後編
今晩の晩餐会は、メルゼーニ子爵ハルク・トラステが正式に父の跡を継ぐための通過儀礼のようなものだった。
若き国王を始めとした、宮廷の重鎮達はもちろん、トラステ家とは派閥の異なる……なんなら政敵と言ってもいい有力貴族達。トラステ家の威光だけではごまかしきれない相手をも満足させるもてなしをし、好印象を植えつけるのだ。そのため、失敗は許されなかった。
晩餐会の招待客達が晩餐室に集まった。
リエリーを公の場に披露するのは今日が初めてだ。年齢のわりに小柄な婚約者をいぶかしむ者もいたが、「叔母夫婦に虐待を受けていた」、「天涯孤独の不憫な娘があまりに可哀想で引き取った」と言えば、誰も疑うことはなかった。リエリーが控えめな笑みを浮かべてメルゼーニ子爵に寄り添っているのも功を奏しただろう。
「道化師ラスティアを招いたと聞いて楽しみにしていたのですがね」
「申し訳ありません、閣下。奴は皆様のそうそうたる顔ぶれに怖気づいたようで」
「あのラスティアがか? 余のパーティーの時は、平然と芸を披露してくれたのだが」
つまらなそうな様子の大臣に子爵手ずからワインを注いでごまかすが、横から国王にそう言われれば立つ瀬がない。
それを皮切りに、かつてラスティアを催し物で雇ったことのある招待客達が次々にその時の様子を楽しげに話すものだから、氷彫刻のように無感動で知られるメルゼーニ子爵もさすがに居心地悪くなって顔を赤らめた。
いたたまれなくなった父公爵がメルゼーニ子爵をせっつく。子爵は咳払いをして乾杯の音頭を取り、給仕に前菜を持ってこさせた。
けれどその瞬間、晩餐室に白煙が充満する。困惑の声があちこちから上がった。
それを鎮めたのは、男とも女ともつかないものの、人を惹きつける魅力に満ちた声だった。
「お腹を空かせてお集まりの皆々様には申し訳ありませんが、今日の料理には手をつけないほうが賢明かと。子爵の大事な大事なお姫様を視界に入れた罪を、彼は皆様に償わせようとしているかもしれませんからね」
「何者だ!?」
子爵は唾を飛ばして怒鳴る。誰何の声に意味はない。だって子爵はこの魅惑的な声の主を知っていたのだから。
「お待たせしました。道化師ラスティア、皆様のご期待の声を受けてただいま遊学先より戻ってまいりましたよ」
煙が晴れる。アコーディオンを抱えたラスティアの登場に、招待客達はわっと沸いた。ただの演出だと思っているのだろう。苦い顔をしているのは、まだ死体発見の報告をもらっていなかったメルゼーニ子爵だけだ。
「ラスティア……! よかった、生きていたのね……!」
リエリーが感極まった様子で立ち上がる。子爵はリエリーを睨んだが、彼女は自分に向けてウインクするラスティアしか目に入っていないようだ。
メルゼーニ子爵はリエリーのドレスの裾を荒々しく掴み、強引に椅子に座らせた。やっとリエリーは我に返り、申し訳なさげに縮こまる。「後でお仕置きだよ」と囁くと、リエリーは蒼白な顔で頷いた。
「この余らを待たせるとは、さすがはラスティエリカの神子よな。道化師よ、これまでどこに学びに行っていたのだ?」
「冥府でございます、国王陛下」
若き王がくつくつと笑う。ラスティアは気取った仕草で一礼した。
「今宵の演目は少し趣向を変えまして、交霊会といたしましょう。ここにおわします皆様方に、ぜひ友人達を紹介させていただきたい! 少々刺激が強いですから、怖がりな方は目を閉じていてくださいませ!」
歓声が上がる。子爵は真っ赤な顔で怒鳴った。
「何をする気だ! 私の屋敷で勝手な真似は許さんぞ! おい、あの侵入者をつまみだせ!」
「子爵、何をおっしゃっているのですか? あの者は、貴方が招いた道化師でしょう?」
客席の喧騒など気にも止めず、ラスティアは大きな黒い布を壁から壁へとかけていく。
彼が三つ数えて即席の幕を下ろすと、おどろおどろしい一団が現れた。
それはまさしく死者の群れだ。
髑髏が赤黒く染まった服の上に乗っている。大きく歪な体型は、骸骨の空洞に怨念をたっぷり詰め込んだうえで服を纏っているからだろうか。
アコーディオンの音色に合わせてぎこちなく踊る骸骨達は、袖から突き出した骨の指でメルゼーニ子爵を指差した。
「メルゼーニ子爵……」
「あの男がわたくし達を殺した……」
「リエリーを不幸にするために……」
「リエリーを、自分のものにするために……」
男の声、女の声、少年の声、少女の声。
無数の声が順々に響く。地の底から届くような、暗く悲しい声だった。
「なんの真似だ!」
「冥府見物の土産に、貴方が葬った真実を地上に届けたまでですよ」
奇怪に踊る骸骨の間を優雅にすり抜けるようにしてラスティアも踊っている。
ラスティアが一歩前に出るたびに、葬儀の際に手向ける白いユリが虚空から現れては床へと落ちていった。招待客達はしんと静まり返り、このグロテスクな演目を見守っていた。
「最初に殺されたのは僕。リエリーの従兄で婚約者、そんな僕を彼は許さなかった。彼は狩りの事故に見せかけて、僕を銃で撃ち殺した!」
少年の声が高らかに歌い上げる。メルゼーニ子爵を見据えるがらんどうの眼窩の奥には憎悪の炎が揺れていた。
「次に殺されたのはわたくし。リエリーを彼から遠ざける、そんなわたくしは邪魔だった。彼は馬車の事故に見せかけて、わたくしを馬で蹴り殺した!」
「お母様……? お母様なの?」
続く女性の歌声に、リエリーは呆然と呟く。それが本当に母の声かどうかはどうでもいい。ただ、リエリーの耳にはそう聞こえてしまっていた。
「次に殺されたのは私。リエリーに愛される者は、たとえ父親でも許せない。彼は私をしこたま酔わせ、石畳へと突き飛ばした!」
ラスティアは徐々にメルゼーニ子爵とリエリーの席に近づいていく。宙に咲く白いユリはだんだん黒く染まっていった。
「次に殺されたのはわたし達。リエリーを憎むように仕向けられ、彼女を孤独にさせてしまった。用が済んだわたし達を、彼は自殺に追い込んだ……」
手を取り合う男女の骸骨は夫婦だろうか。リエリーは信じられないものを見るような目で、隣に座る婚約者を見ている。
「誰も耳を貸すな! これは悪質な嫌がらせだ!」
「最後に殺されたのはわたし達! リエリーへの異常な愛着、告発しようとしたけれど! 彼はわたし達を永遠に黙らせた!」
メルゼーニ子爵は喚いたが、メイド服の少女達の歌をかき消すには程遠い。子爵が喚くたびに、メイド達は金切り声を上げながらぐるぐると回る。まるで生前に握り潰された声の分を聞かせようとしているかのようだった。
「メルゼーニ子爵!」
「メルゼーニ子爵!」
「メルゼーニ子爵!」
血塗れた殺人者の名前を叫ぶ屍達のコーラスを背に、ラスティアは子爵とリエリーの前に踊り出た。大量の黒いユリがいっせいに咲き誇る。
「リエリー様、貴方の呪いは造られたものです。貴方をなんとしても手に入れようとする、悪魔のごとき男の手によって!」
ラスティアは手をリエリーに差し出した。招待客達は固唾を飲んで見守っている。
「ハルク様。これは本当のことですか?」
「そんなわけがないだろう!? 私の目を見てくれ、君をこれまで守ってきた王子様が誰か思い出すんだ! そんな疑念はたちまち消え去るはずだぞ!」
「守ってきた? 幼いリエリー様を見初めてゆっくり飼い慣らし、満足に食事も与えないまま成長を阻害させて子供の姿と心を保たせることを、守ると呼ぶのですか?」
ラスティアは鼻で笑った。招待客達がざわめく。子爵の額に脂汗がにじんだ。
「貴方がどんな貴婦人達にも冷たく当たるのは、妙齢の女性がお嫌いだからではありませんか? いやはや、社交界で人気の氷像の貴公子が、よもや童女を囲って洗脳し、自分に都合のいいお人形にしているだなどと、彼女達も思いますまい!」
リエリーは目の前にあったオレンジジュースのグラスを掴む。ワイングラスが並ぶ中、唯一用意されていた甘酸っぱいそのジュースはリエリーの喉を潤さない。
ジュースまみれでベタベタになって呆然とする子爵をよそに、リエリーはラスティアの手を取って彼の胸に飛び込んだ。
「ハルク様! あなたのこと、優しいおじさまだって信じていたのに!」
偽物の“王子様”が二人、“お姫様”も偽物が一人。
嘘つきが勝手に書いたエンドの文字は、もう一人の嘘つきによって塗りつぶされた。悪い魔法から解放された少女は、やっと地に足をつけて自分の言葉を紡ぐことができる。
「おっ……おじさま……?」
「あなたはこれまで親切にしてくださったから、わたくしだってあなたから何をされても受け入れていたのよ。どんな気持ち悪いことも、わたくしへの罰なんだと思ったわ」
「気持ち悪い……罰……」
「何も考えずにあなたに従っていれば、罪悪感をごまかせる。あなたに褒められるたびに、わたくしの罪が許されたような気がしたの。……だけど本当は、あなたが全部仕組んだことだったのね。最っ低!」
リエリーはありったけの怒りを込めて子爵を睨む。何故か弱々しくうめく子爵は、太陽にさらされて溶けていく雪だるまのようだ。
「仕方なかったんだ……リエリーは私のものなのに、やっと見つけた理想のお姫様なのに、邪魔する奴らがいけないだろう……? だから殺してやったんだ……」
頭をかきむしりながら情念で濁った目でリエリーを見つめる子爵の姿には、曲がりなりにも称えられていた美貌すら見る影もない。肉欲に囚われた穢らわしい悪魔がそこにいた。
「私は、リエリーが醜く成長してお姫様でなくなる前に、私の手で守りたかっただけなのに……生きたまま永遠にお姫様でいさせてあげられる……私の夢を叶えたかった……」
子爵はぶつぶつと呟いている。吐露される異常な性癖に、招待客達の失望と幻滅の声があちこちから聞こえた。
「あの日リエリーも、私のお嫁さんになりたいと言ってくれた……だから、だから私は……」
「それは、幼い子供のままごと遊びの延長ではありませんか? いい大人が真に受けるなどみっともない。大人がすべきは子供を正しい道へと導くことで、貴方のように子供を自分に都合のいいよう歪めるなどもってのほかですよ」
軽蔑に満ちたラスティアの言葉に、招待客達も口々に同意を示す。
この場にいるのは宮廷の重鎮、そしてトラステ家の影響の外にある有力貴族。メルゼーニ子爵の両親である公爵夫妻ですら、今日の騒動は揉み消せない。
「支配することは愛ではない。貴方はリエリー様を、自分の欲望のはけ口にしていただけだ」
「メルゼーニ子爵、あなたを信じたわたくしが愚かだったわ。あなたは最初から、優しいおじさまではなかったのね。優しいおじさまのふりをしたおぞましい悪魔だということに、もっと早く気づけていたら……」
ラスティアがパチンと指を鳴らすと、無言の死者達がよろめきながらもメルゼーニ子爵に群がる。手足を引っ張られてもみくちゃになりながら、子爵は恐怖で泡を吹いて意識を失った。
「宮中に巣食う色欲の悪魔は正体を暴かれました。皆様方の大切なご令嬢やご令孫がその毒牙にかかることはないでしょう。この安寧が末永く続くよう、皆様方におかれましてはなにとぞ賢明なご判断を」
リエリーを好奇の目から庇いつつ、ラスティアは気障ったらしく一礼する。若き国王の拍手が呼び水となり、他の招待客達もラスティアに喝采を浴びせた。
*
メルゼーニ子爵が捕縛され、招待客も次々と帰っていく。ラスティアは人知れずにある貴人の馬車に乗り込んでいた。
「今回の視察も何事もなく終わるかと思っていたが、まさかトラステ家の失脚につながるとはな」
「貴方も犯罪者を宮廷で大きな顔をさせたくはないでしょう?」
ラスティアの本当の主人──若き国王は重々しく頷いた。
「ハリボテの権威しか持たぬ余のことを、貴族達は表向き敬っているが裏では何を考えているかわからぬからな。これからもそなたには貴族達の懐に潜入して、国への二心がないか調査してもらうぞ。無論、市井での民の本当の暮らしぶりもな」
「お可哀想な国王陛下。流浪の道化師一人しか頼れないとは。仕方ありませんから、報酬分の仕事はしましょう」
ラスティアがくすくす笑うと、国王は呆れたように肩をすくめるが、すぐにふっと微笑んだ。
三年前、先王の急な崩御によって齢十五で即位した王は、実権を王太后や貴族院に握られていた。
その現状を憂いた彼は、万が一にも佞臣の息のかかっていない自分だけの忠実な耳目にして手足を欲するようになる。
選ばれたのが、王侯貴族に取り入っても違和感のない人気の道化師ラスティアだ。
ちょうど一座を追われて根無し草になっていたラスティアは、この一つ年上の国王をパトロンとした。それから三年間、自由に動けない彼の代わりに国中の様子を見て回っている。
「国が荒めば民の心も荒んでしまう。そうなれば人が求める娯楽はより血生臭く、より悪趣味になり、人は嘲笑を糧にする。それは私の望むものではありません。世を乱す悪徳貴族の芽は私が摘み取っておきますから、貴方にはぜひ善政を敷いていただかねば」
「今日の演目はかなり悪趣味な部類だったと思うが?」
「それだけ相手が悪趣味だったもので」
ラスティアは悪びれない。国王はため息をついた。
「まったく。どうやって死者達を蘇らせたのだ?」
「下級使用人の皆さんに協力してもらっただけですよ。作り物の骨だけを外に出して、大きな衣装の中では何人かで肩車して動いてもらっていたんです。あとは私が声を使い分けて、腹話術の要領で話していました」
下級使用人は子爵の悪事に加担していない。共犯を疑われたくない彼らは、ラスティアの説得に簡単に乗った。
「ならば、子爵の悪事をどうやって見抜いた?」
「私、呪いなんてものは最初から信じていませんから。子爵は家の力を使って犯行を巧妙に隠蔽していたので、状況証拠しか集められませんでしたが……きな臭いネタがあれば、自由に推理できますとも」
「つまりハッタリというわけか。とんだ大嘘つきだな。子爵が罪を認めなかったらどうしていたのだ」
「認めなくても成立しますよ。なんなら冤罪だろうとね。ラスティエリカの二つの顔が見たいほうしか見えないように、人は自分の信じたいことしか信じない。トラステ家の足を引っ張りたい方は、あの場に多くいたでしょう?」
パントマイムの要領で銃殺されたふりをしたラスティアは、捜索する執事の目をかいくぐりながら予定していた演目の準備に奔走した。
人を楽しませたい。愉快な口上で笑わせたい。
その信条を曲げてまでラスティアが今日の“交霊会”を催したのは。
メルゼーニ子爵のせいで本当の笑顔を奪われて、幸せになる権利を封じられたリエリーのためだった。
(どうせ私は嘘つきだ。タチの悪い嘘の一つや二つ、今さら躊躇するものか。それであの子が自由になれるなら安いものさ)
後見人が罪人として連行されたリエリーは、いったん宮廷の保護下に収まることになった。当然メルゼーニ子爵との婚約も解消されている。
これまでは事故で片付けられてきた、リエリーの周囲で起きた不審死は、国王の名において再捜査が始まることになるだろう。
幼い少女を手籠めにした罪、そして連続殺人の罪でメルゼーニ子爵に鞭打ちと断種が言い渡されるのは確実と言っていい。危険人物を世に出すな、と反トラステ家の勢力が騒げば終身刑も考えられる。殺人の隠蔽に加担した上級使用人や公爵夫妻にも、相応の罰が与えられるはずだ。
「これからも頼むぞ、ラスティア」
「なんなりと、国王陛下」
ラスティアは正義の味方を名乗るつもりなど毛頭ない。
彼は魔法使いの王子を名乗って社交界を渡り歩く、ただの嘘つきなのだから。
*
「リエリー、慰問の旅芸人さんがいらっしゃったわよ」
「はぁい、マザー! さあみんな、中庭に行きましょう」
先導するリエリーに、幼く可愛らしいいくつもの声が元気いっぱいに返事をする。
救貧院と孤児院の併設された修道院が、今のリエリーの新しい家だ。
ここで仕事の手伝いをしながら暮らすリエリーは、亡くなった大切な人達の魂に少しでも安らぎをもたらすために神に祈りを捧げていた。
リエリーがメルゼーニ子爵から解放されて二年が経った。子爵には終身刑が下されていて、誰も彼への恩赦を願わない。リエリーがメルゼーニ子爵の影に怯えることは二度となかった。
修道院での暮らしもすっかり馴染み、小柄ながらも勤勉な働き者として周囲からも信頼されている。リエリーの過去を知る人のいないこの場所は、リエリーにとっても過ごしやすかった。
三ヶ月に一度、この修道院には道化師がボランティアでやってくる。救貧院の人々も孤児院の子供達も、みんなが楽しみにしている時間だ。
「来てくれてありがとう、ラスティア」
「娯楽はあらゆる人のためのもの。私の魔法を楽しんでくれる方がいらっしゃるのなら、どこにでも飛んでいきますよ」
たった一人でサーカスの一座も顔負けの演目を見せてくれる道化師ラスティアは、気取った仕草で赤いバラの花束をリエリーに差し出した。
「でも、いつも無償というのは申し訳ないでしょう? だから、子供達と一緒にお礼を用意したの。この前、みんなでどんぐりをたくさん拾ったことを書いたの、覚えてる?」
「ええ。貴方からいただいた手紙はすべて、一言一句違えずに諳んじられますとも」
丁寧にトゲの抜かれた花束を、リエリーは愛おしげに抱きしめる。かぐわしいバラの香りがリエリーの鼻腔をくすぐった。
「そのどんぐりで、大きなケーキを焼いたのよ。あなたの夢の大きさにはまだ届かないけど、食べきる練習にはちょうどいいでしょう?」
「素晴らしい! では後ほどみんなでいただきましょう。もちろん貴方も一緒に」
ラスティアが茶目っ気たっぷりにウインクすると、リエリーはクスクスと笑った。
「そういえば、最近やっと寄宿学校を作る目処が立ったんです。この修道院のすぐ近くで、土地とお屋敷が安く売りに出されまして」
「モッダー男爵のカントリーハウスかしら。別の地方にお屋敷を買ったから、今のカントリーハウスは手放すとおっしゃっていたもの」
親切な隣人としてよく寄付してくれた気のいい男爵夫妻との別れは残念だが、残ったお屋敷をラスティアが所有するなら安心できる。
「魔法なら私が教えられますが、子供の扱いに長けた教師も必要で。貴方さえよければ、手伝っていただけませんか?」
「……あなたの夢に、わたくしがいてもいいのね?」
「もちろん。ゆくゆくは私にも、貴方の夢を叶えるお手伝いをさせていただきたいものです」
満面の笑みを浮かべ、リエリーは深く深く頷いた。