10-2音*.♪❀♪*゜ 真神学園
そんな二人を尻目に……右手に炎を灯しながら、ヒヅキもため息を漏らす。
冷気に覆われていた空間は段々と元に戻り、氷が溶けていく。それと同時にユキの魔力も消えていった。
まるで、最初からなにもなかったかのように。
その光景を眺めながら、ヒヅキは眉を顰める。
「……まさかとは、思ったが……」
「的中しちゃったね……」
ミヅキが視線の端で兄を捉えると、ヒヅキは少し疲れたように「ああ」と静かに頷いた。
「イルヴェリーナ国の魔王は、代々かわいい顔して策士だよな……。血を感じる」
「あはは……プラス、二代目以降からはお祖父様の血も混じっているからね。さらにパワーアップしてるんじゃない?その後もすごいけど……」
「その血が俺たちにも流れているけどな」
二人は、代々の魔王と王配を思いだして遠い目をした。
「だけど本当なの?この国の目的が、ミリアーナ様……お祖母様が交わした約束だけではないって……」
「ああ。おそらくな。お祖母様にとって、表向きの《人間との共存》がメインなんだろうが……ついでに人間界にいる、はぐれヴァンパイアを支配下に置こうと考えたんだろう。半信半疑だったが、この国を見て……確信した」
ヒヅキはそう言い終わると目を伏せる。
(まぁ……単純に、他の魔外国よりも大きく美しい国を創りたかったんだと思うが……ああ見えて、誰も成したことがないことに挑戦するの、好きだったりするしな……遺伝か?……)
第四真祖、マノンの姿が脳裏に浮かぶ。普段、優雅で気品あふれる嫋やかな姫だが、意外にアクティブな一面を持つ。その血が脈々と受け継がれているのだ。
「確かにそれなら、この広さに納得がいくけど……そんなことをしたら、他の国が黙っていないんじゃ……?」
ミヅキは首を傾げる。
いつからか分からないが、人間界に彷徨う元人間のヴァンパイアのことを、《はぐれヴァンパイア》と呼ぶようになった。
同じ元人間のセカンドヴァンパイアとは違い、どこにも属さない……はぐれた者。
主から庇護を受けられなかった者たちのことである。
何も知らず、何も分からず、気まぐれに噛まれ、いつの間にか……人間からヴァンパイアへ────変わった。
庇護を与えられなかった者は、人を襲いやすくハンターからも狙われやすい。
本来は吸血後に、主の血を飲むことでセカンドヴァンパイアとして安定する────。
だがしかし。
与えられなかった場合────血を求める獣へと落ちていく。
稀に、強靭な理性で抑える者もいるが……それもいつまで保つか分からない。
その為、見つけ次第────それぞれの国で管理することが決められているのだ。
国にとっても人材は多いほどいい。たとえそれが、はぐれヴァンパイアであっても。能力は低いが、上位種の命令に忠順だからである。
(けど、いくら下位とはいえ……一つの国が大勢受け入れたら、さすがに他の国も黙認できないはず。ヴァンパイア大陸の中で、イルヴェリーナ皇国は二位の強さを誇る。当然……一位である最も最強な国、マフィーヴィア帝国も今回の件に協力しているはずだ。レイフィスお祖父様の存在が大きいとしても、無駄に勘繰る奴がでてくる。それに……それ以上、国力に差を出したくないと望む奴等も……)
そんなミヅキの心配をよそに、ヒヅキは悠然と答える。
「そこで、俺たちに護らせようってことだ」
「……え?」
「真神学園に通っている間、必然的に桜歌皇国にいる時間が増える。国内と学園内に潜んでいる敵を監視させるつもりなんだろうな。純血種として、王位継承権を持つ者として、国に対して害する者は許しておけない。俺たちの行動も予想済みってわけだ。必ず他国は密偵を送り込むだろうから、ついでにその子飼いを捕まえて逆に相手の弱みを掴めたらいいな〜って、思っているんじゃないか?」
「……思っていそうだね、お祖母様なら絶対。それに、ヒヅキの予想はよく当たるし、説得力もある」
楽しそうに笑いながら敵陣の駒を転がす、ミリアーナの姿が容易に浮かぶ。
人間界にある将棋やチェスに似た、魔界のボードゲーム『シャドークロス』は、ミリアーナのお気に入りなのだ。
「このこと、スイにぃたちは……」
「もちろん気づいてる。ユキもマイナも。……そこの脳筋は、まぁ……野生の勘で、なんとなく気づいているはずだ」
「ヒヅキ……」
ヒヅキの視線を追うようにミヅキも動かすと、ショウは未だにハンカチを噛む勢いでユキを見つめている。
「…………」
「…………」
その状況に二人は視線を逸らした。
「他国が送ってくる密偵、きっと相当の手練だよね。人数もそれなりだと思うし……学業に仕事に役目に、なかなかハードだね……」
思わずミヅキは、ため息をついた。
(倒すだけなら簡単だけど、情報もとなると……少し骨が折れるなぁ)
情報収集には、主に二つのパターンがある。
一つは、慎重に情報を集める【黒猫型】。潜入、監視、探るなど、直接的な行動はとらず紛れる。
二つ目は、直に情報を引き出す【狼型】。敵から情報を吐き出させたり、記憶を読み取る。
どのパターンも時間がかかるのは確かだ。
「お祖母様のことだから、この国に騎士や影は置いてくれると思うけど……せめて、賢者の位にあたる魔導師やそれなりの腕を持つ剣豪がいたらいいな」
「大丈夫……」
いつの間に起きていたのか、ユヅキが呟いた。




