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06_遭遇(後編)

「魔族、って「北の山脈」の先にある魔王国の住人、と言う意味のですよね?」

町への帰り道、僕はヴェロニカに確認した。

「そうだ。あのフードの男を見たろう?あれは明らかに魔族系の獣人だ。…よく見ると他の二人も人族とは魔力の感じも違ったしな。」

そんな事、全然分からなかった。

いや、それより──

「あの、魔族系の獣人ってなんすか?」

そうそれ!

リックも疑問に思ったようだ。

「大昔、ヒトと魔族が争った際に魔族側に着いた獣人種のことさ。今では、そういった種は魔王国にしか居ないから、なかなか珍しいかもな。」

「でも、ヴェロニカさんはすぐに分かったみたいですが、判別方法があるんですか?」

セレナさんも気になったのか聞いてくる。

「じゃあ、ちょっと説明するか──」


まず、ヒトの側に着いたのが、犬獣人、狼獣人、猫獣人、獅子獣人だ。

そして魔族側に着いた獣人は、それ以外の獣人ほぼすべてだ。

例外というか、中立の立場を貫いたのが狐獣人だが、これも現在ではレアな種で、見かける事は無いだろう。

あと、獣人とはちょっと違うが、鬼人族もヒト側とされている。

これがちょっとややこしいんだが、鬼人族と魔族系の獣人の一部は頭部に角を生やしている。

判別方法は、額から角を生やしてるのが鬼人族で、頭部の横から角を生やしてるのが牛獣人や羊獣人といった、魔族系の獣人だ。


「──あのフードの男は、フードの形から頭部の横から角を生やしていたように見えた。だから、魔族系の獣人と思ったのさ。」

「なるほど。…と言うか、鬼人族なんて居るんですね?知らなかった。」

「鬼人族もレア種族だからなぁ。人族中心のカダー王国では、特に話にも挙がらないだろうからな。」

「へぇ…。ついでに聞いてみたいんですけど?」

「ん?なんだ?」

「鬼人族って、オーガとは違うんですか?あと、ヒトを「鬼」と表現する事があると思うんですけど、それも別ですよね?」

カイルさんの二つ名が「鬼」なので、ちょっと気になってしまった。

「「鬼」は抽象的な概念だから、実在の存在とは別だな。オーガは「鬼」のイメージに近い生き物だけど、魔力核を持つ、れっきとした魔物だ。一方、鬼人族は魔力核を持たない亜人種だ。…ま、確かに紛らわしいよな。」

「へぇ。確かにカダーに居たら聞けないばかりですね。」

それで今まで見てきた獣人さん達には偏りがあったのか。

カダー王国では獣人を全然見なかった。

でもそれは、獣人にとって住みにくい国、という事だったのかも知れない。

そう考えると何だかカダー王国が、人族ばかりを優遇する差別国家のように思えてくるかも。

他の国を知り、自分の故郷のおかしい所を知る。

これも旅の醍醐味なのかもね。


「魔族って、怖いイメージしか無かったっすけど、割と普通っすね。」

「あの。フードの方はともかく、他のお二方も魔族だったんでしょうか?どう見ても人族の様に見えたのですが?」

話に区切りがついたタイミングで、セレナさんが疑問を口にした。

「そーだな…。魔族の大半は人族と容姿が変わらんらしいぞ。特に「北の山脈」を越えてヒトの側の国に潜入して来るような者達だ、人族と容姿に差が無い者が選ばれたのではないかな?」

「…となると、なおさらあのフードの男性、パジャさんみたいな方が潜入してるのはおかしいですねぇ?」

僕も気になる事を口にした。

「確かにな。…地位のある人物だから外せなかったのか、魔術師等の希少スキル持ちか、理由はそんなところだろうな。」

「そんな人材をわざわざヒト側の地域に潜入させるなんて、何か重要な役割りでもあるんですかね?」

「さあ?…そもそも、リプロノ国の動向を探るだけなら、ここから北の王都まで来れば済むはずだ。それなのに、さらに南のここいらまで来る、と言うことは──」

「コラペ王国やカダー王国への足がかりとしての拠点、みたいなものが在るのかも知れないですね。」

彼らの格好は普通の冒険者のようであった。

長旅で疲弊している感じも無かった。

まるで今朝、準備万端で人里から森に来たかのように。

と言うことは、おそらくこの近くに彼らの拠点があるものと思われる。


「「……。」」


僕の一言に皆は顔を見合わせる。

「…どうする?町の衛兵に伝えておくか?」

ヴェロニカさんが聞いてきた。

「いやぁ、良いんじゃないですか?「これ以上、詮索しない」って言っちゃいましたし。あの方達、悪いヒトに見えませんでしたし。」

「だからって、なぁ…。あの堅苦しい感じからすると、軍人のようだった。仮にそうだとしたら、本人がどれほと善人でも、軍の命令次第では非道な事もするだろう。」

「軍対軍という規模の話なら、それこそ僕ら如きが口を挟む事ではありませんよ。国土防衛はこの国の政をするヒト達の役目です。例え、僕らが何も伝えなかったせいで、この国が侵略されたとしても、たかだか4人のヒトの活躍なんかに頼らなきゃいけない国なんて、どの道、侵略されちゃいますって。」

「それは、まぁ、そうか…。」

「でしょう?」

ヴェロニカさんを説得した僕に、今度はセレナさんが問うてきた。

「…それにしても、随分と中立的なことをおっしゃるんですね?お相手は魔族なのに。」

「そりゃあ、大昔にヒトと魔族に何があったとしても、僕自身が何かされた訳では無いですし。例え僕の祖先を十代ほど遡ったとしても、魔族に危害を加えられたヒトなんて居ないでしょうしね。彼らを憎む理由がありませんよ。」

「そうですね。…その通りです。」

僕の答えに納得してくれたのか、セレナさんが頷く。

「言われてみると、確かに。彼らも相当な覚悟で、わざわざ「北の山脈」を越えて来たのだろうからな。その上、自身は何も悪い事をしていない者達から恨まれるのは、流石に同情してしまうな。」

「そうですよ。わざわざ人族側へ来るなんて…。」

「それもあるが、何より「北の山脈」を越える事が、至難な事だからな。」

「へっ?「北の山脈」って、そんなに険しい道のりなんですか?」

「いや、標高と地形からそこそこ険しい道だとは思うのだが、それ以上にあそこは山賊がひしめき合っている巣窟なんだよ。」

「ええっ?!」

「ん?知らなかったか?「北の山脈」はヒト側も魔族側も、それぞれの山賊が隙間なく縄張りを持っている。だから国の交易以外で入山する者は、必ず山賊に襲われる事になるんだ。この山賊は国が黙認していて対処される事は無い。何故ならこの山賊が、実質、互いの国の国防を担っているからだ。」


え〜〜〜?!


そんな殺伐とした所だったのか「北の山脈」?!

僕はもうちょっとこう、「アルプスの少女」の舞台のような牧歌的な雰囲気の名所だと思っていたのに。

まさかの山賊ひしめく、危険なスラム街のような所だったでござる。

…でも、前世世界でも国防のために海賊を黙認したり、後々、海軍として採用したり、って事はあったらしいから、あり得る話なのか。

「どうした?想像と違ったか?…もし目的地を変えるなら、私は構わないが。」

「う〜ん…。いえ、それはそれで見てみたいので行きましょう。でも、そこから魔王国まで、というのは…?」

「無理だぞ。」

ですよね〜。

ヴェロニカに食い気味に否定されてしまった。

「…いや、クローだけなら多少厳しくとも何とかなるかもしれない。ワタシと二人なら、かなり厳しい。そして、セレナとリックも連れてとなると、絶対に無理だ。…二人を捨て駒として放り逃げるつもりなら、まぁ、行けるかも──」

「しませんよ?!そんなこと!!」

僕も食い気味にヴェロニカに答える。

「──だよな。すまん、冗談だ。」

すまん、と言いつつヴェロニカは笑っている。

出会った頃に比べて、ヴェロニカはよく笑うようになった。

僕としてはそれが嬉しい。


「あ、町が見えて来たっすよ!」

「そうだね。…「ピーカ・ベアー」を2匹狩って来ちゃいましたけど、報酬二重取り出来ますかね?」

「そこまで高価な報酬じゃないし、始めから重複討伐ありだと思うけどな。…ダメでも素材が売れるから便利だよな。」

「…覚えたくなりました?この『収納』?」

「やめろっ!誘惑するんじゃないっ!」

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