4-2音*.♪❀♪*゜ ー夢想曲ー
《君にはこれで十分だよ》
オルゼオールは千年前のレイフィスの言葉が頭に木霊する。
『っ!レイフィスと同じことを!!』
オルゼオールは全ての魔力を炎龍に注ぐ。黄色から白く変わり、さらに高温になったことが分かる。
『なら、その状態で受け止めるがいい。できるのならなっ!』
白い炎龍は一直線に向かってくる。
『青龍。炎龍を消して』
マイナの言葉を合図に青龍も炎龍を止めるべく動き出す。真ん中で2匹の龍は、ぶつかり合った。
炎龍の一部が水で消えかかり、高温の熱で青龍の一部が蒸発し霧状になるが、物ともせず2匹とも体勢を整える。
炎龍が口から炎を吐くと青龍も水を吐き出す。どちらも譲らず同等だったが、マイナが青龍に魔力を少し込めると水の量が一気に増え、炎を上回り炎龍が消えた。
青龍は上空で一回りすると、ただの水に戻り姿を消す。水は雨となり数秒だけ降り注ぐ。
『っ!』
全ての魔力を込めた炎龍が消えたことにより、オルゼオールは数秒言葉を失う。
水に濡れないよう、ユウは肩に掛けているマントでマイナを包んだ。
『なぜだっ!!』
オルゼオールは動揺を隠せずに叫んだ。
『嘘だ。ありえない……真祖であるこの俺が、たかだか純血の姫に……それも、力を封じてる少女に負けるなど!』
ユウはオルゼオールを見やると、透き通る声で言う。
『魔法だけなら、マイナはすでに第四真祖マノン様を超えている』
『……なんだと?』
呆然としているオルゼオールは虚の目で、マイナの杖に目をやる。
『その宝石、第四真祖の……いや、違う……まさかっ!その杖の宝石はっっ!?ありえないっ……!』
行きついた答えにオルゼオールは瞠目する。
『幻の宝石。レッドダイヤモンド────』
マイナがそう呟くと宝石は妖しく輝く。
月に翳すと紋章が現れた。
『正真正銘、マイナの紋章が刻まれたレッドダイヤモンドだ。彼女自ら創り出した宝石だよ』
ユウは微笑む。その美しい微笑みに、オルゼオールはゾッとした。
『そ……ん、な……』
震えながら口を開くオルゼオールに、ユウは目を軽く 細めた。
『この意味が分からない訳ではないだろう?曲がりなりにも第六真祖なのだから』
『っ……認めない。……こんなこと、あってはいけない……!』
冷静さを失い取り乱すオルゼオールから黒い魔力のようなものが溢れ出す。それと同時に、顔には黒い蔦模様が浮かび上がっていく。
「これは……ユウ」
マイナは触れていたユウの服を無意識に掴む。
ユウの手が腰から頭に触れ、さらに抱き寄せられる。
『やはり。其方、神の血をのんだな?』
「っ……!」
ユウの言葉にマイナは息を呑む。
ユウの腕から離れようとするが、ユウは離さない。
『ああ……とてもうまかった。神の血は。魔族とも人間とも違う。神というだけでどんなに弱くても甘美だ』
抱きしめられているユウの手に力が入るのを感じ、顔を上げようとするが叶わず、マイナはユウの服に顔を埋めたまま話を聞くしかなかった。
『お前も神だろ?それも上級あたりの。食ってやる。お前が抱いている姫と一緒にな』
『戯言を』
ユウはいつもより少し低めの声で呟く。
そして────。
自分の手首を噛んだ。
ドクン────。
ユウの腕の中で、マイナは目を見開く。
ふいに香る────抗いがたい、かぐわしい香り……。
ユウの手首から零れ落ちる、極上の血がヴァンパイアの本能を呼び覚ます。
《ホシイ────。ユウ、ノ、血、ガ……スベテ……ホシイノ────》
マイナの心の奥底に眠る小さな少女が呟く────。
「…………」
小さく息を吐くと、マイナは静かに瞳を閉じた。
少女の声に気づかない振りをして……。
『ああ……うまそうな香りだ。お前もこの俺の、一部にしてやる!』
オルゼオールの足元から大きな黒い茨が飛び出す。
だが、眩しいほどの光が茨を全て消し去る。
『貴様如きがユウに触れられるとでも』
ヨウがオルゼオールの前に立ちはだかり、2人は魔法や接近戦を駆使して戦う。
その様子を一瞥すると、ユウはマイナの耳元で囁く。
『欲しい?』
「……ユウ?」
ふわりと香る甘い香り────。
《ホシイ、ノ────》
無意識に零れ落ちる血を舐めとる。
《タリナイ……》
マイナは潤んだ瞳でユウを見るとユウは優しく微笑む。
『マイナ、好きなだけ飲むといい。君の渇きが癒えるまで』
ユウの優しい声音に神秘的な真紅の瞳が強く輝き、ユウを抱きしめる。ユウの手が頭と腰に触れるのを感じながら、マイナはユウの首筋に顔を寄せた。
兄よりも甘い香りを放つ、ユウの血に意識が霞みそうになる。
真紅の瞳は一段と煌めき、真っ白な首筋に牙をたてた────。
口の中に零れ落ちる血の味は、濃厚でだけどすっきりとした上品な甘さが、口いっぱいに広がってくる。────飢えが満たされるまで……。
。❀·꙳。。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。
血を通してユウの神力が体に満ちるのを感じる。
心の奥底に存在する世界──── 童話のようなバラ園と沢山の桜。その中でも、一際大きな桜が湖の真ん中の陸地で咲き誇る。
ふわふわ舞い踊る桜は、尽きることなく悠久に降り注ぐ。この世界の全てに────。
桜の樹の上で腰掛けているユウは、マイナに気づくと人差し指を口元に当てた。
少女はユウの膝で密かに眠りにつく────。
飲み終わるとゆっくり、ユウから離れる。
『もういいの?』
ユウはマイナの唇にそっと触れる。
唇についた血が口紅と混ざり合う。
「ん……。ありがとう、大丈夫」
マイナはオルゼオールに向き合うと、空に施していた禁術魔法に魔力を込める。
真紅の瞳は煌めき、胸元には杖のハート部分に似た模様が現れる。桜色に輝く模様は、優美でアンティークっぽさと幻想的なメルヘンなデザインの紋章だ。その紋章はマイナ個人を表すものである。
『我、純血の姫なり。我が身に宿りし血は王の証。我、イルヴェリーナ帝国第一皇女にして、第一王位継承者の名の下に、彼の者を封印せよ』
オルゼオールの足元と空に桜色の魔法陣が現れる。
『封印魔法か。そんなもの二度も効かぬ!』
オルゼオールは抜け出そうとするが、そこに空の魔法陣から光の柱が降り注ぐ。
『ぐっ!ああぁぁぁぁぁぁ、あ"あ"……はぁ……はぁ……』
光の柱が消えると、オルゼオールは笑いだす。
『ハハハハハ……やはり……効かぬ。効かぬぞ!ハ、ハ、ハ、ハ、ハ!』
『本当に?』
マイナはコテンと小首を傾げる。
『……なんだと?……ゔっ!……こ"れ"は……』
オルゼオールは自分に起きた衝撃に下を向く。
胸には剣が貫かれていた。
『ぐあ"ぁ……いづのま"に"ぃ……』
吐血を繰り返すオルゼオールは、痛みに耐えながら……後ろを振り向く。
背後に立っていたのは冷めた瞳をしたスイだった。
オルゼオールと目が合ったスイはニコリと微笑む。
「よくも私達の前で……」
スイは真紅の瞳を細めると、低く呟く。
『妹を食おうなどと……言ってくれたね』
オルゼオールの胸から勢いよく剣を引き抜くと、スイは剣についた血を払う。
『ぐ、ぅ"ぅ……ごん、な"も"ので』
『第六真祖オルゼオール。第一真祖レイフィスの命により、汝を封印する』
『……封印だと?これくらいの傷で、真祖を封じることができると思っているのか!?』
「そうやって、油断しているから気づかないのよ」
ユキが髪を靡かせながら歩いてくる。
『何をふざけたことを!こんな傷、すぐに……な"!』
オルゼオールは自分の胸に視線を向けるが、傷が塞がっていない事に愕然とする。何より体の端々が徐々に砂へと変わりだす。
『その剣、見た事があるぞ。そうだ!それは……いや、なんだ……?記憶が混濁して……まさか、さっきの封印はっ!?』
オルゼオールは、はっとする。
そして、マイナに視線を向けた。
「そう。私が貴方に施した封印は体ではなく、記憶よ」
「記憶が全て消える頃には、体は朽ち果てるわ」
「そして、新たな第六真祖が生まれる。貴方の記憶を継承せずに」
マイナ、ユキ、スイは淡々と告げる。そこにはなんの感情も含まれておらず────まるでただの美しい人形のようだった。
3人の言葉にオルゼオールは瞠目する。
『な、に?そんなことできるわけ……っ!この感じ、まさか!』
オルゼオールは足元の魔法陣を見る。魔力が抜ける感じに冷や汗が止まらない。
『そんなはず……ありえない。魔力のみならず、王気までも……!』
オルゼオールはある事に気づき周りを見渡す。
そこには、いつの間に現れたのかショウやヒヅキ、そしてユヅキとミヅキが立っていた。
『いつの間にっ……!?』
マイナは、魔法で狐のお面をパッと左手に出現させると、顔の近くまで持ってくる。
桜模様が描かれた狐のお面は、可愛らしく美しい。紐の部分についている鈴がリィン────となった。
それに気づいたオルゼオールは、ハッとする。
『その狐のお面……まさか!』
マイナの顔に狐のお面が重なると、オルゼオールは息を呑んだ。
そして、周りにいるスイ達をもう一度見ると、彼らもまた違う柄の狐のお面を持っていた。
『……っ。嘘だっ!そんなはず……お前たちが、あの時のっ!?』
オルゼオールの反応に、マイナは持っていた仮面を少し横にずらす。
微笑んでいるマイナの姿に、オルゼオールはある記憶が蘇った。
7人の狐のお面をつけた子供達を────。
『ありえない、ありえないっ!二度もお前たちにっ!!ぐっ……ゔあ"あ"ぁぁぁぁぁぁ………』
オルゼオールは叫ぶと頭を押さえる。急速に体が砂へと変わり、とうとう全てが砂へと変わった。
ドサァ────と地面に降り積もる。
一つの紅い宝石を除いて────。
マイナが右手を出すと血のように真っ赤な宝石が、手元にやってくる。
キラキラと輝く美しい宝石────。
月に翳すとより一層煌めいた。
『幻の宝石。レッドダイヤモンド────』
真祖だけが持つ特別な宝石。
宝石言葉は……。
────永遠の命。