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4話(サイレント・レヴィ)

   4サイレント・レヴィ



           1

 レイバー州/王都レイバー

 ギルド/六階メメルホーム

 「レーヴォン君、初任務、ご苦労さまでした。そして、お帰りなさい」

 「はい、ありがとうございます」

 「ナギト、あなたも、お疲れさまでした」

 「まあ、何だ……無事にさ、帰ってきたんだ。そこはさ、素直に喜ぼうぜ」

 「じとー……」

 「うん、何だよ、マリカ⁉ 俺の顔に、何か、ついているか⁉」

 「べ、別に……」

 「ああーっ⁉ 何だよ、お前⁉ まさか、嫉妬だろ⁉」

 「なっ⁉ 何のこと……⁉」

 「恍【とぼ】けるなって……それはさ、しょうがねぇよな!」

 「ねぇ、ナギト……あんたさ、とんでもなく大きな誤解をしてるよね?」

 「はあっ⁉ 女将さんの話じゃねぇの⁉」

 「違うよ! 私はね、露天風呂というものがね、すごく羨ましかっただけなの!」

 「あ、ああー……そっちね……」

 「それはそうと! ねぇ、ナギトさん……あんた、先ほど、すごくおもしろいことを言ってたよね?(ニヤリ)」

 「あ、あれれ……そうだっけなああぁぁー……」

 「ごまかさないの! だあぁーれが、嫉妬ですって⁉」

 「ヤ、ヤダな⁉ そんなにさ、ムキになるなよ……(汗)」

 「はい、はい、そうですか……さぞかし、すごく快適なご旅行だったよね」


 ナギトとマリカ、謎の牽制がつづく……。


 『ねぇねぇ、エマールさん⁉ 仲裁しなくても、よろしいのですか⁉』

 『レーヴォン君、あなたはね、すごく良心的でいてくれれば、それで構わないのよ』

 『は、はあぁー……。いつものこと……何ですか⁉』

 『うふふっ。とても察しがいいわね。ええ、相手にするだけね、すごく疲弊するのよ。まあ、どちらかの、熱【ほとぼり】が冷めるまで待つことがね、すごく賢明よ』

 『はははぁー……そうなのですね?』

 ⦅しかし……そうね。ナギト……語るに落ちてしまったわね⦆

 ……数分後。

 「「ハアー……ハアー……ハアー……」」

 「ナギト……早く折れなさいよ。すごく往生際が悪いよ」

 「それは……こっちのセリフだ……お前だって……無駄に元気だよな……」


 「はい、はいっ! 二人共、これでね、お開きよ! 鬱憤【うっぷん】払いは、果たしたわよね⁉」


 「ま、待てよ! エマール、そういう問題じゃあ……」

 「うふふっ。深夜コースかしら?」

 「わ、分かったよ……。これでさ、勘弁してやるよ」

 「誰のせいなの、誰の……」

 「おっほおおーん‼ さあ、二回戦……」

 「オ、オイッ⁉」

 『バカ、ナギト⁉ エマールをね、怒らせたら、ホントに深夜コースだから……』

 『ああー……了解』


 傍観していたレーヴォン……。

 (うわあぁー……何だろう? すごくおもしろい構図だね)


 ―そして。


「しかし、改めてね、申し訳ありませんでした。余計なお時間をかけてしまって……」

 「いえ、予定というものはね、想定通りに進まないものなのよ。私【わたし】としてはね、それほどね、驚きではないわ」

 「あのさ、マリカ……超勘違いをされても困るから、伝えておくぞ。俺たちはさ、相手側の要望に従っただけだからな」

 「そんなこと、言われなくても、分かってる……。演技だったんでしょ⁉」

 「な、何だよ⁉ 分かってたんじゃねぇか⁉」

 「はあー……もういい」

『だったら、どうして、すごく楽しそうにね、話したのよ……』

 「うん、何だって⁉」

 「さあ、さあ! 結果の報告がね、聞けないでしょ⁉」

 「ああ、そうだな。悪ぃ、進めてくれ……」

 (まったく……)

 …………。

 「そう……運営権はね、カダック温泉旅館でね、落ち着いたということね」

 「はい、すごく皮肉な話ですけど、結果的にね、争いごとが収まる結末になりましたね」

 「ねぇ、レーヴォン君⁉ そこはね、あまり、深く考えなくてもいいと思うよ」

 「ええ、どうしてですか⁉」

 「おそらく、今回の一件がなくても、遅かれ早かれ、起きていただろうからね」

 「は、はい……そうですね。おっしゃる通り、すごく一触即発している雰囲気はありましたね」

 「まあ、結果論つうことだな」

 「でもね、一番の問題はね、そこじゃないよね?」

 「ああ、確かに、そうだな」

 「どうして、魔獣がね、紛れ込んでいたのか……それに尽きるわね」

 「うん、そうだね。それも、知能のある魔獣でしょ? すごく厄介だよね」

 (うんっ⁉)

 「ああ、ホントだよ。新たな問題がさ、浮き彫りになっちまったぜ」

 「ねぇ、みなさん、よろしいですか⁉」

 「あら、レーヴォン君、どうしたの?」

 「すごく浮かない顔だね」

 「俺たち……何か、変なこと言ったか⁉」

 「いえ、すごく素朴な疑問なのですが、知能のある魔獣ってね、そんなにレアなんですか⁉」

 「「「ええっ⁉」」」

 「オイ、レーヴォン……お前、まさか……⁉」

 「ああっ⁉ すごくローカルなことだったんですね」

 (おかしいわね……?)

 (……。そうだね。どこか、ねじれが……)

 「あのね、僕の故郷にはね、知能のある魔獣がね、いましたよ! 言葉足らずで、ごめんなさい!」

 「あっ⁉ 何だよ、そういうことか……⁉」

 「ホントだね。ようやく、ねじれがね、解消したよ」

 「あ、あのー……みなさん……?」

 「おほんっ! あのね、レーヴォン君、すごく語弊があるご様子みたいですから、伝えておきましょう。都会と田舎の情報……でね。別に、揶揄【やゆ】はね、していないわよ」

 「は、はい……⁉」

 「あのね、おそらく、あなたは、知能と本能をね、履き違えているみたいね」

 「ええーっ⁉ 知能……本能……一体ね、何ですか、それ⁉ 僕ね、初耳です!」

 「ええ、そうみたいね。ごめんなさい。私【わたし】たちのね、配慮不足だわ」

 エマール達、レーヴォン君に説明不足を詫びる……。

 「いえ、そんな……先輩方の責任ではないですよ。質問をしなかった、僕にだって、責任の一端はね、あるのですから」

 「ごめんなさい。気を遣わせてしまったわね」

 少しずつ、お互いのピースが埋まり……和む……。

 「はい、それでは、改めてね、教えてください。知能と本能とはね、何ですか⁉ どのような、相違点があるのでしょうか⁉」

 「ええ、ご説明をするわね。あのね、レーヴォン君が、おっしゃっている魔獣はね、言うまでもなく、野生の魔獣……そして、野生の魔獣はね、所謂、本能魔獣よ」

 「ああー…なるほど、本能魔獣……ね」

 と、レーヴォン、慌てるように、メモ帳に記録する……!

 「そして、本能魔獣と知能魔獣の根本的な違いはね、自制心を持っているのか、持っていないのか、それがね、特徴としての大きな差異よ」

 「まあ、少なくとも、本能魔獣にはね、人間を欺くような能力は、備わっていないね」

 「ああっ⁉ そうだしたら、今回の惨状って、すごく由々しき事態じゃないですか⁉」

 「ああ、そこなんだよな……」

 「まあ、まだね、何とも言えないのだけれど、一応、警戒はね、しておいた方がいいわね」

 「はい、承知しました」

 「了解だ」

 「やれやれ、すごくきな臭いよね」


 報告完了後、エマールとマリカ……。

 「そうね。どうして、あのような、自虐行為に及んだのかしらね。まさか⁉ あのね、私【わたし】のね、考えすぎなのかもしれないのだけれど、侵攻の口実のため、ギルドを利用したということはないわよね」

 「エマール、それはね、考えすぎでしょ⁉ すごくアブノーマルだよ」

 「でもね、天命騎士を絡めることにより、すごくリアルな演出を作り出せることもね、事実としてない訳ではないでしょ?」

 「そうだね。……自虐行為……ありえるのかな……? でもね、魔獣に、犠牲概念があるとはね、私にはとても思えないな……」

 「うふっ、そうね。ごめんなさい。すごく先走ってしまったわ。ひとまず、片隅に置いておくことにしましょう」

 (犠牲の心……すごくトリッキーだね)


 なお、レーヴォンとナギトは、依頼帰りのため、少しばかり仮眠中……。


           2

 ―そして、その時!

 ―(ウイーン)[扉の開く音]。


 「ご、ごめんなさい……バ、バンクス先輩⁉ 遅刻をしてしまいました……って、あれれ⁉ あなた方はね、どちら様でしょうか⁉」

 「ガクッ! あのさ、それはさ、こちらのセリフだよ。見慣れねぇ顔だけど、あんた、誰⁉」

 「ナ、ナギト⁉ 初対面の方にね、すごく失礼でしょ⁉」

 「そうだね。これだと、脅迫だね」

 「コラアアァァー……そこ、俺が悪いみたいに言わねぇの⁉」

 「あ、あの……⁉」

 「おほんっ! そうでしたわね。ごめんなさいね。うちの者が、すごくおっかなかったわよね」

 「い、いえ、とんでもございません(慌)」

 「それでは……。あのね、改めてね、お聞きをするわ。どちら様なのかしら?」

 「は、はい! バンクスホームが僕に入所した、カルノ・ライゼルとお話をしています!

すごく窮屈なのですが、これよ……」

 「ストオオオーップ! あのね、一旦ね、落ち着きなさい! すごくしどろもどろよ。……そうね。ひとまず、深呼吸なさい」

 「は、はい……。すううぅぅー……はああぁぁー……すううぅぅー……はああぁぁー……。…………(瞑想中)」

 『やれやれ、超そそっかしいな』

 『ナギト……あんただって、すごく似たようなものだよ』

 『はあっ⁉ マジ……』

 『自覚なかったの⁉ ホント、すごく困ったものだね』

 (うーん……彼はね、誰なんだろう? 確か、バンクスホームって、言ってたよね? もしかして、僕と同じ、新人さんなのかな?)


 ―そして、数分後。


 「はい、大変ご迷惑をおかけしました。あのね、僕はね、今年から、バンクスホームに入所をした、カルノ・ライゼルと申します。メメルホームのみなさん、どうかよろしくお願いします」

 「うふふっ。いえいえ、これはね、ご丁寧に。私【わたし】たちこそ、よろしくお願いするわね」

 「は、はいっ!」

 『うーん……これはさ、遅刻をしちまったから、超慌ててさ、階を間違えちまった……つうところかな?』

 『ナギト……どうして、あんたがね、すごく誇らしげなの。そもそも、解説しなくていいから』

 (うーん……やっぱり、僕と同じ、新人さんだったんだね。それは、遅刻をしたらね、すごく焦るよね。……他人の心配をしてる場合じゃないよね! 僕も気を付けなきゃいけないね)

 「ああー……(憧)」

 「あら、どうしたの⁉」

 「ねぇねぇ、新人君、大丈夫⁉」

 「あ、あのー……みなさん、すごく優しいですね。すごく丁寧に叱ってくれて……。あ、あのね、異動をね、ご希望したいのですが……ダメでしょうか……」

 「ええっ⁉」(メメルホーム一同)

 ❞ポカーン❝……とした空気に。

 ⦅コラコラコラコラ⁉ それだと、僕のホームがね、すごく陰険みたいでしょ⁉⦆

 「ああっ⁉ バンクス先輩⁉ あ、あのね、すごく語弊がありますよ! すごくアットホームな雰囲気でしたので……」

 「まったく、しょうがないね。初任務でね、すごく疲れているのはね、分かるんだけど、すごく自由奔放な発想はね、考えものだね……。これはね、偏【ひとえ】に、僕がね……すごく甘いのかな……?」

 「い、いえ、先輩……誤解をなさらないでください! 僕はね、バンクスホームに入所することができてね、すごく幸せですから! だ、だから……」

 「ホントに……?」

 「はい、ホントです!」

 『まあ、これについては、僕の責任でもあるのかなぁー……』

「さあ、カルノ君、行くよ!」

 「は、はい! ホントに、申し訳ございませんでした!」

 レーヴォン達、すごく優しい眼差しで、二人のことを見つめていた……。

 バンクス、カルノを連れて、自身のホームに……と⁉

 「ああ、そうだ! ねぇねぇ、エマールさん⁉ そういえば、今夜、新人歓迎会を開くよね⁉」

 「ええ、そうね。初任務の無事と成功を兼ねてね……。あら、ひょっとして、バンクスさんもね、ご予定にあったのかしら?」

 「ああ、実はね、そのつもりだったの」

 「あら、同日とは、すごく奇遇ね」

 「うん、そうだね。だったら、親睦も兼ねてね、一緒にやらない⁉」

 「そうね。レーヴォン君にとっても、ご紹介の機会が与えられるものね」

 「ねぇ、エマール? それはね、別案件なんじゃない?」

 「ええ、分かっているわ。無論、私【わたし】のね、持論よ」

 「まあ、時間が省けるから、エマールの言ってることもさ、あながち、間違ってはいねぇよ。なんだって、超忙しいからな。そんな風に考えるのもさ、無理はねぇよ」

 「ふふっ、そちらも、すごく忙しいみたいだね」

 「ええ、お互い、すごく皺寄せがあって、大変よね? まあ、軍が悪い訳ではないのだけれど……」

 「た、確かに、そうだよね」

 「……おほんっ! ねぇ、レーヴォン君、あなたはね、いかがかしら? ご一緒にね、行【おこな】っても、よろしいかしら?」

 「はい! 僕はね、構わないですよ。大勢の方がね、すごく盛り上がると思いますので」

 「そう、それでしたら、問題はないわね。バンクスさん、そういうことよ。今夜はね、私【わたし】たちのホームも、お供をするわね」

 「うん、すごくいい返事をね、ありがとう。まあ、ひとまず、労【なぎら】いの場ということで、心身を休ませる前提でね、お互い、楽しもうよ」

 「ええ、そうね」

 「うん、それじゃあ、僕はね、これで失礼するよ」

 「うふっ。お疲れさま」

 カルノ、無言で、頭を下げる……。


 ―(ウイーン)[扉の閉まる音]。



           3

 「新人歓迎会……何だか、ごめんなさい。僕のためにね、すごく嬉しいです」

 「うふふっ。謙遜しないの。今夜はね、レーヴォン君がね、主役よ」

 「そうだよ。堂々とね、していなよ」

 「ふふっ、まあ、そういうことだな」

 「はい、改めてね、ありがとうございます」

 「うふふっ」

 (レーヴォン君、どこまでも、まじめだね。まあ、性分【しょうぶん】なんだろうね)

 「くううううー……よおぉーしっ! 今夜はさ、飲んで飲んで、飲みまくるぞ!」

 「コラコラ⁉ あんたさ、すごく勘違いをしてるよね。一体ね、誰の歓迎会と思っているの⁉」

 「失敬だな! 勘違いなんてさ、してねぇぞ! 話のつづきがさ、あるんだよ」

 「へぇー、聞かせてもらおうじゃないの?」

 「あのさ、俺はさ、あくまで、脇役だ。主役のレーヴォンにさ、大人の味というものをさ、誘【いざな】ってやるんだよ。これからの酒飲み仲間としてな」

 「は、ははは……お、お手柔らかにお願いします……」

 『ほらぁ……言ってるそばから、すごく粗忽だよ(呆)』

 『うふふっ。でもね、メメル様の念頭にある、すごく理想とするかたちにね、近づけているみたいなので、ひとまず、安泰かしらね』

 『うん、ひとまず、そういうことにね、しておこうかな……』

 レーヴォンとナギト、肩を組みながら、笑みがこぼれる……。

 全員、しばらくの間、和み……すごく穏やかな雰囲気がつづく……。


 ―そして。


 「さあ、お仕事をね、再開しましょう」

 「そうだね。ほらっ、ナギトも、自重しなよ」

 「ああ、俺だって、ボーダーラインくらい、超弁えているぜ」

 「はい、今日も一日、頑張りましょう!」



           4

 昼下がりの王都レイバー、王国生誕祭が近いこともあって、どことなく、街はいつもより、賑わいに満ちているご様子である……。


 〈王都レイバー〉

 北島およびレイバー州の南西部に位置する、マスターロング王国の首都である。

 東西を起点として、網目状に広がる街並みが、この都市の特徴であり、同時に魅力でもあ

 る。

 街の西には、レイバー城【王城】がある。

 南街区を南下すると、海岸が広がり、南島を一望することができる。

 海岸沿いに面する南街区と内陸部に位置する北街区には、それぞれ、王都のシンボルのひ

 とつである鐘の鳴る大きな時計台がある。


 そんななか、故障をしている時計台の鐘を修理している四人の天命騎士の姿があった……。

 マチルダホームの四人が、各々、北街区と南街区、二手に分かれて、作業を行【おこな】っ

ていた……。

 北街区に、ストラス(男性)とダフィネ(女性)……。

 南街区に、マチルダ(女性)とナムレア(男性【新人】)……。

 である。


 北街区……。

 「うーん……やっぱり、そうだね。これはね、おそらく、寿命じゃないかな……」

 「そっか……。考えてみれば、もう二十年以上だもんね。劣化していても、全く不思議じゃ

ないよね」

 「ああ、だとしたら、俺たちの手に負えないな。ひとまず、専門家の方に、相談をした方が

ね、いいかもしれないね」

 「うん、そうだね。それにしても、すごく時代の流れを感じるよね」

 「ああ、すごく変化というものは早いんだね。改めてね、思うよ」

 「まあ、それだけ、私【あたし】たちがね、成長したということでしょ」

 「うん、違いない」


 南街区……。

 「…………」

 マチルダ、鐘の状態を点検中……。

 「ナムレア君、どうしたの? 何かね、悩みごと……?」

 「いえ、大丈夫ですよ。そんな、大した内容ではありませんので……」

 「……。ねぇ、ナムレア君? たとえ、小さなことでも、抱えるのはね、よくないわ。プラ

イバシーの侵害にならないのでしたら、ご相談なさい。先輩としてね、可能な限りね、サポー

トをさせてもらうわ」

 「マチルダさん……ご心配ね、感謝します。はい、それでは、アドバイスをお願いします」

 「ええ、お聞かせ願おうかしら?」

 ナムレア、マチルダに心のうちを話す……。

「なるほど、そうでしたのね」

 「はい、すごくくだらないですよね?」

 「いえ、そんなことないわ。気づいてあげられなくて、ごめんなさいね」

 「いえ、どうして、マチルダさんがね、謝るんですか⁉ その理屈だと、僕なんて……」

 「あのね、自己否定はね、感心しないわね。もう少し、俯瞰的な思考がね、あなたには、必

要よ」

 「は、はい……反省します」

 「あのね、あなたがね、同じ新人さんの活躍にね、すごく焦っているのは、それほど、問題

ではないわ」

 「ええ、でもね、温泉郷なんて、すごいですよね⁉ 初依頼が郊外なんて……僕には、とて

も……」

 「…………(悩)。どうやら、物の捉え方から、ご説明をした方がよろしいかしらね。……

そうね」

 「うーん……(沈)」

 「あのね、ナムレア君の悩みはね、すごくよく分かったわ。でもね、あなたの捉え方はね、

すごくマイナスよ」

 「ええっ……」

 「あのね、あなたはあなた、彼は彼……なのよ。もっとも、ネガティブな思考ですと、比較

をするのはね、すごくアンフェアよ」

 「……あ、あの、僕……」

 「えっとね、つまるところ、私【わたし】がね、ナムレア君にね、お伝えしたいのは、こう

いうことよ」

 「は、はぁい……⁉」

 「いいこと⁉ 比較をするのであれば、ポジティブ前提でね、考えなきゃいけないのよ。相

手を敬うあまり、自身の持ち味を失ってしまってはね、本末転倒よ」

 「僕の持ち味……」

 「もちろん、新人さん同士……負けたくない気持ちはね、すごく強いでしょう? したがっ

て、ライバル意識を持つこと、そのものはね、私【わたし】としても、否定はね、しないわ。

色々と思うところもあるでしょうしね。でもね、ナムレア君⁉ 天命騎士にとって、もっとも

大切なことはね、何かしら?」

 「あっ、はい! それはね、もちろん、民間人の安全と街の治安を維持すること……ですよ

ね?」

 「ええ、そうよ。すごく基本的なことよね。ひとまず、すごく安心をしたわ」

 「はい、ありがとうございます」

 「あのね、その上でね、お聞きするわ。天命騎士というのはね、状況によって、他のホーム

の方々とね、協力をして、事件にあたることもあるわ。所謂、連携プレイね」

 「はい、マチルダさんのおっしゃっている通りですね」

 「しかし、敵対心が強いとね、人という生き物はね、無意識に行動をしてしまうのよ。そ

う……肝心なところでね、綻びが出兼ねないわ。そう、すごく致命傷になるおそれがあるわ

ね」

 「そ、そんな……僕はね、誰も蹴散らそうとなんて……」

 「落ち着いて聞きなさい!」

 「は、はい……」

 「したがって、ギルドの先輩としてね、ナムレア君にね、ひとつアドバイスよ。少なくと

も、競争心はね、自身の意識で処理をすることができる範囲内でね、行【おこな】うことを念

頭に止【とど】めておくこと! ええ、そうね。自身でね、イニシアチブをとれるようにね」

 「はい! あのー……マチルダさん、ご指摘ありがとうございました」

 『いえ、正直ね、私【わたし】だってね、すごく半人前よ』

 「ええっ⁉」

 「おほんっ! さあ、そろそろね、引き揚げましょう」

 「ええ、鐘の修理……まだね、終わってないですよ!」

 「うふふっ、そうね。でもね、どうやら、これはね、故障ではないみたいなのよね」

 「うーん……僕には、よく分からないですね?」

 「あのね、すごく不本意でしょうけど、ひとまず、今回のご依頼はね、完了よ」

 「もしかして、寿命……ですか⁉」

 「うふふっ。すごくよく見ているわね」

 「いえ、これくらいはね……」


 北街区……。

 マチルダから、ストラスとダフィネに、メールで連絡が届く……。

 「ああ、何だよ⁉ 結局、どちらも、寿命なんだね……」

 「……そうだね。まあ、しょうがないよ」

 「それじゃあ、撤収するとしますか⁉」

 「ジイー……」

 「うん、ダフィネ、どうしたの⁉」

 「ねぇ、あれって……⁉」

 「うん、何⁉」

 ダフィネ、時計台から、とある視点を見下ろす……。

 そして、ストラス、ダフィネに反応をするように、後追いのかたちで……。

「王国軍の隊長さん……⁉」

 「ど、どうしたのかなぁ⁉」



           5

 ギルド/一階エントランス

 ⦅うん、ギルドマスターというお仕事は、すごくご多忙を極めるみたいだね⦆

 「うん、ああっ⁉ これは、これは……⁉」

 軍服の男が、ギルドを訪ねて来た……。

 「お初にお目にかかるよ。僕はね、王都レイバーを拠点としている、王国軍隊長のレギスタ

ー・ウラゲリーと申し上げる。本日はね、今後の方針の概要について、ご説明をしたく、尋ね

た次第だよ」

 「えっと、そうでしたのね。いえいえ、生誕祭が間近に迫っていて、すごくご多忙でしょ

う。そのような渦中で、ホントに感謝いたします」

 「いえいえ、こちらも、お仕事なのでね、お気になさらずに。それに、どちらかと言うと、

お願いをする立場なんだ。僕こそ、すごく申し訳なく、思っているよ」

 「いえ、規則ですからね。両方の立場としてのね」

 「そうだね……」

 「申し遅れました。私はね、王都支部のギルドマスターを任されている、サキナ・デルゲー

トと申し上げます。どうぞよろしくお願いいたします」

 「うん、こちらこそ、よろしくね」

 と、サキナとレギスター、握手を交わしながら、あいさつをする……。

 ……。

「うーん……そうだね……。僕はね、先ほど、部下より、ご報告を受けてね、知ったのだけ

ど、どうやら、温泉郷方面で、知能魔獣が出没したみたいだね」

 「はい、私も、所属された天命騎士より、ご報告を受けました。知能魔獣そのものは、数年

前から、出没頻度はね、逓増傾向にございましたので、それほどの驚きはね、なかったのです

が……各支部を通じて、議題に上がったのは、知能魔獣の知性向上についてです!」

 「うん、レイバー通信でも、特集されてたね。魔獣の変装……どうやら、知性の向上傾向

が、すごく顕著みたいだね。うん、すごくクレイジーだね」

 「はい、各支部と話し合った結果、厳戒態勢を発令するに至りました。民間人の安全がね、

最優先でございますから。現在、温泉郷ダウルーにはね、当ギルドに所属をしている、イヴェ

ータホームの者がね、調査と保護を兼ねてね、出動中でございます」

 「確かに、連中にとって、すごくテリトリーとしてね、最適と判断をしたと仮定するのが、すごく自然だよね。うん、警戒をするに越したことはないよね」

 「はい、さすがに、高知能だと想定すると、警戒された拠点をね、再度、テリトリーに組み込むのは、すごくリスキーなのですが……」

 「そうだね。そのように考えるのが、すごく賢明だよね。でもね、裏をかいていないとも、否定できないからね」

 「すまない。このような状況下でね、すごくお見苦しいが、今回の事件、ギルドにね、任せざるを得ない。これから、しばらく、我々はね、手に離せそうにないんだ……」

 「いえ、ギルドと王国軍はね、協力関係にございます。こちらについてはね、規定に記されているのですから、あなた方がね、申し訳なく思う必要はね、すごく皆無です」

 「し、しかしだね……これまでにない、すごくトリッキーな状況なんだ。規定に縛られるのはね……」

 「隊長さん……。あなた方の任務もね、すごく重要な案件でございますよ。来週に予定をされている帝国との領土問題をメインとした会談……加えて、来月に控えている王国生誕祭……そちらにね、お力を注いでください。王国の未来を左右する……すごく重要な期間ですよ」

 「ギルドマスターさん……」

 「ご安心ください。ギルドの方でね、対処をさせていただきます。お互いね、立場は違っても、王国を思う気持ちはね、同様なのですから。これからもね、同じ方向をね、目指していきましょう。連携関係もね、すごく王国の魅力ですよ」

 「そ、そうだね。すごく寛大なお言葉ね、感謝するよ。……暫しの間ね、すごく負担をかけるよ。なお、一部の部下を、ギルド側にね、派遣するよ。どうか、最大限ね、活用をして欲しい……」

 「はい、是非、ご活用をね、させていただきます。お気遣いね、すごく感謝いたします」

 「ああ、お互いね、全力を尽くそう!」

 「そうですね」


 本日の長い一日が終わっていく……。日は沈み、街はすっかりと闇に包まれた……。



           6

 ギルド/四階マチルダホーム

 「それでは、お先に失礼します」

 「うん、ナムレア君、元気を出しなよ!」

 「はいっ!」

 ナムリア、頭を下げて、マチルダホームを後にする……。

 「それじゃあ、俺も、先約があるので、お先に失礼しますね」

 「うん、ストラス君もね、お疲れさま」

 つづけて、ストラスも、マチルダホームを後にする……。

 ……。

 そして、マチルダとダフィネ、外の夜景を眺めながら……。

 「それにしても、新人さんはね、すごく勉強熱心よね」

 「えへへ、確かに、おっしゃる通りですよね。私【あたし】だって、ナムレア君を見ていると、新人の頃をね、思い出しますから。すごく必死だったなぁー……って」

 「ええ、そうね。やっぱり、負けたくないのよね。でもね、後になって、気が付くことだってね、すごくあるのよ」

 「マチルダさん……」

 「そう、後悔をしてからでは、すごく取り返しのつかないことだってね、あるわ」

 「ああ、ごめんなさい。私【あたし】……何も知らなくて……」

 「いいえ、気にしないで。すごく昔のことだもの」

 「所属も違って、属性だって、違うのだから、本来はね、気にしなくても、いいはずなんですけどね。どうして、意識をしちゃうのでしょうかね……」

 「すごく難しい議題ね。言葉で表せるほど、人間の心理はね、すごく計り知れないということよ」

 「そうですね……すごく残念ですけど、現実から、目を逸らしちゃいけないんですよね?」

 「うふっ……そうね。でもね、私【わたし】はね、思うの。彼にはね、私【わたし】と同じような悲劇をね、起こして欲しくはないとね。ええ、二の轍はね、起こしちゃいけないのよ」

 「マチルダさん……はい、そうですよね? これからね、すごく丁寧に指導をしていきますよ!」

 「うふっ。ダフィネさん、ありがとね」

 「いえいえ、こちらこそ。マチルダさん、これからもね、よろしくお願いしますね」

 「ええ、もちろんよ」



           7

 そして、いよいよ、この時間がやってきた!

 僕たち、メメルホームとバンクスホームの合同で新人歓迎会の開催である……。


 飲食店/ラビルレッテ

 「乾杯‼」(全員‼)

 バンクス、全員を代表して、席を立ち……。

 「はい、それでは、僕からね、ひとこと! みなさん、本日もね、お仕事、ご苦労さまでした。この度【たび】、王国の将来を担っていく若き二人がね、無事、初任務をね、はたしてくれました。もちろん、これはね、スタートラインに立ったにすぎないが、すごく重要なスタートライン……そう、スタートラインに立つ資格を得ることができたという、すごく大きな一歩、そのことをね、声を大にして伝えておきたい!」

 レーヴォンとカルノ、すごくほっとした様子で、バンクスを見つめる……。

「それでは、僕のあいさつはね、これで以上だ! 諸君、今夜はね、英気を養いましょう!」


 パチパチパチパチ‼


 つづいて、

 「えっとね、私【わたし】からも、ひとことよろしいかしら?」

 エマール、席を立ち……。

「あのね、これからの時期、王国生誕祭をはじめ、すごくご多忙を極めることになると思いますが、天命騎士らしく、各々、コンディションの管理はね、よろしくお願いいたしますね。自身の能力をね、過信しな……」

 「ああぁぁー……エマール、もういいだろ⁉ 飯が冷めちまうぜ!」

 「それも、そうね。それでは、みなさま、これより、新人歓迎会をね、開催いたします!」

 「よしっ、キタアアァァ! さあ、飲むぞおおぉぉー!」

 「いただきます!」(ナギトを除く全員!)

 各々、料理とお酒を堪能中……。

 「オイ、レーヴォン⁉ 超テンションが低いぞ」

 「ええ、そうですかね……すごく湧き上がっていますが……」

 「いやああー、まだまだだよ。今回はさ、お前が主役なんだよ。お前がさ、先陣を切らなくて、どうするんだよ⁉ まあ、そういう訳で……ほら、ぐぅいーっといきなよ!」

 「ああーっ、はい……そうですよね? それでは、お言葉に甘えてね、いただきます。ゴクゴクゴクゴク……ハアァーッ!」

 「おおーっ⁉ レーヴォン、超意外だな。超最高の飲みっぷりじゃん! さあ、カルノ君もさ、いっちゃいなよ!」

 「は、はい……お手柔らかにね、お願いします(苦笑)」


 「よっと! サエッタちゃん、ごめんね。ナギトの奴……すごくうるさいでしょ?」

 「うんうん……私だって、すごく奥手だから、このような場はね、すごく苦手だけど、みんなのおかげでね、すごく楽しいよ」

 「そうだね。でもね、言っておくけど、ナギトの場合ね、リミッターが外れると、すごく面倒だよ」

 「ええ、ウソでしょ⁉ マリカちゃん、すごく大げさじゃない⁉」

 「そう思うでしょ……。ひとまず、伝えておくね。回避率のためにね」

 (マリカちゃん……色々とあったみたいだね)


 「ひとまず、一息つけたね」

 「ええ、すごく先輩冥利に尽きますわね」

 「うん、そうだね。ホント、彼らがね、今後、どのような成長を遂げるのかをね、今から、すごく楽しみだよ」

 「うふふっ。それでは、バンクスさん⁉ 私【わたし】たちも、頂戴いたしましょう。お供いたしますわ」

 「うん、それじゃあ、遠慮なく。ゴクゴクゴクゴク……。ふううぅぅー……すごくおいしい!」

 「あらら、すごくご堪能でございますこと」

 「おっと、そうだ! ねぇねぇ、エマールさん⁉ あのね、レイバー通信ね、読んだよ。どうやら、魔獣がね、人に化けていたらしいじゃない⁉」

 「ええ、おっしゃる通りでございますわ」

 「それに、合わせて……サキナさんからもね、報告を受けているよ。厳戒態勢を敷くみたいだね」

 「ええ、すごく賢明なご判断でございませんかしら?」

 「そうだね。知能が人間並みになるとしたら、すごく脅威だね」

 「ええ、すごく懸念材料ですわね。自由主義のご発想でしたら、協調を持つこと、現実として、夢物語ではございませんわね。しかし、共産主義のご発想でしたら……考えただけでも、すごく恐ろしいですわ」

 「まあ、エマールさんのお気持ちも、ごもっともだね。生誕祭のあと、軍と協力して、そのあたりの調査も、強化した方がいいかもしれないね」

 「ええ、脅威となり得るものは、早期に芽を摘んでおく……はい、基本中の基本ですわ」

 「うん、考えすぎ……じゃないよね?」


 「ねぇねぇ、カルノ君⁉ 新人同士ね、頑張ろうよ」

 「うん、そうだね。レーヴォン君、よろしくね」

 「そうだよ、そうだよ! 新人はさ、何事にも臆することなく、勢いがさ、超重要なんだよ‼」

 ナギト、レーヴォンとカルノの肩に腕を回す……(絡んでいる?)。

 「あ、あの、ナギトさん⁉」

 「うん、何だよ⁉」

 「えっと、ひょっとしなくても、酔ってますよね⁉」

 「うぃ! そ、そんなことはさ、ねぇよ……グウッ!」

 「呂律……すごく微妙ですよ」

 「あはは、そうですよね⁉」

 と、カルノ、苦笑い……。

 「ホントに……すごく情けないよね。お酒はね、楽しむものであって、呑まれるものじゃないの!」

 「なにいぃー⁉ ヒック! よおー、マリカ……俺と勝負するか⁉」

 「あのね、する訳ないでしょ⁉ 場所をね、考えなよ」

 「ふふっ、逃げたな! 負け犬さん……」

 「カチン! あははー……ねぇ、ナギト⁉ もう一度ね、言ってくれる⁉」

 「うぅ! だから、負けるのが、超おっかなくて、逃げたんだろ⁉」

 「……そうだね」

 「あの、マリカさん⁉」

 (す、すごく険悪な雰囲気なんですけど……)

 怯え気味のレーヴォンとカルノ……。

 「うん、そうだね。そこまで、言われちゃ私だって、すごく聞き捨てならないよね。ナギト⁉ 目に物を見せてあげるよ! 私を相手にしたことをね、後悔させてあげるよ!」

 「ああ、望むところだよ!」

 ナギトとマリカ、激しく睨み合う……!

 「ああー……先輩たち、す、すごい……⁉」

 「うん、やっぱり、すごく愉快なホームだね」

 レーヴォンとカルノ、圧倒されている……。

 「はい、はーい! それじゃあ、私がね、指揮を執りまーす!」

 サエッタ、同じくハイテンションに……!


 「致し方ない……。今夜はね、無礼講ということなので」

 「ええ、そうですわね。でもね、節度というものはね、守っていただきたいのですが……」


 ―そして、しばらく……。

 カン、カン、カン、カアーン!

 「勝者! マリカ・ウェバー・サレスト!」

 と、サエッタ、マリカの右腕を上げながら……!

 「ふっ、ふうーん! えへへ、どうだ⁉ ナギト君、まだまだ、力不足だね……」

 「ち、ちくしょー……! 何で、お前はさ、いつも、そうなんだよ⁉ 手加減つうものをさ、知らねぇのか⁉」

 「あのね、ナギトがね、すごく弱すぎるのよ」

 「そ、そっか……! 再戦だからな!」

 「まあ、せいぜい、腕を磨いておくんだね」

 『うーん……僕たち、すごく蚊帳の外だね』

 『う、うん、そうだね』

 苦笑いを浮かべる、レーヴォンとカルノ……。


 そして、夜は更けていく……。



           8

 その一方……。

 オベルク州/ゼロント要塞

 

 マスターロング王国、北島にある、王国最北の要塞……。

 海を挟んで、ザックロ帝国とレヴィアルト公国に面している……。


 隊長室……。

 「隊長⁉ 本日のシフトはね、こちらでよろしいでしょうか?」

 「うん、そうだね。これでね、構わないよ」

 と、その時、表がすごく騒がしく……。

「それにしても、表の方がね、すごく騒々しいね」

 「まったく、緊張感のない……連中だ⁉」

 「ふふっ、士官……そう、ムキにならないで」


 ―(ウイーン)[扉の開く音]。


 「コ、コラッ⁉ ノックぐらい……」

 「たたたたた、大変です!」

 兵士、息を切らしながら、大慌てで、隊長室に飛び込んできた……。

 「うん、どうしたの⁉」

 「隊長⁉ ここはね、僕から……」

 「ああ、よろしくお願いするよ」


 ―(ウイーン)[扉の開く音]。


 軍士官、兵士を連れて、場所を変える……。

 「落ち着いたかね?」

 「はぁ、はぁい……」

 「それで、何があったのかね⁉」

 「そ、それがですね……」


 要塞屋上から、レヴィアルト公国方面を眺める兵士たち……。

 「マルクス隊長、こちらです」

 マルクス、軍士官に案内され……。

 「うん、ご苦労。…………」

 マルクス、特殊な双眼鏡を取り出して、レヴィアルト公国方面を眺める……。

「な、なるほど、気球型のスパイ衛星ね⁉ 随分と舐めたことをね、してくれるじゃない⁉」

 「あ、あの、隊長⁉」「大丈夫なんですか⁉」「公国からの宣戦布告ですよね⁉」(兵士)

 「大丈夫だ。心配はいらない。ひとまず、君たちはね、落ち着きな!」

 「は、はい……」「了解です!」(兵士)

 「総員に告げる……。至急、手榴砲のスタンバイを始めよ! 海上で、全て、撃墜するぞ! 士官、後はね、任せたよ」

 「は、はい! かしこまりました。いいか⁉ お話に合った通りだ! 手榴砲の準備を開始しな!」

 「イエス・サー‼」(兵士一同)

 マルクス、隊長室に戻っていく……。

 公国方面から近づいてくる、複数のスパイ衛星と思われる気球の集団……。

 「血迷ったかい⁉ まさか、このような、愚行に出るとはね……。もはや、見過ごすことはね、できないよ。もう少し、利口と思っていただけにね、すごく無念でならないよ」


 ゼロント要塞は、緊迫感と不安な空気が織り交ざっていた……。



           9

 レイバー州/王都レイバー

 「あーあーぐぅはあぁー……げぇおーん⁉」

 エマールとマリカ、完全に酔い潰れたナギトを運んで、外へ……。

 「あーあー……コンディションの管理といったそばから……はあー、ダメだね。すごくグロッキーだね。これはね、明日、アウトかな?」

 「まったく、摂生というものが、なっていないわね。これはね、厳重注意かしら? あのね、ひとまず、私【わたし】がね、自宅まで、連れて帰るわ。今日はね、これで解散よ」

 「うん、ごめんね。エマール」

 「気にしないで。レーヴォン君も、ご苦労さま」

 「は、はい……ごちそうさまでした」

 「さあ、ナギト、行くわよ」

 「うーうー……」

 エマール、泥酔状態のナギトを連れて帰る……。

 ……。

 「まったく、ナギトときたら……。一体ね、誰の歓迎会だと思ってるの」

 「え、えっと、ナギトさん、大丈夫なんですか⁉」

 「心配しないで。今に始まったことじゃないから」

 「そ、そうなんですね。……。うーん、でもね、一応、お大事に……」

 「……(瞑想中)。それじゃあ、私たちも……」


 ⦅ああー、見つけた! よかった……間に合って!⦆

 サキナ、ものすごい勢いで駆けつける……!


 「ギルドマスターさん⁉ そんなに、慌ててね、どうしたんですか⁉」

 「あらら、サキナさん⁉ 夜中からね、トレーニングなの?」

 「あ、あのね……そんな、悠長なことをね、言っている場合じゃないの!」

 「「ええっ⁉」」

 「えっとね、落ち着いて聞きなさい。カーメリアエリアがね、凍結したの」

 「「⁉」」

 「えっ、凍結……ですか⁉」

 「詳しくね、聞かせてくれない⁉」

 「うん、それはね、もちろんだよ。実はね……」


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