2話(湯けむりファンタジー)
2話(湯けむりファンタジー)
1
長い一日が終わり、日が暮れていく……。
レーヴォン、初日の仕事を無事に終えて、帰路に就く……。
―(ウイーン)[扉の開く音]。
「ただいま! あはは、そうだね。誰もいないよね。一人暮らし……なんだもんね」
レーヴォン、自宅に帰り……ひとまず、ほっと一息……静かな夜を噛み締める……。
「ふうぅー……。でもね、すごくよかったあぁー……。ひとまず、何事もなく、初陣を飾ることができて……。やっぱり、そこがね、一番のネックだったからね。…………(目を閉じる)。そうだね。これから……なんだよね。すごく時間はね、かかってしまったけど、念願のスタートラインだよ。すごく期待と不安がね、入り交じっているけれど、ここはね、気を引き締めて、挑んでいかなくちゃ!」
ぐううぅぅー……!
「あっと、いけないいけない。すごくおなかが叫んでいるね。うん、夕ご飯にしないとね」
レーヴォン、とても充実した夜を過ごす……。
……そして、しばらく、うとうと。
「あぁー……すごく眠たい……。あっ、いけない! 僕としたことが、忘れるとこだった!
お父さんとお母さんにね、報告をしなきゃ!」
―そして。
プルルルル……プルルルル……ガチャ!
⦅はいっ! こちら、アルフェリアの自宅ですけど……⦆
「ああっ、お母さん⁉ 僕だよ、僕……レーヴォンだよ!」
⦅あら、レイちゃん⁉ どうしたの、こんな時間に⁉⦆
「えへへ、お母さんの声が聞きたかったからね。それでね、電話をしたの」
⦅レイちゃん……すごく嬉しいことを言ってくれるじゃない。どうやら、そのご様子だと、事なきを得たみたいだね⦆
「うん、そうだよ。無事に、初陣をね、飾ることができたよ。それに、すごくアットホームな職場とすごく温かな先輩方だよ」
⦅そう……その言葉を聞いて、ひとまず、すごく安心したよ。おめでとう、レイちゃん!⦆
「お、お母さん……」
⦅あなたの念願がね、ようやく、実を結んだのだから、気長にね、頑張りなさい⦆
「うん、そうだね。お母さん……ホントにありがとう。僕ね、頑張るよ。……ああっ‼ でもね、すごく迷惑をかけた経緯【けいい】があるから、協力をしてくれた分は返さないとね」
⦅レイちゃん……何を言っているのよ。そのようなこと、レイちゃんはね、気にしなくていいの⦆
「い、いや、それはね、ダメでしょ⁉ いくら親子でもね、最低限の礼儀はね、示さないと……」
⦅だからこそだよ⦆
「えっ⁉」
⦅あのね、子供の幸せを願うのがね、親の務めよ。レイちゃんが、すごく笑顔でいてくれるだけでね、すごく嬉しいのよ⦆
「お母さん……うん、分かった。僕ね、笑顔でいるよ。ホント、ありがとね」
⦅おおー! その意気だ! それでこそ、我が息子だ‼⦆
と、男の声が……!
「あっ、お父さん⁉」
⦅おおっ、レーヴォン⁉ すごく久しぶりだね。お前の元気な声を聞けて、お父さん、すごく嬉しいよ⦆
「うん、僕も……すごく嬉しいよ」
⦅そ、そういえば、もう、夕ご飯はね、食べたの?⦆
「うん、先ほどね、食べ終わったところだよ。したがって、明日に向けてね、瞑想を始めるところなの」
⦅はははー……瞑想ね。うん、レーヴォンらしくてさ、すごくいいと思うよ⦆
「お父さん……」
⦅まあ、何だ……お母さんもさ、言っていたと思うけど、気長にね、頑張りな! 地に足をつけてね⦆
「そうだね。参考にね、させてもらうよ」
…そして、再び、お母さんに変わり。
⦅えっとね、瞑想もね、ほどほどにしておきなさい。ホントに、眠ってしまったら、すごくお身体に障るからね⦆
「うん、確かにそうだね。ほどほどにね、しておくよ。それじゃあね、また、連絡をするから。お母さん達も、お身体には気をつけてね」
⦅うふふ、そうだね。レイちゃんも、無理のない範囲内でね⦆
「うん、もちろんだよ。……(目を閉じる)。えっとね、それじゃあ、お休みなさい」
⦅ええ、お休みなさい⦆
プトゥー!
「…………(目を閉じる)。さあ、瞑想をして……そして、明日に備えて、早く眠らなくちゃ」
騒がしくも、レーヴォンの夜は更けていく……。
2
―そして、翌日の朝!
初任務である、温泉郷に向けて、馬車で移動中……。
「ええっ、ウソでしょ⁉ エマールさんとマリカさん、不参加なんですか⁉」
「ああ、残念ながら……な。仕事が超溜まっててさ、今回はさ、見送りという訳だよ」
「ああー……でもね、でしたら、ナギトさんもね、残ってくださいよ。そもそも、僕の受諾した仕事なのですから」
「ああ、そうしたいのは山々なんだけどな。さすがに、新人一人にさ、仕事を任せるのは、超リスキーだろ⁉ 監督不在はさ、超ご法度だ!」
「た、確かに、そうですよね。僕一人ですと、すごく不安なのも事実ですし……依頼者に、ご迷惑はね、かけちゃいけないですしね」
「まあ、そう縮こまるなよ。新人は新人らしく、何事にも、恐れずチャレンジだよ。責任は、俺が持つからさ。その過程でさ、学んでいきな!」
「ナギトさん……すごくありがたいお言葉、ありがとうございます」
「おおー、ファイトだ!」
……。
「あっ⁉ でもね、ごめんなさい。このような、すごくご多忙な時に、すごく遠方のクエストを受諾してしまって……」
「えっ……⁉」
「ああ、えっとね……すごく配慮不足でしたよね?」
「ああー…何だ、そういうことか⁉ レーヴォンがさ、謝る必要はねぇよ。元々、仕事を溜めちまった、俺たちの責任なんだからな。お前がさ、気に病むことはねぇよ」
「ああー……すごく大変な時期だったのですね。でもね、そのように、おっしゃっていただけるとね、すごく安心します。これから、少しずつですが、周りの状況を判別できるようにね、お勉強をしていきます」
「ああ、期待をしているよ」
(うん、そっか……配慮不足……ね。時期を誤っちまったのは、一概にさ、否定できねぇんだよな……。俺も、先輩としてさ、しっかりしねぇといけねぇな。まあ、後輩からも、学ぶことはあるだろう)
3
ダウルー峠を登山中……。
「はああぁぁー……、すごく山奥に来ましたね」
「まあ、そうだな。山岳地帯にある、温泉だからな」
「あっ、でもね、王都と同じ、レイバー州なんですよね?」
「まあ、レイバー州といっても、超広いからな。農村地帯もあれば、山岳地帯もあるつう訳だ」
「あははぁー……ごめんなさい。どうしても、ロラム州の感覚が抜けなくて……。レイバー州=大都会だと思ってしまうんですよ。あっ、でもね、すごく嬉しいですよ」
「ええ、何で⁉」
「いえ、すごく些細なことですけど、僕の故郷にね、すごく雰囲気が似ているので、すごく親近感をね、覚えてしまった次第なんですよ」
「へえぇー……そうなんだ。確か、レーヴォンの故郷ってさ、カールっていう街だったよな?」
「はい、そうですね。覚えていただけていたみたいで、すごく光栄です」
「ふっ、あまり謙遜しなさんな。でもさ、話を聞く限り、レーヴォンの実家ってさ、超山奥なの?」
「いえ、すごく平原ですよ。すごく雰囲気がね、近いという意味だったのですが……えへへ、言葉が足りなくてね、ごめんなさい」
「いや、それを言われちまったらな……俺もさ、似たようなものだよ。俺の想像不足でもあるからな。うーん、そっか……なるほどな。所謂、超シンパシーを感じたつうことだな」
「はい、そのような解釈でね、結構ですよ」
―すると。
⦅お客さん? すごく賑わっているところ、申し訳ありませんが、もうすぐ、ダウルーにね、ご到着ですよ!⦆
「「あっ、はい!」」
「ご案内をしていただいてね、ありがとうございます」
「いえいえ、これもね、お仕事ですから。それにしても、すごく気配りができる人ですね」
「いえいえ、とんでもございません」
『ふふっ、レーヴォン……やるじゃん!』
ダウルーに到着。
「えっと、二五〇〇メルラですね?」
「はいっ!」
「うん、確かに」
ナギト、メルラ(この世界の通貨【お金】)を支払う……。
「それでは、ごゆっくり、寛【くつろ】いでください」
「ああ、ご苦労さま」
レーヴォン、無言で頭を下げる……。
4
レイバー州/温泉郷ダウルー
「すううぅぅー……はああぁぁー……。ふううーん……すごく空気がおいしいですね」
「ああ、そうだな。ホントだったら、のんびり観光をしてぇところだが、まあ、ご存じ、仕事だしな」
「あはは、そうですよね。しょうがないですよね。でもね、見物くらいはね、してもいいじゃないんですか?」
「うん、そうだな。それくらいだったら、構わねぇだろ⁉」
『やったああぁぁー!』
「よしっ! とりあえず、食事も兼ねて、情報の聞き込みを始めるぞ!」
「はい、了解です!」
レーヴォンとナギト、食べ歩きをしながら、各店舗に依頼主についての聞き込みを行う……。
……しばらく。
「オイ、レーヴォン⁉ 見てごらんよ! これがさ、ダウルーのシンボルである、赤い鳩の時計塔だよ」
「ああ、ホントだ! 実物はね、すごく大きいんですね!」
「うん、何だよ⁉ レーヴォン、見たことあったんだ⁉」
「いえ、実物ではね、初めて拝見をしましたよ。今月のレイバー通信でね、掲載をされていたので、昨日、買ってね、読みました」
「ああ、そうなのか⁉ そういえば、王国生誕祭が、来月に迫ってるもんな。所謂、特集だな」
「ええ、そうですね。それにしても……。ジー……」
「うん、レーヴォン、どうした⁉ 超強張ってるじゃん」
「ああ……ごめんなさい! えっとね、すごく無礼というか……ですね。どうして、このような、ひどいことがね、できるのかなぁと思いましてね」
「ああ、そういうことか⁉」
「はい、鳩はね、平和の象徴ですよ。このような行為はね、万死に値しますよ」
「まあ、場所がさ、超悪ぃよな⁉」
時計塔に飾られている、すごく大きな横断幕……そして、その横断幕には……。
「でも、これがさ、今回の依頼だからな」
「うぐっ、そうでしたね」
「得点表……ね。東軍VS西軍……ね。何というか……とんでもねぇセンスだな」
「来客数と売り上げ……はぁぁー……お店の方々がね、すごくお気の毒ですよね⁉」
「まったくだ。けど、これがさ、お店の方の言っていたやつだな? なるほど、自分の目で、確かめる方が、超早ぇよな」
「はああぁぁー……すごく困ったものですよね。でもね、どうして、仲良くできないのでしょうね?」
「まあ、価値観の違いつうやつだな。協力より、排除をしたい……つう思いの方がさ、超強く出ちまっているんだよ」
「うーん……すごく悲しいですね」
「でもさ、地元の方の話によるとさ、元々、対立してたらしいから、衝突はさ、時間の問題だっただろうな」
「うん、そうですね。…………(考)。でもね、すごく引っ掛かりますね。これまで、大人の対応をしていたのに、どうして、タガが外れてしまったのでしょうかね?」
「ああ、お前の言いたいことはさ、超分かる。もう少し、要領よく、対処しろつうことだろ⁉」
「はい……すごく喩え【たとえ】はね、悪いのですが、秘密裏にね、動きましょうよ」
「まあ、全面戦争じゃなく、仲裁を願い出てきただけでもさ、プラスに考えようぜ」
「はい……すごく辟易【へきえき】としますけど、善処します」
⦅はははー……レーヴォン、超まじめだよな……⦆
「よし、とりあえず、そのあたりをさ、確認してみっか⁉」
「はい、了解しました!」
レーヴォンとナギト、依頼主のいる、東の温泉に向かう……。
5
ラークナー温泉旅館
「うんっ⁉ ねぇ、ナギトさん⁉ 誰かね、いらっしゃいますよ!」
「ああ、先客みてぇだな」
「あ、あのさ、いいだろ⁉ 取材を許可してくれよ! 悪い記事はさ、書かねぇからさ」
「お、お客様⁉ し、しかし、ですね⁉ ここはね、このような場所では……」
「あのさ、よく考えてみなよ。ここはさ、王都からさ、すごくアクセスがよくて、ここの源泉はさ、すごく神秘的なんだ。あんたらもさ、さらなる高みを眺望したいと思わないか⁉」
「うぅー……確かに、一理ございますが……情緒だって、すごく魅力ですし……」
「ああ、分かる! すごくよく分かるよ‼ ここはさ、中庸【ちゅうよう】にいかないとね。
そういう訳で、ここはさ、俺の手腕にさ、任せてもらえないだろうか? 上手く調整をしておくからさ」
「ホントに、信用なさって構わないのですか⁉」
「ああ、レイバー通信はさ、真実がモットーなんでね。それに、来月には、王国生誕祭がさ、控えている……無論、王族関係者もお見えになるだろう? おもてなし……したいよね?」
「…………(目を閉じる)。わ、分かりました……。ご検討いたしますので、今日のところはね、お引き取りください」
『ちぃ、またかよ!』
「ああ、交渉決裂みたいだね。邪魔したね」
記者さん、この場を立ち去っていく……。
そして、レーヴォン達、記者さんと入れ替わるように……。
⦅ああー……マスコミの相手も、超大変っすよね⁉⦆
「あら、どちら様でしょうか?」
「おっと、これはね、失敬! 申し遅れました。俺たちはね、天命騎士協会の者です」
「ええっ⁉ 天命騎士さん……⁉」
「あのね、依頼を要請されていましたよね?」
「ああーっ⁉ ま、まさか……ホントに来てくださるとは……。ごほんっ! えっと、ここでね、立ち話はね、すごく失礼ですので、どうそ、お入りになさってください」
「ああ、お気遣い感謝します」
「はい……失礼いたします」
ナギト……レーヴォン……の順で、旅館内へ案内をされる……。
6
「やあ、遠いところから、よく来てくれたね。僕はね、当旅館の責任長である、ラークナー・クラスターと申し上げる。本日はね、よろしくお願いするよ」
レーヴォンとナギト、軽く一礼をする……。
「それでは、改めて、依頼内容の確認をしますね? ラークナー温泉旅館での一泊……そちらで、お間違いないですよね?」
「ああ、依頼内容のとおりだよ。説明をするより、あなた方のお肌で感じてもらった方が、すごく実感ができるからね」
「ふっ、言い得て妙ですね? それでは、お言葉に甘えて、失礼させてもらいますよ」
「はい、よろしくお願いします!」
「あっ、そうだ‼」
チーン……‼
―(ウイーン)[扉の開く音]。
「はい、お呼びかしら⁉」
『うんっ……⁉』
『レーヴォン、どうした⁉』
『いえ、すごく情緒があるので、思わず……ね』
『ふんっ、まあ、そうだな』
「ああ、すごく忙しいところ、お呼び立てしてしまって、申し訳ないね。あのね、王都より来てくれた、天命騎士さんだよ。鄭重【ていちょう】にね、頼むよ」
「かしこまりました。はじめまして、私はね、当旅館の女将を任されている、リエス・エミッサと申します。これより、客室にね、ご案内をさせていただきます」
「は、はいっ! これはね、ご丁寧に」
「よろしくお願いします!」
……そして。
「おおぉぉー……!」
「それでは、ごゆっくり、お寛【くつろ】ぎくださいませ。失礼いたします」
「えへへ、何だか、すごく悪いですね」
「なあに、遠慮することはないさ。これも、仕事だからな」
「ま、まあー……そうですよね。でもね、改めて、考えると、すごく贅沢な依頼ですよね?」
「まあ、そこはさ、俺も、否定できねぇな。まさか、ここまで、好待遇とは、思っていなかったからな」
「はい、僕も、すごく同感です」
「うーん……」
「えっと、それでは、早速ね、温泉にね、入りましょうか?」
「ああ、その前にさ、とりあえず、温泉街を散歩しようぜ! ほら、これもさ、依頼の範囲内だからな」
「あはは、結果的には、旅行になっていますね」
「フフフッ、そうだな。……よし、レーヴォン、行くぞ!」
「はい、お供します」
レーヴォンとナギト、温泉街を散歩することに……(依頼の範囲内?)。
……夕暮れ時。
「はあぁー……何だかんだ言って、俺たち、超楽しんでるよな」
「はい、そうですね。すごくしみじみとしますね」
「ああ、違いねぇ」
レーヴォンとナギト、温泉街を散歩中……。
すると!
「ねぇねぇ、ナギトさん⁉」
「うん、どうした⁉ トイレか⁉」
「ガクッ! ち、違いますよ! ほ、ほら、あの人⁉」
「うん……ああっ⁉」
7
「チクショウ……。まったく、冗談じゃねぇぞ……。同じような断り方ばかりしてよ……ヒック! 常套手段じゃねぇんだよ……バカヤロー……うぅっ⁉」
「あーあー……記者さん、昼間から、超飲んだくれてるじゃん」
「ああ……それに、すごく悪態を吐いていますね。これはね、余程・・・ですよね?」
「おおっ、そうだ‼ レーヴォン、少し耳を貸しな!」
「はい、何でしょうか⁉」
「あのさ、俺にさ、超いいアイデアがあるんだけど」
「また……取って付けたような、内容じゃないですよね?」
「違ぇよ!」
「そ、そうですか……それでしたら、構わないのですが?」
『あのさ、ゴニョゴニョ……』
ナギト、レーヴォンの耳元で囁く……。
『あっ、そういうことですか⁉ 失礼しました。僕ね、ナギトさんのこと、すごく誤解をしていました。すごく突拍子のない発言ばかりなのかとね、思っていたので……』
『あははー……レーヴォン、意外にさ、超辛辣なところがあるよな……』
『ああ、勘違いをしないでくださいね。バカにしているとか、そういうことではありませんので……』
『ああ、皆まで言うな……』
⦅なるほど、初めて出会ったときは、超緊張をしていたけど……どうやら、馴染むのはさ、超早ぇみてぇだな……⦆
……そして。
「ハアアアアー……おっと⁉ ヤベェ、飲みすぎちまったな!」
⦅ああ……えっと、すごく不貞腐れていますね⦆
「うんっ⁉」
「となり、構わないっすか⁉」
「ああ、別に、構わないが……って、あんたら、誰⁉」
「おっと⁉ これはさ、失礼……自己紹介がまだだったっすね。あのさ、俺たちはさ、こういう者です」
レーヴォンとナギト、天命騎士の手帳を見せる……。
「んんっ⁉ マジかよ……天命騎士だと⁉ な、何だよ⁉ 俺のことをね、連行する気なの⁉」
「何で、そうなるんすか……?」
「あのね、記者さん、ひとまずね、落ち着きましょう。ご説明しますので……」
「えっ……⁉」
レーヴォン達、記者さんに事情を説明する……。
「ああ、何だ……そうだったのか。しかし……すごく恥ずかしいな。まさか、あれをさ、見られていたとはな。すごく迂闊だったな……」
「まあ、まあ……あまりさ、気を落とさないでくださいよ」
(よし、とりあえず、素面【しらふ】だな)
「あのね、もしよければ、ご相談にね、乗らせていただきますよ」
「ええっ……⁉」
「ああ、民間人をサポートするのが、天命騎士の仕事っすからね」
「はい、悩み事はね、一人で抱えるより、一緒に抱えた方がね、すごくよろしいかとね、思いますよ」
「ああー……すまない。すごく助かるよ。ひとまず、愚痴になっちゃうけど、聞いてもらおうかな?」
⦅ああー……ご自身で、認めちゃうんだね⦆
記者さん、愚痴タイム中……。
「だからさ、俺はね、何度も、真実しかね、追及しないって、言ってるんだよ。それなのに……どうして、分かってくれないんだろうね。混沌【こんとん】とされてもさ、すごく困るんだよね」
「確かに、そうですよね? 記者さんも、すごく気苦労をされているのですね」
⦅マスコミにも、そんな苦悩があったんだな……⦆
「それはそうと、どうして、天命騎士がね、こんなところまで、来てるの⁉」
「ああ、実はっすね。俺たち、仕事なんすよ」
「ええー・・・仕事、どんな⁉」
「ああ、はいっ! えっとね、温泉に宿泊をしてね、結果を報告すると言うのでしょうか……おそらく、すごく特殊な依頼だと思います」
「ええ、そうなのか……。それはね、ご苦労さまです。おっと、そうだった……そういえば、自己紹介がまだだったね。俺はね、レイバー通信の記者、アキルド・ロバンスだ。今後とも、よろしくな」
「ああ、ご丁寧にね、ありがとうございます。俺はね、ナギト・バロドンです」
「はい、同じく、レーヴォン・アルフェリアです」
レーヴォン達、アキルドと打ち解けていく……。
「それにしても、超大変っすよね?」
「ああ、ホントだよ。すごく大変だよ。まあ、でもさ、正直ね、慣れっこだよ。記者の宿命でもあるからさ。粘って、粘って……交渉を成立させるんだよ。でも、敢えていうのであれば、ゴシップばかり狙っている連中とはね、同類にして欲しくないかな……」
「ああ、おっしゃる通りっすね」
「それじゃあ、そろそろ、本題にね、入ろうかな?」
「「ええっ⁉」」
「お前さん達……先ほど、超素晴らしいことを言ってたよね?」
「ええ、何すか⁉ 藪から棒に……⁉」
「ごまかさない、ごまかさない! 旅館に一泊⁉ いやあー……すごくありがたいよね」
「あちゃー……覚えていたんすね⁉」
「まあ、そういうことだ……そんな訳で。た、頼む……一生のお願いだ! 俺もね、同伴をさせてくれ! このとおりだ!」
アキルド、土下座をして、頼み込む……。
「アキルドさん、やめてくださいよ! そんなこと、俺たちに、求められても、超困りますよ!」
「頼むうううぅぅぅー……‼」
「ま、参ったな……どうしよ……」
『ねぇねぇ、ナギトさん⁉ ここはね、僕にね、任せてはもらえないでしょうか?』
『うん、何だよ、レーヴォン⁉ 何か、妙案がさ、あるのか⁉』
『はい、とても素敵な妙案がね、ございますよ』
『ああー……そっか⁉ まあ、このままだと、埒が明かねぇしな。よし、分かった! レーヴォン、任せたぞ!』
『はい、お任せあれ』
「……(願)」
「ねぇ、アキルドさん⁉ あなたのおっしゃりたいことはね、すごく分かりました」
「ええ、ホント⁉」
「したがって、お顔を上げてください」
「そ、それじゃあ……」
「はい、同伴をね、認めます」
「おおー、そっか⁉ やった!」
⦅えっ……⁉ レーヴォン、断るんじゃねぇのかよ……⁉⦆
「ただし、こちらにもね、条件があります」
「ええっ⁉」
⦅レーヴォン……⦆
「あのね、宿泊費の負担をね、お願いします」
「……あぁー……」
⦅や、やるね……。一本取られたよ⦆
「メルラの全額負担かよ⁉」
「いえいえ、僕たちもね、宿泊するのですから、そのような、無謀な要望はね、いたしません。ですが……半分はね、ご負担をお願いしますね」
「ああー……顔に似合わず、すごくセンセーショナルじゃない。ああ、分かった! そちらの条件でね、呑もう!」
「決まりですね」
『レーヴォン……お前というやつは、超狡猾だな。第一、今回のメルラはさ、俺たちの自腹じゃねぇぞ。ギルドから、支給をされている旅費だぞ』
『はい、もちろん、それはね、百も承知ですよ。それも踏まえてのことですよ。少しでも、節制できるのでしたら、利用をしない手はね、ないでしょう⁉』
『まあ、そうだな。そういうことにさ、しておくとしようか⁉』
『はい、よろしくお願いします』
そして、僕たちは、アキルドさんと共に、ラークナー温泉旅館に戻っていく……。
8
「「お願いします‼」」
レーヴォンとナギト、リエス(女将)に、頭を下げる……‼
「うーん……えっと、そうですね。かしこまりました。お客様のお知り合いということでしたら、私も否定をすることはね、できないですね。こちらも、お願いをしている身でありますしね」
「はい……女将さん、ありがとうございます。お世話になります!」
『『あははー……(苦笑)』』
そして、アキルドさんも、一緒に宿泊をすることに……。
レーヴォン達、お部屋に戻り……。
「うわぁ⁉ アキルドさん、すごく汗臭いですよ!」
「ええ、マジで⁉」
「はい、ホントです。おそらく、女将さんもね、すごく臭かったと思いますよ」
「ああー……今日一日、すごく奔走したからね」
「だったら、温泉に入った方がいいよな?」
「はい、そうですね。僕たちも、すごく疲れていますしね」
「よし! それじゃあ、行くか⁉ レーヴォン、アキルドさん、俺にさ、ついて来な⁉」
「あ、ああー……ナギトさん、すごくハイテンションだね」
「はい、そうですね。ナギトさん……今日一日、僕のこと、すごくリードをしてくれましたので……まあ、無理もないですね?」
「まあ、疲弊をしているということだね」
「はい、そういうことですね」
露天風呂……。
「ふううぅぅー……これはね、超快適だね」
「ふふっ、アキルドさん……すごく満喫していますね?」
「ああ、言うまでもなく、すごく旅館の醍醐味だからね。はあぁー……極楽、極楽……一日の疲れがさ、取れるよ」
「ああ、確かに……超最高っすね」
「おお、そうだ! ここでね、一杯といこうかな⁉」
「おおー、いいっすね! 俺も、賛成っす‼」
「ダ、ダメですよ! 食事まで、我慢してくださいよ‼」
「ちぃ、すごく残念だな」
「ナ、ナギトさんも、焚きつけないでくださいよ!」
「えっ、何だよ、それ⁉ その言い方だとさ、まるで、俺がさ、助長してるみたいじゃねぇか⁉」
「助長してるでしょ⁉」
「コラ、コラ、二人共、ケンカしないの? せっかくの温泉がね、台無しだよ」
「元はといえば、あんたが原因でしょ⁉」
「ええ、どうして、そのような解釈にね、なっちゃうの⁉」
「二人共、ケンカしないでくださいよ!」
良くも悪くも、僕たちは、大騒ぎをしながら?……温泉を満喫した……。
―それから、数時間後。
「さあ、さあ……今度はね、ご馳走だの時間だね」
「うん、アキルドさん…いいっすね⁉」
⦅え、えっと……何だろう? この疎外感……二人のテンションにね、ついていけないよ……⦆
「「乾杯‼」」
『あははー……でもね、何だかんだ言って、僕も、すごく楽しんでいるよね。改めて、すごくアットホームな職場でね……ホント、よかったー……』
レーヴォン、ふと、南東方向を見渡す……すると。
「ああっ……そっか⁉ そういえば、晴れていれば、王都の街並みがね、一望できるって、レイバー通信に書いてあったよね? うん、すごく夜景がキレイだね。えへへ……アキルドさん、ありがとうございます。一応、お礼をね、言っておきますね」
温泉郷ダウルーでの、長い一日が過ぎていく……。
―そして、翌日。
フロントにて……。
「はあっ⁉ 八千メルラ⁉」
「おおー……これは、これは……⁉」
「はい……すごく廉価ですよね?」
「ああ、でもさ、ホントに、いいんすか⁉ こんなに、贅沢三昧した上に、このような好待遇……⁉」
「いえいえ、とんでもございません。昨日もね、申し上げましたが、こちらはね、ご依頼をいただいた身でございます。どうぞ、お気になさらないでくださいませ」
「は、はい……ありがとうございます。超寛【くつろ】ぐことができました」
「お約束通り、肌身でね、感じたことをね、そのままお伝えしますね」
「はい、よろしくお願いいたします」
「ああ、俺もさ、すごくいい記事をさ、書かせてもらうよ。是非、期待をしてもらってさ、結構だよ」
「はい……楽しみにね、しておきます」
レーヴォン達、ラークナー温泉旅館を後にする……。
9
「いやあー…昨日はさ、ホントに、助かっちゃったよ。お前さん達のおかげでね、すごく最高の記事がね、書けそうだよ」
「ふふっ、まあ、お役に立てたのなら、超よかったっすよ。でもさ、お礼ならさ、レーヴォンにいってやってくれないっすか⁉」
「ええ、どうして⁉」
「元々、俺はね、反対する予定だったので、感謝される資格……ないんすよね?」
「ああー……そういうこと、あんたもさ、すごく正直だね。黙っていれば、分かんないのにね」
「まあ、そうなんすけどね。ただ、騙すのはさ、超気が引けるし……それに、アキルドさんのおかげで、昨夜は、超楽しかったので……」
「うん、ありがとう。……ごほんっ! えっとね、レーヴォン君、だったよね? 改めてね、ありがとう。君のおかげでね、すごく助かったよ」
「いえ、ご満足いただけたのでしたら、すごくよかったです。記事、すごく楽しみにしておきますね」
「ああ、任せな!」
(まあ、レーヴォン、様々だな)
「さあ、レーヴォン⁉ 俺たちもさ、依頼完了だ! 王都にさ、帰還するぞ!」
「はい、了解です!」
レーヴォンとナギト……そして、アキルド……各々、現地解散で王都に帰還する……と、その時‼
⦅オーイ……⁉ そこの者⁉ ちょっと待ってくれええぇぇー……⁉⦆
「「「ええっ⁉」」」
「はああぁぁー、はああぁぁー、はああぁぁー……⁉」
「あの、大丈夫すか⁉」
「はい、すごく息が切れていますよ!」
「うん、見慣れない顔だね」
「あ、あのね……あんた達、西の旅館のことをね、忘れてもらっちゃあ、すごく困るよ」
「「「…………(固)」」」
レーヴォン達、すごく風格のある男に、呼び止められた……。