1話(憧憬と適性のミスマッチ)
ムゲンのカクメイ
STORY 1
〈マスターロング王国〉
サウランドロベル大陸・南西部の南に位置する諸島である。
北島のレイバー州・オベルク州・アルカナ州、南島のパーレット州、西島のロラム州の3
島5州から構成される自然豊かな国である。
なお、北島の北東部に位置するアルカナ州には、王国最大の湖であるセルリアンレイク
がある。
西島にあるロラム州、州都フラインから北西方面にカールという小さな田舎町がある。
そんな小さな町で育った一人の青年がいた。
青年は、都会への憧れを強く抱き、故郷カールを旅立った……。
これは、そんな一人の青年が絆を紡ぐ物語である……。
《キャラクター紹介》
(主要人物/主人公)
レーヴォン・アルフェリア
一七四㎝/六八㎏ 男性・十五歳
一人称は『僕』
マスターロング王国 ロラム州・カール出身
1話(憧憬と適性のミスマッチ)
1
飛空定期船・ルランク号
王都レイバーに向けて飛行中……。
「ふうううぅぅぅー……。いよいよ、始動だね。くううー……ここまで、苦節二年。うん、すごく短いようで、すごく長かったよね。結局……成人を迎えてしまったからね」
※豆知識 十五歳で成人 ・ 一年=五四四日 ・ 一日=二八時間
ピンポオオーン……‼
⦅ご搭乗ありがとうございます。まもなく、王都レイバーにご到着でございます。お忘れ
物ございませんようご注意ください。本日もご利用いただきましてありがとうございました⦆
……着陸。
「うん……。ただいま、帰ってきたよ」
2
レイバー州/王都レイバー
「えっと、天命騎士ギルドはね、どこかな?」
レーヴォン、地図を確認しながら、王都を探索中……。
……そして。
「あった‼ この建物だね」
―(ウイーン)[扉の開く音]。
ギルド/エントランス
「お疲れ様です」
「はじめまして。本日から、こちらでお世話になる、レーヴォン・アルフェリアです。ご確認をお願いします」
「あっ、はいっ! 本日、入所をする新人さんですね。えっとね、少々お待ちください」
…………。
「はい、お待たせしました。伺っています。ご確認ができましたので、お手続きをしますね」
「はい、お願いします」
……手続き中。
「大変長らくお待たせいたしました。お手続きを完了しましたので、これより、ご案内をはじめます」
「はい、よろしくお願いします」
「あのね、それでは、はじめにね、所属先をね、ご選択ください」
メメルホーム、バンクスホーム、マチルダホーム、イヴェータホーム……いくつかのグループがある模様。そして、記載には、主に複数人で活動をすると明記されている……。
「うーん……はい、そうですね」
(できれば、アットホームな環境がいいよね。……そうだね。ギルドマスターさんに聞くのはね、立場上……すごく難しいだろうし。うん、ここはね、僕の直感でね、いくよ)
「はい! それでは、こちらのホームでね、お願いします」
「はいっ、えっとね……メメルホームですね。ご登録をしておきますね。……。あのね、それでは、そちらのエレベーターでね、六階にお向かいください。それとですね、こちらもお渡しておきますね」
「はい、これはね、失礼します」
「うふふ、すごく謙遜ですね。新人さんらしくて、私はね、すごくいいと思いますよ」
「いえ、とんでもないです。すごく緊張しているので、お気遣いしていただいて、すごく助かりました」
「ふふっ、まあ……少しずつね、慣らしていきましょう」
「はいっ!」
「あのね、必要事項はね、こちらをご確認ください。基本的な内容はね、記載されていますので、どうぞご活用ください」
「はい、ご丁寧にね、ありがとうございます。それでは、失礼します」
レーヴォン、エレベーターに向かう……。
エレベーター内(一階→六階に移動中)
「はあぁー……そうはいっても、すごく緊張する。うん、僕もまだまだだね」
チーン‼
ギルド/六階
「えっとね……西側に向かって……」
《キャラクター紹介》
(レギュラー)
エマール・ダピナス
一六〇㎝/五〇㎏ 女性・十六歳
一人称は『私』 言葉遣いは女性語
マスターロング王国 レイバー州・ザーク出身
ナギト・バロドン
一七三㎝/六五㎏ 男性・十六歳
一人称は『俺』
マスターロング王国 アルカナ州・オンクーシティ出身
マリカ・ウェバー・サレスト
一五二㎝/四三㎏ 女性・十六歳
一人称は『私』
マスターロング王国 パーレット州・ラクテ出身
3
メメルホーム/業務室
「ああー……ウソでしょ⁉ 何よ、これ⁉ このような調子ですと、いつまでも片せないじゃない!」
「あのさ、エマール? 少しはさ、落ち着きなって! 俺もさ、似たようなものだからさ」
「ナギト……あなたという人は……相変わらず、すごくマイペースね」
「ヤダなー……そんなにさ、褒めるなよ。超照れるじゃん」
「褒めてない、褒めてない‼ ほら、口より手を動かしなさい‼」
(あらら、超ご機嫌斜めだな。作戦失敗しちまったかな?)
「フッフッフッ……確かに、すごく忙しいよね。でもね、ここはね、発想の転換といこうよ」
「うん、どういうことだよ⁉」
「よくぞ、聞いてくれました! ……ごほん。あのね、仕事が全くないよりはね、すごくマシでしょ⁉」
「確かに、言われてみれば、そうだな。ああ、マリカのさ、言うとおりだぜ。物は考えようだな」
「コラッ、コラッ! マリカの意見はね、すごくごもっともだけれど、物事にはね、限度とうものがあるでしょ」
「あははー……まあ、そうだね」
「さあ、お仕事、再開よ! ひとまず、焦思をするのはね、ひととおりね、片してからにするわよ」
「……そうだね。うん、了解」
「まあ、やるしかねぇよな」
……作業中。
「あっ、そうだわ! ねぇねぇ、新人さんの入所ってね、確か……今日からでしたわよね?」
「うん、そうだね。今年はね、四人の新人さんがね、入所予定だよ」
「ああー……ないない! ある訳ないじゃん。エマール……超楽観的だぞ! こんな、変わりもののホームにさ、選択する奴なんていねぇだろ⁉」
「ナギト……あなたという人はね……どうして、そんなにね、自虐的なの? 私【わたし】はね、すごく温かくね、歓迎をするつもりよ。それに、変わりものという発言はね、すごく聞き捨てならないわね」
「うん、ナギト……すごく穏やかじゃないよ」
「チッチッチッ! 二人共、分かってねぇな! ダメ元だよ! ああ、あれだ……心のケアってやつだよ!」
「うーん……少し不一致がね、あるご様子だけれど……まあ、主観を責めても、しょうがないわよね」
「そうだね。……でもね、あれだね。ナギトってさ、顔に似合わず、すごく小心者だよね」
「あのさ、マリカ……前々から、思っていたんだけどさ、お前ってさ、超毒舌だよな?」
「あれれ、そうかな? 私はね、すごく自然体だよ。うん、うん……すごくノーマルでしょ!」
『あーあ……俺にとっちゃあ、超アブノーマルなんだけどな』
「はい、はい‼ ここはね、お互いの意見をね、尊重しましょう‼ 自由がね、モットーなのですからね‼」
―そして、外から。
トン、トン、トン!
「ええ、マジで来たの⁉」
「フフフ、ナギト、読みが外れて、すごく残念だったね」
「あのさ、ダメ元だって、言ったじゃねぇか⁉」
「そもそも、プライバシーという観点からね、ギルドマスターさんには、お話をする権限がね、禁止をされているのよ。つまり、新人さんはね、全く知らないのよ」
「ああー……超肝心なところを忘れていたな」
『忘れちゃダメでしょ……』
「……おほん! さあ、いいわよ! 入りなさい!」
⦅はい、失礼します!⦆
―(ウイーン)[扉の開く音]。
4
「はじめまして。本日より、メメルホームでお世話になる、レーヴォン・アルフェリアと申します。よろしくお願いします」
「ほっ、ほおおー……これはまた、すごく美青年だね。うん、完璧だね。……ごほん! あのね、私はね、マリカ・ウェバー・サレストだよ。これから、よろしくね」
「はい、こちらこそ、よろしくお願いします」
レーヴォンとマリカ、握手を交わしながら、あいさつをする……。
「おおー……男か⁉ 超楽しみだよ。あのさ、俺はさ、ナギト・バロドンって言うんだ! 男の後輩が入ってさ、超嬉しいぜ! よろしくな!」
「あはは……はい、お手柔らかにね、お願いします」
レーヴォンとナギト、握手を交わしながら、あいさつをする……。
※ナギト、少し興奮気味である
『えっと、それじゃあ、最後に私【わたし】ね』
と、エマール、椅子から、立ち上がりながら……。
「ごきげんよう、新人さん。ようこそ、メメルホームへ! 私【わたし】はね、エマール・ダピナスよ。あなたをね、歓迎するわ。一緒にね、成長をしていきましょう」
「はい、ありがとうございます。不束者【ふつつかもの】ですが、ご期待に添えられるよう、日々ね、精進して参ります」
レーヴォンとエマール、握手を交わしながら、あいさつをする……。
「うふふ、すごく肩にね、力が入っているわよ。リラックスなさい」
「は、はい……」
ナギトとマリカ、そんな二人を眺めながら……。
『うーん……彼、すごく健気だね。(ジロッ……)』
『うんっ⁉ 何で、このタイミングでさ、俺を見るんだよ⁉』
『どうしてって……そんなの決まっているでしょ? あんたもさ、少しはね、彼の謙虚さをね、見習いなよ』
『どういう意味だよ⁉』
「コラッ! 二人共、やめなさいよ! 新人さんの前でね、すごく大人げないわよ」
「「ああっ⁉」」
「ごほんっ! それもそうだね」
「……ああー……超恥ずかしい……」
「ふふっ」
「……おほんっ! まあ、えっとね、ひとまず、このようなホームなのだけれど、ご覧の通り、すごく賑やかでね、すごく家族的なの。憚る【はばかる】ことなく、仲良くしてもらえるとね、すごく嬉しいわ」
「はいっ! 改めてね、よろしくお願いします!」
(ふうぅー……よかった。すごく温かそうな職場で……)
5
「あのね、それでは、メメルホームについて、基本的なことを説明するわね」
「はい、それはね、すごく結構なのですが……ど、どうして、このような配置に……?」
自身は椅子に座り……そして、目の前には、エマール達がテーブル越しに椅子に座っている……。
まるで、面接のようである……。
「うふっ、あのね、面接ではないので、力を抜きなさい。ひとまず、あなたの人となりをね、知りたいのよ」
「ああ、所謂、共有ってやつさ」
「うん、そういうことだから、レーヴォン君……リラックスしなよ」
「あっ……はいっ! そ、そういうことなのですね。承知しました。…………(目を閉じる)。失礼いたしました。あのね、一応ね、申し上げておきます。おそらくなのですが、ものすごく疲れてしまうと思うのですが、加味をしていただいてね、よろしいでしょうか?」
「あら、すごくスリリングね。……そうね。ええ、お話をしていただいてね、構わないわよ。お聞かせ願おうかしら?」
「うん、そうだね。私もね、すごく興味があるよ。そりゃあ、長い人生、色々とね、あるでしょ? うん、遠慮しないで、どうぞ、どうぞ!」
「ああ、超竦然【しょうぜん】じゃん。話してみなよ」
「はい……それでは、お話をさせていただきます」
レーヴォン、一度、深呼吸をしてから、話をはじめる……。
「あのね、僕はね、ロラム州の生まれです」
「ロラム州……た、確か、西島にある州よね?」
「はい、そうですね。でもね、僕はね、州都の生まれじゃないのです。州都から離れた、片田舎の生まれなのです」
「なるほどね……所謂ね、あれでしょう? すごく都会に憧れたってことなのかな? あははー……今どき、それはね、ないっか⁉」
「…………(モジモジ)」
「えっ、そうなの⁉ ええーっと、ごめんね。私ね、バカにしている訳じゃないからね」
「いえいえ、気にしないでください。すごく珍しいことなので……そうですよね? 一昔前の思考ですよね?」
『マリカ……どうするんだよ⁉ この空気……人権はね、尊重しなきゃダメだろ⁉』
『わ、分かっている……。自由を謳っておいて、すごく最低だよね?』
―すると。
『ねぇ、マリカ? あなたはね、反省をしているのでしょ?』
『ええ、それはね、もちろん……』
『でしたら、私【わたし】から、お伝えをすることはね、皆無よ。言っておくけど、失言はね、誰にでもありえることよ。重要なのはね、過ちを繰り返さないこと、その一言にね、尽きるわ』
『そうだね。エマール……フォロー、ありがとね』
『うふふ、仲間なのですから、当然よ。……ナギト⁉ あなたもよ‼』
『はあぁ⁉ 何で、俺が……⁉』
『決まっているでしょ⁉ 相手のことを卑しめる時間があるのなら、ご自身の注意にね、気を払いなさい』
『まあ、俺はさ、そんなつもりはさ、なかったけど……言われてみれば、そうだよな。マリカ、すまねぇ。超不謹慎だったな』
『ナギト……いいよ。お互いね、配慮をしましょう』
『うん、そうだな』
『ふふっ。……おほんっ!』
「えっと、ごめんね。レーヴォン君……私情を挟んでしまってね」
「いえ、色々とありますよね?」
「あのね、それでは、再開をいたしましょう」
「はい……えっとですね。僕がね、王都に上京をしていたのはね、三年前まで遡り【さかのぼり】ます」
「なるほど、三年前からなのね……って、ええーっ⁉」
「すごく早いじゃない!」
「マ、マジかよ⁉ スゲェな……」
「ホ、ホント……すごくアグレッシブだね。でもね、どうして、三年前からなの? 三年前ということはね、レーヴォン君はね、学生さんでしょ?」
「あ、えっと……ごめんなさい。すごく訥弁【とつべん】でしたね。あのね、所謂ね、就職活動です」
「ああー……そのような諸事情でしたのね。でもね、そのご様子ですと、すごく苦労をしたみたいね」
「はい、おっしゃる通りです。いくつも受けたんですけど、内定がもらえなくてね……すごく途方に暮れる時期もね、ありました。……そして、自分自身をね、見つめ直してみたんです。すると、自ずと原因はね、明確になりましたね」
「へえー……すごいね」
「ああ、俺だったら、心が折れそうだぜ」
「うふふっ、ご苦労さまね」
「お気遣い……どうもです。えっとね、憧憬とね、言うのでしょうか……そちらばかりが先行をしてね、この会社でなければならないという……所謂、志望動機がね、皆無だったのです」
「うふふ、お気持ちはね、すごくよく分かるわ。二の次になってしまうわよね」
「うん、現実はね、すごく辛辣だね」
「確かに、納得いかねぇよな」
「……はい……すごく葛藤をしましたね。でもね、それと同時にね、先方の方々には、すごく申し訳ないことをしたともね、思っています。あくまで、僕の都合ですから」
「……何というか、超複雑だよな」
「そうだね。少しはね、理解をして欲しいよね」
「…………(瞑想中)。……ねぇ、レーヴォン君? あなたの考えはね、決して、間違ってはね、いないわ」
「ええ、ホントですか⁉」
「もちろん、志望動機はね、必要不可欠よ。でもね、モチベーションがないとね、持続ができないわ。所謂、ディメンションの世界ね」
「ああ、若ぇんだからさ、それでいいと思うぜ」
「ねぇねぇ、レーヴォン君? どれくらい、往復をしたの?」
「ああっ⁉ えっと、そうですね……正直なところ、あまり覚えていないんですよね? 内定をもらうことに、すごく躍起でしたから」
「そっか……」
「でもね、すごくお金と時間を要したよね。レーヴォン君にとって、結果が全てだよね。この際、過程はどうでもいいよね。すごく乱暴な言い回しだけど……」
「あ、ありがとうございます。全くもって、その通りですね。……そして、無情にも時間は流れて、学園を卒業しちゃいました……」
「そうだね。昨年の卒業だね」
「そして、卒業後、僕はね、地元でアルバイトをはじめました。もっとも……すごく田舎なので、アルバイト自体もね、すごく少ないのですが……。それと、並行してね、適性検査を受けたんです」
「そう……。アルバイトというのは、王都に通うための資金稼ぎといったところかしらね」
「はい、お金がね、底を尽きていましたので……。学生時代はね、両親が出してくれていましたが、僕の夢を応援してくれて、それで、卒業後も出してもらうのはね、すごく親不孝でしかないですよ。合格できなくて、申し訳ない気持ちもあります」
「……すごく息子思いのご両親ね。これから、恩返しをしなきゃいけないわね」
「はい、そのつもりです!」
「でもさ、適性検査ってさ、正直なところ、どうなの? 所謂、あれだろ⁉ 性格とか向いているとかでさ、判断するんだろ⁉ 正直さ、参考程度にしかならねぇと、俺はさ、思うんだけど……」
「うん、あまり、鵜呑みにするのはさ、オススメできないよね」
「そうですね……おっしゃる通り、すごく気休めレベルですね。もちろん、個人差もありますが……僕の場合、そうですね」
「ちなみに、親孝行はね、すごく増えそうです」
「「「えっ⁉」」」
「あら、そうなの⁉ すごく気になるわね。お聞きしてもね、よろしいかしら?」
「はい、お話します。……あのね、僕の空回りに見かねた両親がね、あるひとつの提案をね、出してくれたんです。王都のマンションを借りてね、仕事を探さないかとね……」
「あら、すごくよかったじゃない⁉」
「確かに、親孝行……超大変だな」
「そうだね。……。でもね、すごく優しい親御さんだね」
「はい、おっしゃる通りです。僕はね、すごく幸せ者です。でもね、現実はね、そんなに甘くはなかったですね。やっぱりといいますか……さすがに、無職の人間をね、契約してくれるところなんて……ありませんでしたね。まあ、当然といったら、それまでなんですけどね」
「そ、そうよね? およそ三カ月といったところかしら?」
「ああー……エマールさん、すごく鋭いですね⁉ はい、時間との勝負ですね」
「はあぁー……そっか、短期間とはいえ、借りられたんだな! 超太っ腹な大家さんだな!」
「うん……すごくクレイジーだね」
「…………(目を閉じる)。そして、僕はね、考えました。一体、僕にとって、何ができるのかをね……」
「「(ゴクンッ)」」
「あらあら、二人共、すごく静かね」
「実は……ですね? 幼少の頃から、習っていた剣術がね、あったんですよ」
「すごく遠い過去の記憶……仕事としてではなく、趣味として習っていたのですから、すごく記憶が曖昧になるのは、致し方ないところはあるわね」
「確かに、感覚がさ、残りにくいからな。超タイトだよな」
「ねぇ、レーヴォン君? 私からもね、いいかな?」
「あっ、はい! 大丈夫ですよ!」
「あのね、この三年間の苦労もね、決してね、忘れちゃダメだよ。あなたのすごく大きな財産になるのだから。確かに、今はね、すごく穿【うが】っているけど、将来的にはね、すごく立派な線となってね、あなたの心に宿り続けることになると思うの。……うん、私はね、すごく素敵だと思うよ」
「マリカさん……ありがとうございます。ご参考にね、させていただきます」
……そして。
「あ、あの……やっぱり、すごく疲れちゃいましたよね?」
「い、いえ……あなたがね、縮こまる必要はね、ないわよ。質問をしたのはね、私【わたし】たちなのですから」
「うん、エマールの言うとおりだね。君がね、申し訳なく思うのはね、すごくお門違いだよ」
「ああ、色々と教えてくれてさ、ありがとな」
「いえ、とんでもないです。みなさんもね、お疲れ様でした」
6
各々、しばらくお休みをして……。
「さあ、人となりをね、アップデートしたということでね、これより、概要のご説明に入らせていただくわね」
「は、はいっ! よろしくお願いします‼」
『フフフフフ……』
『うん、どうしたの、ナギト? すごく上機嫌じゃない?』
『いやああー……だってさ、男の後輩だぜ! お酒を嗜み……玲瓏【れいろう】な美青年との連携……うん、プライベートからパブリックまで、超至れり尽くせりだぜ!』
(うーん……少し言葉の意味が違うんだけど、まあー……言いたいことはね、ひとまず、分かるから、スルーしておくことにするかな……)
『まあ、つまり、あれだね。すごく審美眼に叶っているということだね』
『ああ、そういうことだよ。ぐふふふー……いやあー、俺にとって、ここまで、巡り合わせがいいのはさ、超久しぶりだぜ! 神様に感謝だな』
『まあ、お酒についてはね、お仕事に差し支えがない程度にね……お願いするよ』
『了解! よしっ! とりあえず、始まりの始まりだよ!』
『あのね……それはね、終わりの始まりでしょ。ホント、あんたはさ、すごくトリッキーだね』
―(ウイーン)[扉の開く音]。
エマール、レーヴォンをとなりの部屋に案内する……。
7
「うわあっ⁉ これはね、すごいお部屋ですね⁉」
「うふふ、そうね。新人さんらしい反応といったところかしらね」
「そうだね。すごく初々しいよね」
「ああ、まったくだぜ。目を閉じると、俺も新人の頃を思い出すぜ。何もかもが、夢に満ち溢れていたぜ」
「あのね……すごく昔みたいにね、言わないの。二年前でしょ? すごく最近じゃない」
「ええっ⁉ 何で、お前がさ、知ってるんだよ⁉」
「知っているも何も、私たちはね、同期でしょ⁉」
「ああー……悪ぃ⁉ 超エスケープしちまってたぜ!」
「あ、あんたという人はね……ホント……はああー……」
「どうした⁉ 超疲弊してるじゃん」
「あんたの責任でしょ⁉」
「ぐふっ(笑)」
「「ええっ⁉」」
「え、えっと、ごめんなさい。お二人のご関係がね、すごく羨ましくて……」
「ああー……第三者から見ると、そのように、見えるんだね」
「うん、ケンカするほど仲がいいというのは、ホントなんだな」
「ナギト⁉ あんたが言わない‼」
「うふふっ。さあ、さあ! 世間話はね、これくらいにして、本題にね、入るわよ」
「ごほんっ! ああ、そうだな」
「まだ、お仕事中だもんね」
「え、えっと……今更なのですが、おひとつご質問ね、よろしいですか?」
「ええ、困ったことがね、あるのでしたら、至急ね、ご質問なさい」
「はい……ありがとうございます。それでは……。あのね、こちらのお部屋はね、すごくギルドらしいお部屋ですね?」
「ええ……ご質問というのは、そんなにね、単純なことでしたの⁉」
「あ、はい……ダメでしたでしょうか?」
「いえ、構わないわ。どのような、些細なことでもね、お聞きをしてもいいとね、お約束をしたのですから」
「まあ、拍子抜けはさ、否めねぇけどな」
「まあ、まあ、すごく新人さんらしくていいじゃない」
レーヴォンがギルドらしいといったお部屋……それもそのはずである……。
お部屋には、複数の武具と魔法関連の装置が飾られていた……。
「あのね、まずはね、あなたがお気に召したね、武器をお手に取ってくれないかしら?」
「はい、承知しました」
武器の種類は、剣、銃、弓など、すごく多種多様である……。
「えーっと、そうですね。すごくバラエティーに富んでいるので、すごく躊躇【ちゅうちょ】をしてしまいそうですが……」
「まあ、ゆっくり、品定めしな。これから、共にする相棒なんだからさ」
「うん、そうだね。君に合わない装備を選択すると、すごく一大事だからね」
「……うーん……そうですね……。やっぱり、剣ですね」
「おおーっ⁉ 短剣ときたか⁉」
レーヴォン、短剣を手に取って、一振り……!
「うん、すごく僕に、マッチをしていますね」
「おおー……超いい反応じゃん!」
『……そうね。二刀流……闇属性かしらね』
『そうだね。その可能性は、すごく高そうだね』
レーヴォン、武器の選択を完了……次のステップへ……。
「さあ、次の段階にね、参りましょう」
「はいっ!」
「あのね、こちらにね、来ていただけないかしら?」
「ああ……はい!」
エマール、レーヴォンをとある装置の前に案内……。
「ひええぇぇー……何ですか、これ⁉ すごく大きな装置みたいですけど……」
「ええ、ご説明をするわね。あのね、これはね、魔法装置よ。レーヴォン君の特性をね、これから、測定をするのよ」
「ああ、なるほど……所謂、属性のチェックですね」
「あら、すごくお察しがよろしいわね。地・水・火・風・光・闇と全部で六つの属性がね、存在するわ。そして、各々に適した属性にね、インプットをされるわ」
「なるほど……詳細はね、ご理解をしました。うーん……すごくドキドキしますね」
「そうね。すごく悲喜こもごもでしょうね。まあ、誰もがね、お通りになる道よ」
「…………(瞑想中)。はい、大丈夫です。お願いします」
「うふっ……おほんっ! えっとね、それじゃあね、こちらの魔法装置にね、お手を翳して【かざして】もらえないかしら?」
「はい……!」
レーヴォン、設置された魔法装置に手を翳す【かざす】……。
⦅お待たせいたしました。それでは、測定を開始いたします。しばらく、動かないでください⦆
測定開始‼
装置を中心に魔法陣が形成されていく……。
そして、次第に黒色に染まっていく……。
『あっ、ホントだ! エマールの読み通り、黒色みたいだね』
『ええ、パーティーのバランスが取れるので、すごく朗報ね』
『闇属性……速さかー……うん、超いいんじゃねぇの』
―そして。
⦅大変長らくお待たせいたしました。測定を完了いたしましたので、ご報告申し上げます。あなたの属性はね、闇属性です。あなたに神のご加護があらんことを。それでは、測定を終了いたします。お疲れ様でした⦆
……。
「うーん……」
レーヴォン、身体を動かして確認中……。
「うふふっ、レーヴォン君? ご苦労さま。速さに特化した、闇属性ね」
「ええ……はいっ! 僕がね、闇属性ですか……。えっと、あまり、実感が湧かないですね」
「まあ、見た目はさ、あまり、変わんねぇからな。当然といっちゃ当然だな」
「そうだね。すごく大きな隔たりがあるよね。まあ、それだって、初めだけだけどね」
「ああ、そうなのですね。覚えておきます。うーん……?」
「あら、どうしたの⁉ すごく浮かない顔をね、しているわよ」
「はい……やっぱりね、分かっちゃいますか? ……(目を閉じる)。あのね、魔法はね、どのようにして、発動をさせるのですか? やっぱり、何か詠唱がね、必要なのでしょうか?」
「ハハハハー……やっぱり、そう思うよな」
「えっ⁉ 僕……何か、おかしなことをね、おっしゃいましたか⁉」
「ああ、悪ぃ悪ぃ……俺も、最初はさ、レーヴォンと同じことを考えていたからさ」
「ちなみに、私も……だけどね」
「ああー……先輩方もなんですね」
「さあ、エマール⁉ 俺は、超口下手だから、お前からさ、説明をしてやりなよ」
「ふふっ、了解よ。あのね、レーヴォン君、魔法といってもね、あなたが思い描いているような、王道なものではないの」
「あははー……どうやら、そうみたいですね」
「おほんっ! えっとね、この魔法はね、先ほど、あなたがお選びになった、短剣にね、付与をして使用するのよ。それによって、効力が発揮されるのよ」
「……⁉ へぇー……そうなのですね。でもね、それはそれでね、すごくユニークでおもしろそうですよね?」
「あらあら、すごく冷静に受け入れるのね。すごく靡【なび】きそうなものだけれど……」
「まあ、憧れというのは、あくまで、僕の勝手なご想像ですので、危惧しているほど、気にならないですよ。もちろん、すごく抵抗がないといえば、ウソになりますけど……」
「うん、素直でよろしい! さすが、俺の認めた後輩だぜ!」
「どうして、ナギトが、すごく威張るの(ジト目)⁉」
「ふふっ」
「うふっ⁉ ひとまず、今日の任務は、これでお開きね。魔法の詳細についてはね、実戦でね、身につけていきましょう」
「《習うより慣れよ》ということですね」
「ええ、そういうことよ。……おほん! ねぇ、レーヴォン君? それじゃあ、早速ね、あなたにお仕事よ」
「ああっ、はい! よろしくお願いします!」
「あのね、これから、掲示板のお仕事をね、ひとつこなしていただくわ。これより、一階にね、掲示されているクエストをね、受諾してきなさい。所謂、ホントの新人試験よ。その結果をもって、今後のあなたの方針をね、定めていくわ」
「はい、一階にある掲示板ですね! 至急、行って参ります!」
「うふっ、すごく素晴らしい心がけよ。詳細はね、ギルドマスターさんがね、教えてくれるわ」
「承知しました!」
―(ウイーン)[扉の開く音]。
「ふふっ、将来が、すごく楽しみね」
「そうだね。すごく貴重な逸材だよ」
「ああ、俺もさ、負けてられねぇな」
8
―数分後。
「「「はああぁぁー……」」」
「あ、あの……どうかなさいましたか⁉ すごく呆気にとられているみたいですけど」
「いやあー……何というか、レーヴォン君、すごく大胆だなぁと思ってさ……」
「えっ、そうでしょうか? 一応ね、すごくシンプルなクエストをね、受諾したのですが……」
「そうね。難易度ランクがね、書かれているものね。あなたの判断はね、おそらく、間違ってはいないのでしょう」
「そうだね。私はね、無難にね、王都のクエストをね、受諾すると思っていたから、すごく勇気があるなぁと感心したけどね」
「そ、そんな……マリカさん、僕はね、すごく慎重派ですよ。ただ、王都はね、僕のベッドタウンですから、仕事をするなら、少し遠方がいいかなぁとね、思った次第なのです」
「なるほど、仕事を終えて、憧れの王都に帰還する……確かに、すごくシナリオとしては、最高のシチュエーションだよね。うん、すごくよく分かるよ」
「ああ、そうこなくっちゃな! レーヴォン、超気に入ったぜ‼」
「あ、ありがとうございます」
「そうね。ええ、こちらのクエストでね、いきましょう。それでは、レーヴォン君、初任務よ。お互いにね、頑張りましょう」
「はい、こちらこそ、よろしくお願いします」
(うふっ、それにしても、初任務が温泉郷ね。すごくおもしろいじゃない)