09_リックの休日(前編)
王都っす!
リプロノ王国の王都シータンパピア!
すっげえ、大きな建物が並んでるっす!
そんな町並みを眺めながら、オレは川沿いの土手で黄昏れてるっす、いや、まだ昼前っすけど。
…なんでこうなったんすかね?
**********
「ピーカ・ベアー」の素材が売れた後、オレらは王都シータンパピアへ向かったっす。
もちろん道中でも修行しながら。
あの町からシータンパピアまでは3日で着く距離だったっす。
そして昨日、ここに着いたんすけど──
「う〜ん、二人とも風邪だろうな。」
「へっ?」
クローとセレナさんが体調を崩して、寝込んでしまったっす。
「看病はワタシがやるから、お前には買い出しを頼む。」
看病なんてされた事も、した事も無かったオレは、買い出しを頼まれたっす。
「…っと、それ以外は?」
「いや、無いな。」
「え?!」
「お前も二人の看病をして、お前やワタシまで体調が悪くなったらどうするんだ?二人のと接触するのは私がやる。お前は、…そうだなあ、町中でも見て来ればどうだ?」
「ごめんねぇ、リック。うつしても悪いから、ヴェロニカさんの言うように、町で遊んできなよ。ケホッ!」
いや、クローは休んでて良いっすから!
「要は「休み」だな。問題さえ起こさなければ、自由に自分の好きな事をして良い、ってことさ。」
はぁ…。
なんだか、贅沢なような、困るような…。
だってオレ、やりたい事なんて無いっすから。
「町中に行けば、興味を惹かれる物があるかも知れないだろう?良いから、行った行った!」
「は、はいっす!」
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そんな風に、朝一で宿を出て町中をブラブラして見たっす。
お金も結構持たされたんで、気になる物があれば買えるっすけど…。
正直、欲しい物もあんま無いって言うか…。
…クローと一緒に来てたら、「これがこうで〜」って説明とかしてくれたっすね、きっと。
それなら、興味を持てる物もあったかもっすね。
そう言う訳で、ひとしきり見回った後、川沿いで休んでたっす。
…この後どうしよっすかね?
「ねぇねぇ、お兄さん。何してるの?」
「えっ?!」
急に声を掛けられ、振り返った先には女の子が居たっす。
地味めだけどいかにも高価そうな服に帽子。
黄金でフサフサの髪を後ろで結んでいる。
服装から見ても、間違いなく良いところのお嬢様っすね。
顔つきも可愛くて、間違いなく将来はとびきりの美女になりそうっす。
…まあ、今はクローと同じくらいっぽいので、女性としては興味無いっすけど。
「こんにちはっ!」
「…あ、こんにちは。」
「で、何してたんですかっ?」
な、なんかグイグイ来るっす。
「いや、何も…。ヒマなんでどうしたものかと考えてたっす。」
「へぇ。じゃあボクと遊んでくれない?」
「え…?う〜ん、…いや、まぁいいか。でもオレ、遊びなんて何すれば良いかなんて、わっかんね〜っすよ?」
「へ?小さい頃に遊んだ事とか、無いの?」
「無いっすね。…オレ、孤児だったし。1ヶ月前なんか山賊に引き込まれそうになったぐらいっすもん。」
ガサッ!
んっ?
なんか、近くの茂みから音がしたっすけど…。
ネズミか何か居るんすかね?
「へ〜、大変だったんだねぇ。でも、やらなかったんだよね?そして、今は何かやってるの?」
「んっ、運良く冒険者に拾われて、そこのポーターやってるっす。」
「へぇ、良かったね。…でも、今日はどうして一人なの?」
「それが、パーティのメンバ二人が風邪で倒れてしまって、もう一人も看病してるんすよ。で、看病した事も無いオレはうつらないように外出していろ、って事らしいっす。」
ガサッ!ガサッ!!
ん〜?
…なんか茂みがさっきからうるさいっすね?
「じゃあ、やっぱりヒマなんだよね?ボクが教えてあげるから遊ぼうよ。」
「ん〜、まぁ良いっすけど…。あっ!確か…。」
オレはとある事を思い出してバックを漁ったっす。
休みとは言え、これを持たずに出掛けるのは不安なんすよね。
クローがオレの事を考えてくれた証でもあるので、手放し難いんす。
「…やっぱり、あった!」
オレが取り出したのは袋に入った、折り畳み式の遊技盤。
袋には、遊び方が書かれた木板まで入ってたっす。
最近はこまめに中身をクローに確認したりしてるんすけど、その際に見た気がしてたんすよ。
「それはなあに?」
「遊技盤っす。ゲームっすね。こっちの「リバーシ」が二人用。んで、こっちの「ルドー」が2〜4人用っすね。」
「ゲーム?!やりたいやりたい!!」
「良いっすよ。じゃあ、「リバーシ」からやってみるっすか。なになに…。」
「…て言うか、それ読めるの?」
「あ〜、…今、いろいろ教えてもらってるんすよ。今のパーティに拾ってもらう前は、ガチでなんも知らずに生きてたっす。」
「…本当に、今のパーティさんに拾ってもらってよかったね。」
「本当っすよ。オレ、今が生きてきた中で一番楽しいっすもん。」
「そっかぁ…。」
「よし!何か分かったっすよ。やってみうっす!」
「おうっす!」
女の子もオレの口調を真似して、オレらはゲームを始めたっす。
**********
「くっそぉ!勝てねぇっす!」
「へっへ〜ん!これで3連勝〜!」
少女が得意気に勝ち誇ってるっす。
悔しいんすけど、その顔が可愛いので全然楽しいっすね。
ちなみに、リバーシが最初の一回だけまぐれ勝ちして、それから手も足も出ずに4連敗。
その後、ルドーで3連敗っす。
「面白いね〜、これ!」
「そっすね。負けるにしても、途中、相手の駒を弾いたり出来るのがスカッとするっすね。」
「このルドーは、4人でやった方が楽しそうだね?」
「そうっすけど、気を使う相手とはやり難いんじゃないっすかね。友達とやるゲームっすね。」
「あ、そうかぁ…。」
ん?
なんか声のトーンが落ちた気がするっすけど…。
「ねぇ!明日もここに来てくれる?」
「そっすね。連れもまだ治んないだろうし、他にやりたい事も無いし、また来るっすよ。」
「やったー!絶対だよ?!」
「わーったっすよ。…っと。」
「ん?」
「そういや、まだ名乗ってなかったっすね。オレはリックっす。」
「へぇ。ボクは「リグ」って呼んで。」
「分かったっすよ、リグ。」
「えへへ…。じゃあ、今日は帰るね。また明日〜。」
「ああ、また明日。」
王都で可愛い友達が出来てしまったっす。
時間はまだ夕方にもなっていない。
…さて、帰って買い出しの手伝いをするっすかね。
**********
リグと友達になった翌々日。
「え〜?!もう行っちゃうの〜?」
「いやぁ、連れもだいぶ良くなったし、寒くなる前に「北の山脈」に行こうって事になったんすよ。だから明日、出発するっす。」
「そっかぁ…。」
考えてみれば、ヒトと別れを惜しむなんて、オレの記憶にある限り初めての事かも知れないっすね。
「でもほらっ、「北の山脈」から帰って来た時は、もっとゆっくり見て回ろうって、連れも言ってたっすから。また会えるっすよ。」
「…分かった。だけど明日の朝、もう一度ここに来てくれる?」
「へっ?仲間とっすか?」
「うんっ!」
「あ〜、分かったっす。…たぶん大丈夫っす。」
「たぶんじゃなくて、絶対!」
「わ、分かったっす。」
まあ、皆にもリグちゃんの事は話してるし、会いたがってたんで大丈夫っしょ。
「あと、出来ればあの遊技盤を譲って欲しいんだけど、ダメ?」
「それはクローに聞かないと分かんねっす。あれ、オレの物じゃないんで。」
「じゃあ、聞いてみて。」
よっぽど気に入ったんすね。
確かに、オレなんかでも分かるくらいルールも簡単だったし、やいやい言いながら遊べて楽しかったっすもんね。
「了解っす。んじゃあ、また明日っすね。」
「うん!絶対に絶対だからね〜!」
…なんだろう?
そんなにこだわるなんて、何かあるんすかね?
まぁ、明日になれば分かるっしょ。