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14_閑話_トレント養殖についての考察

「養殖をしている所は無いんですか?」

シャクローから王都へ帰る予定日前日の朝、クロー君から不意にそう言われました。

「養殖…とは、何に対してでしょうか?」

「あ、突然すみません。…いえ、僕らが狩ったトレントが、昨日、すべて売り切れたんです。」

知ってます。

私もだいぶ仕入れさせていただきました。

「こんなに早く素材か売れてしまうなんて思わなくて、驚きました。それで、それ程こぞって買い入れされる品なのであれば、養殖するもの有りなんじゃないかと思ったんですよ。」

「トレントの養殖ですか?!いえ、そんな事、聞いた事もありませんが…。」

「そうですか。…無理だと思います?例えば──」

ごそごそ…。

クロー君が何やら袋から取り出しました。

ヒトの頭ほどの大きさの赤黒い塊、これは──

「トレントの種、ですか?!」

「そうです。これを飼育し易い場所で羽化させて、大きくなったら狩れば、わざわざ何処にトレントが潜んで居るかも分からない森を探し回る必要は無くなるんじゃないか、と思ったんです。」

「そりゃあ、いつ、どこで素材が確保出来るか、おおよその時期が分かるようになれば、商売もし易くなるのは確かですが…。」

現状、いつ、どのくらいトレント材の供給があるかは、冒険者次第で予測も出来ません。

だから、素材が出回れば皆、我先にと素材を確保しようとする状態なのです。

「しかし、飼育し易い場所なんて、何処にあるんです?そもそも、魔物を飼育しているなんて、体面が悪いったら無いですよ?!」

「う〜ん、例えば崖の半ばで育てるとか。餌は魔物の解体等で出た余りをもらって、水と一緒に崖上か撒けば良いでしょうし。狩り頃になったらそれを止めて、弱った所を狩れば良いでしょう。」

「…そんなの、途中で逃げられるかも知れないじゃないですか?!」

「そうですけど、そもそもトレントはあの巨体ですよ?獲物を狩る際に、瞬発的に動く事は出来ても、長距離を移動したりは出来ないと考えてるんですよ。」

…なるほど。

確かに、トレントから逃げ延びたというのは、割とよく聞く話です。

トレントの巨体では、時間を掛けて長距離を移動するような事は出来ない、と考えるのは理に適っているように思えます。

「それに、移動せずとも満足の出来る量の餌があるなら、わざわざ移動しようなんて考え無いのでは?何よりトレントは「木」の魔物でしょう?頻繁に移動し歩き回る事を前提にした生態であるはずかありませんよ。」

そうですね。

十分な餌があるうちは動き回らない、と言うのは理解出来ました。

しかし収穫の際、弱っているとは言え、自分の命が掛かっているなら、さすがに動き回って逃げたり、場合によっては崖を登るくらいはするのではないですかね?

「それくらいはするでしょうね。だから、収穫時期には崖上と崖下それぞれに冒険者を配置して、崖上からはとにかくトレントを落とすように、崖下では落ちて来て弱ったトレントに止めを刺すように、準備しておかなくてはいけませんね。」

まあ、冒険者からしても、何処に潜んでいるかも知れないトレントを探して仕留めるよりは、何処に居るか分かって事前準備も十分に出来る状況の方が有利でしょう。

最悪の場合、どうしても危険な状況に陥ったら、火器の使用を許可すれば、どうにかなるかも知れません。

どうせ、普通の冒険者には、ほぼ完品のまま納入するような器用な真似なんて、ほぼ不可能なんですから。

そんな状態のトレントでも、採算はどうにか黒字には出来るでしょう。

それほどトレント材は魅力的な素材なのです。

「…う〜む。」

なんだか、こうして整理して考えると、行けるような気がしてきました。

あとは、流石に隠れて魔物を育てているのがバレると不味いので、試験的に実施する許可は取らなくてはいけませんね。

「あと、適切な崖が見当たらない場合は、堀で囲った場所でトレントを育てる手も有るかもですが、餌やりと収穫がちょっと難しくなると思うんですよね。」

なるほどなるほど、確かに言わんとする事も分かります。

堀を超えるほどの移動をするのは、トレントからすればかなりの負荷でしょう。

監視を徹底すれば、むざむざ逃がす事は無さそうに思えます。

「クロー君。この話、具体的な事を詰めたくなってきたので、もうちょっと話を聞いても良いですか?あと、そのトレントの種も譲ってもらえますか?」

「はい、大丈夫ですよ。この種も言い値でお譲りします。」

「言い値とはまた、困りますね。そこまで信用されてしまっては、買い叩くにも買い叩け無いじゃないですか。」

「それが狙いですからね。」

そう言ってクロー君は笑顔を見せました。

参りました。

発想も駆け引きも、彼の方が一枚上手のようです。


後年、この時話したトレントの養殖が、シャクローの名物になるのですか、それはまだまだ先のお話です。

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