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2話(湯けむりファンタジー)

   2話(湯けむりファンタジー)



           1

 長い一日が終わり、日が暮れていく……。

 レーヴォン、初日の仕事を無事に終えて、帰路に就く……。


―(ウイーン)[扉の開く音]。


 「ただいま! あはは、そうだね。誰もいないよね。一人暮らし……なんだもんね」

 レーヴォン、自宅に帰り……ひとまず、ほっと一息……静かな夜を噛み締める……。

「ふうぅー……。でもね、すごくよかったあぁー……。ひとまず、何事もなく、初陣を飾ることができて……。やっぱり、そこがね、一番のネックだったからね。…………(目を閉じる)。そうだね。これから……なんだよね。すごく時間はね、かかってしまったけど、念願のスタートラインだよ。すごく期待と不安がね、入り交じっているけれど、ここはね、気を引き締めて、挑んでいかなくちゃ!」


 ぐううぅぅー……!

「あっと、いけないいけない。すごくおなかが叫んでいるね。うん、夕ご飯にしないとね」

 レーヴォン、とても充実した夜を過ごす……。


 ……そして、しばらく、うとうと。

「あぁー……すごく眠たい……。あっ、いけない! 僕としたことが、忘れるとこだった!

お父さんとお母さんにね、報告をしなきゃ!」


 ―そして。

 プルルルル……プルルルル……ガチャ!

 ⦅はいっ! こちら、アルフェリアの自宅ですけど……⦆

 「ああっ、お母さん⁉ 僕だよ、僕……レーヴォンだよ!」

 ⦅あら、レイちゃん⁉ どうしたの、こんな時間に⁉⦆

 「えへへ、お母さんの声が聞きたかったからね。それでね、電話をしたの」

 ⦅レイちゃん……すごく嬉しいことを言ってくれるじゃない。どうやら、そのご様子だと、事なきを得たみたいだね⦆

 「うん、そうだよ。無事に、初陣をね、飾ることができたよ。それに、すごくアットホームな職場とすごく温かな先輩方だよ」

 ⦅そう……その言葉を聞いて、ひとまず、すごく安心したよ。おめでとう、レイちゃん!⦆

 「お、お母さん……」

 ⦅あなたの念願がね、ようやく、実を結んだのだから、気長にね、頑張りなさい⦆

 「うん、そうだね。お母さん……ホントにありがとう。僕ね、頑張るよ。……ああっ‼ でもね、すごく迷惑をかけた経緯【けいい】があるから、協力をしてくれた分は返さないとね」

 ⦅レイちゃん……何を言っているのよ。そのようなこと、レイちゃんはね、気にしなくていいの⦆

 「い、いや、それはね、ダメでしょ⁉ いくら親子でもね、最低限の礼儀はね、示さないと……」

 ⦅だからこそだよ⦆

 「えっ⁉」

 ⦅あのね、子供の幸せを願うのがね、親の務めよ。レイちゃんが、すごく笑顔でいてくれるだけでね、すごく嬉しいのよ⦆

 「お母さん……うん、分かった。僕ね、笑顔でいるよ。ホント、ありがとね」

 ⦅おおー! その意気だ! それでこそ、我が息子だ‼⦆

 と、男の声が……!

 「あっ、お父さん⁉」

 ⦅おおっ、レーヴォン⁉ すごく久しぶりだね。お前の元気な声を聞けて、お父さん、すごく嬉しいよ⦆

 「うん、僕も……すごく嬉しいよ」

 ⦅そ、そういえば、もう、夕ご飯はね、食べたの?⦆

 「うん、先ほどね、食べ終わったところだよ。したがって、明日に向けてね、瞑想を始めるところなの」

 ⦅はははー……瞑想ね。うん、レーヴォンらしくてさ、すごくいいと思うよ⦆

 「お父さん……」

 ⦅まあ、何だ……お母さんもさ、言っていたと思うけど、気長にね、頑張りな! 地に足をつけてね⦆

 「そうだね。参考にね、させてもらうよ」


 …そして、再び、お母さんに変わり。

 ⦅えっとね、瞑想もね、ほどほどにしておきなさい。ホントに、眠ってしまったら、すごくお身体に障るからね⦆

 「うん、確かにそうだね。ほどほどにね、しておくよ。それじゃあね、また、連絡をするから。お母さん達も、お身体には気をつけてね」

 ⦅うふふ、そうだね。レイちゃんも、無理のない範囲内でね⦆

 「うん、もちろんだよ。……(目を閉じる)。えっとね、それじゃあ、お休みなさい」

 ⦅ええ、お休みなさい⦆

 プトゥー!

 「…………(目を閉じる)。さあ、瞑想をして……そして、明日に備えて、早く眠らなくちゃ」

 騒がしくも、レーヴォンの夜は更けていく……。



           2

 ―そして、翌日の朝!

 初任務である、温泉郷に向けて、馬車で移動中……。

 「ええっ、ウソでしょ⁉ エマールさんとマリカさん、不参加なんですか⁉」

 「ああ、残念ながら……な。仕事が超溜まっててさ、今回はさ、見送りという訳だよ」

 「ああー……でもね、でしたら、ナギトさんもね、残ってくださいよ。そもそも、僕の受諾した仕事なのですから」

 「ああ、そうしたいのは山々なんだけどな。さすがに、新人一人にさ、仕事を任せるのは、超リスキーだろ⁉ 監督不在はさ、超ご法度だ!」

 「た、確かに、そうですよね。僕一人ですと、すごく不安なのも事実ですし……依頼者に、ご迷惑はね、かけちゃいけないですしね」

 「まあ、そう縮こまるなよ。新人は新人らしく、何事にも、恐れずチャレンジだよ。責任は、俺が持つからさ。その過程でさ、学んでいきな!」

 「ナギトさん……すごくありがたいお言葉、ありがとうございます」

 「おおー、ファイトだ!」

 ……。

 「あっ⁉ でもね、ごめんなさい。このような、すごくご多忙な時に、すごく遠方のクエストを受諾してしまって……」

 「えっ……⁉」

 「ああ、えっとね……すごく配慮不足でしたよね?」

 「ああー…何だ、そういうことか⁉ レーヴォンがさ、謝る必要はねぇよ。元々、仕事を溜めちまった、俺たちの責任なんだからな。お前がさ、気に病むことはねぇよ」

 「ああー……すごく大変な時期だったのですね。でもね、そのように、おっしゃっていただけるとね、すごく安心します。これから、少しずつですが、周りの状況を判別できるようにね、お勉強をしていきます」

 「ああ、期待をしているよ」

(うん、そっか……配慮不足……ね。時期を誤っちまったのは、一概にさ、否定できねぇんだよな……。俺も、先輩としてさ、しっかりしねぇといけねぇな。まあ、後輩からも、学ぶことはあるだろう)


           3

 ダウルー峠を登山中……。

 「はああぁぁー……、すごく山奥に来ましたね」

 「まあ、そうだな。山岳地帯にある、温泉だからな」

 「あっ、でもね、王都と同じ、レイバー州なんですよね?」

 「まあ、レイバー州といっても、超広いからな。農村地帯もあれば、山岳地帯もあるつう訳だ」

 「あははぁー……ごめんなさい。どうしても、ロラム州の感覚が抜けなくて……。レイバー州=大都会だと思ってしまうんですよ。あっ、でもね、すごく嬉しいですよ」

 「ええ、何で⁉」

 「いえ、すごく些細なことですけど、僕の故郷にね、すごく雰囲気が似ているので、すごく親近感をね、覚えてしまった次第なんですよ」

 「へえぇー……そうなんだ。確か、レーヴォンの故郷ってさ、カールっていう街だったよな?」

 「はい、そうですね。覚えていただけていたみたいで、すごく光栄です」

 「ふっ、あまり謙遜しなさんな。でもさ、話を聞く限り、レーヴォンの実家ってさ、超山奥なの?」

 「いえ、すごく平原ですよ。すごく雰囲気がね、近いという意味だったのですが……えへへ、言葉が足りなくてね、ごめんなさい」

 「いや、それを言われちまったらな……俺もさ、似たようなものだよ。俺の想像不足でもあるからな。うーん、そっか……なるほどな。所謂、超シンパシーを感じたつうことだな」

 「はい、そのような解釈でね、結構ですよ」


 ―すると。

 ⦅お客さん? すごく賑わっているところ、申し訳ありませんが、もうすぐ、ダウルーにね、ご到着ですよ!⦆

 「「あっ、はい!」」

 「ご案内をしていただいてね、ありがとうございます」

 「いえいえ、これもね、お仕事ですから。それにしても、すごく気配りができる人ですね」

 「いえいえ、とんでもございません」

 『ふふっ、レーヴォン……やるじゃん!』


 ダウルーに到着。

 「えっと、二五〇〇メルラですね?」

 「はいっ!」

 「うん、確かに」

 ナギト、メルラ(この世界の通貨【お金】)を支払う……。

「それでは、ごゆっくり、寛【くつろ】いでください」

「ああ、ご苦労さま」

 レーヴォン、無言で頭を下げる……。



           4

 レイバー州/温泉郷ダウルー

 「すううぅぅー……はああぁぁー……。ふううーん……すごく空気がおいしいですね」

 「ああ、そうだな。ホントだったら、のんびり観光をしてぇところだが、まあ、ご存じ、仕事だしな」

 「あはは、そうですよね。しょうがないですよね。でもね、見物くらいはね、してもいいじゃないんですか?」

 「うん、そうだな。それくらいだったら、構わねぇだろ⁉」

 『やったああぁぁー!』

 「よしっ! とりあえず、食事も兼ねて、情報の聞き込みを始めるぞ!」

 「はい、了解です!」


 レーヴォンとナギト、食べ歩きをしながら、各店舗に依頼主についての聞き込みを行う……。


 ……しばらく。

 「オイ、レーヴォン⁉ 見てごらんよ! これがさ、ダウルーのシンボルである、赤い鳩の時計塔だよ」

 「ああ、ホントだ! 実物はね、すごく大きいんですね!」

 「うん、何だよ⁉ レーヴォン、見たことあったんだ⁉」

 「いえ、実物ではね、初めて拝見をしましたよ。今月のレイバー通信でね、掲載をされていたので、昨日、買ってね、読みました」

 「ああ、そうなのか⁉ そういえば、王国生誕祭が、来月に迫ってるもんな。所謂、特集だな」

 「ええ、そうですね。それにしても……。ジー……」

 「うん、レーヴォン、どうした⁉ 超強張ってるじゃん」

 「ああ……ごめんなさい! えっとね、すごく無礼というか……ですね。どうして、このような、ひどいことがね、できるのかなぁと思いましてね」

 「ああ、そういうことか⁉」

 「はい、鳩はね、平和の象徴ですよ。このような行為はね、万死に値しますよ」

 「まあ、場所がさ、超悪ぃよな⁉」

 時計塔に飾られている、すごく大きな横断幕……そして、その横断幕には……。

「でも、これがさ、今回の依頼だからな」

 「うぐっ、そうでしたね」

 「得点表……ね。東軍VS西軍……ね。何というか……とんでもねぇセンスだな」

 「来客数と売り上げ……はぁぁー……お店の方々がね、すごくお気の毒ですよね⁉」

 「まったくだ。けど、これがさ、お店の方の言っていたやつだな? なるほど、自分の目で、確かめる方が、超早ぇよな」

 「はああぁぁー……すごく困ったものですよね。でもね、どうして、仲良くできないのでしょうね?」

 「まあ、価値観の違いつうやつだな。協力より、排除をしたい……つう思いの方がさ、超強く出ちまっているんだよ」

 「うーん……すごく悲しいですね」

 「でもさ、地元の方の話によるとさ、元々、対立してたらしいから、衝突はさ、時間の問題だっただろうな」

 「うん、そうですね。…………(考)。でもね、すごく引っ掛かりますね。これまで、大人の対応をしていたのに、どうして、タガが外れてしまったのでしょうかね?」

 「ああ、お前の言いたいことはさ、超分かる。もう少し、要領よく、対処しろつうことだろ⁉」

 「はい……すごく喩え【たとえ】はね、悪いのですが、秘密裏にね、動きましょうよ」

 「まあ、全面戦争じゃなく、仲裁を願い出てきただけでもさ、プラスに考えようぜ」

 「はい……すごく辟易【へきえき】としますけど、善処します」

 ⦅はははー……レーヴォン、超まじめだよな……⦆

「よし、とりあえず、そのあたりをさ、確認してみっか⁉」

 「はい、了解しました!」

 レーヴォンとナギト、依頼主のいる、東の温泉に向かう……。



           5

 ラークナー温泉旅館

「うんっ⁉ ねぇ、ナギトさん⁉ 誰かね、いらっしゃいますよ!」

 「ああ、先客みてぇだな」


 「あ、あのさ、いいだろ⁉ 取材を許可してくれよ! 悪い記事はさ、書かねぇからさ」

 「お、お客様⁉ し、しかし、ですね⁉ ここはね、このような場所では……」

 「あのさ、よく考えてみなよ。ここはさ、王都からさ、すごくアクセスがよくて、ここの源泉はさ、すごく神秘的なんだ。あんたらもさ、さらなる高みを眺望したいと思わないか⁉」

 「うぅー……確かに、一理ございますが……情緒だって、すごく魅力ですし……」

 「ああ、分かる! すごくよく分かるよ‼ ここはさ、中庸【ちゅうよう】にいかないとね。

そういう訳で、ここはさ、俺の手腕にさ、任せてもらえないだろうか? 上手く調整をしておくからさ」

 「ホントに、信用なさって構わないのですか⁉」

 「ああ、レイバー通信はさ、真実がモットーなんでね。それに、来月には、王国生誕祭がさ、控えている……無論、王族関係者もお見えになるだろう? おもてなし……したいよね?」

 「…………(目を閉じる)。わ、分かりました……。ご検討いたしますので、今日のところはね、お引き取りください」

 『ちぃ、またかよ!』

「ああ、交渉決裂みたいだね。邪魔したね」


 記者さん、この場を立ち去っていく……。

 そして、レーヴォン達、記者さんと入れ替わるように……。


 ⦅ああー……マスコミの相手も、超大変っすよね⁉⦆

 「あら、どちら様でしょうか?」

 「おっと、これはね、失敬! 申し遅れました。俺たちはね、天命騎士協会の者です」

 「ええっ⁉ 天命騎士さん……⁉」

 「あのね、依頼を要請されていましたよね?」

 「ああーっ⁉ ま、まさか……ホントに来てくださるとは……。ごほんっ! えっと、ここでね、立ち話はね、すごく失礼ですので、どうそ、お入りになさってください」

 「ああ、お気遣い感謝します」

 「はい……失礼いたします」

 ナギト……レーヴォン……の順で、旅館内へ案内をされる……。



           6

 「やあ、遠いところから、よく来てくれたね。僕はね、当旅館の責任長である、ラークナー・クラスターと申し上げる。本日はね、よろしくお願いするよ」

 レーヴォンとナギト、軽く一礼をする……。

 「それでは、改めて、依頼内容の確認をしますね? ラークナー温泉旅館での一泊……そちらで、お間違いないですよね?」

 「ああ、依頼内容のとおりだよ。説明をするより、あなた方のお肌で感じてもらった方が、すごく実感ができるからね」

 「ふっ、言い得て妙ですね? それでは、お言葉に甘えて、失礼させてもらいますよ」

 「はい、よろしくお願いします!」

 「あっ、そうだ‼」

 チーン……‼

 ―(ウイーン)[扉の開く音]。

 「はい、お呼びかしら⁉」

 『うんっ……⁉』

 『レーヴォン、どうした⁉』

 『いえ、すごく情緒があるので、思わず……ね』

 『ふんっ、まあ、そうだな』

 「ああ、すごく忙しいところ、お呼び立てしてしまって、申し訳ないね。あのね、王都より来てくれた、天命騎士さんだよ。鄭重【ていちょう】にね、頼むよ」

 「かしこまりました。はじめまして、私はね、当旅館の女将を任されている、リエス・エミッサと申します。これより、客室にね、ご案内をさせていただきます」

 「は、はいっ! これはね、ご丁寧に」

 「よろしくお願いします!」

 ……そして。

 「おおぉぉー……!」

 「それでは、ごゆっくり、お寛【くつろ】ぎくださいませ。失礼いたします」

 「えへへ、何だか、すごく悪いですね」

 「なあに、遠慮することはないさ。これも、仕事だからな」

 「ま、まあー……そうですよね。でもね、改めて、考えると、すごく贅沢な依頼ですよね?」

 「まあ、そこはさ、俺も、否定できねぇな。まさか、ここまで、好待遇とは、思っていなかったからな」

 「はい、僕も、すごく同感です」

 「うーん……」

 「えっと、それでは、早速ね、温泉にね、入りましょうか?」

 「ああ、その前にさ、とりあえず、温泉街を散歩しようぜ! ほら、これもさ、依頼の範囲内だからな」

 「あはは、結果的には、旅行になっていますね」

 「フフフッ、そうだな。……よし、レーヴォン、行くぞ!」

 「はい、お供します」

 レーヴォンとナギト、温泉街を散歩することに……(依頼の範囲内?)。

 ……夕暮れ時。

 「はあぁー……何だかんだ言って、俺たち、超楽しんでるよな」

 「はい、そうですね。すごくしみじみとしますね」

 「ああ、違いねぇ」

 レーヴォンとナギト、温泉街を散歩中……。

 すると!

 「ねぇねぇ、ナギトさん⁉」

 「うん、どうした⁉ トイレか⁉」

 「ガクッ! ち、違いますよ! ほ、ほら、あの人⁉」

 「うん……ああっ⁉」



           7

 「チクショウ……。まったく、冗談じゃねぇぞ……。同じような断り方ばかりしてよ……ヒック! 常套手段じゃねぇんだよ……バカヤロー……うぅっ⁉」

 「あーあー……記者さん、昼間から、超飲んだくれてるじゃん」

 「ああ……それに、すごく悪態を吐いていますね。これはね、余程・・・ですよね?」

 「おおっ、そうだ‼ レーヴォン、少し耳を貸しな!」

 「はい、何でしょうか⁉」

 「あのさ、俺にさ、超いいアイデアがあるんだけど」

 「また……取って付けたような、内容じゃないですよね?」

 「違ぇよ!」

 「そ、そうですか……それでしたら、構わないのですが?」

 『あのさ、ゴニョゴニョ……』

 ナギト、レーヴォンの耳元で囁く……。

 『あっ、そういうことですか⁉ 失礼しました。僕ね、ナギトさんのこと、すごく誤解をしていました。すごく突拍子のない発言ばかりなのかとね、思っていたので……』

 『あははー……レーヴォン、意外にさ、超辛辣なところがあるよな……』

 『ああ、勘違いをしないでくださいね。バカにしているとか、そういうことではありませんので……』

 『ああ、皆まで言うな……』

⦅なるほど、初めて出会ったときは、超緊張をしていたけど……どうやら、馴染むのはさ、超早ぇみてぇだな……⦆

 ……そして。

 「ハアアアアー……おっと⁉ ヤベェ、飲みすぎちまったな!」

 ⦅ああ……えっと、すごく不貞腐れていますね⦆

 「うんっ⁉」

 「となり、構わないっすか⁉」

 「ああ、別に、構わないが……って、あんたら、誰⁉」

 「おっと⁉ これはさ、失礼……自己紹介がまだだったっすね。あのさ、俺たちはさ、こういう者です」

 レーヴォンとナギト、天命騎士の手帳を見せる……。

 「んんっ⁉ マジかよ……天命騎士だと⁉ な、何だよ⁉ 俺のことをね、連行する気なの⁉」

 「何で、そうなるんすか……?」

 「あのね、記者さん、ひとまずね、落ち着きましょう。ご説明しますので……」

 「えっ……⁉」

 レーヴォン達、記者さんに事情を説明する……。

 「ああ、何だ……そうだったのか。しかし……すごく恥ずかしいな。まさか、あれをさ、見られていたとはな。すごく迂闊だったな……」

 「まあ、まあ……あまりさ、気を落とさないでくださいよ」

(よし、とりあえず、素面【しらふ】だな)

 「あのね、もしよければ、ご相談にね、乗らせていただきますよ」

 「ええっ……⁉」

 「ああ、民間人をサポートするのが、天命騎士の仕事っすからね」

 「はい、悩み事はね、一人で抱えるより、一緒に抱えた方がね、すごくよろしいかとね、思いますよ」

 「ああー……すまない。すごく助かるよ。ひとまず、愚痴になっちゃうけど、聞いてもらおうかな?」

 ⦅ああー……ご自身で、認めちゃうんだね⦆


 記者さん、愚痴タイム中……。


 「だからさ、俺はね、何度も、真実しかね、追及しないって、言ってるんだよ。それなのに……どうして、分かってくれないんだろうね。混沌【こんとん】とされてもさ、すごく困るんだよね」

 「確かに、そうですよね? 記者さんも、すごく気苦労をされているのですね」

 ⦅マスコミにも、そんな苦悩があったんだな……⦆

 「それはそうと、どうして、天命騎士がね、こんなところまで、来てるの⁉」

 「ああ、実はっすね。俺たち、仕事なんすよ」

 「ええー・・・仕事、どんな⁉」

 「ああ、はいっ! えっとね、温泉に宿泊をしてね、結果を報告すると言うのでしょうか……おそらく、すごく特殊な依頼だと思います」

 「ええ、そうなのか……。それはね、ご苦労さまです。おっと、そうだった……そういえば、自己紹介がまだだったね。俺はね、レイバー通信の記者、アキルド・ロバンスだ。今後とも、よろしくな」

 「ああ、ご丁寧にね、ありがとうございます。俺はね、ナギト・バロドンです」

 「はい、同じく、レーヴォン・アルフェリアです」

 レーヴォン達、アキルドと打ち解けていく……。

 「それにしても、超大変っすよね?」

 「ああ、ホントだよ。すごく大変だよ。まあ、でもさ、正直ね、慣れっこだよ。記者の宿命でもあるからさ。粘って、粘って……交渉を成立させるんだよ。でも、敢えていうのであれば、ゴシップばかり狙っている連中とはね、同類にして欲しくないかな……」

 「ああ、おっしゃる通りっすね」

 「それじゃあ、そろそろ、本題にね、入ろうかな?」

 「「ええっ⁉」」

 「お前さん達……先ほど、超素晴らしいことを言ってたよね?」

 「ええ、何すか⁉ 藪から棒に……⁉」

 「ごまかさない、ごまかさない! 旅館に一泊⁉ いやあー……すごくありがたいよね」

 「あちゃー……覚えていたんすね⁉」

 「まあ、そういうことだ……そんな訳で。た、頼む……一生のお願いだ! 俺もね、同伴をさせてくれ! このとおりだ!」

 アキルド、土下座をして、頼み込む……。

 「アキルドさん、やめてくださいよ! そんなこと、俺たちに、求められても、超困りますよ!」

 「頼むうううぅぅぅー……‼」

 「ま、参ったな……どうしよ……」

 『ねぇねぇ、ナギトさん⁉ ここはね、僕にね、任せてはもらえないでしょうか?』

 『うん、何だよ、レーヴォン⁉ 何か、妙案がさ、あるのか⁉』

 『はい、とても素敵な妙案がね、ございますよ』

 『ああー……そっか⁉ まあ、このままだと、埒が明かねぇしな。よし、分かった! レーヴォン、任せたぞ!』

 『はい、お任せあれ』

 「……(願)」

 「ねぇ、アキルドさん⁉ あなたのおっしゃりたいことはね、すごく分かりました」

 「ええ、ホント⁉」

 「したがって、お顔を上げてください」

 「そ、それじゃあ……」

 「はい、同伴をね、認めます」

 「おおー、そっか⁉ やった!」

 ⦅えっ……⁉ レーヴォン、断るんじゃねぇのかよ……⁉⦆

 「ただし、こちらにもね、条件があります」

 「ええっ⁉」

 ⦅レーヴォン……⦆

 「あのね、宿泊費の負担をね、お願いします」

 「……あぁー……」

 ⦅や、やるね……。一本取られたよ⦆

 「メルラの全額負担かよ⁉」

 「いえいえ、僕たちもね、宿泊するのですから、そのような、無謀な要望はね、いたしません。ですが……半分はね、ご負担をお願いしますね」

 「ああー……顔に似合わず、すごくセンセーショナルじゃない。ああ、分かった! そちらの条件でね、呑もう!」

 「決まりですね」

 『レーヴォン……お前というやつは、超狡猾だな。第一、今回のメルラはさ、俺たちの自腹じゃねぇぞ。ギルドから、支給をされている旅費だぞ』

 『はい、もちろん、それはね、百も承知ですよ。それも踏まえてのことですよ。少しでも、節制できるのでしたら、利用をしない手はね、ないでしょう⁉』

 『まあ、そうだな。そういうことにさ、しておくとしようか⁉』

 『はい、よろしくお願いします』


 そして、僕たちは、アキルドさんと共に、ラークナー温泉旅館に戻っていく……。



           8

 「「お願いします‼」」

 レーヴォンとナギト、リエス(女将)に、頭を下げる……‼

 「うーん……えっと、そうですね。かしこまりました。お客様のお知り合いということでしたら、私も否定をすることはね、できないですね。こちらも、お願いをしている身でありますしね」

 「はい……女将さん、ありがとうございます。お世話になります!」

 『『あははー……(苦笑)』』

 そして、アキルドさんも、一緒に宿泊をすることに……。


 レーヴォン達、お部屋に戻り……。


 「うわぁ⁉ アキルドさん、すごく汗臭いですよ!」

 「ええ、マジで⁉」

 「はい、ホントです。おそらく、女将さんもね、すごく臭かったと思いますよ」

 「ああー……今日一日、すごく奔走したからね」

 「だったら、温泉に入った方がいいよな?」

 「はい、そうですね。僕たちも、すごく疲れていますしね」

 「よし! それじゃあ、行くか⁉ レーヴォン、アキルドさん、俺にさ、ついて来な⁉」

 「あ、ああー……ナギトさん、すごくハイテンションだね」

 「はい、そうですね。ナギトさん……今日一日、僕のこと、すごくリードをしてくれましたので……まあ、無理もないですね?」

 「まあ、疲弊をしているということだね」

 「はい、そういうことですね」


 露天風呂……。

 「ふううぅぅー……これはね、超快適だね」

 「ふふっ、アキルドさん……すごく満喫していますね?」

 「ああ、言うまでもなく、すごく旅館の醍醐味だからね。はあぁー……極楽、極楽……一日の疲れがさ、取れるよ」

 「ああ、確かに……超最高っすね」

 「おお、そうだ! ここでね、一杯といこうかな⁉」

 「おおー、いいっすね! 俺も、賛成っす‼」

 「ダ、ダメですよ! 食事まで、我慢してくださいよ‼」

 「ちぃ、すごく残念だな」

 「ナ、ナギトさんも、焚きつけないでくださいよ!」

 「えっ、何だよ、それ⁉ その言い方だとさ、まるで、俺がさ、助長してるみたいじゃねぇか⁉」

 「助長してるでしょ⁉」

 「コラ、コラ、二人共、ケンカしないの? せっかくの温泉がね、台無しだよ」

 「元はといえば、あんたが原因でしょ⁉」

 「ええ、どうして、そのような解釈にね、なっちゃうの⁉」

 「二人共、ケンカしないでくださいよ!」

 良くも悪くも、僕たちは、大騒ぎをしながら?……温泉を満喫した……。


 ―それから、数時間後。

 「さあ、さあ……今度はね、ご馳走だの時間だね」

 「うん、アキルドさん…いいっすね⁉」

 ⦅え、えっと……何だろう? この疎外感……二人のテンションにね、ついていけないよ……⦆

 「「乾杯‼」」

 『あははー……でもね、何だかんだ言って、僕も、すごく楽しんでいるよね。改めて、すごくアットホームな職場でね……ホント、よかったー……』

 レーヴォン、ふと、南東方向を見渡す……すると。

「ああっ……そっか⁉ そういえば、晴れていれば、王都の街並みがね、一望できるって、レイバー通信に書いてあったよね? うん、すごく夜景がキレイだね。えへへ……アキルドさん、ありがとうございます。一応、お礼をね、言っておきますね」


 温泉郷ダウルーでの、長い一日が過ぎていく……。

 ―そして、翌日。


 フロントにて……。

 「はあっ⁉ 八千メルラ⁉」

 「おおー……これは、これは……⁉」

 「はい……すごく廉価ですよね?」

 「ああ、でもさ、ホントに、いいんすか⁉ こんなに、贅沢三昧した上に、このような好待遇……⁉」

 「いえいえ、とんでもございません。昨日もね、申し上げましたが、こちらはね、ご依頼をいただいた身でございます。どうぞ、お気になさらないでくださいませ」

 「は、はい……ありがとうございます。超寛【くつろ】ぐことができました」

 「お約束通り、肌身でね、感じたことをね、そのままお伝えしますね」

 「はい、よろしくお願いいたします」

 「ああ、俺もさ、すごくいい記事をさ、書かせてもらうよ。是非、期待をしてもらってさ、結構だよ」

 「はい……楽しみにね、しておきます」


 レーヴォン達、ラークナー温泉旅館を後にする……。



           9

 「いやあー…昨日はさ、ホントに、助かっちゃったよ。お前さん達のおかげでね、すごく最高の記事がね、書けそうだよ」

 「ふふっ、まあ、お役に立てたのなら、超よかったっすよ。でもさ、お礼ならさ、レーヴォンにいってやってくれないっすか⁉」

 「ええ、どうして⁉」

 「元々、俺はね、反対する予定だったので、感謝される資格……ないんすよね?」

 「ああー……そういうこと、あんたもさ、すごく正直だね。黙っていれば、分かんないのにね」

 「まあ、そうなんすけどね。ただ、騙すのはさ、超気が引けるし……それに、アキルドさんのおかげで、昨夜は、超楽しかったので……」

 「うん、ありがとう。……ごほんっ! えっとね、レーヴォン君、だったよね? 改めてね、ありがとう。君のおかげでね、すごく助かったよ」

 「いえ、ご満足いただけたのでしたら、すごくよかったです。記事、すごく楽しみにしておきますね」

 「ああ、任せな!」

 (まあ、レーヴォン、様々だな)

「さあ、レーヴォン⁉ 俺たちもさ、依頼完了だ! 王都にさ、帰還するぞ!」

 「はい、了解です!」


 レーヴォンとナギト……そして、アキルド……各々、現地解散で王都に帰還する……と、その時‼


 ⦅オーイ……⁉ そこの者⁉ ちょっと待ってくれええぇぇー……⁉⦆

 「「「ええっ⁉」」」

 「はああぁぁー、はああぁぁー、はああぁぁー……⁉」

 「あの、大丈夫すか⁉」

 「はい、すごく息が切れていますよ!」

 「うん、見慣れない顔だね」

 「あ、あのね……あんた達、西の旅館のことをね、忘れてもらっちゃあ、すごく困るよ」

 「「「…………(固)」」」


 レーヴォン達、すごく風格のある男に、呼び止められた……。


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