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04_育成

う〜ん、失敗した。

確かに、いきなりカリキュラムを詰め込み過ぎてしまった。

ここらへん、効率厨だった社畜時代の感覚がモロに出てしまった。

考えてみれば今世の僕だって、前世の記憶が戻ってから3ヶ月くらいは、ゆっくり慣らしてから今リックがやってるようなカリキュラムに移行してった筈だ。

それをパーティに加わって早々にやらせちゃったら、そりゃあキッツいわ。

おまけにリックは孤児。

孤児の子達の動きがあまり活動的で無いことは、旧ホーンデップ領の孤児院の子達と触れ合って知ってた筈なのに。

まあ結局、リックが何故かやる気になってくれたから、そのままって事になったけども。


そもそも、何故、リックをパーティに加えたか。

いろいろ理由はあるけれど、一番は自分の代替となる者が居ないとパーティとして危険だと考えたからだ。

前世の会社で例えるなら、僕だけが仕事を抱え込み、スキルも他の人に共有・伝達しておかなかった場合、僕がちょっと体調を崩してしまったら、それだけで仕事が回らなくなってしまう。

体調に問題無くても、ちょっと有給を使いたいだけで、関係各所に事前に調整しておかないと休みさえ取れない。

そんなスキルの一極化を防ぐために、優秀な企業や組織では常に代替要員が用意されているものなのだ。

…ま、そこまで危機感持たなくちゃいけないわけでもないけど、代わりになってくれる者が居た方が何かと楽なのは確かだ。

特にウチでは前衛が僕ぐらいしか居なかった。

これはちょっと何とかしたい。

そのため、リックには剣術を教えている。

教えると言っても、僕だってゴトーさんやカイルさんに比べればまだ未熟なのだから、偉そうな事は言えないのだけど。

ただ型についてだけ言えば、剣術はちゃんと履修したし、格闘技系はそもそも前世でアホほど動画を見てたので、いくらでも教えられる。


あと、リックを入れたもう一つの理由が、パーティ構成が偏っていたためだ。

なにせ未成年の僕と、非力そうな司祭のセレナさん、そして怪しい格好のヴェロニカさん、という構成だったのだから傍から見れば異質だ。

そこにリックが加われば、冒険者パーティとしてはまだマシな見栄えになると思ったのだ。


では、何故リックだったのか?

単純に気に入っちゃったんだよね。

なにせ初対面の際、山賊のパワハラマックスの先輩5人に意見しちゃうんだもの、感心しちゃったよ。

どうしたって怒られる未来しか見えないのに、流されるので無く自分の意見を言えるなんて。

例えば前世の僕は、上司に対してそんな事を言えただろうか?

おかしいと思うことがあっても、スルーして事なかれで済ましていたかも知れない。

そんなリックだから期待しちゃったのかもね。


**********


さて、リックと出会って半月くらい。

路銀はまだまだ余裕があるけど、リックとセレナさんに冒険者としての経験を積んでもらうため、狩りのクエストを受けようかと思っている。

幸い、着いたばかりのこの町は山地が近い。

冒険者ギルドを覗けば、お誂え向けなクエストの一つや二つくらいあるだろう。

夏の暑さのピークは越えたとは言え、秋・冬までまだ時間はある。

この町にちょっと滞在する事にしよう。


この町の冒険者ギルドに行くと、割と多くの冒険者が居た。

ちょっと見渡すとドワーフらしき方もテーブルで仲間らと飲んでいるのが見えた。


リプロノ王国は永く北の魔王国、西の「魔獣の森」の脅威に悩まされ続けている国だ。

そもそもの国の成り立ちが、大昔、魔族を北の山脈から先まで追いやった勇士に国が与えられたのが始まりと言われている。

「国を与えられた」と言えば聞こえは良いが、要は緩衝帯である。

つまり「国として認めてやるから、魔族や魔獣対策はリプロノでやってね。」と言う訳だ。

そのため国教もコラペ王国とは若干違う。

基本的にはコラペと同じく、太陽神ゾマ・ファルベを主神とした多神教だ。

ただしリプロノ王国では、初代国王であった獅子獣人がゾマ・ファルベの化身である、と言う事になっている。

これにより、太陽神ゾマ・ファルベと初代国王、そして獅子神にして戦の神レーヴェが、すべて同じ存在と見なされている。

このリプロノの国教はゾマ・レーヴェ教と呼ばれる。

こうして主神が戦の神と同一存在とされたためか、リプロノでは「力こそ正義」、「力こそパワー」と言う風潮がある。

ただし、それで何世代にも渡って問題を起こしてきたこの国は、それを反省し規律・戒律を厳格に守る国へと成長した。

そんなマッチョで規律正しい国を住みやすいと思っているのが、ドワーフ族だ。

彼等は前世世界のマンガ・小説で読んだまんまの容姿・生態だった。

ある者は職人気質で無口で、そのくせ口うるさい。

ある者は陽気で酒と仲間をこよなく愛する。

口髭を生やし、ずんぐりむっくりの筋肉質な体格、それがドワーフ族だ。

このリプロノに入ってから毎日のように見かけるので、本当にこの国にはドワーフが多いのだろう。


余談だが、この国の王家レーヴェハーツ家は、現在、ほとんどが人族なのだが、ときおり先祖返りで獅子獣人の特徴を持って生まれる者がいるらしい。

そして、現国王の末の姫様にもその特徴が発現しているとか。

…見てみたい。

元より現在では、獅子獣人自体が非常にレアになってしまっている。

この先、リプロノの王都を通過するので、機会があればお会いしてみたいものだ。


まあそんな訳で、リプロノの冒険者ギルドに寄れば、十中八九、ドワーフ族を見掛ける事になる。

ただ、クエストを受けるのには関係が無いため、僕らは特に彼らに話し掛けるでもなく、ボードに貼られた依頼書から目ぼしいものが無いか物色する。

すると、一つ良さそうな依頼を見つけた。

「ピーカ・ベアー」と言う熊系の魔物の討伐依頼。

推奨クラスはCクラス、報酬額もまずまずだ。

もちろんセレナさんやリックに戦わせるのは厳しいので、狩りを行うのは僕かヴェロニカさんになると思うけど。

「うん、良いんじゃないか?ほどほどの脅威度で、魔物の怖さを知るのにも丁度良さそうだ。」

ヴェロニカさんに話すと、ちょっと意外な返しがあった。

「…この熊、そんなに危険な奴なんですか?」

依頼書からはそこまで危険そうには見えなかったけど。

「こいつは、よく見かける熊系の魔物よりも一回り大きい。加えて、体表の色を変化させて周りの色と同化してしまうんだ。」

へえ、保護色ってやつだ。

…それで危険って事は、ヒトを奇襲してくるのかな?

「そうだ。まあ、感知系の魔術を使ってれば、隠れているのはバレバレなんだけどな。」

そっか。

じゃあ僕らなら、それほど脅威でな無さそうだ。

「じゃあ、これ受けましょうか。」

皆、特に異論も無く、このクエストを受ける事になった。

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