10_リックの休日(後編)
翌日。
「…あの、リグ?こちらの方達は、どなたっすか?」
回復したクローとセレナさん、そして、ヴェロニカさんを連れて、いつもの土手に来たっす。
リグももうそこに居たんすけど、彼女は二人のオジサンを連れて来てたっす。
「えっとね…。まず、こっちはボクの「じいや」のフィザリス。」
「この度はリグ様と遊んでいただいたそうで、ありがとうございます。」
「じいや」と言うだけあって、結構な年配の紳士っす。
「あ、こちらこそ、ありがとうございます。」
クローに「挨拶とお礼の言葉は大事!」と、口酸っぱく言われてるんで、真面目に返しとくっす。
「そして、こちらはニーア商会の会頭ナスバレイさん。」
「どうも。以後、お見知りおきを。」
こちらはオジサンと言うにはちょっと若い感じのする男性。
やや、体にたるみが出始めていますが真面目そうなヒトっす。
「あ、はい。こちらこそっす。」
…これ、こんな返しで良いんすかね?
「ご紹介いただいてありがとう。ワタシはヴェロニカ、このパーティのリーダーをしている、魔術師だ。」
と、言う事にすると昨日決まったっす。
さすがにクローが中心的に動いてます、とは言い難かったっす。
ちなみに、顔見せのためにヴェロニカさんは顔を出してるっす。
「で、後ろの女性がセレナ司祭で、もう一人がクローだ。」
ヴェロニカさんの紹介に合わせて、二人が順に軽く頭を下げたっす。
これで全員の紹介が終わったっす。
「さて、挨拶は済ませてもらったが、何故、皆が集められたのか、伺っても良いだろうか?あと、リックも初めて会うと言うそちらの方達はいったい?」
「あ、はい。実はこちらのナスバレイさんが「北の山脈」に面する町まで行かれるそうなので、往復の護衛をお願い出来ないかと…。」
「ん…?いや、商会ならば懇意にしている冒険者や、お抱えの護衛等がおられるのでは?」
「いえ、居るにはいるのですが、今回、運悪く都合がつかないようでして、代わりの方を探していたのですよ。」
ナスバレイさんがリグちゃんの説明を引き継いだっす。
…へぇ、そんな運の良いことなんてあるんすね?
ウチらにとっては願ったり叶ったりじゃないすか!
「…そう、ですか。」
チラッ。
ヴェロニカさんがクローの方を向いたっす。
クローも頷いて返したっす。
「…分かった。こちらとしても断る理由はない。ただ、本当に我々で良いのだろうか?こちらはワタシだけがCクラスで、あとはDクラスのクローと、残り二人はEクラスなのだが?」
「王都から「北の山脈」までの街道は定期的に兵士が巡回したりするため、山賊も滅多に出ないルートなのですよ。なのでその分、お支払いする額も相場よりは低くなるのですが、それでよろしければ。」
「承知した。こちらに不満は無いので、ぜひに受けさせていただきたい。」
「そうですか!いやぁ、良かった。比較的安全とは言え、一人で向かうには心細かったもので。」
話はまとまったようっす。
つまり、今日からは馬車で「北の山脈」まで移動するってことっすね?
「…ところで、後ろのお二方は口元を隠すのは、なにか理由でもあるのですか?」
ここでフィザリスさん、じいやさんがクローとセレナさんのマスクについて質問してきたっす。
「我々二人は風邪が治りかけの状態で、まだ咳が出るのでマスクを付けています。咳をすると、目に見えない飛沫が飛び散り、それが他のヒトにかかると、それが原因で風邪をうつしてしまうおそれがありますので。決して、顔を隠したい意図はありません。」
そう説明して、クローは少しの間だけ、マスクを下ろして顔全体を見せたっす。
「なるほど、こちらへの配慮でしたか。不躾な質問をしてしまい、申し訳ございません。」
「いえ、お気になさらず。じいやさんというお立場ならば、怪しい格好の人物を気にするのは当然ですからね。」
「お気遣い恐れ入ります。」
…なんか、とてもしっかりした方っすね、じいやさん。
こんな方が付いているなら、リグちゃんは心配なんて要らなさそうっす。
「…ねぇねぇ。そんなことより、アレ…。」
おとなしく会話を聞いていたリグちゃんが、焦れたようにじいやさんの裾を引っ張って口を開いたっす。
「ああ、はい。そうでした。…あの、リグ様がご依頼した物があったとか?」
「ああ、…セレナ。」
「はい。」
ヴェロニカさんの合図でセレナさんが包みを持ってきたっす。
セレナさんから受け取ったヴェロニカさんは、そのままじいやさんに手渡したっす。
「ほお、これが遊技盤ですか?」
「…なんか、ちょっと大きくない?」
流石にこのところ遊び倒してたリグちゃん。
オレが持ってたのとの大きさの違いに気付いたっす。
「リックの持っていたのは習作で、そちらの遊技盤の方が販売している物なんです。」
持ち主であったクローが解説するっす。
「へぇ…。」
「なるほど。で、こちらはおいくらで譲っていただけますか?」
「はい、合わせて銀貨2枚になります。」
「は…?い、いやいや、カダーからわざわざ持って来た品なのですよね?欲が無さ過ぎでは?」
じいやさんがちょっと驚いてまっす。
「カダーで買った値が、各銅貨5枚ずつ、合わせて銀貨1枚で、運び賃として倍額ふっかけたんですよ。こちらとしては、お金に困ってはいないので、その値で構いません。…その代わり、一つお願いがあるのですが。」
「お願い?」
「はい。もともとそれは僕が孤児院の子供達に作らせた物なんですよ。」
「君が?!」
「はい。彼等が自分で稼ぐ方法の一つとなれば良いと考えたんです。だから、それを複製するのは全然構わないのですが、作らせるのは孤児院の子達にさせてあげてくださいませんか?」
「「……。」」
「あ、もちろん、お貴族様や富裕層向けの高級品として作る際は、工房とかに任せても構いませんから。」
クローの言葉に、皆、黙っちゃったっす。
「…じいや、そのように出来る?」
「はい、出来ますとも。」
「では、そのようにお願い。それは見本として持って行って良いよ。習作が出来たら持って来て。」
「承知いたしました。」
リグちゃんも納得してくれたみたい。
…でも、本当にお嬢様なんすね、リグちゃん。
今の遣り取り、すっごい自然だったっす。
「じゃあ、そろそろ行きましょうか?護衛となりますので、一度、店までお越しください。この先に店を構えてますのでそちらへ。…私は、少しだけフィザリス殿と話してから後を追いますので。」
「ん、承知した。」
「リック!」
ヴェロニカさんが答えた直後、リグちゃんがオレの名を呼んだっす。
「どうしたっすか?」
「あの、帰って来たら、また会ってね。ナスバレイさんに言えば、連絡してくれるから。」
「ん〜、分かったっすよ。」
「絶対だよ?待ってるからね?!」
「大丈夫っすって!」
なんか昨日と同じように言われてるっすね。
そんな信用無いっすかね、オレ?
…いや、そりゃあ無いっすわ、いろいろ喋っちゃったし。
…せめて、姿が見えなくなるまで手を振ってあげようっすかね。
ナスバレイさんに言われた通り、オレらはニーア商会へ向かったっす。
「…凄かったな。」
リグちゃん達と別れた後、ポツリとヴェロニカさんが呟いたっす。
もう、いつもの顔を隠した状態なので、表情は分からないっす。
「…そうですね。護衛があんなに付いてるって事は、間違い無いですよね。」
護衛?あれ、あの場にオレらとリグちゃん達の7人の他に、誰か居たんすかね?
「…リグレット・レーヴェハーツ。」
ん?
なんかクローが呟いたんすけど、よく聞こえなかったっす。
…クローが説明してくれないって事は、大した事じゃ無いっすよね、きっと。