15_閑話_リックの夜間哨戒
「おっ!出来たっす!!」
思ったより声が張っちゃって、慌てて口を抑えたっす。
今は「北の山脈」から王都シータンパピアまでの復路で、時間は真夜中。
オレらは交代で夜間の哨戒をしてるっす。
そして今はオレの番で、しばらくしたら次はクローの番っす。
まあ、クローの魔術結界があるんで、何かあったら騒いで皆を起こすだけの役割なんすけどね。
オレの目の前には、今、魔術で作ったばかりの灯りが光ってるっす。
シャクローの町と、復路の車内で魔術を教わってたんで、哨戒の間もずっと練習してたっす。
そして今やっと、生まれて初めて魔術が成功したっす!
嬉しい…。
何より明日、クローにこの事を話したら、クローも嬉しそうな顔をしてくれる、そう思えるのが嬉しいっす。
これまでは、失敗してどやされることはあっても、成功して褒められる事なんて無かったっすから。
…親御さんがちゃんと居る家の子は、みんなこんな感じを味わって生きて来れてるんすよね。
羨ましいっす。
オレはこれまで、普通の家の子は食べ物も着る服も有って羨ましい、って思ってたっす。
子供のオレにはソレしか認識出来なかったから…。
でもクローと会って、今は考えが変わったっす。
本当に羨ましがるべきなのは、ちゃんと物事を教えてもらえる事、成功したら褒められるって事、だったっす。
だから、ソレをくれるクローに出会えた事は、オレの人生で最高の幸運だったって確信出来るっす!
…クローだけじゃ無いっすね。
ヴェロニカさんやセレナさんも、オレなんかに優しく物事を教えてくれるっす。
ゴミ屑を見る目じゃ無く、ちゃんとヒトとして接してけれるっす。
そんな今の環境が本当に幸せっす。
…いや、嬉しがってるだけなんて、貰うばかりなんてダメっすね。
オレももっと色んな事を覚えて、クローの役に立てるようにならなくちゃ。
そのためには、まだまだクローに教わる事は多いっす。
ここまで旅をしてきて、なんとなく分かったんす。
クローは普通じゃ無い。
魔術師のヴェロニカさんが驚くような魔術を知っていたり、司祭であるセレナさんが師と仰ぐほど治癒術に精通していたり、商人であるナスバレイさんが知恵を借りたくなるほど物知りっす。
ああ、あと、剣術の腕では体格で勝るオレが勝てないし、料理も上手いっす。
…異常っすよね?
こんなクローの役に立てる事なんてあるんすかね?
…いや、いくらクローが凄くても、体は一つっす。
クローが他の事をやってる間に、何か別の事をオレがやっておく。
それが出来るなら、オレにも存在意義がありそうっす。
…クローの代わりをする?
………う〜ん、イメージはつかないし、どんだけ精進すればそう成れるのか、見当も付かないっすけど。
でも、やるっす!
分かんない事はクローに相談しながらやっていけば、絶対、達成出来るって信じてるっす。
ん…?
目印にした薪の燃え具合からして、そろそろ交代の時間っすね。
考え事をしてると、時間が経つのは早いっす。
クローを起こしに行かなくちゃ。
………。
「クローくん…むにゃ……。」
セレナさん、完全にクローに寄り掛かって、幸せそうな寝言を言ってるっす。
「クロー、おま…は…。」
ヴェロニカさんは、セレナさんの逆側からクローの腕を掴んでるっす。
寝言も、なんか怒り口調のような?
「…ゔ〜ん。」
…クローは、うなされてるっすね。
何っすかね?なんか、このまんまの未来を連想させる様子は?
………。
このままクローを起こすと、二人まで起こしそうっすね。
よし、このままもうちょっと哨戒を続けるっすかね!
「うう…、リック…。」
クロー、ごめん無理っす!
オレもこの二人は怖いっす!