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1音*.♪❀♪*゜ ー幻想曲ー

大人気4人組アイドルグループ、Mudiaミューディア。美しい容姿を持つ4人の少女達の魅力は絶大で歌もダンスも世界に輝けるほどにパーフェクトだった。


世界的に有名になった彼女達を知らないものは、この世界にはおそらくいないだろう。たとえテレビや携帯などの情報機器がなくても、街に出れば必ず知ることとなる。


それほど彼女達のパフォーマンスは素晴らしく、誰もが魅了される。歌を聴けば聴き惚れ、ダンスを見れば魅入ってしまうほどに。


Mudiaのリーダー、カミノ・マイナは兄達と一緒に夜桜を見に【桜歌公園】に来ていた。


「わぁぁぁ!!めっちゃ綺麗!昼間の桜もいいけど、やっぱり夜桜も綺麗だよね」


マイナは目を輝かせながら振り返る。


ライトアップされた沢山の桜の木。昼間見る桜とはまた違う別の印象が垣間見える。地面には、デジタルアートで映し出された桜の花々。その空間はまるでこの世のものとは思えない、幻想的な美しさだった。


「そうだね」

「せっかくだから写真撮りましょー!」


長兄のスイは微笑み、次男のユキはズボンのポケットからスマホを取り出した。ところが────。


「あれ?ショウは……?」


ユキが辺りを見渡すが、さっきまで一緒にいたはずの三男のショウの姿がどこにもなかった。


「あー、ショウなら」

「屋台に……」

「向かったよ」


三つ子は屋台が並んでいる方向を同時に指差す。


四男のヒヅキが怠そうに────。

五男のユヅキは半分眠りながら────。

六男のミヅキが困ったように微笑んで────。


それを見たユキが静かに微笑む。


「……あの脳筋っ!」


ユキがスマホを強く握り締めたのを見て、三つ子はそっと目を逸らす。ショウのお仕置きの未来が見えたからだ。


その光景を微笑ましく見ていたスイはそっと口元を抑え、軽く肩を震わす。


「ユキ、写真は後で撮ろう。そろそろ時間だ」

「分かったわ」


柔らかなスイの声にユキは頷くと、兄妹と共に桜の中へと姿を消した。




。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。。❀·̩͙꙳。




【桜まつり】からかなり離れた場所に移動すると、人の声はもちろん、人の気配すらもない。


美しく咲き誇る桜並木は風に揺られ花を散らす。


おしゃれな街灯や可愛らしい提灯は淡い光を灯しているが、夜のミステリアスな雰囲気は消えることはなかった。


「マイナ────」

「OK!」


スイの言葉を合図にマイナは広範囲に結界を張る。

ふわっと風が流れ魔力が公園の一部を覆った。


結界のおかげでこれから起こることは人間には見えず、その先には決して入ることはできない。


スイを筆頭に空へと浮かぶ中、ヒヅキは妖しい笑みを浮かべた。


「これで思う存分魔法が使えるな」


片手に炎を出して握ると、一瞬で消える。


魔法で空を飛びながらマイナは微笑む。


「でも気をつけてお兄様。この結界はあくまで人間に対するもの。私達が本気で魔法を使えば、間違いなくこの世界が壊れてしまうわ」

「始祖相手にどこまで抑えられるかしら……」


ユキは静かに息をつく。

柔らかな風が流れる中、それぞれ空中から公園を眺める。すると風が一瞬吹き荒れ、花や花弁と一緒に、優雅で上品な桜の香りを集めて運んでくる。


「桜の香りがする」


マイナは空に舞う桜の花を掌に受け止める。

淡くピンク色に色づく桜の花には、神力が満ち溢れ、花弁が艶やかだ。


「ほんと。いい香り」

「この香りの香水、作りたいわね」


ミヅキとユキは風が吹く方に視線を向ける。


「お兄様、知ってる?品種にもよるけど、大半の桜は香りが少ないの。でもここの桜は特別なのよ」

「特別?」

「神力が宿っている影響か香りが強く、ここの桜を使って作った御守りや香水には、魔力や神力を高めたり魔法の媒体や邪気を払うことができるの」

「そうなの?!神力の件は知ってたけど、そんな効能があるなんて知らなかったわ」

「僕も……あとで買って帰ろう」


驚く二人にマイナは微笑む。そして、神社がある山と公園を見て瞼を伏せた。


(おそらく彼らの目的は……)


ほんのりと甘い香りが漂う。風が新たな香りを運んできたのだ。優雅で上品な桜の香りとは別の────様々な甘い香りが混じった血の香り。


「……品位に欠ける」


ユキは静かに低い声で呟く。


「スイにぃ、僕達の今回の仕事は違法ヴァンパイアの対処とそれを行った純血種を捕らえる事」

「そして、封じられていた始祖をもう一度封印だろ?」

「ああ、そうだね……」


ミヅキとヒヅキの言葉にスイは微かに目を細めた。

地面に降りるとそれぞれ魔法や分身を飛ばし、ターゲットの動向を探る。


「それにしても遅いわね。あのバカどこで道草食ってるのかしら」


ユキが呆れながら言うと、ミヅキが心配そうな表情を浮かべた。


「何か、予想外なことが起きた……とか?」

「それはないわよ。あのバカは野生児だから」


間髪入れずにミヅキの言葉を否定すると、ユキは溜め息をついた。


「ユキ。大丈夫だよ。今こっちに向かっているみたいだから」


スイは苦笑しながら、ユキに視線を向ける。


「別に。心配なんてしてないわ。ただ……」


ユキはそっと目を伏せる。血まみれで倒れる少年の姿を思い出して────。


しばらくするとショウが近づいてくるのが気配で分かった。


「ショウどうだった……?」

「やっときたのね。ショ……ウ?」


スイ達の気配を追って後ろから走ってきたショウに、スイとユキが真っ先に視線を向けるが────。

二人は少し目を見開き言葉を失った。


なぜなら────左脇に綿飴の袋を挟み、手には大きなりんご飴が7個、右手にオム焼きそばと割り箸、そしてイカ焼きを口に咥えた状態で────。


暗闇から猛スピードで駆けてくる弟の姿にユキは項垂れる。


「ちょっ、ショウ!なに祭りをエンジョイしてんのよっ!」


これにはみんなも目を見開き、ユキをのぞいてみんな笑い出した。特に脇に抱えている綿飴の袋が可愛すぎてショウに不釣り合いだ。


「はっひほひゃふにふぁ、ひへはへは。ほへぇ、ふうはぁ?(さっきの奴には逃げられた。これ、食うか?)」


合流したショウはイカ焼き以外はみんなで食べる為に買ってきたのだろう────。買ってきたものをユキに渡そうと前にだしたが。


「今はいらんわっ」と跳ね返された。


ショウは手に持っていたものを魔法で消すと。食べていたイカ焼きを差し出す。


「いるか?」

「なおいらんわっ」


にべもなく断られたショウは残ったイカ焼きを一口で食べ切った。


スイは2人のやり取りに、軽く瞼を閉じてクスリと笑う。そしてゆっくり開いたその瞳は、夜空に浮かぶ満月と同じ深い紅。


「ふふ。……じゃあ始めようか」


満月より美しく光るスイの瞳は、夜にとても映える。

柔らかく微笑む姿も端麗すぎる容姿と相まって、他の者が見れば息をするのも忘れてしまうほどだろう。


「陽を捨て無理やり月を得ようとした愚かな花と────それを与えた蝶に制裁を」


マイナも他の兄達もスイと同じく吸い込まれそうな真紅の瞳が煌めき────スイが歩きだすとその後を追う。


『『夜は我ら、ヴァンパイアの時間だ(よ)────』』


そして音もなく姿を消した。



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