20_ハンデスの町
「…確か、こっちだったよな?」
「そうですね。冒険者ギルドの近くだったから…。」
ヴェロニカの問いにクローが答える。
4人はお目当てのお店へ向かっている所だ。
(それにしても、やりたい事かぁ。旅に出てからは、あまり深く考えてなかったな。)
道すがら、クローは先程ヴェロニカに問われたことを思い出していた。
(ブレッド領で思ったように、この世界は治療術が進んでない。それを改善するために治療術師の学校みたいのを作れないかなぁ。…そもそも魔術の学校も無くちゃ駄目か?あと、ジンジャー領で食べたような、その地方独自のレシピを集められたら、もっと美味しい物が気軽に食べられるようになるかも知れない。そしたら、それが巡り巡ってルミ達にまで届くかも…。)
色々なことに考えを巡らせていたクローの目に、ふとギルドの看板が映った。
「あっ!そうだ、売りたい素材があるんだった。…ちょっと先に行ってて下さい。ちゃちゃっと売って追い付きます。」
「ん、分かった。ワタシらは先に行っておくよ。」
クローの言葉をヴェロニカが了承する。
それを聞いたクローは3人から離れ、ギルドへ入って行った。
この町では、前に「ピーカ・ベアー」の討伐の際にクローの『収納』は見せているので、大きな騒ぎになる事は無いだろう。
ヴェロニカ達はそう判断し、先にお店へ向かう事にした。
ふにっ、ふにっ。
セレナの歩く距離が近いせいか、時たま胸がヴェロニカにあたってしまう。
「……。」
「ん?どうしました?」
「いや、なんと言うか、…セレナお前、肉づきが良くなったな。」
「ふぁっ?!」
「いや、良い事だと思うぞ?初めて会った頃は骨が浮き上がり過ぎだと思ったくらいだからな。だいたい、今だって全然太ってはいないからな。」
「そ、そうですか?確かに最近は、クロー君の料理が美味し過ぎて、ついつい何でもペロッと食べれちゃうんですけど。」
「あ〜…、美味いよな。しかもセレナは体も動かしてるからな。筋肉も付いて健康的になってるよ。…しかも胸まで、なぁ、リック?」
「の、ノーコメントでお願いするっす!」
「あはは──」
ふと、何かに気付いたように、ヴェロニカが足を止めた。
「どうしま──」
セレナがそれに気付き、声を掛けようとしたその時。
「ッ?!危ないっ!!」
ドッ!!
ヴェロニカが二人を突き飛ばした。
次の瞬間──
ドガンッ!!
二人とヴェロニカの間で爆発が起きた。
(いったい何が?!魔術?!)
直撃は免れたが、何が起こったか理解できず、砂埃で視界も利かないセレナの耳に、ヴェロニカの声が届く。
「セレナ!『空間把──」
(?!)
ヴェロニカの声は途中で途切れたが、言いたい事は伝わった。
セレナは『空間把握』を唱える。
「…ってて。いったい──」
ぐいっ!
未だに状況が飲み込めていないリックが立とうとするのを、セレナが後ろから止め、横にズラす。
「リック君、避けて!あと剣をっ!」
カッ!
セレナの声と同時に、先程までリックの頭があった空間をナイフが貫き、すぐ後ろの壁に突き刺さる。
「ッ?!」
ここでようやくリックも、これが何者かによる襲撃だと気付き、剣を抜いた。
「来ますっ!二人っ!」
リックの背後からセレナが指示する通り、砂埃の中から男が二人踏み込んで来た。
「うおっ?!」
カインッ!カインッ!キィン!
リックの剣が二人の男の剣を弾く。
クローとの練習の賜物か、辛うじてリックは二人の男の刃から逃れ、セレナを守る事が出来ている。
だが、多勢に無勢。
このまま続ければ、いずれ自分が押し切られる事は理解していた。
なのでリックは、相手が間合い取るのに合わせて、距離を取り時間稼ぎに徹していた。
(どうすれば?『銃魔術』を使う?でもあれだと、下手したらヴェロニカさんに当たってしまう…。)
一方、庇われているセレナも思考を巡らせていた。
『空間把握』を使っているセレナは、砂埃の先にも複数の人影があるのをハッキリと認識している。
しかし、セレナには戦いに参加する手段が無い。
いや、あるにはあるが、そもそも『銃魔術』はクローに軽々しく使わないように言われているし、何より自分がヒトを殺める可能性のある術を使う事に躊躇いがあった。
「なんだ、今の音はっ?!な、何してるっ、お前らっ?!」
膠着しかけたこの場に、見知らぬ誰かの声が聞こえた。
おそらく、先程の爆発音を聞きつけ、やってきた野次馬だろう。
ここはリプロノ、規律正しいマッチョが多く生息するお国柄。
駆けつけた男も筋肉質な体をしているようであった。
「おうい!誰かっ!こっちで乱闘だっ!」
「チッ!引くぞ、撤収だっ!」
男が仲間を呼ぼうとすると、リック達を襲った者達は撤収を始めた。
砂埃も収まってきており、奥に4、5人の男達がまだ居た事がリックにも分かった。
だが、その姿もすぐに裏路地に消えて行った。
「リック、セレナさん!どうしたの?!」
リックが駆け付けてくれた男性達に状況を説明していると、野次馬の中からクローが語り掛けて来た。
人集りが出来ている状態が気になり見たところ、リック達を見付けたらしい。
「クロー!ヴェロニカさんが、…拐われたっす!!」
「………はああぁぁぁぁぁっ?!」
クローの叫び声が、暮れかけたハンデスの町に響き渡った。




