00_プロローグ
クロー君の異世界転生記の続きとなります。
クロー君がどうして国を追われてしまったか、については既出「異世界貴族に転生しましたが、なんやかんやで国を追われました」をご覧ください。
遂に旅の同行者が出来たクロー君は、次のリプロノ王国では楽しく冒険者ライフを続けられるでしょうか?
ひねくれ者のクロー君ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
「──という経緯で、冤罪を被った僕はカダー王国を飛び出して来たんです。」
リプロノ王国とコラペ王国の国境付近を、僕は身の上話をしつつ歩いている。
僕が異世界転生者であることと、カダー王国の剣術大会で優勝した事は言っていない。
あと、マフィア襲撃やセーム様を狙った者達を返り討ちにした件は、ちょっとぼかして語らせてもらった。
話している内に、もうリプロノへは入っているはず。
流石にもうセレナさんを追って来る者は居ないだろう。
「…じゃあ、本当にキミは12歳の人族なんだな?」
「ううっ、その歳で苦労してきたのですね…。」
話を聞いたヴェロニカさんとセレナさんが語りかけてくる。
ヴェロニカさん、全身を覆う服装で顔まで隠している、見た目怪しい魔術師だが、素顔は美人のエルフさん、知的で超好み。
セレナさん、最近まで教会で司祭をしていた、おっとり可愛い女性、20歳手前?
司祭特有のゆったりしたローブを纏って隠れているが痩せ気味、もっと食べて!
「そうですけど、疑われてたんですか?」
「当たり前だろ?!キミほど魔術が達者な少年なんて、非現実的過ぎる!…だが、そうか。そのハイ・エルフ様がよほど優秀な方だったのだな。」
「…え、ええ。まあ…。」
答える笑顔が引きつっているのが自分でも分かる。
確かに僕の魔術の師匠であるナズナは優秀だった。
僕も、魔術を習得してから2年の間、一日も欠かさず魔術の修練・研究を行って来たけれど、今だに彼女の足元にも及ばないだろうと思っている。
おまけに、彼女は師匠として厳しいながら、ちゃんと優しさも見せてくれた。
ただし、その美点と同等のクセの強さも見せてくれた。
我が強いと言うか、変人と言うか…。
トータルでは間違い無く善人なのに、それを自信を持って主張出来ない、そんなヒトだった。
それなのに、こうして他人に説明する場合は、ひたすら優しくて善意で魔術を教えてくれた、と説明しなくてはいけない事に納得がいかない。
…まあそう言わなくてはいけない原因は、「実は僕が異世界転生者なんです」なんて荒唐無稽な事はとても言えないせいなんだけれど。
「ご家族はその後、大丈夫そうなんですか?」
セレナさんが話を振ってくる。
「大丈夫だと思いますよ?元伯爵様の庇護下で暮らしてますし、僕が国を出る頃にはラブラブな様子でしたから。」
「…?お兄様が、ですか?」
「…?!ああ、そうか!肉親ですね?…まあ、兄もセーム様の下で忙しくしてるんじゃないですかね?」
「「ラブラブな様子」と言っていたのは、キミのメイドさんの事か?」
焦って訂正する僕にヴェロニカさんが指摘する。
「…ええ、僕にとっては肉親以上に家族でしたから。まあ、セーム様やカイルさん、それと屋敷の皆もそんな感じでしたけど。」
「「……。」」
おや?
二人が黙ってしまったけど、何かおかしな事を言ったろうか?
「なあ、キミのその庶民的な感覚は生まれつきのものか?それとも、何かきっかけでもあったのか?」
「えっ?」
ヴェロニカさんの問いに言葉が詰まる。
庶民的だろうか?いや、庶民的なのは間違い無いと思うけど、疑問に思われるほどだろうか?
「う〜ん、多分、貴族家の生まれなのにそれっぽくない、っていう点が引っ掛かってるんだと思いますけど、そんなものですよ?妾の子で三男なんて。」
「…そんなものか。」
「そうですよ。義母上や長兄に嫌われて、父も強くは守ってくれない家庭より、外で冒険者ギルドの人達と居た方が安らげましたしね。」
「…。」
「クロー君!」
え、えっ?!
感極まった様子のセレナさんが、僕の名を呼び、手を握ってきた。
「僭越ながら、私の事も家族と思ってくれて良いですからね?至らぬ姉ですが…。」
どうやら同情してしまったらしい。
…ちょっと僕の言い方も気を付けた方が良いな。
ついつい、皮肉的と言うか、同情を引く言い方になってる気がする。
それにしても、姉ですかセレナさん。
ヒトとして過ごしてきた年数で言えば、祖父と言われてもおかしく無いんですけどね。
精神年齢で言えば、…まあ、うん。
流石にセレナさんよりは年上だと思いたいけど、どうかなぁ?
「う、うん。ありがとう、セレナさん。」
「そ、そうだな。パーティなんて家族みたいなものだしな。」
ヴェロニカさんも便乗して来た。
…なんか、ヴェロニカさんの態度が前とは違ってる気がするんだけど、気のせいだろうか?
セレナさんも居るせいでぎこちないのだろうか、分からない。
「…はい、ヴェロニカさんもありがとう。」
「う、うん…。」
まあ、一緒に過ごしていれば慣れてくるかな?
「じゃあ、取り敢えずこのまま「北の山脈」まで行く、って事で良いですかね?」
「はい、構いません。」
「そうだな、それで良い。」
二人の同意を得て、進路は北に決まった。
取り敢えず今は、さっさと町に着いて休みたかった。