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13音*.♪❀♪*゜ウィーリッチ

ふわりと天から降り注ぐのは、薔薇の雨────。

一面に咲く薔薇に、ここが薔薇園だとすぐに気づく。


入ってきた扉は既に消え、本来なら昼間のはずが……夜空へとなり、満月が浮かんでいる。


そんな不思議な状況に、この場所が“別の空間”であることを物語っていた。


「ニャー。ようこそ、可愛らしい姫君方。入学おめでとう!確認の為、生徒手帳を出すニャ」


紫色の魔女帽子を被った黒猫は、緩やかに尻尾を揺らす。


気品漂う艶やかな帽子には、ほのかに甘い香りを放つ大輪の薔薇が咲き誇り、とても美しい。


────猛毒だとしても。




魔法でパラパラと二人の生徒手帳を確認し終わると、ウィーリッチは最後のページに、ぽふっ……と肉球を押しつける。


魔力を込めて押された肉球マークの魔力印は、スゥーと紙に溶けるように消え、その数秒後に魔法陣のような印が現れた。


「確認したニャ。それとこれが、二人の学生証。購買とかで、学生証を提示するとポイントが貯まるニャ!」


差し出された可愛らしい猫の手から、それぞれ生徒手帳と学生証を受け取る。


「ありがとう。久しぶりだね〜、ウィーリッチ。会えて嬉しい」


マイナがにこりと微笑むと、ウィーリッチと呼ばれた黒猫は穏やかな瞳を向け、「ニャー」と一鳴きした。


「私もですよ、姫様。姫様と離れている間、癒しのない日々に毎晩枕を濡らして……干からびるかと思ったニャー」

「ウィーリッチ……」

「幼少の頃よりお仕えしているニャーにとっては、姫様は家族も同然!もはや妹ですニャ。それに、ニャンていったって姫様は、私の一番弟子なんですから」


そう言ってウィーリッチは、いつもの軽口混じりのおどけたような笑みを浮かべる。


けれどその笑顔はどこか特別で、瞳の奥には長い時を共に過ごしてきた絆と、肉親にも近い深い情愛がにじんでいた。


「ウィーリッチ……ありがとう。昔から貴方は私にとって、師であり兄であり……悪友でもあるわ。そして、何より信頼できる騎士の一人よ。これからも、よろしくね。ウィーリッチ」


ふんわりと微笑むマイナに、ウィーリッチは嬉しそうに尻尾を振る。それと同時に、弾んだ声で「ニャー!」と返した。



「二人は、知り合いだったんだね」


ふと、隣で聞いていたツムギが声をかけると、ウィーリッチは視線を移した。

洗練された美しい所作で、右手を左胸に添えて軽く会釈する。


「ええ。恐れ多くも、姫様付きの賢者の一人、ウィーリッチ•テノーラです。今日は、新入生の案内を務めますニャ。普段は姫様の側近でもありますので、これから目にすることが多くなるはずです。以後、お見知りおきを」


猫でありながら優雅に振る舞うその姿は、さすが高位貴族出身だ。

首元に結ばれた無地の紅いリボンが、漆黒の毛並みに映え、一層その高貴さを際立たせている。


「それと入学祝いに、最近ハマっているお菓子とニャーが作った魔道具を渡すニャ♪」


そう言ってポンッと空中に現れたのは、綺麗にラッピングされた犬型のクッキーと、犬をモチーフにした銀のチャーム。

魔道具であるチャームには、一回きりの強力な守護魔法がかけられているようだった。


だが、二人が釘づけになったのは、美味しそうなクッキーでもなければ、強力な魔法でもない。


────その見た目だった。


猫である本人に反して、なぜか全部……犬なのである。


((……猫なのに?))


マイナとツムギは、心の中で密かに同調した。


「それでは、僭越ながらこの猫のニャーが、教室までエスコートしよう」


どことなくチャライ雰囲気を醸し出している黒猫は、二本脚で立ち上がると……恭しく貴族らしいお辞儀をする。


それに合わせて、チリンと帽子についているベルが、軽やかに鳴った。


すると視界が一転し、いつの間にか教室の前へと変わる。


斜め上のクラスプレートには、【魔法特進科1ーレッドダイヤモンド】と表記されていた。


「さあ、着いたにゃん!この扉をくぐる準備はできたかな?」


帽子の影で覗く金と青の瞳は、どこか面白気にこちらを見ている。


「もちろん。準備はとっくの前にできているよ」


マイナの言葉に、ツムギも意を決したように頷く。

そして、教室の扉に手をかけた────が、扉を開ける前にウィーリッチに視線を向けた。


「ニャ?どうしたニャ?」

「……ウィーリッチ。一応確認なんだけど……中庭の薔薇園を模した防犯システムのあの場所に、お祖母様が禁止した薔薇なんて……植えてないよね?」

「……植えてないニャ」


静かに揺れ動いていた尻尾が、ピタッと止まる。


「そう……。てっきり、魔界でも見たことのない種類の薔薇が咲き誇っていたから、ウィーリッチの薔薇だと思ったんだけど……」


元々、魔塔に所属していた、ウィーリッチは例に漏れず大の研究好きだ。


側近に選ばれてからも、休日には魔塔に顔を出しているらしい。


そんなウィーリッチの研究対象は、魔法花だった。魔道具や魔宝石のように、最小限の魔力で魔法を発動できる花。


魔界では、野生の魔法花は割と多いが……効能は割と低い。その為、魔族達にとって魔法花は“おまじない”程度の認識だった。


だが……ウィーリッチは、そこに目をつけたのだ────。


魔法や魔力を好きな生花に注ぎ込んで、望む効能を付加し……さらには、見た目の品種改良までしたのである。


そこまでくると、とことん調べつくしたいのが研究者の性……。


その結果、上位の回復や攻撃魔法などの付加にも成功したのだ。


しかも────呪文さえ唱えれば、魔力関係なく誰でも発動可能。あるいは、少量の魔力で……己の実力以上の魔法を扱えるようになるのだ。


そんな、毒にも薬にもなるその研究は一部を除き、ミリアーナによって────終止符を打たれたのである。


「…………あれは、この間完成した新品種の薔薇だニャー。だから……禁止されてはいないニャ」


ウィーリッチは、耳をピクリと動かして……目を逸らす。


その姿にマイナは、軽く目を細めた。

そして、ニコッと口角を上げる。


「なら良かった〜!もしかしてあの薔薇園を使って、実験しようとしているのかな〜って思ったんだけど、違うなら安心。いくら魔界で研究出来なかったからって、さすがに植えたりしないよね〜」

「ニ、ニャー……」


冷や汗を垂らしながら、消え入りそうな声で鳴くウィーリッチは、ビシッと固まる。


こうして見ると、まるで猫の置き物のようだ。


「ならば後で、ぜひお祖母様にも見てもらいましょ」

「ま、待つニャ……あ、あれは、まだ、未完成で……」

「嫌だな〜、ウィーリッチ。貴方が未完成の薔薇を、あんな場所に植えるわけないでしょ?大丈夫よ、自信をもって?お祖母様はウィーリッチが作る薔薇を、いつも楽しみにしているもの。知っているでしょう……?それとも、何か見せられものがあるの?」


マイナは、コテンと小首を傾げる。


「ニャ、ニャー。まさか……」

「そうだよね?まさか、禁止された魔法花を掛け合わせてなんか、いないよね?掛け合わせた魔法花は、新たな品種になる……だから、ノーカンとか」


言い当てられた、ウィーリッチは軽く驚き目を見開いた。そして、耳と尻尾が脱力し……ぺたんと落ちる。


「……!ニャー、そこまでバレていたとは……姫に一本取られたニャ。さすがは、我が姫様。だんだんスイ殿下に、似てこられましたね」


眉を下げて笑うウィーリッチの尻尾は、またゆっくりと動き出す。


「ありがとう。それは、褒め言葉だよ」


ふふっと……嬉しそうに頬を緩めたマイナは、まるで天使のような笑みを浮かべるのだった。


「ウィーリッチ、あんまり危険なことはしないでね。貴方は、私の騎士なのだから」

「もちろんです。姫様」

「それじゃあ、行ってくるね〜」

「ニャー!いってらっしゃいませ。姫様」


ウィーリッチはいつもの陽気な笑みで、主を送り出す。


マイナは、扉を開けると────教室の奥へ足を踏み入れた。




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