15音*.♪❀♪*゜ 入学式
四季を表す意匠が施された壮麗な扉は、精霊を模した絵が描かれている。この学園を護る守護精霊たちの姿だ。季節の象徴をそれぞれ手にしている。両扉の装飾には模様と一体化した魔法陣が組み込まれ、学科ごとのシンボルが微かに煌めく。
その中央を飾るのは、この学園の証である真神学園のエンブレムだ────。
白銀の扉に輝く金の紋章。精緻な彫刻がなされ、近づくだけで背筋が伸びるような威厳を放っている。
まるで芸術品だ。魔王城の扉と遜色ないできである。
グランドホールでは、式典や舞踏会などの行事も行う。その為、一番豪華な正門の大扉にも負けず劣らず気品漂う扉なのだ。
『一年生はこっちだニャー』
猫のウィーリッチが、声をかけながら新入生を扉の前に並ばせる。その近くで、複数の動物姿の使い魔たちが、学年ごとに指示を出していた。
『久しぶりにフィノレたちに会えるね、フィーネ』
マイナが念話でそう伝えると、ケープの中から小さなウサ耳がぴょこりと顔を出す。
その可愛らしい仕草に、ふふっと小さく肩を揺らした。
『記念すべき、真神学園第一回入学式。今ここに、新たな絆を結ぶ才能溢れる魔法使いたちを歓迎するニャー!!生徒入場ニャッ⭐︎』
音楽が流れ、圧倒的な存在感を放つ大きな扉が今、生徒たちを歓迎する為、左右に開かれる────。
「「「わぁ……」」」
お城と同じ規模の煌びやかなグランドホールに、生徒たちは感嘆の声を上げた。
『おめでとう♪』『おめでと〜!!』『ようこそ!』
『新たな魔法使いに祝福を〜❀.*・゜』
光の粒が降り注ぎ、桜の花びらが舞う。
盛大な拍手とともに精霊や使い魔たちも魔法で、生徒たちを迎えた。
花火や噴き上がる火柱。空中のあちこちに浮かぶ氷の花が砕け、ダイヤモンドダストへと変わる。
火の精霊による祝炎と水の精霊による祝水だ。
風の精霊は舞い踊り、地の精霊は見たことのない花々を咲かせ降らす。
なかには、籠いっぱいに入った美しい植物や光り輝く花弁を空から撒いて、祝福してくれている。
『入学おめでとうなのー』
『コサージュをつけるの〜』
精霊がポンッと魔法で、桜のコサージュを左胸に咲かす。つけてもらった生徒たちは、とても嬉しそうだ。笑顔でお礼を述べると、光に満ちたホールへと踏み出す。
それに続くようにマイナも会場の入り口まで進むと、空から一人の女性が降りてきた。ふんわり揺れ靡く綺麗な黒髪に真紅の瞳。まるで女神のような美しさを誇る彼女は、何度見てもどこか……マノンに似た顔立ちをしている。
「……フィーナ!」
(最近、忙しそうだったのは……入学式のセレモニーに参加するためだったのね。)
さっきまで精霊たちと美しい魔法で生徒を迎えていたフィーナに、ここ最近忙しそうにしていた彼女を思い出す。
気合いを入れて出掛けては、いつもへとへとになりながら帰ってくる、省エネモードの兎のぬいぐるみに。
おそらく精霊とともに、セレモニーのリハーサルを行なっていたのだろう。
(……でも、それだけじゃないはず。あの程度であんなに魔力削れないし……そういえば、フィーネたちも最近、帰りが遅かったような……)
いつもぬいぐるみに擬態している七人のうち一人は、マイナの側にいるため、そこまで深く考えてはいなかった。
(睡眠を惜しむぐらい、私も最近忙しかったし……記憶が曖昧だわ)
アイドルの仕事やヴァンパイアとしての任務で、慌しい日常を送っていた。睡眠を削るほどの多忙さに、他のことを気にする余裕がなかったのだ。
そこでマイナは、ハッとする。
(もしかして第六真祖が原因とか??!)
オルゼオールが起こした問題は、今もなお続いている。人間だけじゃない。次元や魔界にまで関わっている為、対処が追いつかないのだ。
そんなマイナの心配をよそに、フィーナは明るく笑う。
『おめでとう、マイナ!制服似合ってるわ。新しい
始まりに心からの祝福を。輝きに満ちた、光溢れる日々になりますように』
フィーナはマイナの頬に祝福のキスを贈ると、柔らかな微笑みを浮かべた。
そして手をかざすと……小さく光だし、ポンッと桜のコサージュが左胸を飾る。胸元で淡く揺れ動く、花びらがとても可愛らしい。
『これで完璧ね!帰ったら今日はみんなで、盛大にお祝いしなくちゃね』
「ありがとう、フィーナ」
マイナはふわりと微笑むと、止むことのない祝福のフラワーシャワーが降り注ぐホールへと、歩き出した。
生徒たちが全員、薔薇のアーチを潜り抜けると……指揮棒を振る使い魔が止める合図を行う。
静寂に包まれる中、会場の扉が静かに閉ざされる。
その途端、グランドホールの姿が一瞬にして変わった────。
光の粒と桜の花びらはそのままに。赤い花弁と白い羽がともに舞い落ちる。
シャンデリアがついた天井は虹のかかった空へ、音もなく壁は消えて桜と薔薇の庭園が広がった。
そして大理石の床は、一面ピンクと赤の花弁が敷き詰められた床へと一変する。
空飛ぶ青い小鳥が鳴きながら生徒の肩に止まり、また空へと羽ばたいていく。
今日で何度目かの驚嘆の声が、生徒たちの間から漏れた。同時に、緩やかな音楽が流れ始める。
教師の挨拶が進み、理事長が壇上に立つ。すると生徒たちは、微かにざわめき始めた。
スイの整った顔に、あちこちで黄色い声が上がる。
「新入生の皆さん、入学おめでとう御座います。ようこそ【真神学園】へ。そして、編入生の皆さんもご一緒にお迎えすることができて、大変嬉しく思います」
(すごい、スイお兄様!もう全校生徒をメロメロに……!さすが私の自慢のお兄様!!かっこい〜)
マイナはキラキラした瞳をスイに向けながら、話に耳を傾けた。
『続いて、イルヴェリーナ皇国第三代目魔王ミリアーナ陛下のお言葉ですニャ』
二階にある王族席のバルコニーから、少女が姿を現す。甘い苺ミルクのような髪に、緋色の瞳。まさしく、マイナたちがよく知る人物だ。
王族に相応しい装いのミリアーナの姿に、脳内でペンライトとうちわを振っていた複数のマイナたちが動きを止め……消え去る。
空気が変わり、生徒たちの緊張がホールに漂った。
真祖の血を引く強い魔力に、純血種以外が息を呑む。
『諸君。入学おめでとう!記念すべき、この素晴らしき日を迎えられたこと、心より嬉しく思う。ヴァンパイアの新たな未来に祝福あれ!』
ミリアーナがそう高らかに言うと、割れんばかりの拍手がホール全体に鳴り響く。
『最後に、四季守りの祝いの儀を執り行うニャー。選ばれた生徒四名は、壇上へ移動するニャ』
その言葉に、ケープの中で隠れていた兎が顔を覗かせる。
『行こう。フィーネ』
自分の肩に視線を向けると、ちいさな白兎は頷く。
そして、マイナの頬に顔を寄せた。




