3話(妖眼)
3話(妖眼)
1
レーヴォンとナギト、依頼のため、温泉郷ダウルーを訪問している頃……。
王都では……。
「ええぇぇー……⁉ はい、はい! それはね、大した新人さんだね」
「ちょっと、リーダー⁉ どうして、感心をしているのですか⁉」
「うふふっ。まあ、バンクスさんがね、すごく驚くのも、致し方ないことですわね」
「もっとも、制限をもとめなかったのはね、私たちなのですけど……。確かに、すごくクレイジーですよね」
エマールとマリカ、バンクスホームのバンクス(男性)とサエッタ(女性)と談笑中……。
「あっ、そういえば、メメル様……まだ、帰って来ていないの?」
「ええ、そうなのよ。しばらく、帰って来れそうにないのよね」
「うーん……例の領土問題、想定以上に難航を強いられているみたいだね」
「ええ、そうですわね。王国と帝国の両国に主権が、ございますもので、よくも悪くも、想定の範囲内ではございませんかしら?」
「まあ、エマールさんのおっしゃる通りだね」
「でもね、リーダー……確か、王国の名称だとダイギル島で、帝国の名称だとダーギル島でしたよね?」
「うん、そうだね。サエッタ君のおっしゃる通りだね」
「正直、私の感想としてはね、すごく紛らわしいので、名称くらい、統一をして欲しいですね」
「うーん……それはね、すごく難しいんじゃないかな?」
「ええっ、どうしてですか⁉」
「はい、はい! 私もね、それはね、サエッタちゃんの意見にね、賛成でーす!」
「うん、マリカちゃんも、そう思うよね? ねっ、リーダー⁉ 疑問を抱いているのはね、私だけではないということです」
「コラ、コラ! そんなところで、意気投合しないの!」
「ええー……でも……?」
「マリカもね、何を納得しているのよ。国家単位の問題よ。私【わたし】たちがね、口を出す問題ではないわ」
「ぷうぅー……(膨)」
「はぁー……おそらく、これがね、民衆の意見なんだろうね。王国領と帝国領の特例承認……何とも、歯痒いよね」
「ええ、でもね、ここはね、慎むところですわよ。国際的な問題であって、下手な交渉はね、新たな戦争の火種にね、なり兼ねませんわ」
「戦争……(悲)」
「ねぇ、サエッタ君⁉ そこまで、悲観的にならなくても、大丈夫だよ」
「そ、そうですかね……?」
「少なくとも、あの方の目の黒いうちはね、露骨な言動はね、とれないでしょ。王国だけでなく、公国も敵に回すことになるからね」
「ええ、バンクスさんのね、おっしゃる通りですわ。それに、来月にはね、王国生誕祭がね、ございますのよ。その際、不戦条約の調印式もね、ご予定されていますのよ。無論、帝国大使館にね、駐在をなさっている方々もね、ご参加予定でありますのよ。殊更、問題はね、起こせないのではなくて」
「うん、そうだよ。ねぇ、サエッタちゃん⁉ 冷静になってね、考えてみなよ。すごくダブルスタンダードでしょ⁉ そういうことで、ひとまず、安心しなよ」
「うん……そっか……そうだよね。うん、帝国だって、バカじゃないよね」
「でしょ⁉」
「えへへ、ごめんね。私……すごく臆病者でね」
「いえ、サエッタさんのおっしゃることもね、ごもっともだわ。世の中にはね、100%はね、存在しないもの。あくまで、抑止効果をね、高めているにすぎないわ」
「エマールさん……そうだね。ありがとう……励ましてくれて」
「うふっ」
「……そうだね。リーダーも、ごめんなさい。私のために、すごく余計なお手間をとらせてしまって……」
「あのね、君がね、詫びる必要はね、ないよ。エマールさんだって、言っているでしょ? それに、僕だって、すごく不安だからね。表立って……うん、自分にね、言い聞かせているのさ」
「リ、リーダー……」
「うん、ひとまず、会談の報告待ちだね」
「はい、そうですね!」
「うふふっ……」
『ねぇねぇ、エマール⁉ 今回の会談ってさ、どのような議題なんだろうね?』
『ごめんなさい……。私【わたし】もね、見当がつかないわ。ひとまず、メメル様のね、ご報告を待ちましょう。すごく気がかりでしょうけど』
『まあ、ここで、あれこれ言っても、しょうがないよね。うん、了解だよ』
―そして。
「それじゃあ、僕たちは、これでね、失礼するよ」
「ええ、お身体にね、お気をつけてくださいまし」
「ああ、肝に銘じるよ。サエッタ君、行くよ」
「はい、承知しました」
サエッタ、エマールとマリカに手を振りながら……。
「えへへ、それじゃあ、エマールさん、マリカちゃん、またね!」
「ええ、また、よろしくお願いするわね」
「うん、サエッタちゃん、頑張ってね!」
2
温泉郷ダウルー
しばらく、睨み合いがつづく……。
そして、
「あの、どちら様っすか⁉」
「あ、ああー……これはね、すまない。申し遅れました。僕はね、カダック温泉旅館の責任長をしている、カダック・ロマーリです。あなた方にはね、是非とも、当旅館にね、ご案内をしたい次第なの」
「「「ええっ⁉」」」
『ねぇねぇ、ナギトさん⁉ さすがにね、二泊はね、すごくまずいでしょ⁉』
『ああ、それもそうなんだが、俺さ、メルラをさ、そんなに持っていなくさ……』
『で、ですよね? さすがに、依頼外ということでね、お断りしましょう』
『まあ、超妥当な意見だな』
「あの、大将⁉ またの機会で、よろしいっすか⁉」
「はい、僕たち、昨夜、一泊したばかりですので、王都に帰らなきゃいけないんですよ」
「あっ⁉ 二人共、そうなんだな。わ、悪い……旦那⁉ 俺もさ、路銀がなくてさ……。またの機会でね、いいかい⁉」
「ああ、はい……そうでございますか、はい、はい、みなさまの意見はね、すごくよく分かりました」
「は、はぁい……すいません」
「つまり、あれですね⁉ ラークナー温泉はよくてね、カダック温泉はね、ダメと……そうですか。天命騎士さんはね、差別をする方々だったんですね。そうですか……すごく幻滅をしました」
「あのね、人聞きの悪いことをね、言わないでくださいよ! 僕たちはね、おしご……」
『レーヴォン⁉ 落ち着きな!』
『ええ、でも……すごくひどくないですか⁉』
『煽ってもさ、いいことねぇぞ。ここはさ、機転を利かせるんだ』
『は、はい……承知しました』
「そちらの記者さんだって、ラークナー温泉の最高の記事が書けるんでしょうね!」
『ゲゲッ⁉ 俺も、とばっちりかよ……』
「た、確かに、そうっすよね。不戦勝なんて、超腑に落ちないっすよね」
「はい、責任長さんのおっしゃる通りですよね。すごく厳正な審査があって然るべきですよね」
『ああ、二人共……そっか……よし、俺も、背に腹は代えられないな』
「あのさ、旦那、俺もさ、協力をさせてもらうよ」
「ああ、ホントですか⁉ ありがとうございます。すごく寛大なお言葉ね、感謝いたします」
(ああー……マジ、疲れる……)
『ねぇねぇ、ナギトさん⁉ 西の旅館……いえ、カダック温泉旅館の責任長さん、すごく陽動が上手いですね?』
『まあ、さすがは、プロの商売人ってところかな⁉』
そして、レーヴォン達、カダック責任長に先導をしてもらって、西の温泉旅館(カダック温泉旅館)に向かうことに……。
3
「ああ、すまねぇ。少し面倒なことになっちまってさ……。ああ、しばらく、帰れそうにねぇんだ。……うん……うん……。ああ、超悪ぃな。それじゃあさ、よろしく頼むよ。……うん……うん……。また、連絡するよ」
―プッ!
「はああぁぁー……」
―(ウイーン)[扉の開く音]。
「あっ⁉ ねぇ、ナギトさん⁉ エマールさん達はね、大丈夫でしたか⁉」
「ああ、何とか、大丈夫だよ。まあ、超驚いてたけどな」
「ま、まあ……すごくナチュラルな反応ですよね」
「さあっ⁉ ここはね、切り替え、切り替え! よし、早速ね、二回戦といこうじゃないか⁉」
「あの、えっと……アキルドさん、すごく嬉しそうですね?」
「ああ、正直ね、すごく戸惑ってはいるんだけど、すごくポジティブに考えるとね、二日連続でね、半額で宿泊できるんだよ。それだけじゃない! 記事が書けて、尚且つ、温泉にも入ることができる……一石二鳥! いや、一石三鳥だな。うん、すごく最高だね」
「「あっ……」」
レーヴォンとナギト、思わず、固まってしまう……。
『ねぇねぇ、ナギトさん⁉ あのね、おそらく、アキルドさん、とんでもない誤解をしていますよ』
『ああ、俺も、そう思うよ』
『さすがに、二度目の奢りはね、すごくクレイジーですよ』
『ああ、アキルドさんにはさ、超申し訳ねぇが……』
「やっほおおぉぉー……(嬉)」
「あのさ、アキルドさん? 少しさ、よろしいっすか?」
「うん、どうしたの⁉ そんなに、改まって……」
「あのさ、超誤解をしているみたいっすので、言いますが、今回はね、割り勘っすよ」
「はあっ⁉ ど、どうして⁉」
「いや、だってさ、今回はさ、あなたが、ご自分で、判断しましたよね?」
「い、いや……物事にはさ、流れというものが……」
「すごくユートピアな流れですね……(ジト目)」
「ギクッ⁉ そ、そうかい⁉」
「はあぁー……さすがに、俺たちもさ、二度も払えないっすよ」
「ああぁぁー……そうだね。ノーコメントだよ」
「アキルドさん……すごく素直ですね?」
「まあ、お前さん達の言うとおりだからな。俺の……すごく盛大な先走りだよ(泣)」
「あ、あはは……」
(超拍子抜けなんだけど……)
『ねぇ、ナギトさん⁉ 僕たちも、メルラがね、すごく心許ないですよ。どうしましょうか?』
『フッフッフッ……レーヴォン君、心配はね、ご無用だよ』
『ナ、ナギトさん……⁉』
『幸い、メルラはさ、宛てがある……』
『ホ、ホントですか⁉』
『まあ、そうは言っても、お前のおかげだけどな』
『ええ、ぼ、僕ですか⁉』
『何だよ⁉ 張本人がさ、おぼえてねぇのかよ⁉ 昨日さ、アキルドさんのこと、超上手く言いくるめただろ⁉ もう、分かるよな⁉』
『あっ、そういうことですか……。でもね、ナギトさん、もう少しね、言葉を選んでくださいよ。これだと、僕がね、すごくダークみたいじゃないですか⁉』
『うん、まあ……五分五分だな』
『まあ、すごく言い得て妙なんですけどね』
そして、もう一晩、ダウルーの時間がすぎていく……。
4
―翌朝。
「ご利用いただきまして誠にありがとうございました」
「いえいえ、とんでもないっすよ! でへへ……」
「ねぇねぇ、ナギトさん? どうして、そんなにね、笑顔なんですか?」
「はっ⁉ 俺……そんなに、笑ってる⁉」
「はい……すごく鼻の下が伸びていますよ」
「ハハハ……そっか。でもさ、しょうがねぇだろ⁉ 女将さんさ、超美人なんだもん!」
(あらら……開き直っちゃった……)
「ああ、確かに、ナギトさん、あんたの言っていることはさ、すごく正しいよ」
(ええ、アキルドさんも……)
「うふふっ。ありがとうございます。たとえ、お世辞であっても、とても嬉しいです」
「ヤダな、女将さん⁉ お世辞じゃないっすよ。本気で、言ってるんすよ」
(ナ、ナギトさんって、ひょっとして、女の人にね、すごく弱い……)
「そ、それで、女将さん……お名前の方をさ、お聞きしてもよろしいっすか?」
「ナ、ナギトさん⁉ ここはね、旅館ですよ! 口説かないでくださいよ!」
「ええー……いいじゃん。俺さ、独身なんだからさ」
「あの、そういう問題ではないでしょ?」
「ちょ、ちょっと、まってくれよ。その理屈だとね、俺にだって、発言権はね、あるでしょ⁉」
「ア、アキルドさん……」
「あのさ、女将さん、俺だって、独身だよ」
「ア、アキルドさん……どうして、加勢をするんですか⁉ ああ、もーう……しょうがな
い先輩方ですねぇぇー……⁉」
「はい、私のお名前はね、フラン・エリギーラと申します。どうぞ、覚えてね、お帰りください」
「へええぇぇー……フランさんって言うんすか⁉ 超カワイイお名前っすね」
(はああぁぁー……ダメだね。ナギトさん……すごく大人の世界だもん)
「ああっ⁉ ナギトさん、抜け駆けはさ、なしだよ! まあ、そうだね。あのさ、これから、三人で、軽く一杯しない?」
「あの……ごめんなさい。私……これから、お仕事ですので。またの機会でしたら……」
「はい、はい‼」
と、レーヴォン、強く手を叩く‼
「「うんっ⁉」」
「ナギトさん⁉ これはね、お仕事ですよ! 至急ね、王都に戻りますよ!」
「えっ⁉ だからさ、ちょっとだけだからさ」
「ダメです! 私情はね、挟まないでください! エマールさん達にね、お伝えしますよ」
「まあ、しょうがねぇよな……って、何で、そこでさ、あいつらの名前がさ、出てくるんだよ⁉」
「あのね、アキルドさんもね、一緒に帰りますよ! 早く、報告をした方がね、よろしいですよね⁉」
「ああー……レーヴォン君はさ、すごくまじめだね」
「……ごほんっ! それでは、お会計をね、お願いします。おいくらでしょうか?」
「はい、五千メルラでございます」
「はい、よろしくお願いします」
「ありがとうございました。またのご利用お待ちしています」
「さあ、行きますよ‼」
レーヴォン、ナギトとアキルドの背中を押しながら、半ば強引にチェックアウト……‼
「痛ててててぇ⁉ レーヴォン、超痛ぇよ!」
「お、俺も、なの⁉」
―(ウイーン)[扉の開く音→そして、扉の閉まる音]。
5
「ええっ、ウソ……⁉ ウソですよね⁉ まさか、演技だったとは……で、でまかせじゃないですよね?」
「あのさ、レーヴォン……考えてみなよ。そんなウソをついて、俺にさ、どんなメリットがあるんだよ……。まあ、そちらの記者さんについてはさ、知らねぇけど、少なくとも、俺はさ、仕事の一環だぜ」
「な、何だよ、それ⁉ 教えてくれたって、いいじゃん」
「まあ、相手を欺く前に、味方からですから」
(うーん……[考])
「はあぁー……揃いも揃って、やってくれるね」
「で、でもね、ナギトさん? ホントですか? すごく真剣なご様子でしたけど……(ジト目)」
「当然じゃねぇか⁉ 悟られちゃいけねぇんだからさ。どちらの温泉が相応しいのかさ、勝負してるんだぞ。お客様に対する、接客対応もさ、確認しねぇとな。言っておくが、依怙贔屓はさ、なしだからな!」
「なるほど……旅館全般の勝負……ね。だったら、言うまでもないんじゃない⁉」
「ア、アキルドさん……あなたもまた、すごく突拍子な物言いですね?」
「ああ、超甲乙つけがたいっすよ」
「ナギトさんのおっしゃっているように、すごく甲乙つけがたいんでしょ⁉ でもね、ひとつだけね、決定的な違いがね、あったでしょ⁉ そう、メルラだよ」
「アキルドさん……あんたつう人は……何を言い出すのかと思えば……」
「ええ、語弊はないよね?」
「あのね、アキルドさん……すごく後出しじゃんけんですよ。メルラについてはね、ノーカウントですよ。ベネフィットがね、皆無なのですから」
「ああー……あちらも、視察前提ってことだね」
「はい、ひとまず、そういうことですね」
「まあ、だったら、お前さん達の言うように、比較の対象外だね」
「あああー……⁉ 俺さ、とてもじゃないけど、こんなのさ、決められねぇよ!」
「はい、ホントですよね? 一泊だけでね、決断をするのはね、すごく難しい問題ですよね? すごく捻くれた……選挙システムですしね」
「確かに、お前さん達の、言うとおりだな。メルラ以外……すごく判断基準が曖昧だからね」
レーヴォン達、少し愚痴をこぼしながら、帰路についていく……。
そして、赤い鳩の時計台を横切るタイミングで……。
「うん、何だ……スゲェ人だかりじゃん⁉」
「ああ、そうだね」
「はい、どうしたのでしょうか……⁉」
時計台周辺は、ものすごい人だかりだった……。
そして、よく見ると、民衆の大半は、温泉旅館がある、北方向を見ていた……。
「うん、何だ、あれっ⁉」
「え、えっと、ナギトさん……僕ね、すごく嫌な予感がね、するんですけど……」
「ああ、俺もさ、同感だよ」
(おおー⁉ まさかの、スクープかな⁉)
6
ラークナー温泉旅館(東側)とカダック温泉旅館(西側)の関係者一同、両側を繋ぐ、橋の上で、何やら、すごく睨み合っているご様子である……。
そして、
「あのさ、カダックさん⁉ これはね、一体全体ね、どういうことなのかな⁉ どうして、あなた方の旅館にね、天命騎士さん方がね、宿泊をしていたのかな? ご説明願おうかな?」
「はい、そうですね。強制的な宿泊はね、人権侵害にあたりますよ!」
「はあっ⁉ あなた方はね、何を言っているんだい⁉ 確か、勝負を持ち掛けたのはね、そちら側だと、記憶しているのだが……それに、まさか、ギルドを味方につけるとはね……うん、そちらこそ、ご説明願おうかな?」
「あのね、その件についてはね、何ら不思議はね、ないよ。すごく真っ当な依頼だからね」
「つまり、何だ……あなた方はね、僕たちを、嵌めたということだね」
「はい、カダックさんのおっしゃる通りですね。初めから、そのような魂胆だったのでしょう。同じ土地を愛する者同士、はっきりとお伝えします。私はね、あなた方にね、すごく幻滅をいたしました!」
「ちょっと⁉ すごく人聞きが悪いよ! さすがにね、当てつけでしょ⁉」
「黙りな! すごく卑劣なんだよ! 正々堂々とね、勝負しなよ!」
「値引きをした者がね、偉そうなことを言うんじゃないよ!」
「そうだ、そうだ!」(ラークナー温泉旅館/従業員一同)
「あのね、自身の行いをね、正当化しないでもらえるかな? 悪魔のような、言動でね、すごく不愉快なの!」
「卑怯者!」「ダウルーの恥だ!」「守銭奴旅館!」(カダック温泉旅館/従業員・各々)
「横領の分際でね、何を、綺麗事を言っているんだ⁉」「後出しじゃんけんでしょ⁉」「いい加減さ、すごく見苦しいんだよ!」(ラークナー温泉旅館/従業員・各々)
両陣営、次第にヒートアップ……‼
「ちょっと、みなさん⁉ 待ってくださいよ! 何で、暴力に走るんすか⁉ 公平にさ、判断をするんじゃなかったんすか⁉」
「おおおおー……⁉ さすがはね、天命騎士さんだよ。お前さん方の元にはさ、やっぱり、スクープが集まってくるんだね」
(き、記者さん……どちらの味方なんですか……)
レーヴォン達(アキルドは……?)、仲裁に割って入る……。
「てっ、天命騎士さん⁉ すごくいいタイミングで、来てくれたね。あのね、依頼をしたのはね、僕たち、だよね? 無論、優先権はね、僕たちに、あるよね?」
「はい、私からもね、ご質問があります。どうして、あちら側にね、お泊りになられたのですか⁉ やっぱり、すごく強引にね、詰められたのですか⁉」
「み、みなさん……ホントに、落ち着いてくださいよ。僕だって、すごく混乱をしていますので……」
「コラ、コラ⁉ あまりね、天命騎士さんをね、困らせないの。さすがはね、守銭奴旅館……すごく卑劣な手段をやらせたら、右に出る者がいないね」
「あのね、そのような、発言はね、慎んではもらえないだろうか? 横領旅館さん……」
「何だって……もう一回ね、言ってみなよ!」
「ああ、すごくお望みみたいだから、何度だってね、言ってあげるよ! 横領と外道旅館さん……」
「ねぇ⁉ どうして、プラスアルファをね、したの?」
「ホント、すごくデリケートな大将だね」
「いい加減にね、しなよ!」
両陣営、さらに、詰め寄る……!
「あーあー……だからさ、暴力はさ、ダメなんだって!」
「ナ、ナギトさん⁉」
ナギト、両陣営の間に入って、必死に抵抗をする……!
「え、えっとね、どうしよう……⁉ あっ、そうだ‼」
すごく激しい、鍔迫り合い……!
と、その時!
プウウウウウウウウッ‼
「⁉」(全員[レーヴォンを除く])
すごく大きな音が鳴り響く……!
「ホ、ホイッスル……⁉ レ、レーヴォン⁉」
「はい、はい、はい! 失礼しますね。ナギトさん、お疲れ様です」
「あっ、ああー……これはね、どうも……」
「…………(目を閉じる)。ごほんっ! あのね、みなさん、ここはね、僕にね、任せてくれないでしょうか? すごくいいアイデアがね、ございますので……」
「「えっ⁉」」(両責任長)
「レ、レーヴォン……」
「あのね、ここはね、ひとまず、落ち着きましょう。これでは、話し合いにね、なっていないですから」
「てっ、天命騎士さんがね、そのように、おっしゃるのであれば、聞いてみる他はないね」
「そうだね。うん、聞かせてもらおうじゃないの」
と、ラークナーとカダック、ひとまず、冷静になる……。
「レーヴォン……」
レーヴォン、ナギトにウインクをする……。
(ああっ⁉ そうだな。一度さ、聞いてみようじゃねぇの)
「あのね……」
レーヴォン、お話を始めていく……。
7
―そして、今夜。
温泉郷が寝静まった時間……。
カダック温泉旅館
「うーん……ふうーん……」
「カダックさん……どうかなさったのですか⁉ 先ほどから、すごくため息をついていらっしゃいますよ」
「ええ、そうかい⁉ ごめんね。すごく無自覚だったよ」
「ふふっ。私でよかったら、お聞きしますよ」
「そうかい⁉ すまない……それじゃあね、聞いてもらおうかな……?」
「…………(頷)」
「あのね、先ほどのね、天命騎士さんのことなんだけど、ホントにね、対処をしてくれるのかな?」
「やっぱり、そうでございましたか……。責任長さんはね、すごく懐疑的ですね?」
「ああ、すまない。どうしても、すごく気になってね……」
「まだ……ご納得できないご様子ですね」
「いや、もちろん、彼らのことはね、すごく信頼しているよ。うーん……でもね……それだけですむ問題ではないよね?」
「はい、確かに、相手があってのことですものね」
「うん、フランさんのね、ご想像どおりだよ。すごく中庸【ちゅうよう】な対応が必要だからね。たとえ、天命騎士さんであっても、すごく難題なんじゃないのかなぁと思ってね……。うーん……僕の考えすぎなのだろうか……」
「いえ、カダックさんの懸念はね、すごくごもっともだと思いますよ。すごく俯瞰的な対応がね、もとめられるのですから。技量が不透明な以上……懸念を抱くのはね、致し方ないことだと、私はね、思いますよ」
「うん、そうだね。でもね、それと同じくらい、彼らにね、申し訳なく、思っているの。事情はどうであれ、すごく疑念を抱いている訳だからね」
「カダックさん……」
様々な思いが、充満している旅館内……。
―その時!
トン、トン、トン!
「うん、誰だろう? こんな遅くに……」
―(ウイーン)[扉の開く音]。
「夜分遅くにね、失礼するよ」
「ええっ⁉ へ、兵士さん⁉ どうして、兵士さんが……⁉」
「どうして……それはね、こちらのセリフだよ! まさか、このような暴挙を起こすとはね……。いくら、勝算がないからといって、殺人はね、ダメでしょ⁉」
「「えっ⁉」」
「さ、殺人……⁉ ちょっと待ってくださいよ! 何のことですか⁉」
「あのね、証拠はね、揃っているの! だから、言い逃れはね、できないよ!」
「い、いえ……だから、何のことですか⁉ ホント、意味が分からないですって……‼」
「兵士さん……責任長さんはね、ホントに何も知らないですよ!」
「分かった、分かった! つづきはね、要塞でね、聞くから」
「だ、だから……話を聞いてくださいよ!」
王国軍士官、逮捕状を提示しながら……。
「カダック・ロマーリ、フラン・エリギーラ……ラークナー・クラスター殺害の容疑で、貴殿らを逮捕する!」
「ええっ⁉ だから、何のことですか⁉」
「わ、私たちが、人殺し……そ、そんな、何かの間違いです!」
「ああ、もーう……じれったい⁉ 連行しな‼」
「イエス・サー‼」(兵士一同)
「ああーっ⁉」
「きゃああーっ⁉」
と、カダックとフラン、同じタイミングで叫ぶ!
「さあ、行くぞ!」
そして、カダックとフラン、駆けつけた王国軍によって、連行される……。
「あああー……⁉ こんなの冤罪だよ‼」
虚しく響く、カダックの声……。
8
―数時間後。
温泉郷ダウルーから、北西方面にあるゼロント要塞に、王国軍の警備飛行艇で運ばれた模様……。
オベルク州/ゼロント要塞
地下牢獄……。
「明日、隊長殿自ら、貴殿らをね、尋問する……。そして、処遇をね、決定する……」
「まあ、それまで、大人しくしていることだね」
「そうだね。事情はどうあれ、犯罪に手を染めた以上、厳罰はね、免れないと思うがね」
…………去っていく。
「まったく、冗談じゃないよ。寝耳に水もね、いいところだよ」
「ホントですよね⁉」
「やっぱり、軍人というのは、すごく無粋だね。こちらの意見だって、ロクに聞いてくれないし……どうして、僕たちがね、こんな仕打ちを受けなきゃいけないの」
「…………(目を閉じる)」
「ねぇ、聞いてる⁉ うん、フランさん、大丈夫⁉」
「ああ、ごめんなさい! ……。あのね、改めてね、思ったのですが、ラークナー温泉でね、何があったのでしょうか⁉」
「知らないよ! あちらの事情なんてね!」
「でもね、すごく不可解なことがね、多すぎると思うんですよ。あるとしたら、策略に嵌められた……そのように解釈をするのが、すごく妥当だと思うのですよ」
「はっ、嵌められたって……つまり、何⁉ 彼らの自作自演……⁉」
「もちろん、実際にご覧になった訳ではございませんので、何とも言えないのですが……」
「なるほど……犯罪に手を染める者はね、自動的に職を失う……そういいたい訳だね」
「はい、すごく極論なのかもしれないのですが、ゼロではないと思います」
「はあぁー……天命騎士さん……今頃、どうしているのかな……? 僕たちの現状、知っているのかな……?」
「すごく困りましたね」
カダックとフラン、状況を把握することができないまま、今夜は眠りにつく……。
―そして、翌朝‼
「オイ、あなた達⁉ 起きてくれ!」
「うぅ~ん⁉ 何ですか、朝からですか……⁉」
「兵士さん……私ね、すごく眠たいのですけど」
「あのね、貴殿らにね、朗報だ」
「「ええっ⁉」」
「これより、貴殿らをね、釈放する!」
「ホ、ホントに……」
「一体全体ね、どういう風の吹きまわしなのでしょうか⁉」
⦅それについてはね、僕から、説明をさせてもらうよ⦆
「うん、あなたは……一体……⁉」
「あの、どちら様でしょうか⁉」
「ああ、すごく粗暴な言動を取ってしまって、申し訳ない! これも、天命騎士さんのご要望だったからね」
「天命騎士さんの……ですか⁉」
「ああ、あなた方を守るためのね」
「ま、守る……ですか⁉」
「は、はあー……」
カダックとフラン、❞ポカーン❝としている……。
「ああ、すまない。そういえば、紹介がまだだったね。お初にお目にかかる。ゼロント要塞/隊長のマルクス・フォーゲルと申します。これより、少しね、お時間をいただきたい?」
「「は、はあー……」」
9
昨夜、温泉郷ダウルー……。
「…………(冷)」
リエス、すごく冷めた目で、橋を西に渡り、カダック温泉旅館方面へ……。
⦅こんばんは、女将さん⁉ 夜のお散歩ですか⁉⦆
レーヴォン、リエスと合流……。
「……⁉ あら、天命騎士さん⁉ まだ、王都にね、お戻りになられていなかったのですか⁉」
「はい、ギルドとご相談して、しばらく、こちらに滞在することにしたんです。やはり、未解決というのはね、すごく味気なくて……」
「確かに、勝負そのものは、終わっていないですものね」
「はい、女将さんのね、おっしゃる通りです。雌雄【しゆう】を決するまでね、粘らせていただきます。元々、僕のご提案ですので……」
「あら、それはね、すごく頼もしい……ええっ、ご提案⁉」
「いえいえ、あまり、お気になさらないでください。それより、敵前視察とは、あまり感心しないですね。当旅館のサービスをね、信用しましょうよ。このような、欺瞞に満ちた行動はね、すごく汚点を残しますよ。たとえ、勝利をなさってもね」
「ふふっ、天命騎士さん……ご心配にはね、及びませんよ」
「ほおー……⁉」
「どうやら、すごく誤解をなさっているみたいですね」
「そうなのですか⁉ それでしたら、お聞かせ願えないでしょうか⁉ 誤解をしたままですと、すごく申し訳が立たないので」
「はい、かしこまりました。…………(目を閉じる)。あのね、私たち、改めてね、考え直したのです。同じ温泉郷を愛する者同士……このような、醜い争いはね、すごく愚かな行為ですとね」
「はい、はい……なるほどね。それはね、すごく良い心掛けですね」
「ええ、とても愛する故郷……そのような、不毛な争いはね、私たち自ら、故郷を汚【けが】しているとね……。そのようなこと、誰一人……望んでいないのです。ただ、思いが強く……その結果、すごく過剰になってしまっていただけなのです。そして、ようやく、気がつくことができました。したがって、私はね、仲裁に参りたいと……そのような、答えに至った次第なのです」
「それがね、このタイミング……ですか⁉ まあ、自覚なさっただけでも、プラスに考えなきゃいけないですね」
「ふふ……お気遣い、どうも。それでは、私はね、これで」
「ああっ、女将さん、待ってください! カダックさんとフランさんでしたら、先ほどね、お出かけになられましたよ」
「あら、ホントですか⁉」
「はい、どうやら、あなた方と同じように、カダックさん達にも、色々と思うところがあったみたいですね。先ほどね、伺いましたよ」
「はあぁー……そうでございましたか。そうですよね? やっぱり、お考えになることはね、同じなのですね。……はい、そうですね? 今回はね、撤収をいたします。またの機会にね、伺います」
『もう、おやめになさいませんか……』
「えっ、天命騎士さん……」
「お会いした時から、すごく違和感がね、あったんです。でもね、確証がなかったので、スルーをしていました」
「うん……?」
「確信を持てたのはね……記者さんとご一緒に、当旅館をね、訪れたときです」
「…………?」
「あのね、記者さん、すごく汗臭かったですよね?」
「そのようですね。まあ、職業柄、致し方ないのではないでしょうか?」
「えっとね、臭いのはね、汗だけではないのですよ。幽【かす】かにね、獣の臭いがしたんですよ。そう、初日に感じた同じ違和感をね」
「け、獣ですか⁉ 当旅館にね、そのようなご来客があったのでしょうか⁉ ご報告ありがとうございます。ただいま、調査いたしますね」
「ものすごく往生際が悪いですね。その理論はね、歪むことはできないですよ。実体ではないので……」
「…………(睨)」
「どうやら、知能はあっても、臨機応変な対応は、すごく難しいみたいですね。両旅館の従業員の殺戮【さつりく】……それがね、今回の目的でしょ⁉ さすがに、瞞着【まんちゃく】は、すごく混乱を極めたみたいですね」
「ふーん……」
「確かに、新たな拠点としては、すごく恰好の的ですよね? 王都に近く、尚且つ、すごく見晴らしがいいところなのでね」
「クックックックックッ⁉ いや、これはね、すごく驚いたよ。まさか、人間に、正体を見破られるとはね。生まれてこの方、あんたのような人間はね、初めてだよ」
「言うまでもないだろうね。すごく常軌を逸しているのだからね」
魔獣、本性を露【あら】わにする……⁉
「ひとつだけ、聞いておこう。どうして、分かったの?」
「当然の質問だね。……(目を逸らす)。あのね、僕の故郷の臭いとね、すごく似てたの。それだけなの」
「こ、故郷だと⁉」
「うん、僕はね、カールという、田舎の生まれなの。元々、獣相手にね、訓練をしていたから……すごく染みついていたんだよね。……そうだね。この旅館はね、すごくクレイジーの一言だったよ」
「そうかー……。それはね、すごく迂闊【うかつ】だったよ。どこまでも、すごく不幸なものは、すごく不幸なんだね」
レーヴォン、魔獣に向けて、短剣を構え……。
「あのね、それはね、僕のセリフだよ。うん、ホントにね、すごく無念だよ。知能があるのなら、少しはね、要領があると思っていたから……」
「あんた……大丈夫かい⁉ すごく手が震えてるよ。そんなので、俺に勝負を挑むの?」
「そうだね。万が一にも、僕に勝ち目はないだろうね」
「フフンッ⁉ 策に溺れたかな?」
「申し訳ないけど、戦うのはね、僕じゃないよ」
「なにぃ⁉」
「先ほど、言ったばかりじゃない。ホント、臨機応変ができないよね」
「はあっ⁉ ま、まさか⁉」
背後から、ナギト襲来!
ナギト、銃(右手)に、風の魔力を付与……!
「あのさ、メメルホームの新人はさ、超優秀なんだよ。超相手が悪かったね」
「クゥーッ⁉」
「いくぞ! ウィンドブレッド‼」
ナギト、電撃を伴った風の弾丸を放つ……‼
「おのれええぇぇー……⁉ アアアアァァァァー……⁉」
魔獣の心臓を貫き、撃破‼
⦅フフフッ……これで済むと思わないことだね⦆
と、言い残していく……。
「ふんっ! 超負け惜しみじゃん!」
……そして。
「ナギトさん⁉」
と、レーヴォン、仕事を終えたナギトに、駆け寄っていく……!
「よっ、レーヴォン⁉ 超素晴らしいアシストだったぞ!」
「いえ、ナギトさんこそ、すごくお見事な攻撃でしたよ」
レーヴォンとナギト、握手をしながら、お互いの健闘を讃え合う……。
―と、その時!
⦅いやあぁー……粘らせてもらったかいがね、あったよ⦆
「えっ⁉ ああっ⁉ アキルドさん、まだ、帰っていなかったんですか⁉」
「いや、なあに……お前さん達のことだ⁉ 何か、企んでいると思ってな……木陰からさ、スタンバイをしていたんだよ」
「企むって……人聞きの悪い⁉」
「まあ、語弊のある言い方でさ、すまない。でもさ、マジで、助かったよ。今週のネタ、すごく少なかったからさ」
「あははー……まあ、お役に立てたのでしたら、すごくよかったです」
「ああ、そうだ! 俺たちの特集さ、組んでくださいよ!」
「ああ、任せておきな!」
「ふふっ」
そして、今回の一連の騒動は、意外なかたちで幕引きとなった……。
ラークナー温泉旅館は、魔獣を匿【かくま】っていたという判断がくだり、厳罰に処されることになり、関係者一同、ゼロント要塞に連行されることになった……。
⒑
レーヴォンとナギト、王都に帰路に就く途中……(馬車内で)。
「うーん……やっぱり、超解せねぇな」
「はい、ホント、そうですよね。どうして、魔獣が、ギルドにね、依頼を出したのでしょうか?」
「ああ、そこなんだよ。自ら、危険に晒すってさ、何なんだろうな⁉」
「…………(考)」
「それはそうと!」
「はいっ⁉」
「あのさ、レーヴォン⁉ 何で、俺にさ、教えてくれなかったんだよ⁉ いくらなんでも、遅すぎるだろ⁉」
「いえ、もちろん、意図はね、ありましたよ」
「ほほおぉー……意図ねえぇー……(ジト目)。聞かせてもらおうじゃねぇの⁉」
「あのね、すごくシンプルですよ。敵を欺くのなら、味方から欺きなさいとね」
「ああー……そういうことか⁉ まあ、完全に、納得した訳じゃねぇが……お前の意見はさ、超筋が通ってるぜ。したがって、見逃してやるよ」
「はい、ありがとうございます。ナギトさん……」