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07_セレナ(秘密の特訓編)

昨日は驚きでした。

まさか魔族さんとお会いするなんて、思いもしませんでした。

ただ、ご本人に聞いたわけでは無いので、推測に過ぎないのですが。

クロー君の言う通り、私が何かされた訳ではないので、悪くは言いたく無いです。


さて、今日から「ピーカ・ベアー」の素材を売ったお金が入るまでの数日、この町に留まる事になりました。

また、ヴェロニカさんに魔術を習う事になりそうです。

ヴェロニカさん、正直まだちょっとだけ緊張してしまいます。

とても綺麗で格好良く、その上、知的でユーモアもある素敵な女性です。

ただ、綺麗過ぎて気後れしてしまうんですよね。

本当に申し訳ないと思うのですが。


「皆、ちょっと聞いてもらって良い?」

朝の体操の後、クロー君が声を掛けて来ました。

「ん?どうした、クロー?」

「ちょっと、この町にいる間は組を替えてもらって良い?僕とセレナさん、リックとヴェロニカさんで。」

「えっ?」

驚きました。

クロー君からご指名されました。

「…理由を聞いても良いか?」

あ、ヴェロニカさん、ちょっと不機嫌になってます。

「えっと…、昨日、狩りに行った時に思ったのが、セレナさんの攻撃力不足です。…まあ、分かってはいた事なんですが。なので、僕の秘伝の攻撃魔術を一つお教えしようと思いまして。」

「「攻撃魔術?!」」

クロー君の言葉に、思わずヴェロニカさんとハモってしまいました。

「なんだ、お前にしては珍しく隠そうとするのか?」

「はい。ちょっと広めたくない類いの魔術なので。」

「…危険なのか?」

「使用する分には、難しく無いと思いますよ。…難しく無いのに、簡単に攻撃力を上げられるから、広めたくないんです。」

「…道理だな、分かった。じゃあワタシは、リックに読み書き・計算を教えれば良いのか?」

「はい、お願いします。…リック!」

「はいっす?!」

「二人きりだからって、ヴェロニカさんに変な事したら、ぶっコロがすからね?」

「ひっ?!し、しねぇっす、そんな怖い事!!」

「うん。リックの事は信じてるけど、一応ね?」


にっこり!


…なんでしょう、偶にクロー君は怖い事を言うんですよね。

いつもの可愛らしい笑顔のはずなのに、凄みがあります。

「…セレナさんはそれで良い?話も聞かずに進めちゃったけど。」

「あ、はい。確かに攻撃力不足は課題だったので。それが補えるなら、頑張ります!」

そう、課題でした。

森で狩りをする時、魔物に襲われた時など、冒険者として生きて行くなら、最低限の自衛は出来ねばなりません。

ですが、そのための攻撃力が私には無いのです。

使い易いメイスをいただきましたが、私が持てる物では大した効果は望めません。

身近で最も遭遇する可能性の高い人型の魔物、ゴブリンにすら一対一では勝てないでしょう。

だから魔術を覚えるのだと言われると、納得出来ます。

私もせめて自分の身は自分で守れるよう、皆さんのお荷物にならないように、頑張ります。


**********


ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ!


「…っ?!」

「──と、まあこの位の威力の魔力玉を5連射出来る。確認してみて。」

私は促されるままに、宿屋近くの手頃な空き地に転がってた大きめの石を見ました。

すべて穴が空いているか、当たった所から欠けてしまっています。

「あの、これがヒトに当たったら…?」

「体に穴が空きますね。頭に当たれば即死、外れても相手の行動に制限くらい掛けられるでしょう。鉄鎧は無理でも、革鎧なら貫通も出来ます。」


こ、怖すぎますっ!


「大丈夫ですよ。使い方は簡単ですし、そもそも緊急時しか使わなくてよいですから──、そうだ!言って無かった!」

「えっ?!な、何ですか?」

「この魔術は無闇に使わないで下さい。獲物や仕留める相手以外には、極力見せないようにして下さい。僕自身も、滅多な事ではコレを使わないんです。」

「それは分かりましたが、…理由を聞いても?」

「単純な話、コレを広めたく無いんです。コレは人殺しの道具ですから。」

ヒト…、えっ?!

「見ての通り、コレで出来るのはヒトを、魔物を、物を壊す事だけです。そんな魔術、本当なら使わずに居るのが一番なんです。」

「はぁ…。」

それはそうなのでしょうが、教えようとしてくれるクロー君が言うのは、違和感があります。

「…この魔術は、多分、五百年もしたら世界中に知れ渡っている事でしょう。僕が広めなくても、他の誰かが必ず考え広めてしまう。それは避けられない未来です。でも、だからってそれを僕らが助長する必要は無い。だから隠して欲しいのです。」

何か、壮大な話になってきました。

この危険な魔術が世界中で、なんて、本当にそんな事になるのでしょうか?

「なりますよ、確実に。…まあ、魔術として広まるか、道具として広まるかは分からないですけど。そしてその過程で、いろいろと悲劇が起こります。」

「…悲劇?」

「簡単に言うと、コレを持ってる軍が、持っていない軍や民間人を虐殺するんです。」

「ぎゃく……。」

「いつ、どこで、どうやって、と聞かれても僕には分かりませんが、確実にそんな事件がいつか起こります。…ヒトが存在し続ける限り、戦争が無くならないのと同じ理屈です。」

「……。」

「だから、そんな未来が僕らの生きている間には起きないようにするため、この魔術の事は隠し通して欲しいんです。」

「そんな、…そんなの私に教えなければ良い話じゃないですか?!」

あまりの重い話に、思わず声を荒げてしまいました。

「まあ、そう言われてしまうと身も蓋も無いんですが…。僕からすると、未来で見知らぬ人々が死ぬ事になろうが、割とどうでも良いんです。ただ、気分が良くないだけで。だけど、コレを教えなかったせいでセレナさんが死んでしまったら、発狂するほど悲しむ自信がありますよ?」

「…っ?!へ〜、そ、そうですか?」

「そうですよ?」

うぅ…、そんな真っ直ぐ見詰められたら、何も言い返せないじゃないですか?!

「…分かりました、覚えます。でも、使う事は無いと思いますよ?」

「それで良いです。基本、セレナさんの事は僕が守りますから。ただ、「切り札を持っている」のと、そうでないのとでは、心の余裕が持てるかが変わってくると思うんですよ。」

「よ、余裕ですか…。」

…表面上、平静を装えているでしょうか?

内心ドキッ、としました!

「セレナさんの事は僕が守りますから。」

これ、そんなにサラッと言う事でしょうか?

……そうなんでしょう、意識し過ぎです私。

「「いざとなったら自分も戦える」なら、「一方的に守ってもらう」だけの、ただハラハラするだけの状況よりも主導的に考える事ができますからね。」

「わ、分かりました。頑張ります。」

正直に言うと、最後、クロー君の言葉は耳を素通りしていました。


なにはともあれ、これから数日、クロー君と二人きりの時間が取れる事が嬉しかったです。

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