2音*.♪❀♪*゜ ー円舞曲ー
魔歌────。
あるいは魔法歌と呼ばれている、魔力をのせた歌魔法。
一際美しい桜の樹の上に腰掛け、マイナは魔力を込めた歌を紡いでいく。
聴く者を魅了するような歌声が、煌めく夜空に広がる。落ち着いた綺麗な曲調はどこか儚く、合わせるように桜は舞った。
幻想的な夜に、この旋律はあまりにもよく似合っている。
心地のいい美しいメロディーは神秘的な歌詞と合わせることで、さらに魅力が増す────。
マイナにとって自分が作り出した歌の中で、一番の出来でお気に入りでもあった。
満開に咲き誇る桜を眺めながら、マイナは魔歌で浄化の桜の花びらを生み出す。
(本当に綺麗。みんなで、お花見したいなぁ〜)
桜吹雪の中、兄達とのお花見に思いを馳せながら────。
だだっ広い公園を埋め尽くすほどの桜の樹々達が風に揺られ沢山の花びらを夜空や大地に散らす中、それに紛れて魔力でできた桜の花びらもあちこちにふわりと飛んでいく。
公園からかなり離れた場所にある建物や大地に蔓延っている黒い花々。誰にも気づかれずにひっそりと咲いている。
だがそこに魔法で作り出された桜の花びらが近づき、黒い花弁に触れた途端、白く輝き綺麗に消えていく────。
。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。
マイナが歌い終わると、美しく輝いていた真紅の瞳が普通の茶色へと戻る。ふわっと柔らかな黒髪が桜の花びらと共に舞う。
「レステーレの黒猫は、あの神と繋がりがあったの?……ユウ────?」
尋ねてはいるが、どこか確信を持っているのであろうマイナは振り向くことなく、咲き誇る桜を眺めながらそっと呟いた。
誰もいない空間に問いかけた言の葉は、静かに空へと溶けていく。
『こんばんは、美しき純血の姫君。相変わらず勘がいいね』
ついさっきまで誰もいなかったマイナの左隣に、問い掛けられたユウが姿を現した。
優しい月の光のような銀の髪は風に揺れ、金に煌めく瞳はより一層ユウの美しさを際立たせている。
儚く美しい容姿はとても男性には見えず、女性と言われても皆、違和感なく信じるだろう。
(何度……見ても綺麗。美人は3日で飽きるっていうけど……あれは……嘘ね。ずっと見てられる。ユウが神様だから……?最高神だと美しさの次元が違いすぎて、当てはまらないのかな……?)
そんな中性的な容姿を持つユウは、見るものを落ち着かせるような慈愛に満ちた微笑みを浮かべている。
(スイお兄様と同じ……)
スイもよく似たような微笑みをしていると、ふと頭をよぎる。
自分の心を相手に悟らせない為の笑顔────。
『それにしてもよく気づいたね。私がここにいるって。一応、気配を消していたはずなんだけどなぁ』
「ここに来た時、一瞬だけ気配を感じたの。ヨウも一緒にいるんでしょ?」
『ああ』
ユウは軽く頷く。近くに落ちてきた桜の花びらに気づいたユウは手を伸ばした。淡くピンクに色づいた花びらが掌にひらひらと落ちて、消える……。
魔力でできた花びらは物や何かに触れると、淡いピンクの光を放ちながら儚く消えていく。
『君の推測通り、あの黒猫達とゼフィアは繋がっている。おそらく今も何かしら意思疎通を図っているんじゃないかな?』
ユウの言葉にマイナは微かに驚く。
「意思疎通?封印が解けた気配はないけど……まさか気づかれないように細工を……?」
『いや。封印は解けてはいない。第一、彼を封じたのは私達だよ。誰も解くことなどできない。神皇さえも』
軽く目を伏せるとユウは静かに溜め息をつく。
『だがあの時……ゼフィアは封じられる間際に何かの神陣を発動させていた。邪神に堕ちたとはいえ元は上級神。肉体が封じられ魂を散らされたとしても、その欠片の一部でも残っていれば、意思疎通を図れるほどの力を持っている』
「なら、封じられる際に自分の現し身に記憶を移植、あるいは瞬時に分身を作り出して逃げた……とか?」
『そうだね。その可能性が一番高い』
そこまで言うとユウはそっと瞼を閉じる。
一年前の出来事を思い出したマイナとユウは同時に 溜め息をついた。
『マイナ。君のことだからもう気づいているとは思うけど、ゼフィアを邪神へと堕としたのは……』
「第六真祖オルゼオールね」
『ああ。……彼と戦う時は十分気をつけて。もちろん私も君と共に戦うが、抑えた力でどれくらい通用するか分からない。でも必ず君を守ると誓おう』
風が吹き桜が舞う。月の光を浴びたユウの髪は輝き、優しい月の光そのものだった。
まるであの時と同じ────。
「……ユウ。ありがとう」
マイナは優しく微笑んだ。
ユウも軽く微笑むとマイナの髪を一部手に取り、キスを落とす。
『また後で』
滅多にしない悪戯が成功した時のような笑顔でユウは姿を消した。
「……心臓、止まるかと思った」
。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。
マイナは目を瞑り今回のターゲット達の居場所を魔法で確認する。一番すぐ近くにいるのは、違法ヴァンパイアだ。兄達から逃げている姿が脳内に映る。
その近くにリーダーである黒猫が隠れていた。それを見てマイナは微笑んだ。
「み〜つ〜けたっ!」
ふとさっきまで感じなかった気配がすると、座っていた桜の木の枝にスイがいつの間にか立っていた。
「お兄様」
「そろそろ第六真祖が動き出す」
「分かった。一応足止め用の術式と、空に禁術レベルの封印魔法も施したよ」
「ありがとう。助かるよ」
スイはマイナの頭を優しくなでた。
「ふわ!起きて。もう少しで時間よ」
マイナは膝の上で眠る使い魔の頭をなでながら、話しかけた。
毛量が多い毛は綿飴のようにふわふわで柔らかく、愛らしい瞳をした使い魔。その背には、黒い翼が生えている。普通の人が見たら背飾りを付けた、ただの犬にしか見えないだろう。
『う〜ん……眠いふわぁ』
「せっかくおやつ用意したのに」
『ッッ⁉︎おやつ、いるぅぅぅ!!』
ふわはマイナの膝から慌てて飛び起き、空中に飛びながら短い前足を器用に使い、ハムハムと一生懸命クッキーを食べ始めた。
テディベアの形をした可愛らしいクッキーは、ほんのりピンク色に色づいている。ふわりと漂う甘い香り。ヴァンパイアにとって、砂糖より甘いマーベリーは血の代わりとなる特別なベリーだ。
魔界ではよく血の代用としてマーベリーを食べる者も多い。
クッキーに入っているマーベリーの香りにつられ、マイナの瞳が真紅の月と同じく妖しく光る。
「甘い香り〜。マーベリーのタブレットか飴、持ってくれば良かったなぁ」
「そうだね。今日は一日中仕事で、朝から何も食べてないし……いや、もう昨日か」
2人は苦笑する。
スイは膝をつきながら、シャツのボタンを途中まで外した。そして飲みやすいようにシャツをずらし、首元をさらす。
「少し飲む?」
スイは首をかしげて微笑んだ。
「いいの?ありがとう、スイお兄様!」
マイナはスイの肩と背中に手を添えると、スイも優しく抱きしめる。マイナはスイの首に顔を埋め、瞳は妖しさを増しスイの首筋へと牙をたてた。
首筋から溢れ出る血はマーベリーよりも芳しく甘い────純血のヴァンパイアの血は、他のヴァンパイアよりも極上で甘美と称されている。
(美味しい……。甘くて果実のような優しい味)
口に広がる甘い血がノドの渇きを癒していく。
血の味を堪能していると誰かが近づく気配がして、スイの首筋からゆっくりと牙を抜く。
「お兄様の血、甘くて大好き。ずーっと飲んでいたいぐらい」
「ふふ。それは嬉しいね」
マイナとスイは笑い合い、スイはマイナの頭をなでた。
スイの血の香りにさそわれたのだろう。1人のヴァンパイアが近づいてくるのを感じる。
「血の匂いに誘われてやって来たよ……かわいいかわいい元人間のヴァンパイアが」
「かわいい……?」
スイは首を傾げた。
「ゔあ"……あ"あ"ァァァ」
「明らかにゾンビみたいな感じだぞ」
たった今合流したヒヅキは会話が聞こえたのか眉を顰めて言った。
「でも人間の時は可愛かったよ……違法なやり方で永遠の若さと命を手に入れようとしなければ、ね」
違法ヴァンパイアの一人である彼女は、人間だった頃モデルとして活躍していた。だが黒猫に唆され、違法なやり方でヴァンパイアになってしまったのだ。
「時間だ」
スイの言葉を合図にマイナ達は桜の木から飛び降り、ターゲットを挟み撃ちにする。
「血、ガ欲シイ……モット!……」
敵は三人に飛びかかり、素早い動きで瞬時に間を詰めてる。しかし、みんな余裕でかわす。
「それ以上はやめた方がいい……」
「元に戻れなくなるよ……人にもヴァンパイアにも」
「ここまで堕ちたら半分手遅れだろ。哀れだな」
スイとマイナは彼女に話しかけるが、もう自我がなく何も聞こえていなかった。
するとマイナの瞳の光が更に増し、敵は長い爪で襲いかかろうとしたが急に目の前で動けなくなる。純血のヴァンパイアの力の一つによるものだ。
「あ"あ……ぁ」
自我が無いと判断したスイは瞳が紅くなりヒヅキに指示を出す。
「ヒヅキ……」
「あぁ、今は眠れ」
紅く光るヒヅキの瞳は妖しさを増し、言葉とともに魔法銃を彼女に突きつけ、引き金を引く。
すると彼女の額に魔法陣が浮かび、彼女は倒れた。
「そろそろユキ達も終わった頃かな」
「黒猫の方も動いたみたい。ふわ、行くよ」
『ふわぁ〜』
ずっと一生懸命クッキーを食べていたふわは、食べながらマイナの腕に収まる。
そして、3人がそれぞれ転移すると────儚く散る桜と血のような紅い月だけが残された。




