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08_セレナ(クローの恋バナ編)

「で、出来ました!やっと撃てました!」

「うんうん、おめでとう!」

『銃魔術』の練習を始めて3日目。

ようやく魔力の弾を撃つ事が出来ました。

…でも、イメージが悪かったのか、前にクロー君にお手本を見せてもらった程の威力は無いみたいです。

「いや、形になっただけでも上出来ですよ。焦らず焦らず。一旦、休憩にしましょう。」

そう言って、クロー君はお茶の入った入ったカップを差し出してくれます。

いつものように温かく、果汁が入っているためか、甘みと酸味が心地よい、私のお気に入りです。

「甘くて美味しいです。ありがとうございます。」

クロー君はいつものようにニコニコと応じてくれます。

まるで出会ったばかりの頃のように、二人きり。

でもあと数日したら、また前のように二人きりの時間は取り難くなるでしょうね。

本来、それで問題ないはずなのに、何故でしょうか?

とても残念に思う気持ちがあります。

いろいろと私の知らない事を教えてくれるクロー君。

でも、クロー君の事はあまり語らないんですよね。

…ちょっと踏み込んでみましょう。

「クロー君。ちょっと雑談しても良いですか?」

「はい。構いませんよ。」

「じゃあ、クロー君の好きなタイプの女性像とかありますか?」

「えっ?う〜ん…。」

首を「こてっ」とする仕草も可愛いです。

「…外見だけで言えば、ヴェロニカさんです。本人にも言ってます。」

えっ…?!

あ、あれ?

「い、意外ですね。性格面の話が出るかと思ったのですが…。」

「…正直、どんな方が好みとか分からないんですよね。ヒトを裏切ったり、傷付けたり、物を盗んだり、ヒトを罵倒したりして、そんな事をしても平然としている方は、さすがに遠慮したいですけど。」

そんなの、誰だって嫌だと思うのですけど…。

もっと「こう言う性格のヒトが好き」的なものは無いんですかね?

「う〜ん、でもヒトそれぞれ特徴も短所もありますから。僕なんかとお付き合いしていただけるような奇特な方に、注文付けるなんておこがましいですよ。」

…なんだか色々と意外な事ばかりです。

クロー君って、自己評価が低いのではないでしょうか?

剣も振るえて、治癒の腕前は大司祭様並かそれ以上、魔術に関しては賢者レベル(ヴェロニカさん談)なんて、引く手あまたで選びたい放題でしょうに…。

「…じゃあ、好きな人とかは居ますか?」

「う〜ん…、セレナさん──」


えっっっっ?!


「──と、ヴェロニカさん、あとリックも好きですよ。」

な、な、なんだ。

早とちりでドキッとしてしまいました。

「あ、あのそう言うので無く、…いえ、嬉しいですけれど。もっと、恋愛的な意味で…。」

「じゃあ、ルミですね。」

あっさり名前が出ました?!

「…ルミさん、とはお付きのメイドさんのお名前ですよね?」

「ええ。生まれた時からずっと一緒で、母親や姉のようなヒトでもあるんですが、女性としても魅力的だと思ってるんですよ。」

「…でも、その方にはもう恋人さんがいらっしゃるのですよね?」

「そう。真面目で誠実で、おまけに鬼の様に強い剣の達人です。カイルさんなら安心してルミを任せられると思って、旅に出れたんですよね。」

嬉しそうに語るクロー君。

でも、何か違和感を感じました。

「あの、普通は好きなヒトは誰にも渡したく無いと思うのではないですか?好きなヒトに素敵な彼氏さんが出来たと喜ぶのでは無く、悔しい気持ちになるのではないですか?」

「う〜ん…。」

クロー君が不思議そうな表情で、顔を「こてっ」と傾けました。

先程と同じ仕草のはずなのに、何故でしょう、今は不安を感じてしまいます。

「…大切なヒトが幸せになれるなら、それが一番じゃないですか?別に僕なんかじゃなくとも…。でも、悔しい気持ちも有ることは有りますよ?」

そう思えるのは大切な事だと思います。

でも、そうやってヒトの幸せばかりを考えるのは、クロー君自身の幸せを蔑ろにする事になりませんか?

私はクロー君に幸せになってもらいたいのですが…。

「そうですね…。僕なんかを好きになってくれる、奇特な方が居れば考えますけど…。」

そう言ってクロー君は、困ったような顔で笑いました。

クロー君の家族関係が良好なもので無かった事は聞いています。

クロー君は平気そうな顔をしていますが、どこかで苦しんでいたのではないかと思うのです。

こんなになんでも出来るようになったのに、それでも「自分なんて」と考える程に…。

「クロー君!」

「は、はいっ?!」

「私はクロー君の味方ですからね?ヴェロニカさんとの事も協力しますし、相談にも乗ります!なんなら、練習が必要な事があれば、私を相手に練習してもらっても構いませんから!」

私も異性とお付き合いした経験は無いですが、クロー君のためならどんな事でもしてあげたいです。

「セ、セレナさん落ち着いて。分かりましたからっ。」

気付いたらクロー君の顔に思いっきり近付いて話していました、はしたない!

「す、すみませんっ!」

「いえ。…でも、ヴェロニカさんとの事は相手もある事なので、無理してどうこうしたいとは考えて無いんです。」

「…はい。」

あくまで積極的に行動する気は無い、という事でしょうか。

私が思うに、ヴェロニカさんってもう十分にクロー君の事が好きだと思うのですが。

…まあ、互いに想い合っているなら、いずれそうなるでしょう。

なら、私の役割はそれを見守り、時には助け舟を出す事ですかね?


……ん?


なにか、…あれ?

…胸が波立つような?

いえ、別に体は健康だと思います。

…それなら、気持ち的な問題という事になっちゃうんですが?

「どうかしましたか?」

私が黙り込むので、クロー君が心配して声を掛けてくれました。

「い、いえ、大丈夫です!」

な、何か話題を!

「そ、そう言えば、例えば私なんかはどうですか?好みという話で私の事は挙げてくれませんでしたね?」

「えっ……。」

「えっ?!」


…………ズキッ!


「うう、傷付きました…。」

「いや、違うんですよ!」

何が違うんですか?

今、明らかに「マズい!」って顔をしましたよね?

「弁解させて下さい。別にセレナさんを魅力的と思っていない訳じゃ無いんです。ただ──」

ただ?

「──セレナさんって、細すぎると思うんですよ。なんか、心配になってしまって、好み云々と言う以前の問題と言うか…。」


ガーーーンッ!!


ち、ちょっと、…いえ、かなりショックです!

自分でも体が細い自覚はあったんです。

でも、心配される程のものとは、そして「好み云々以前の問題」とまで言われてしまうなんて!

「ど、どうしたら良いのでしょうか、私?心配される程とは思ってなくて…。」

「え〜っと、実は既にちょっとずつは改善してきてはいるんですよ。」

「えっ?」

「単純です。ちゃんと食べて、体を動かす、これだけで良くなる話なんですよ。出会ってから毎日、お肉の入った料理を出してますし、毎日のように長い距離を歩いてますから。さすがに筋肉量も少ないような細すぎる体は、不健康だと思いますからね。」

教会にいた頃はあまり外に出たりしませんでしたし、食べる量も食事の内容も質素でした。

それで何の不満も無かったのですか、結果、不健康に思われるほどの体になっていたのですか…。

「別に本人が望んで細身でいるのなら、何も言いません。でも、「細過ぎる」のはパーティメンバとして許容出来かねます。せっかくだからちゃんと言いますが、せめて、不健康そうで無い程度には改善していきましょう。勿論、僕も手伝います。」

そう力説されると、何も言い返せません。

私は望んでこの体型で居た訳でも無いですし、それが心配される程と言うなら、素直に改善したいと思います。

「…そうすれば、ヴェロニカさんくらいの体型になれば、少しは私の事も恋人候補として見れるようになりますか?」

「えっ?こ、恋……?」

「私の事が好みかどうか、を考えられるようになるんですよね?」

「そ、そうですね…。」

「分かりました!やります!ちゃんと食べて、体も動かして、クロー君の好みに近付けるように、頑張ります!」

「あ、あれ?そんな話でしたっけ?」

最後にまた頭を「こてっ」と傾けるクロー君は、やっぱり可愛らしいのでした。


「…ちなみに今更ですが、空き地でこんなに騒いだり、魔術の練習をしたりしてるのに、通り掛かるヒトは誰一人、気にした様子が無いのはおかしい気がするのですが?」

「ああ。それは『人避け』の魔術を使っているからですね。」

「へぇ、そんな魔術があるのですね?!」

「ええ。…ふふっ。」

「あれ?私、何か変な事言いましたか?」

「いいえ、ごめんなさい。ちょっと、昔の事を思い出したんです。僕も師匠に同じ事を聞いたなって…。」

クロー君のお師匠様ですか、きっと聡明で立派な方なのでしょうね。

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