわよ」
「は、はい、ごめんなさい!」
「ねぇ、エマール⁉ 早速ね、指示を!」
「ええ、了解よ。……。あのね、ひとまず、二手に分かれてね、捜索を開始するわよ。私【わたし】とレーヴォン君はね、東街区をね、回るわ」
「うん、了解! それじゃあ、私はね、西街区だね」
「レーヴォン君、行くわよ!」
「はい、お供します!」
「二人共、気をつけてね!」
レーヴォンとエマールは東街区、マリカは西街区……二手に分かれて、捜索を開始!
〈カーメリア〉
レイバー州南東部に位置する街である。
レイバー州の農業の中枢であり、王都をはじめとする、当州の食糧生産の本拠地である。
また、アルカナ州南部の都市も、カーメリアの範囲内である。
栽培方法は、スタンダードからややホット傾向の間で行われている。
気象予測は、事前に可能である。
東街区を捜索中のレーヴォンとエマール……。
「ホント、建物自体がね、すごく凍りついてしまっているみたいで、凝視しないと実物が分からないですね」
「ええ、ひとまず、内部のね、確認をするわよ」
「はいっ!」
トン、カシャン、カアァァーン……!
エマール、持ち合わせていたシャベルを使って、凍ってしまっている入口の扉の氷を割る……。
―そして!
「ここは……」
「そうね。どうやら、品物のご様子から、鍛冶屋ではないかしら?」
「ああ、確かに……すごく備品が保管されていますね。でもね、店主さんはね、どこにいってしまったのでしょうか⁉」
「ええ、すごく中庸【ちゅうよう】に考えて、どこかに避難をしていると考えるのが、すごく自然でしょうね」
「エマールさん……この様子ですと、カーメリアエリアにはね、安全地帯はないのではないでしょうか⁉」
「ええ、エリア外にね……」
(いえ、すごくありえないわよ。もし、先ほどのマリカの発言がね、すごく的を得ていたとしたら、労せずしてね、明け渡すことになるもの。地元を愛する者として、それだけはね、絶対にね、譲れないことですもの)
「あ、あの、エマールさん⁉」
「あっ、ごめんなさい。えっと、確かね、エリア外への退避についてでしたわね。あのね、これはね、私【わたし】のご想像でしかないのだけれど、おそらく、その可能性はね、皆無に等しいわね」
「ええ、ホントですか⁉」
「ええ、少なくとも、放置をすることはね、基本的には、ありえないわね。権利の放棄をすることになるのですから」
「そ、そうですよね⁉ ひとまず、よかったです」
「ほら、安心するのはね、すごく早いわよ。まだ、住民の方々の安否確認がね、できていないでしょう」
「は、はい……そうですね⁉」
「それじゃあ、他をね、捜索しましょう」
「はいっ!」
その後、レーヴォンとエマール、一通り、東街区のメインの建物を中心に内部を含めて、捜索をするが……。
「ダ、ダメですね……。誰もいないですね……」
「うーん……。これはね、すごく困ったわね」
「ま、まさか……もう……(汗)」
「レーヴォン君、やめなさい! 捜索において、最悪の想定はね、基本だけれど、決して、言葉に出してはね、いけないのよ!」
「は、はい……ごめんなさい!」
(しかし、そうは言っても、彼はね、新人なのよね。このような任務はね、すごく荷が重いわよね。…………)
「レーヴォン君、ひとまず、捜索はね、継続よ」
「は、はい……」
「でもね、一度ね、帰投をするわよ」
「き、帰投ですか⁉」
「ええ、ひとまず、例の合流地点でね、マリカと合流をしましょう」
「そ、そうですね⁉ もしかしたら、マリカさん、何か情報を掴んでいるかもしれないですもんね」
レーヴォンとエマール、一度、事前に話し合っていた、マリカとの合流地点へ……。
……すると。
「あっ、マリカさん⁉」
「さあ、どうなのかしらね」
「ああ、二人共、私はね、ここだよ!」
レーヴォンとエマール、マリカと合流……。
「ねぇねぇ、東街区はね、どのような状態だった⁉」
「あぁー……」
「…………」
「そうなんだ……。その様子だと、収穫はね、なかったみたいだね」
「はい、お恥ずかしながら……」
「どうして、レーヴォン君がね、そんな顔をするの⁉ でもね、そんな二人にね、すごく朗報だよ」
「えぇー……マリカさん⁉」
「もしかして、住民のみなさんはね、ご無事でしたの⁉」
「うん、どうやら、一連の寒波に襲われた直後、全員、教会にね、一斉に避難をしたみたいだね」
「ホ、ホントですか⁉(安)」
「うん、暖の確保もできている様子だったし、ひとまず、一安心といったところかな……」
「ほぉっ、よ、よかった……」
「ええ、すごく要領よく行動をしてくれたみたいね」
「……そうだね。……。さあ、二人共、私にね、ついて来な! 案内するから!」
「ええ、お願いをするわね」
「よろしくお願いします!」
レーヴォンとエマール、マリカに案内をしてもらい、西街区にある教会へ……。
5
西街区/カーメリア協会
「う、うん……何だろう⁉ 気持ち、すごく暖かい……」
「なるほど、火の玉ね……。火属性の方々が、いらっしゃっているのね」
「うん、まあ、そういうことだね。さあ、行くよ」
「ええ」
「はい!」
教会内……。
「責任長さん……よくご無事で。ご不便を強いらせてしまって、ホントに申し訳ございませんでしたわ」
「いえいえ、とんでもございません。天命騎士さんこそ、このような悪天候のなか、お越しいただき、ホントにありがとうございます」
「それにしても、すごく機転がいいよね」
「はい、一刻を争うような状況下でね、すごく賢明なご判断……とても痛み入ります」
「はい、おかげでね、窮地に遅れることなく、駆けつけることがね、お叶ないになることができましたので、お時間を稼いでいただき、誠に感謝いたしますわ」
「天命騎士さん、謙遜しないでください。今はね、安寧を素直に喜びましょう」
「ええ、そうでございますわね」
「それでは、現在の状況をね、ご説明しますね。現在、各地から、駆けつけていただいた、火属性のシスター殿のおかげで、何とか、カーメリア住民一同、暖を取ることができています」
「ほおぉー……」
と、レーヴォン、胸をなでおろす……。
「人間の温もりを、改めて、すごく痛感いたしますわね」
「うん、なかなか、できることじゃないよね」
⦅ベルウォルクス責任長⁉⦆
「ああー……これはこれは、マルクレム教区長さん⁉ ご足労いただきありがとうございます」
「いえいえ、当然の責務です。住民の方々の安寧を厭わないのが、教会に仕える者のお役目なのですから。どうかお気になさらないでください」
「はい、改めて、感謝申し上げます」
「しかし、あまり悠長なことをね、言っている余裕はございませんよ」
「はい、おっしゃる通りですね?」
「お、おや⁉ そちらの方々は……⁉」
「はい、ごあいさつが遅れてしまって、申し訳ございませんわ。私【わたし】はね、天命騎士のエマールと申し上げますわ。今後とも、よろしくお願いいたしますわ」
「同じく、天命騎士のマリカです」
「新人天命騎士のレーヴォンです」
「ああっ、そうかい⁉ あなた方がね……! ご依頼を受けて、来てくれたんですね。私、カーメリア教会に仕えている教区長のマルクレム(男性)と申します。本日はね、ご迷惑をおかけいたします」
「いえ、お気になさらないでくださいまし。天命騎士として、そして、一人の人間として、当然のことでございますこと」
「はい、エマールのおっしゃる通りですね」
「お力になります」
6
―(ウイーン)[扉の開く音]。
⦅責任長⁉ 少し、お時間の方をよろしいですか⁉⦆
と、二人の農民姿の住民が、やや荒げた様子で駆けつけてきた……!
「ああ、君たちかね、どうしたの⁉」
「どうしたもこうしたもないでしょう⁉」
「あのね、このような状況でね、すごく不謹慎をご承知の上でね、申し上げますが、こちらもお仕事でございますので、失礼のほどはね、予【あらかじ】め、ご了承ください」
「はい、えっとですね。現在、こちらに火属性のシスターの方々がね、お見えになられていらっしゃいますよね?」
「うん、そうだね」
「「うん(頷)」」
「あのね、お借りすることはね、できないでしょうか?」
「えっ⁉」
「お一人でも、構いませんので……どうか(願)」
「し、しかし……現在の状況でね、そのような行動はね、賢明じゃない……そんなこと、君たちにだって、分かるでしょう⁉」
「そんなこと、俺だって、すごく分かっていますよ。だからこうして、お願いに来ているんじゃないですか……」
「そうだったね……すまない。君たちの意見をね、呑むことはできないの。どうか、理解して欲しい……。責任長として、認めることはね、できないよ」
ベルウォルクス責任長、頭を下げて、詫びる……。
「「はあぁー……」」
「相変わらず、すごく頭が固いですよね? あのね、暖を取ることだけでね、人はね、生き延びることがね、できますか⁉ 飲食はね、どうなさるおつもりですか⁉ 少なくとも、備蓄はね、今週いっぱいでね、底を尽きますよ! 加えて、王都方面の食糧はね、さらに厳しいですよ! どのように、ご説明をなさるおつもりですか⁉」
「そんなこと、僕だって、すごく分かっている……!」
「分かってないでしょう⁉ 今回の惨状、どうなさるおつもりなんですか⁉ このままだと、人災ですよ!」
「ちょっと待ってくれ……今ね、考えているんだって!」
「考えるも何も、一人だけですよ! まあ、断食【だんじき】をするのであれば、否定はね、しないですけど……」
「しかし、すごく優柔不断な人ですよね⁉ 力量というのは、有事の際……見極めることができるというのは、よく耳にしますが、どうやら、ホントみたいですね? あんたを見ていると、つくづく実感しますよ!」
「ぼ、僕がね、平和ボケをしているとでもいいたいの⁉」
「事実でしょう⁉」
「何だって……(怒)」
責任長と農民の間で、完全にヒートアップ……!
「……(怒)」
マリカの脳に電気が走る‼
「いい加減にしなよ!」
「「ええっ⁉」」
「黙って聞いていれば、すごく調子のいいことばかり並べて……それに、あなた達みたいな人のことをね、どのように表現するのかね、知ってる⁉」
「はあっ⁉」
「何⁉」
「卑怯者って言うんだよ!」
「ふざけるな!」
「何で、そこまで、言われなきゃいけねぇんだよ⁉」
「開き直ってる場合じゃないでしょ⁉ どうして、予【あらかじ】め、対策をね、施していないのよ⁉」
「そんなの無理だよ!」
「こんなパターンはさ、生まれて初めてなんだよ! そんなことくらい、あんただって、分かるだろ⁉」
「うん、すごくよく分かるよ。私が言いたいのは、責任長さんの責任にするのはね、お門違いだっていうことだよ!」
「いやいやいや、責任者なんだから、当然でしょ⁉」
「責任が取れないのなら、責任長なんていう看板はさ、下【おろ】すべきだよ!」
「なるほどね……。だったら、それはね、あなた達にも、すごく当てはまるよね」
「「はあっ⁉」」
「マ、マリカ⁉ あなたもね、興奮しないの⁉」
「ご、ごめん。今回ばかりはね、私も、我慢ならないの。したがって、はっきりとね、言わせてもらうよ」
「うぅー……(苦)」
『責任長さん……申し訳ありません』
『いえ、お構いなく……。でもね、どうしよう……⁉』
『……はぁぁー……神聖な場所で……』
と、マルクレム教区長、複雑な表情を浮かべる……。
「あのね、あなた達もね、農業の責任者だよね? 立場は違っても、それはね、紛【まご】うことなき事実だよね?」
「あのさ、責任者といっても、処遇がさ、明らかに違うだろ⁉」
「フフッ、すごく杜撰【ずさん】な屁理屈だね」
「何だと、コラアアァァー⁉」
「大体、あんたさ、この町の者じゃないでしょ⁉ 部外者はね、引っ込んでいてもらおうかな⁉」
「ほら、またそうやって、論点をずらす……そういうところがね、すごく卑怯者なの」
「ああぁぁー……もう、埒が明かない!」
「ふううぅぅーん……そっか、口では勝てないから、暴力に転ずる訳だね。ホントに、すごく分かりやすいよね」
「あぁん⁉」
「言っておくけど、民間人であっても、暴力を振るうのであれば、容赦はしないよ。まったく……あなた達こそ、すごく平和ボケをしてるよね。暴れる余裕があるくらいだからね」
「「(怒)」」
「さあさあ、かかってきなよ(睨)」
「やめなさあああぁぁぁーいぃ‼」
マルクレム教区長、開口一番、叫ぶ‼
「…………⁉」
全員、一瞬、その場で固まる……。
「あのね、ここはね、教会という、すごく神聖な場所ですよ! 一致団結しなきゃならない状況でね、内輪揉めとはね、何事ですか⁉ そんなに、この街がね、ご不満でしたら、今すぐ、荷物をまとめて出ていけばいい! ほら、遠慮しないで!」
「な、何で、教区長さんがさ、怒るの⁉」
(……そうね。少し、静観が長すぎたかしらね)
「おほんっ!」
パーン!(エマール、大きく手を叩き!)
「はい、はい! ひとまず、クールダウンをね、いたしますわよ。状況が状況ですもの。苛立つのはね、致し方ありませんわ。でもね、教区長さんのおっしゃるように、教会はね、ストレスを発散する場所ではございませんわ。ひとまず、ここはね、私【わたし】たち、天命騎士にね、任せてはいただけませんかしら?」
「「⁉」」
「ええ、あんたら、天命騎士さんだったの⁉」
「あのね、私がね、仲裁に入っていた時にね、気づきなよ」
「ああー……なるほど、すごく合点がいったよ」
「す、すまない。部外者なんて言っちゃって……そっか、助けに来てくれたんだもんね」
「まあ、私もね、すごく熱くなっちゃっていたから、この件についてはね、お互いさまだよ」
(ふうぅー……そうね。知らない者同士の争いほど、恐ろしいものはないわよね)
(はああぁぁー……ひとまず、終わってよかったあぁー……。すごくおっかないもん)
7
「ねぇ、責任長さん⁉ 改めてね、お聞きいたしますわ。震源元はね、特定できていらっしゃらないのですかしら?」
「あぁっ⁉ やっぱり、人為的要因ですか⁉」
「どうやら、人災と想定していらしたご様子でありますわね」
「はい、理由としてはね、以下の二点がございます。一つ目は、あまりに、局所的な寒波だということ……二つ目は、山岳地帯の異変です」
「あら、それはね、すごく奇妙でありますこと」
「ねぇ、農民さんはね、どうなの?」
「う、うん……そうだな……」
「どのような些細なことでもね、構いませんことよ」
「ああ、だったら、俺もさ、責任長の意見に賛成だな」
「「「うんっ⁉」」」
「どういうことでありますの⁉」
「ああ、俺たちさ、山菜採りでさ、山頂まで登ることがあるんだ。でもさ、今回はさ、途中で、引き揚げてきたんだよ!」
「どうして、引き揚げましたの?」
「いや、街以上に、すごく寒くてさ……」
「それに、すごく吹雪【ふぶ】いてたんだよね」
「そう……少し、失礼いたしますわね」
エマール、レーヴォンとマリカを呼び……。
『ねぇ、レーヴォン君とマリカはね、いかがかしら?』
『うーん……そうだね。おそらく、これ以上の調査はね、すごくじり貧になっちゃうだろうし……これといった、手掛かりがね、ないことを踏まえると、山頂に登る以外に手はね、ないでしょ⁉』
『そう、私【わたし】と同意見ね。ねぇ、レーヴォン君の意見はね、いかがかしら?』
『はい、一応、僕もね、意見はありますが、新人が口を出す権利はね……』
『レーヴォン君⁉』
『は、はいっ⁉ 何でしょうか⁉』
『意見にね、新人もベテランもね、ないわ。あなたのすごく率直な意見がね、聞きたいのよ。うふっ。謙虚すぎるのも、すごく考えものね』
『うん、そうだよ。相手の意見はね、行う前に聞いておかないと、後々、色々な問題がね、噴き出しちゃうでしょ⁉ ホームとはね、相談をして決定をするものだし、加えてね、反対している者を連れていく事態にね、なり兼ねないし……ねっ、すごく噴き出しちゃうでしょ⁉』
『はい、そうですね。僕も、山頂がね、すごく怪しいと思います。したがって、賛成です』
『ええ、了解よ』
『第一、思考停止はね、すごく邪道でしょ⁉ 考えることを放棄しているのだから』
『ふふっ、おっしゃる通りね』
『はい、同感ですね』
8
―そして。
山頂の捜索を決断……。
「さあ、こちらです」
レーヴォン達、山頂の入口まで案内をしてもらうことに……。
ブウウゥゥーン!
と、ベルウォルクス責任長、山頂へとつづくゲートのロックを解除する……。
ゴオオォォー……ガダァン!
と、自動でゲートが開く!
「お待たせいたしました。ここから、道なりに、北に進んでいただくと、山頂につづく、山道へ、登山することができます」
「ええ、ご協力ね、感謝いたしますわ」
「いえいえ、僕にできることはね、これくらいです。それに、街の者がね、争いごとの渦中に、あなた方をね、巻き込んでしまいました。是非、これくらいのお詫びはね、受け取ってください」
「うーん……責任長さんというポストも、すごく気苦労が絶えないポジションみたいだね」
「いえ、お気遣いいただきありがとうございます」
レーヴォン、無言で頭を下げる……。
「それでは、私【わたし】たちはね、これで失礼いたしますわね」
「うん、責任長さんも、無理はしないでね」
「お気をつけください」
「はい、ありがとうございます。神のご加護を」
レーヴォン達、ベルウォルクス責任長に別れを告げて、山頂へ向けて出発する……。
9
レーヴォン達、カルリア街道を移動中……。
「ねぇ、エマール⁉ どこに、連絡をしているの⁉」
「……そうね。一応ね、ギルドにね、報告をしておくわ。どのような事情であっても、街を離れるのはね、すごくリスキーですから」
「確かに、そうだね。つまり、応援をね、要請するの?」
「ええ、そうよ。確かね、バンクスさんのホームがね、非番だったはずよ」
「まあ、言われてみれば、そうだよね。だからこそ、歓迎会だって、開くことができたんだもんね」
「それに、一部の兵士さんだって、駆けつけてくれるはずよ」
「そうだね。ひとまず、彼らにね、頼むほかないよね」
「ふむふむ(頷)」
「あら、レーヴォン君、どうしたの?」
「まさか、具合でも、悪いの?」
「あぁ、い、いえ……そういうことではないです。すごく勉強になると思いまして……」
「なるほど……それはね、すごく感心だね」
「まあ、ギルドといっても、一口ではないのよ。時にはね、連携だって、すごく重要になってくるわ」
「はい、お勉強になります!」
「まあ、でも、コンディションの管理も、忘れちゃダメだよ。誰かさんみたいに、行動不能になっちゃうからね」
「は、はい……肝に銘じます(苦笑)」
『うふふっ……』
…………。
「えっと、そうだね。ひとまず、異変の発生はね、昨夜からということで、判断しちゃって構わないんだよね?」
「ええ、カーメリアエリアの北側に位置している、ウェールノエリア……そちらから、シスターさん方はね、駆けつけてくれたみたいですからね。どうやら、こちらのシスターさんがね、すごく機転を利かせて、応援を要請したみたいね」
「つまり、それと同時に、今回の一連の寒波は、ウェールノまではね、及んでいないと判断できる訳だね」
「ええ、その解釈でね、よろしいかと思うわよ」
「どうやら、人為的な可能性がね、すごく濃厚となってきましたね」
「ええ、怨恨目的……侵攻目的……どちらにしても、悪魔的行為であることにはね、違いはないわ」
「そうだね。処刑レベルだと、すごく生ぬるいよね」
なお、
びゆゆゆゆゅゅゅゅううううぅぅぅぅー……!
一段と雪と風は、激しさを増していく……。
「ねぇねぇ、エマール⁉ これだけはね、忘れちゃいけないよ。少なくとも、根本的な問題はね、片されていないからね」
「ええ、分かっているわ。問題を先延ばしにしていることくらいはね……」
「それだけじゃないよ。ウェールノだって、すごく人手不足になっているはずだよ。元々、人材不足を招かないことが、暗黙の了解として、あるんだからね」
「ええ、マリカのおっしゃりたいことはね、すごくよく分かるわ。二次被害をね、恐れているのでしょ⁉」
「うん、敵にとって、これほどの恰好の標的はね、存在しないからね」
(なるほど、用意周到な判断も、天命騎士にはね、すごく基本……と)
と、レーヴォン、メモをとる……。
「でもね、マリカ、あなたの発言はね、すごくごもっともなのだけれど、ネガティブ思考だけではね、ダメよ」
「うん……(頷)」
「少なくとも、シスターさんの機転があったから、私【わたし】たちはね、現在の捜索がね、行われているのよ。あなたの懸念もね、すごく理解できるけど……」
「分かってる……そんなこと、エマールにね、言われなくても、分かってる……。これはね、私の性分【しょうぶん】だよ。だから、聞き流してくれても、構わないよ」
「いえ、それはね、できないわ」
「ど、どうして⁉」
「決まっているでしょ⁉ あなたの発言にね、間違いがないもの。それも踏まえてね、連絡をしておくわ」
「まさか、エマールの口から、そのような言葉が聞けるとはね……。すごく意外だったよ」
「あら、それはね、すごく心外ね。少なくとも、常識はね、備えているつもりよ」
「これはね、失礼しました……。うーん、そうだね。確かに、時間稼ぎはできたよね」
『クスクス……』
「「…………(汗)」」
「あら、レーヴォン君、どうしたのかしら?」
「私たち、何か……不可思議なことをね、言ってたかな?」
「あっ、いえ……ごめんなさい。同期というのはね、すごく羨ましいなぁと思いましたので……。僕にはね、そのような信頼のできる同期の方々はね、いらっしゃらないので……」
「ふふっ。そうね。少なくとも、ホームにはね!」
「ええっ⁉」
「ご安心なさい。今年の新人さんはね、レーヴォン君を含めて、四人もいらっしゃるのですから」
「うん、そうだね。おそらく、交流の機会は、今後、すごくあるだろうからね」
「ああぁぁー……そのような解釈もあるんですね?」
「ええ、ご心配なく。レーヴォン君はね、念願の都会ライフをね、満喫なさい」
「うん、躊躇【ちゅうちょ】するのはね、すごくもったいないよ」
「はい、そうですね。各々、事情がね、すごく異なりますもんね」
『うふふっ』
『ふふっ』
⒑
……そして。
カルリア街道から、カルリア山道へ……登山開始……。
「ふうぅー……いよいよ、ですね」
「ああっ、そうだわ! ねぇ、レーヴォン君⁉ あのね、魔法付与の使用方法について、説明をしておくわね。おそらく、初任務の依頼では、機会がね、なかったでしょうし……」
「は、はいっ! よろしくお願いします‼」
(あらら、すごく元気だね)
「あのね、現在、あなたにはね、魔力エネルギーというものがね、宿っているのよ」
「ふむふむ」
「そして、付与という言葉の如く、自身の装備をしている、武器にね、魔力を注入するのだけれど……えっとね、ここまではね、よろしいかしら?」
「はい、大丈夫です」
「それじゃあ、続けるわね。問題はね、ここからよ。あのね、肝心の魔法付与なのだけれど、これがね、初心者にはね、すごく無理難題を極めるのよ」
「ああー……思っていたより、すごく複雑なんですね」
「ええ、水を流すようにね、エネルギーを注入するのだけれど、自身のリミッターを読み違えるとね、魔力が暴走をしてしまって、最悪、命を落とすおそれがあるの」
「⁉ ええ、そんな、代物なんですか⁉」
「ねぇねぇ、エマール⁉ はじめから、その説明はね、ダメでしょ⁉ レーヴォン君、すごく戦【おのの】いちゃっているじゃない⁉」
「いえ、だからこそ、なのよ! 得体の知れないものと、誤解されると、すごく困るからね。所謂ね、トラウマ防止よ」
「……そうだね。強【あなが】ち、間違ってはいないっか⁉」
レーヴォン、静かに頷く……。
「レーヴォン君、大丈夫⁉」
「はい、とても重要ですね。続けてください」
「ええ、そうね。…………。あのね、極論をね、ご説明したので、これから、戦闘方法について、ご説明するわ」
「は、はい……」
「えっとね、エネルギー量についてなのだけれど、魔力にはね、一定の法則がね、存在するのよ」
「うん、うん……」
「エネルギー量が少ないと、魔力はね、すごく弱いわ。その分、耐久力がね、すごく長くなるわ。対照的に、エネルギー量が多いと、魔力はね、すごく強くなるわ。その反面、耐久力がね、すごく短いわ」
「はい、つまり……比例の関係ですね」
「うん、そうだね。状況に応じて、エネルギー量をね、コントロールするの。つまり、使用する上で、加減は必須ということになるね」
「なるほど……自身の戦局に合わせて……ね」
「……そうね。口で、説明できるのはね、これくらいが、限界かしらね。ひとまず、手ごろな魔獣がいたらね、詳しく、指導をするわ。戦術はね、実戦でね、身につけていきましょう」
「はい、承知しました!」
「まあ、おそらく、帰投後になるかな……」
「はい、よろしくお願いします」
『…………。これで、よろしいのかしらね。メメル様でしたら、どのような対応を施すのかしらね』
『うん、私たちとの違い、すごく気になるよね』
⒒
ビユユユュュュー……ゴオオオォォォー……!
「つ、冷たい⁉ すごく視界が最悪ですね?」
「ええ、どうやら、震源地みたいね」
「さあ、急ぐよ! 早く解決をして、住民のみなさんをね、休ませてあげなきゃ!」
「はい、そうですね」
「ちょ、ちょっと⁉ 走ったら、すごく危ないわよ! 待ちなさいよ‼」
そして、山頂に到着……。
「うぅ⁉ こ、これは……⁉」
「はい、一段と、殺伐としていますね」
「あ、あなた達……どうして、走るのよ⁉」
「「…………(硬)」」
「レーヴォン君、マリカ……どうしたの⁉」
エマール、恐る恐る、見つめる……すると!
「きゃあぁ⁉ な、何よ、これ⁉」
目の前に広がる、氷の棘の塊……。
中心部を起点に、突出をしている……。
「うわあぁ……これはね、どうし……」
「レーヴォン君、動かないで! 安全が確認できるまで、静止よ!」
と、エマール、レーヴォンの前に手を出して、静止をさせる……!
「ねぇ、エマール……どうしよっか⁉ これはね、破壊するしかないんじゃない⁉」
「ち、力業ですか⁉」
「……そうね。他力本願はね、望めないわよね?」
「ほ、本気【ほんき】ですか……⁉」
「ええ、許可するわ」
「うん、了解」
「レーヴォン君、すごく危ないから、私【わたし】とね、後退をするわよ」
「ええ、エマールさん、それって、どういう……って、ああぁぁー⁉」
エマール、体全体を被せるように、レーヴォンを守る……!
マリカ、ステッキ【右手】をスタンバイ……。
「さあ、一撃でね、決めるよ!」
そして、左手で、光属性の魔法を発動……。
「ひ、光属性ですか⁉」
「ええ、レーヴォン君にとってはね、初お目見えだったわね」
マリカ、ステッキにエネルギーを注入中……。
「強度【B】……耐久度【D】……」
次第に、ステッキの先端が光を帯び……。
「うん、対象物の硬直度合いを確認……」
ステッキを対象物に狙いを定めて……。
「さあ、準備完了だよ!」
そして、
「ライトグローゲルシャワー‼」
光属性魔法攻撃を放つ‼
「レーヴォン君、目を閉じて⁉」
山頂付近が、強烈な閃光に包まれる……!
バキィ……バキィ……ガシャアアァァーン! ドオオォォー……!
「うーん……すごくしつこいよね」
……しばらく。
山頂付近の視界が回復する……。
すると、何かの装置が姿を現す……。
マリカ、そっと歩み寄り……。
「…………。エマール、レーヴォン君⁉ ひとまず、無事はね、確認できたよ」
「ああー……」
「どうやら、完了みたいね」
遅れて、レーヴォンとエマール、歩み寄る……。
「どうやら、これがね、今回の元凶の根源みたいだね」
杭のような装置が地面に向かって、強く突き刺さっている……。
「信じられない……。とんでもない大きさね」
「はい、そうですね」
「心配しないで。これはね、私の得意分野だから……至急ね、解体するね」
⦅その心配はない! まもなく、この装置はね、機能を停止する!⦆
「「「⁉」」」
声の主の言葉通り、装置の機能が停止……。
次第に、天候は回復して、ウェザーライン通りのスタンダード状態の気候になる……。
「お、収まりましたね……」
「ええ、そうみたいね」
「でもね、何だろうね⁉ このすごく不穏な空気は……」
⒓
⦅やれやれ、思っていたより、遅かったね。すごく待ちくたびれたよ⦆
そして、黒い仮面と鎧を纏【まと】った、黒装束の男が姿を現した……。
「あらあら、それはね、ごめんなさいね。私【わたし】たちも、色々、準備がありましたもので、悪天候のなか、申し訳なかったわね」
「ふんっ! すごく痺れを切らせてしまった様子だね」
「な、何ですか⁉ 人の命をね、何だと思っているんですか⁉」
「フフッ⁉ 果たして、あなた達にね、そのような発言をする資格がね、あるのかな?」
「何ですって⁉」
「無論、人という生き物はね、食べていかないと生きていくことができない……そして、そのためはね、メルラがすごく重要なものとなる……」
「何を当たり前のことをね、おっしゃっているの⁉」
「そうだ! すごく当たり前のことだ! しかし、ある者は、人体を失い……また、ある者は、精神が崩壊した……。そう、傍観している者によってね……。僕はね、拒みつづける……。そして、刻【とき】は来た……。これより、幾多の楔【くさび】が、大空より、参られたし……。新たな、余興のはじまりとする……」
「ねぇ、ひとつだけね、お聞かせ願えないかしら?」
「おや、何かな?」
「これはね、あなたの私怨【しえん】によるものなの?」
「フフフッ! そのように解釈をすることも可能だろう。しかし、逆も然り……針というのはね、ひとつではないのだよ」
「ねぇ、魔獣……無関係ですよね⁉」
「「⁉」」
「レーヴォン君⁉」
(やっぱり、よぎってたんだね!)
「フフフッ! それはね、ご想像にお任せするよ。もはや、計画にはね、影響のあることでもあり、ないことでもあるのだからね。僕の使命はね、ターゲットの停止および排除……それに、尽きるのだからね」
「どうして⁉ 何が、あなたをね、そこまで、駆り立てているんですか⁉」
「うーん……現実とはね、すごく残酷なものだよ。二つの顔を持っているのだからね」
『エマール⁉ これって……⁉』
『ええ、マリカの悪い予感がね、的中してしまったかもしれないわね』
「はっきり、言ってくださいよ!」
「まあ、慌てなくても構わない……。君にはね、すごく明るい未来が待っている……。僕とは、すごく対照的にね……」
「ええっ⁉」
「それでは、天命騎士諸君、ごきげんよう」
「ま、待ちなよ! 話はね、まだ終わっ……」
黒装束の男、消えていく……。
「き、消えた……⁉」
「…………(睨)」
「ウ、ウソですよね⁉ これだと、僕たちはね、加害者みたいじゃないですか⁉」
「レーヴォン君⁉ 彼の言葉をね、真に受けちゃダメよ!」
「それより、早く街に戻った方がよさそうだね」
「ええ、あまり、戦況はよくないかもしれないわね。ひとまず、凍死のおそれはね、なくなったわ。しかし、次のステージがね、あるわよ!」
「はい、急ぎましょう!」
レーヴォン達、急いで、街に戻る……!
『ねぇ、エマール⁉ 私たちね、嵌められたんだよね?』
『すごく語弊があるわね。寒波によって、壊滅をするおそれがね、あった以上は、一概にね、策略に嵌まったとも言い切れないわ。無論、ダミーといえば、ダミーといえるでしょうね』
『ああっ⁉ 遣り切れない……⁉』
レーヴォン達、夕暮れのカルリア山道を下山中……。
「「「うっ……⁉」」」
「そ、そんな……⁉」
「レーヴォン君、悔やむのはね、後よ!」
「現実をね、直視しなよ!」
「は、はい……!」
レーヴォン達、急いで、カーメリアに戻る……。
カーメリアの夜の街が、赤く染まっていた……。