ヤング・オールド、ギア・チェンジ
風が、抜ける。
左右を、駆け抜ける。
空気が、ぶつかる。
清爽な空気が、ぶつかる。
シフトを、チェンジする。
右ハンドルにある、グリップシフトのグリップを廻す。
前に、廻す。
一段、進める。
ペダルを、漕ぐ。
グルグル、廻す。
自転車は、進む。
風を切って、進む。
自転車の進みに沿って、身体に動きが出る。
基本、体格は変わらない。
身長も、変わらない。
多分、骨格も、変わらない。
身体つきは、多少、変わる。
筋肉の付き具合も、多少、変わる。
皺は、多少、増える。
シミも、多少、増える。
廻したシフトは、一段。
一段だから、四年。
前に一段、シフトを廻したから、四年、歳を取ることになる。
今の年齢から四年だから、ほとんど見た目は、変わらない。
多少、『そういや、変わったかなー』、と云う感じ。
マサアキは、自転車を漕ぎながら、トランスフォームする。
変身する。
ガラッ、と変わるわけではないが、なんとなくジワジワ変わる。
『仮面ライダー一号が、初めて変身した時みたいやな』
マサアキは、思う。
仮面ライダー一号が初めて変身したのは、バイクの上だった。
バイクが走り、乗る本郷猛に風が当たり、腰の変身ベルトの風車が、ビュンビュン廻る。
風車の勢いが強まるにつれ、変身ベルトの風車から、スパークの光が、広がる。
光は、本郷猛を、包み込む。
光が、晴れて来ると、本郷猛の姿が、仮面ライダー一号に変わっている。
変身終了、だ。
『いや、全然、違うか』
マサアキは、再び、思う。
ジワジワ変身と、華やか変身。
歳取る変身と、強化体変身。
うん、まるで、違う。
一段上げて慣れて来たところへ、もう一段、上げる。
もう一段、プラス四年。
最初から合わせて、計八年。
自転車の進みに沿って、身体に動きが出る。
基本、体格は変わらない。
身長も、変わらない。
多分、骨格も、変わらない。
身体つきは、多少、変わる。
筋肉の付き具合も、多少、変わる。
皺は、多少、増える。
シミも、多少、増える。
風が、抜ける。
左右を、駆け抜ける。
自転車は、進む。
風を切って、進む。
一段上げて慣れて来たところへ、もう一段、上げる。
もう一段、プラス四年。
最初から合わせて、計十二年。
自転車の進みに沿って、身体に動きが出る。
基本、体格は変わらない。
身長も、変わらない。
多分、骨格も、変わらない。
身体つきは、多少、変わる。
筋肉の付き具合も、多少、変わる。
でも、『最初からでは、大分変っている』、と思う。
なんせ、十二年。
皺は、多少、増える。
シミも、多少、増える。
でも、『最初からでは、大分増えている』、と思う。
なんせ、十二年。
自転車のギアは、六段ある。
正確には、+1~3と、-1~3。
+にギア・チェンジすると、一段四年ずつ、歳を取る。
計十二年、今が三十六歳だから、四十八歳。
-にギア・チェンジすると、一段四年ずつ、若くなる。
計十二年、今が三十六歳だから、二十四歳。
歳を取っても、今までの記憶を保ったまま、知識や経験値が、増える。
体力や筋力は、落ちるが。
若くなると、今までの記憶を保ったまま、体力や筋力は、強くなる。
知識や経験値は、減るが。
ギアは、一段ずつしか、上げられない。
急には、段数を、上げられない。
急には、歳を、取れない。
ギアは、一段ずつしか、下げられない。
急には、段数を、下げられない。
急には、若く、なれない。
今は、ギアを、上げている。
ギアの段数を、増している。
歳を、取っている。
知識や経験値を、増している。
今日は、監督を務めるサッカーのクラブ・チームの、練習日だ。
目指すプレイスタイルに、選手と、それに伴うフォーメーションを当て嵌め、練習内容を検討しなくてはならない。
チーム伝統のプレイスタイルに外れず、選手ありきで考えたフォーメーションを元に、試合に臨む。
その試合で、自分達の力が悔いなく出せる様、練習を組む。
変身が完了し、四十八歳になる。
自転車が、フィールドに、着く。
(マサアキは、秘かに、自転車を、『エムツーK』と、呼んでいる。)
監督の顔をして、エムツーKから、降りる。
ピッチでは、選手がチラホラ、集まっている。
自主的に、ランニングしている選手も、いる。
「監督、おはよう御座います」
「マサさん、おはようです」
「マサさん、ちわっす」
ピッチに入って来たマサアキに、選手が、思い思いに、挨拶する。
高校・大学出たてのルーキー、中堅選手、ベテラン選手の順に、挨拶する。
マサアキが、選手を集めて、今日の練習メニューを、伝える。
故障している選手や、どこか痛めている様子の選手は、別メニューだ。
選手全員が、ピッチに散り、それぞれのメニューを、始める。
メニューが始まってすぐ、コーチが、マサアキの方へ、近付いて来る。
コーチの堀口は、マサアキと並ぶと、口を開く。
「次の試合ですけど」
「おお」
「決まりました」
「決まったんか?」
「はい。
正確には、大会ですが」
「どういうことや?」
マサアキが、ピッチへの視線は動かさず、問う。
コーチも、ピッチへの視線は動かさず、答える。
「新しく設けられた地区のトーナメントに、参加します」
「それの一回戦、ってことか」
「はい。
先日、トーナメント表が出たんで、確認しました」
「相手は、どこや?」
「F.C.クレイジーM、です」
「なんや、よう試合やるとこやないか。
しかも、よう勝ってるとこやないか」
「そうです。
一回戦通過は固い、と思います」
「そうか。
トーナメント表、見せてくれ」
「はい」
堀口は、一端、クラブ・ハウスへ、戻る。
クラブ・ハウスから、ベンチに戻って、トーナメント表を、マサアキに差し出す。
「これです」
「どれどれ」
マサアキは、トーナメント表を、眺める。
一回戦は、F.C.クレイジーM。
まあ、ここは、カタいな。
二回戦は、F.C.Dフィクサー。
こことも、よう試合やって勝ってるし、ここもイケるやろ。
三回戦は、F.C.アーガン。
こことは、まあ、7:3くらいで、ウチかな。
とすると、順調に勝ち進んで、準決勝で当たるのは ‥
‥ ゲッ ‥
マサアキは、驚く。
目を、剥く。
声を出さずに、叫ぶ。
おそらく、準決勝で当たるのは、F.C.イタコネ。
マサアキの、もう一つの、所属チーム。
『指導している』ではなくて、まさしく、『所属している』チーム。
風が、抜ける。
左右を、駆け抜ける。
空気が、ぶつかる。
清爽な空気が、ぶつかる。
シフトを、チェンジする。
右ハンドルにある、グリップシフトのグリップを廻す。
後ろに、廻す。
一段、落とす。
ペダルを、漕ぐ。
グルグル、廻す。
自転車は、進む。
風を切って、進む。
自転車の進みに沿って、身体に動きが出る。
基本、体格は変わらない。
身長も、変わらない。
多分、骨格も、変わらない。
身体つきは、多少、変わる。
筋肉の付き具合も、多少、変わる。
皺は、多少、減る。
シミも、多少、減る。
廻したシフトは、一段。
一段だから、四年。
後ろに一段、シフトを廻したから、四年、若くなることになる。
今の年齢から四年だから、ほとんど見た目は、変わらない。
多少、『そういや、変わったかなー』、と云う感じ。
マサアキは、自転車を漕ぎながら、トランスフォームする。
変身する。
ガラッ、と変わるわけではないが、なんとなくジワジワ変わる。
変身に慣れて来たところで、更に、一段、廻す。
後ろに、廻す。
更に、四年マイナス。
変身に慣れて来たところで、更に、一段、廻す。
後ろに、廻す。
更に、四年マイナス。
計、十二年マイナス。
ここで、やっと、シフトの目盛りは、0になる。
あと、三段、ある。
更に、一段、後ろに廻す。
慣れたところで、更に、一段、後ろに廻す。
慣れたところで、更に、一段、後ろに廻す。
0から-1へ、-1から-2へ、-2から-3へ。
各段、四年マイナス。
計、十二年マイナス。
最初から考えると、合計、二十四年マイナス。
四十八歳から、二十四歳へ。
中年から、青年へ。
指導者から、プレイヤーへ。
エムツーKが、フィールドに、着く。
マサアキが、選手として所属している、サッカーのクラブ・チームの練習場へ、着く。
プレイヤーの顔をして、エムツーKから、降りる。
ピッチでは、選手がチラホラ、集まっている。
自主的に、ランニングしている選手も、いる。
「マサさん、おはよう御座います」
「マサさん、おはようです」
「マサ、おはよう」
ピッチに入って来たマサアキに、選手が、思い思いに、挨拶する。
高校・大学出たてのルーキー、中堅選手、ベテラン選手の順に、挨拶する。
各自が、自主的に、身体を動かしている。
そこへ、監督がやって来る。
選手を、集める。
今日の練習メニューが、伝えられる。
F.C.イタコネのプレイスタイルは、攻めダルマ。
防御は、必要最小限にして、攻撃しまくり。
ボール保持しまくりの、ボール廻しまくり。
フォーメーションで言うと、防御時は4‐2‐3‐1だが、攻撃時には2‐1‐4‐3になる。
基本、センターフォワード(CF)の大島が、点を取る。
が、「チームで、一番点を取っている」と言うだけの、現状。
大島も含め、前七人、満遍なく、高いレベルで、点を取っている。
マサアキは、防御時は、前から二列目の3の真ん中、攻撃時は、三列目の1になる。
だから、ザックリ言えば、防御時は、前にバランスの掛かったボランチになり、攻撃時は、後ろにバランスの掛かったボランチになる。
手本としているプレイヤーは、ピルロと遠藤と中村憲剛である。
マサアキは、身体的にはフィジカル的には、周りと、なんら変わらない。
いや、多少、劣ってさえいるかもしれない。
でも、その戦術理解度・理解力は、抜きん出ている。
そら、三十六歳を基点として、四十八歳と二十四歳を行ったり来たりしてるから、経験値と知識量が、段違いやし。
しかも、片方では、監督もしてるし。
マサアキは、『さもありなん』と、思う。
マサアキが、歳不相応の落ち着きを見せ、攻守の基点となるのも、無理は無い。
その日の練習終わり、監督から発表がある。
地区のトーナメント[KING OF AREA]に参加することが、発表される。
トーナメント表を見ると、 ‥ やはり。
一回戦、二回戦、三回戦の通過は、カタい。
F.C.イタコネの実力ならば、充分だろう。
問題は、準決勝。
相手は、F.C.ティーツーPになる可能性が、高い。
F.C.ティーツーPは、マサアキが監督を務めるチーム。
つまり、F.C.イタコネとF.C.ティーツーPが、順当に勝ち進めば、両チームは、対戦することになる。
その場合、マサアキは、自分と対戦することになる。
監督の自分と、プレイヤーの自分。
いや、無理。
物理的に、無理。
ドッペルゲンガーでも起こさんと、無理。
マサアキは、心で、頭を抱える。
でも、ま、そんな都合良く行くわけないし、なんやかやウマいこと行ったりするもんやからな、こういう場合。
ま、『そん時はそん時』で、考えとこう。
マサアキは、都合良く、切り換えようとする。
切り換わらない。
何らかの案が出るまで、穏やかな日々は訪れない、ようだ。
自転車を、漕ぐ。
エムツーKを、漕ぐ。
風を、切る。
風が、吹き抜ける。
道を、行く。
道を、進む。
マサアキは、ギアを、廻す。
一段、上げる。
多少、変身する。
変身が、馴染む。
再び、ギアを、廻す。
一段、上げる。
再び、多少、変身する。
変身が、馴染む。
もう一度、ギアを、廻す。
一段、ギアを、上げる。
もう一度、多少、変身する。
変身が、馴染む。
そこで、ギアを、止める。
もう、廻さない上げない。
二十四歳から、三段上げて止まる。
24+(3*4)=36
二十四歳 プラス 十二歳 イコール 三十六歳。
マサアキは、基点の歳・本来の歳の、三十六歳に、落ち着く。
マサアキは、考える。
エムツーKから降りて、考え込む。
F.C.イタコネと、F.C.ティーツーPは、対戦する。
方や監督、方やプレイヤー。
方や常在必須、方やレギュラー。
つまり、どっち共、その場にいないとダメ。
いや、そんなん無理。
物理的に、無理。
マサアキは、『何か、ええ案は無いか?』を、検討している。
二十四歳では、経験値・知識量が少ないから、ええ案が思い付ける可能性が狭まる。
かと言って、四十八歳では、 経験値・知識量が多くて、無難な案に落ち着く危険性が高い。
そのちょうど中間の、三十六歳で、マサアキは、考えることにする。
う~ん。
やっぱ、コピー・ロボットでも用意せん限り、『両方に、顔出すのは無理』、やな。
とすると、やっぱ、どっちか、欠席せなあかんか。
方針を決めると、その線で、案と云うか方策を検討する。
具体的手順も、検討する。
方針を決めると、早いもので、方策と手順は、サクサク決まる。
いや、決める。
マサアキは、一つ軽く頷くと、エムツーKに乗って去る。
四十六歳のマサアキは、ピッチを見ている。
選手の練習を、見ている。
「堀口」
コーチの堀口を、呼ぶ。
「準決勝まで行くとして、準決勝の日な」
「はい」
「俺な」
「はい」
「あかんねん」
「はい?」
「出られへんわ」
「はい?
‥ いやいや、監督居んと、あかんでしょ」
堀口は、慌てて、マサアキの言を却下する。
「俺、その日、
検査入院の日やねん」
「どっか、悪いんですか?」
一転、堀口は、口調を重々しくする。
「多分、『大したことは無い』と思うんやけど、
定期検査で、[要再検査]が出たから、受けて来るわ」
「いや、[要再検査]って、あかんのちゃいますのん」
「「要再検査」から[要治療]になるのは、半々くらいらしいから、
大丈夫なんちゃうかな」
「いやいや、ちゃんとみっちり、受けて来て下さい。
準決勝は、キッチリ、監督代行務めますから」
「すまんけど、頼むわ」
「作戦とか戦術とかなんやかんや、レクチャーしといて下さい」
「心得た」
マサアキは、その旨を、選手達にも、伝える。
一瞬、同様が広がったが、すぐに治まる。
堀口が監督代行を務める、と云うことで、すぐにも治まる。
マサアキと堀口は、二人三脚で、このチームを指導して来たので、さもありなん。
マサアキは、既に作成していた資料(チームの戦術パターンや選手の特徴を書いたもの、F.C.ティーツーPの分析DVD等)を、堀口に、渡す。
渡しがてら、みっちりと、レクチャーする。
討論、質疑応答を、頻繁に、繰り返す。
いつも試合前に、二人でやっていることと、基本的には、変わらない。
それに、監督としてのスタンス・行動等の注意が、加わったもの。
いつものように、二~三時間を費やし、二人の話は、終わる。
当日。
やはり、F.C.イタコネと、F.C.ティーツーPは、対戦することになる。
F.C.イタコネも、F.C.ティーツーPも、順当に勝ち上がる。
一回戦、二回戦、三回戦と、勝ち上がる。
そして、予想通り、準決勝で対戦。
マサアキが監督を務める、F.C.ティーツーPは、専守超速攻。
守りがガッチリ固い、防御重視チーム。
が、チャンスが来れば、フラッシュとか光速とかに例えられる超速攻で、ほぼ確実に、点を入れる。
一、二、三回戦全て、1‐0で勝ち上がって来る。
マサアキがプレイヤーを務める、F.C.イタコネは、攻めダルマ。
ほぼ攻め一辺倒の、攻撃重視チーム。
必要最小限の守りを残し、他は全員、攻めまくる、ボールにプレスしまくる。
が、やはりいかんせん、失点も多い。
でも、失点を上回る大量得点で、一、二、三回戦を勝ち上がる。
同じ人間が関わるとは云え、まこと、対照的なチームの対戦となる。
前半。
攻めまくるF.C.イタコネに、守りまくるF.C.ティーツーP。
まさに、最強の矛と、最強の盾の対決。
ある意味、0‐0にスコアを抑えているのは、F.C.ティーツーPの目論み通り。
しかし、F.C.ティーツーPも、F.C.イタコネの攻撃が激し過ぎて、超速攻が、ほとんど仕掛けられない。
ボール・ポゼッション(ボール保持率)は、80:20で、F.C.イタコネが、断然リードする。
が、前半のスコアは、0‐0で終わる。
終わってみれば、両チームとも持ち味を発揮するも、決め手の無い前半に終わる。
マサアキは、攻撃のタクトを振り、防御のタクトも振る。
相手チームの戦術は、監督をしていることもあり、『容易に、攻略可能』だと思われた。
しかし、思ったより、『自身が組み上げたディフェンス・ラインは、強固』を、目の当たりにする。
まさに、自身が築き上げた最強の盾と、対峙する。
こちらも、自身が一員となっている最強の矛を駆使して、何度も、攻め上がる。
盾には、傷が付くものの、突き通せない。
こちらの矛も、疲労等で、擦り減って来る。
ハーフタイムが終わり、選手が、ピッチへ降りて来る。
F.C.ティーツーPの選手が二人、交代している。
盾には、システム変更が、ありそうだ。
こちら、F.C.イタコネは、ハーフタイムの指示に、特に変更は無い。
「チャンスは、作っている」「そのまま攻め続けろ」と云った指示で、後半に入る。
後半が、始める。
始まってすぐ、気付く。
F.C.ティーツーPのシステムが、フォーメーションが、やはり変更されている。
守りの人数はそのままだが、二人を、運動量のある選手に、交代している。
そして、その選手達は、「守りを基本としながらも、頻繁に攻め上がる」のが、特徴。
F.C.ティーツーPは、盾は崩さないものの、その超速攻を、分厚くする。
F.C.ティーツーPの策は、当たる。
超速攻の機会は増え、、F.C.イタコネは、徐々に、押し込まれる。
ボール・ポゼッション率は、変わらず高い。
が、ボールを廻している位置が、前半より数メートル低い。
ジワジワ ジワジワ
ジワジワ ジワジワ
じんわりと、F.C.ティーツーPのペースに、移行する。
F.C.イタコネは、攻めているものの、ペースが掴み切れ無い。
電光掲示版が、第4の審判員によって、高々と頭上に、上げられる。
電光掲示板には、赤い数字と青い数字が、示されている。
第4の審判員の横には、二人の選手が、集っている。
一挙に、二枚変え。
そして、変えるチームは、F.C.イタコネ。
交代選手二人とも、前掛かりのミッドフィルダー(MF)。
攻めを、今以上に、分厚くするつもりらしい。
槍を強化した盾に対抗して、守りを厚くするつもりは、毛頭無いようだ。
矛を、更に強力にして、盾を蹴散らす気満々だ。
マサアキの前に、七人いるのは、変わらない。
が、少しでも守る気ある人間は、皆無になる。
前七人が、七人とも、攻めダルマ。
どんだけやねん。
マサアキは、ポジションを、更に後ろにズラす。
ディフェンス・ラインに吸収され、ほぼ、3バックの一員となる。
最早、F.C.イタコネは、前部分と後ろ部分に、明確に分かれる。
「間延びするな」とか「コンパクトな陣形を保て」とか、もう、うっちゃっている。
つまり、いつもの、慣れ親しんだシステムとかフォーメーションとは、一線を画している。
マサアキが、いつもタクトを振っているチーム戦術とは、かけ離れている。
マサアキの自我から離れ、チーム自体が、躍動している。
チームから、(マサアキの)自分の色が、限りなく薄まってゆく。
F.C.ティーツーPも、後半開始時に、二人を変えている。
それによって、最早、マサアキの指導しているシステムとかフォーメーションとは、異なっている。
既に、堀口が戦術を振るうチーム、になっている。
そこでも、(マサアキの)自分の色が、限りなく薄まっている。
後半が進むに連れ、試合が進むに連れ、マサアキは、感覚を薄めてゆく。
自分と相対しているような感覚を、薄めてゆく。
純粋な、F.C.イタコネ対F.C.ティーツーP。
個人の思惑を超えた、チーム同士の対戦。
より鋭くした矛と、槍を携えた盾の対戦。
両チーム譲らす、0‐0のまま、後半は進む。
時は、過ぎ去ってゆく。
F.C.イタコネは、前半より攻めまくるものの、ゴールが割れない。
F.C.ティーツーPは、単発で超速攻を繰り出すものの、ゴールまで届かない。
両選手と両監督、両スタッフと両サポーターが、ジリジリする。
サポーターの声援に、切なさが、滲んで来る。
遂に、後半四十五分+アディショナルタイム、終了。
延長前半に、入る。
更に鋭く、矛。
必至に固める、盾。
槍を繰り出す暇、も無い。
延長前後半共、F.C.ティーツーPのサイドで、プレーは終始する。
が、F.C.イタコネは、なかなか、ゴール前やバイタルエリアに、達せない。
F.C.ティーツーPは、F.C.イタコネのサイドまで、辿り着けない。
しかして、延長後半十五分+アディショナルタイムも、終了。
スコアは、0‐0のまま、推移せず。
この試合は、トーナメントの準決勝。
つまり、勝者を決める必要が、ある。
決勝進出チームを決める必要が、ある。
泣いても笑っても、運不運。
その要素が強い、PK戦に、突入する。
PK戦に必要なのは、精神力。
メンタルの強さ。
そして、副次的に、ゴールキーパー(GK)の能力・出来不出来。
先行は、F.C.ティーツーP。
一人目のキッカーが、ボールをセットする。
後ろに、下がる。
止まる。
ピー
笛が、鳴る。
助走に、入る。
PK戦が、始まる。
五人目の先行まで、終わる。
F.C.ティーツーPは、四人成功、一人失敗。
F.C.イタコネは、CFの大島含め、四人成功。
後の一人に、託す。
試合の命運を、託す。
そして、五人目のキッカーは、マサアキ。
相手のGK、F.C.ティーツーPのGKは、マサアキが良く知るGK。
監督のマサアキが抜擢して、レギュラーにしたGK。
このGKの、癖も特徴も、良く分かっている。
PKは、そんなに得意ではない、はず。
勝負一発、覚悟を決めで、得意な右方向に飛ぶはず。
事実、今回も、四人共全て、右方向に飛んでいる。
マサアキから見て、左方向に当たる。
マサアキは、ボールを、セットする。
ステップバック、する。
止まる。
ピー
笛の合図から一呼吸置き、助走に入る。
マサアキは、蹴る。
蹴り込む。
ゴールマウスのド真ん中に、向かって。
案の定、GKは、右に飛ぶ。
タイミングは、マサアキのボールの勢いと、合っている。
が、マサアキから見て、左に飛んでしまう。
いった。
マサアキは、思う。
でも、何か、音がする。
ボン ‥
GKが、必死に伸ばした足に、ボールが、引っ掛かる。
ゴールマウス中央に伸ばされた足に、ボールが、弾かれる。
PK、失敗。
マサアキのPK、失敗。
マサアキは、分かっていたはずなのに、分かっていなかった。
GKの成長を、伸びしろを。
GKの精神力を、執念を。
これで、F.C.イタコネも、四人成功、一人失敗。
PK戦は、延長サドンデスに、入る。
結局、PK戦は、F.C.ティーツーPが、勝つ。
F.C.ティーツーP、決勝進出。
実質、マサアキ監督無しの、堀口監督代行の手腕で、決勝に進む。
風が、抜ける。
左右を、駆け抜ける。
空気が、ぶつかる。
清爽な空気が、ぶつかる。
シフトを、チェンジする。
右ハンドルにある、グリップシフトのグリップを廻す。
前に、廻す。
一段、進める。
ペダルを、漕ぐ。
グルグル、廻す。
自転車は、進む。
風を切って、進む。
自転車の進みに沿って、身体に動きが出る。
基本、体格は変わらない。
身長も、変わらない。
多分、骨格も、変わらない。
身体つきは、多少、変わる。
筋肉の付き具合も、多少、変わる。
あと二段、シフトを上げる。
一段四年だから、八年。
最初と合わせて、三段十二年プラス。
自転車の進みに沿って、身体に動きが出る。
基本、体格は変わらない。
身長も、変わらない。
多分、骨格も、変わらない。
身体つきは、かなり、変わる。
筋肉の付き具合も、かなり、変わる。
皺は、かなり、増える。
シミも、かなり、増える。
今日は、監督を務めるサッカーチームの、練習日だ。
マサアキは、フィールドに着くやいなや、ピッチに降りる。
ピッチで、選手達の自主練習を眺めていた堀口に、近寄る。
「堀口」
「あ、監督。
おはよう御座います」
「おはよう。
ちょっと、話があるんやけど」
「はい?
何ですか?」
マサアキは、ちょっと、息を吸い込む。
そして、言う。
「今後、お前が、監督やれ」
「はい?」
「監督交代。
俺、監督辞めるし、お前、監督就任な」
「いやいや、いやいや。
唐突に、何、言うたはるんですか」
堀口は、顔の前で、手刀を、ぶんぶん振る。
「こないだの準決勝。
「むっちゃ、いい采配した」って、聞いたで」
「いやいや。
偶然です」
「俺も、後で動画見たけど、ええ采配やった」
「ありがとう御座います」
「なんなら、『俺より、良かった』かもしれん」
「それは無い、でしょ」
「いや、ホンマや。
で、俺は、
『もうそろそろ、監督譲っても、ええかもしれんなー』と、思た」
「またまた ‥ 」
堀口は、お茶を濁すも、マサアキの顔を見て、引き締まる。
「だから、決勝から、お前監督、な」
「これまた、急に ‥ 」
「いや、決勝の場には立ち会うけど、基本的には、
お前が、采配取ってくれ」
堀口は、マサアキの表情を窺って、問う。
「 ‥ マジですか?」
「マジ、マジ。
今日、選手のみんなにも、言うわ」
善は急げとばかりに、マサアキは、ピッチに出、選手のみんなを集める。
堀口は、『速っ!』とばかりに、遅ればせながらも、マサアキに付いてゆく。
F.C.ティーツーPは、優勝する。
KING OF AREA、になる。
堀口の采配で、地域一番チームになる。
KING OF AREAに優勝したことで、マサアキは、正式に、堀口に、監督を譲る。
マサアキは、プレイヤー一本に、絞る。
四十八歳の役割が、ポッと、抜ける。
しばらく、マサアキは、三十六歳と二十四歳の活動に、終始する。
しばらく、四十八歳には、ならない。
『四十八歳で、何をすればいいのか』、分からない。
それは、四十八歳の経験・知識・知恵を活かすものだろうが、それが、見当が尽かない。
カルチャーセンターの、講師。
いやいや、どこに、そんな伝手が。
NPOの、スタッフ。
いやいや、若い人の様に動けへんから、足手纏いになりそう。
お年寄りの、話し相手。
俺の性格では、無理やろう。
他に、四十八歳の経験とか知識とか知恵とか、活かせるもんか~。
マサアキは、ぼー、と、考えるともなく考える。
ぼー、と、TVを見る。
TVでは、最近とみに増えている、クイズ番組をやっている。
マサアキは、ぼー、と、答える。
答えている内に、気付く。
九割方、できてるやん。
この番組のことだけ、かもしれない。
他の幾つかの番組の問題にも、答えてみる。
思いは、変わらない。
九割方、できてるやん。
風が、抜ける。
左右を、駆け抜ける。
空気が、ぶつかる。
清爽な空気が、ぶつかる。
シフトを、チェンジする。
右ハンドルにある、グリップシフトのグリップを廻す。
前に、廻す。
一段、進める。
ペダルを、漕ぐ。
グルグル、廻す。
自転車は、進む。
風を切って、進む。
自転車の進みに沿って、身体に動きが出る。
既に、三段目。
三十六歳から、四十八歳になる。
自転車の進む先は、フィールドではない。
地元のTV局、だ。
そこで、老舗クイズ番組の予選会が、開かれる。
予選会場では、ペーパーテストが、行われる。
その上位何名かが、面接の上、番組出演となる。
ペーパーテストとかばっかで、顔出さずに目立たずに、すまんもんかね。
マサアキは、『TVの存在意義を、否定する』ようなことを、思う。
無理も無い。
ギア・チェンジで、年齢を行ったり来たりするマサアキにとって、『顔を覚えられる、必要以上に目立つ』のは、死活問題だ。
なら、「TV番組に参加希望、なんてすんなよ」、と言われるだろう。
が、自分の腕を試したい欲求には、勝てない。
TV局に、到着する。
自転車を、降りる。
TV局の玄関に、向かう。
玄関入ったすぐ前にある受付で、要件を言う。
名刺大のワッペンを渡され、身体の見えるとこに付ける様に、言われる。
ワッペンには、数字が書いてある。
その数字は、1。
多分、この数字は、『ペーパーテストの成績順で、付いているもの』、と思われる。
つまり、マサアキは、ペーパーテスト1位。
マサアキは、胸の真ん中に、ワッペンを、付ける。
付けると、おもむろに、背負っているリュックを、前に廻す。
リュックから、取り出す。
マスクを、取り出す。
マスクを、頭から、スポッと音がする様に、被る。
顔全部が、マスクに覆われる。
メキシコのプロレスラーの様に、マスクマン化する。
確かに、そのマスクは、メキシコのレスラーのものだ。
マサアキが、会場に入ると、場がザワつく。
そのマスクに、驚いているのか?
いや、そうではないようだ。
「えっ、参加すんの!?」「あいつが、来んのか ‥ 」「ああ、もう、優勝無理やな」と言った声が、ザワつきに混じる。
明らかに、会場にいる人々の多くが、マサアキの存在を、脅威に感じている。
マサアキ。
クイズ回答者としての名は、Mr.JS。
参加するクイズ番組に、ことごとく優勝している。
最近は、「クイズ荒らし」、としても有名だ。
付いた二つ名は、
「謎の覆面クイズパネリスト」
「最強のマスクマン回答者」
「エル・ピストレロ」 ‥
マサアキは、リュックを降ろして、席に着く。
一息入れ、水筒のお茶を、飲む。
飲み終えて、会場の雰囲気を、察する。
まあ、今日も、イケるやろ。
マサアキは、本戦出場を、確信する。
後日。
TVクイズ番組、収録日。
本戦、開催日。
本戦には、ペーパーテストの順位、上位四人が、進出する。
マサアキ(Mr.JS)は、トップ。
二位以下と、五点以上、差を付けての進出。
収録開始前に、回答者四人の顔合わせが、行われる。
四人の内一人は、よく、クイズ番組やクイズ・イベントで、顔を合わせている。
マサアキも相手も、お互いを、よく知っている。
ほとんど友達、と、化している。
後の二人は ‥
ゲッ
一人は、堀口。
ゲゲッ
もう一人は、大島。
図らずも、『KING OF AREAよ、もう一度』、になっている。
四人は、互いに、握手を交わす。
マサアキは、その際、ライバル友達回答者の斉藤とは、眼を合わす。
堀口と大島とは、眼を合わさない。
眼を合わせてしまうと、こっちの正体がバレないとも限らない。
堀口は、思う。
『Mr.JSさんって、オドオドして、案外、小心者?』
大島は、思う。
『Mr.JSさんって、眼を合わさず逸らして、案外、小心者?』
堀口も大島も、揃って、思う。
『『 今日、イケるかも 』』
マサアキの行動が、二人の思いに、勘違いを与える。
収録が、始まる。
番組内容は、三つのステージに、分かれる。
第一ステージは、全員一斉フリップ回答。
正解一点、誤答マイナス一点。
誰かが、十点先取した時点で、ステージは、終わる。
第二ステージは、第一ステージの成績上位順に、答えていくもの。
正解が出れば、その問題は、そこまでで終わる。
間違えれば、次の人(次の成績上位者)に、回答権が、移る。
正解は二点だが、誤答もマイナス二点。
制限時間内に、どれだけ点数を取れたかを、競う。
最終の第三ステージは、早押しクイズ対決。
それまでのステージの点数が、全加算され、各自の持ち点となる。
先に、三〇点に到達した者が、優勝。
但し、成績一位は、正解してもプラス一点、
二位・三位は二点、
四位は三点。
誤答は、一律マイナス一点。
第一ステージは、ぶっちぎりで、マサアキが、取る。
二位に、三点差を付けて、第一ステージを、取る。
が、第二ステージは、停滞する。
当初、順調に答えていたもの、ある問題で、引っ掛かる。
回答時間内に回答できず、回答権を、次に、渡す。
そこから、崩れていき、立ち直ったものの、更に飛び抜けることは、できなかった。
結果、現状維持。
マサアキ、三点差のトップは、変わらず。
二位に、堀口。
引き離されても、踏みとどまり、差をジワジワと詰めて、マサアキと三点差の二位。
三位に、大島。
こちらは、マサアキを射程内に捕らえての、堀口ぴったりマーク。
マサアキとは四点差、堀口とは一点差の三位。
四位に、斉藤。
こちらは、マサアキと五点差、堀口と二点差、大島とは一点差。
キツい。
正直、キツい。
マサアキは、思う。
第二ステージで、もっと差を付けるつもりだったが、第一ステージでの貯金の現状維持に、終わってしまった。
第三ステージは、配点方法に、特徴がある。
クイズに正解しても、得られる得点は、一位一点、二・三位二点、四位三点。
つまり、マサアキ一点、堀口と大島は二点、斉藤は三点。
と云うことは、マサアキの二倍のスピードで堀口と大島が、三倍のスピードで斉藤が、得点を加算することになる。
だから、この差は、正直、キツい。
マサアキは、再び、思いに沈む。
その時、心の中で、四十八歳のマサアキが、振り向いて、言う。
『要は、早押しで、ぶっちぎって、答えたらええんやろ?』
二十四歳と三十六歳のマサアキも、振り向いて、言う。
『『 そうそう 』』
マサアキは、一息、息を抜く。
そうやな。
この場合、ヘタに作戦とか戦略考えるから、悲観的になるんやな。
自分の積み重ねた知識とか知恵とか経験を信じて、真向から、ぶち当たるか。
マサアキは、覚悟を決めて、眼を据える。
第三ステージに、臨む。
「視力検査で」
ピコーン
「JSさん」
「ランドルト環」
「正解」
ぶっちぎり。
他の回答者に、数問しか、答えささず。
七連答の後、一問逃して、五連答、一問逃して、三連答。
7・5・3の、コンボ。
で、ダントツの一位で、優勝。
今の回答で、優勝が、決まる。
他の三人は、ほぼ、ノーチャンス。
マサアキは、早押しの反応速度で、他の三人に、勝る。
早押しでない、問題文全部読み終えの回答でも、その知識量で、勝る。
マサアキの心の中の、三十六歳のマサアキは、堀口の方を、見る。
マサアキの心の中の、二十四歳のマサアキは、大島の方を、見る。
マサアキの心の中の、四十八歳のマサアキは、斉藤の方を、見る。
皆一様に、切磋琢磨する相手を見るように、爽やかな眼差しで、口元を綻ばせる。
実際のマサアキも、覆面の下で、口元を綻ばせる。
その眼差しは、TVカメラに、向けられる。
右手の、人差し指を伸ばし、親指も伸ばす。
他の三本の指は、折り畳む。
右手を、ピストルの形にする。
爽やかな眼差しをTVカメラに向けたまま、右手の人差し指の筒先を、TVカメラに、向ける。
BANG!
マサアキは、声に出さす、口ずさむ。
そして、思う。
まだまだ、負けねーよ。
{了}