02_リック(邂逅編)
「オ、オレの名前はリック、です。親は居なくて、町で、その、いろいろやって生きて来たっす。この山賊に引っ張られたのは3日前で、今日、初めて現場に連れて来られたっす。盗んだり、喧嘩はした事あるけど、殺しはまだやった事無いっす。」
怖い。
オレは3人の冒険者に囲まれ、自己紹介をさせられてる。
先輩達は殺された、と思う。
死んだはずの死体が消えてしまったので、痕跡が無いけど。
オレを囲んでる3人は、見た目は全然怖いと思う外見じゃない。
成人して無さそうな子供と、体の細そうな司祭、それと、全身を隠してる怪しい奴だ。
怪しい奴も、多分ガッチリした体格じゃない、だから先輩達もイケると思ったのだろう。
どうしてこんな事になったのだろう?
オレはちょっと前、3人に遭遇してからの事を思い返してみた。
**********
「おっ、獲物だぞ!」
先輩の一人がそう言った。
オレ達は街道を見張っていた。
山賊と言っても、別に通り掛かったヒトを手当り次第に襲うわけじゃない。
オレらは、オレを含めても6人。
それでこちらに被害がなく襲える旅人だけを襲うのだそうだ。
貴族や商会等の馬車は論外。必ず後から兵を向けられ、根こそぎ殺されるのだと言う。
行けるのはせいぜい個人の馬車や旅人。
それも、5、6人以上の組はこちらにも被害が出るので、襲わないそうだ。
オレが入ってから2日。
何台かの馬車を見送って、ついに先輩方のお眼鏡に叶う組が通り掛かってしまった。
オレも嫌なら逃げれば良いのに、何故、逃げなかったのか。
…逃げて町に戻っても、結局、何も生きて行くアテが無かったからな。
そうして仕方なく、オレは先輩達と共に3人組を囲んだ。
「何の用ですか?」
残りの二人を庇うようにリーダーの目の前に立った少年は、そう問い掛けて来た。
「おっ?ナイト様気取りかぁ?!」
「俺等は山賊だ!そっちのお嬢ちゃんに興味があるんだよ、ガキはすっこんでな!」
「よせよ。地味だかしっかりした顔付きしてるじゃねぇか。そのガキも売れそうだぜ?」
「……。」
先輩達が囃し立てると、少年は黙り込んでしまった。
強がっても子供だ、武器を持った大の大人が恐ろしいのだろう。
その時はそう思った。
「あ、あのっ!流石に子供は可愛想っすよ。見逃してあげましょうよ。」
オレは咄嗟に言ってしまった。
初めての襲撃に、動揺していたのは確かだ。
だがそんなオレに、当然、先輩達は怒る。
「ああっ?!なに言ってんだ?そうやってこのガキを見逃して、万が一、町まで行き着いて兵士に出てこられたら、俺等は終わりなんだぞ?!山賊が偽善者ぶってるんじゃねぇよっ!」
ドンッ!
「うわっ!」
オレは蹴られ、尻もちをついてしまった。
「……。」
その時、こちらをじっと見つめた少年の目が、やけに印象的だった。
「…ねぇ、オジサン。考え直す気は無い?今なら手加減してあげるけど?」
オレ達の遣り取りを見ていた少年が、そこで声を掛けてきた。
「「……。」」
一瞬、先輩達は沈黙した。
その後──
ガッハッハ!!
ゲラゲラゲラ!
先輩達は大爆笑した。
「丸腰のガキのくせに、口だけは一丁前か?!手加減なんか要らねぇよ!やれるもんならやってみろ!」
そう言ってリーダーは、少年に向けて顔を突き出し笑った。
「あそ…。」
トットットッ…。
少年はそのままリーダーに向かって数歩、歩み出た。
相変わらず手には何も持っていない。
武器を服に隠している様子も無かった。
「なんd──」
バシュ!
少年が無造作に手を振ると、リーダーの喉から鮮血が吹き出した。
ドサッ!
「カヒュッ。」
リーダーはそのまま倒れ、その際に喉からそんな音が漏れた。
気付けば少年の手には剣鉈のような得物が握られている。
ザムッ!!
「う゛わぁっ?!」
少年は、リーダーの隣りにいた呆気にとられている先輩にも襲いかかった。
その先輩も喉から血を垂らして、その場にうずくまる。
「ヴェロニカさん、セレナさんをよろしく。」
「ああ、分かってる。」
見ると、怪しい格好をした方が司祭の後ろに周り、司祭の両目を塞ぐようにしていた。
「あ、あのっ。何が?」
「いいから、気にするな。すぐ終わる。」
司祭の方は状況が分からないようだが、怪しい奴の言う通り、事はすぐに終わった。
一方的だった。
状況が分かってから先輩達も構えたのに、まるで刃が立たなかった。
先輩達は5人とも殺された、と思う。
なんでハッキリしないのかと言うと、事が終わった後に少年が先輩達の体に触ると、先輩達の姿が消えてしまったからだ。
「片付けてくる。」
「いや、これはどうするんた?」
「これ」とは、きっとオレの事だろう。
「ん〜?たぶん逃げないでしょ。ま、逃がすくらいなら処分して良いですよ。」
「ん、分かった。」
軽い。
一応、成人してるオレをいつでも殺せる小動物か何かの様に会話している。
オレはもう、悔しいとかじゃ無く、ただただ恐ろしかった。
やがて、ボタボタボタッ、っという重たいものが何個も落ちるような音がして、少年が戻ってきた。
服は着替えたらしい、返り血が付いていない服になってる。
もちろんオレは、この間、抵抗などしていない。
「あいつらはどうした?」
「まとめて一箇所に捨ててきました。」
「…そか。」
そう言うと、怪しい奴は司祭の目から手をどけた。
「あの、彼等はどうしたのですか?」
マジかよ、この司祭?!
見てなかったにしても、悲鳴でどんな状況か分かるだろ?!
「逃げましたよ。彼以外、全員ね。」
少年がオレを見る。
…終わった。
この時は本気でそう思った。
「さて、じゃあキミにはまず、自己紹介でもしてもらおうかな?」
「……へっ?」
**********
そう、そして自己紹介をさせられ、現在に至る。
「じゃあ、まず聞きたいんだけど、僕が憎い?お仲間にあんな事をしちゃったけど?」
少年が質問して来た。
「いや、別に…。人手がないからって、無理矢理引っ張り込まれたし、ずっと山賊し続けたいって思ってた訳じゃ無いっす。山賊をするくらいだから、やっぱ皆クズだったし。」
少年が何の意図でこんな事聞いて来るのか分からないけど、兎に角、オレは恐怖を抑えて声を出した。
こんな答えで良いのかとか、そんな事を考えられる余裕は無かった。
「じゃあ、アジトに捕らえてるヒトとか、残ってるヒトは居る?」
「…居ないと思うっすけど、でもオレ、まだ新入りなんで入口辺りまでしか入った事無くて…。」
「そっか。あ、あと、他に仲間とかいる?」
「いえっ、今日の6人で全員っす。」
「うんうん。じゃあ、最後の質問ね。」
「は、はい…。」
「僕らをそのアジトまで案内してくれる?そうしたら、君をウチのパーティのポーター(荷物持ち)として雇ってあげるよ。」
「…あ、の、それって断ったら…?」
「もちろん、仲間の所に行かせてあげるよ?好きな方を選んで良いからね。」
ニッコリ!
こ、怖い〜!!
何より、凄いこと言ってるのに笑顔な事が怖い!
な、なんなんだ、この少年?!
ってか、選択肢なんて無いじゃないか!
こうしてオレは、この得体の知れないパーティのポーターになってしまった。