9音*.♪❀♪*゜ 特別な制服
朝食を食べ終えた後、部屋で制服へと着替える。
身だしなみを確認する為に、姿見の前に立つと……新しい制服に身を包んだ少女が映った。
紺のブレザーに、赤いチェックのスカート。
シックな赤いリボンには、斜めラインが入ったストライプ柄と、王冠を戴いたハート模様が散りばめられている。
そして金の刺繍で施された校章が、左胸で煌めいていた。Mを包むように細やかな曲線でハートが描かれ、王冠が飾られている。
───それが今日から通う真神学園のエンブレムと制服の一つであり、マイナが考案したデザインだ。
(デザイン通りね)
マイナは嬉しそうに微笑むと、一回転してみる。
ふわりとスカートの裾が広がり、元に戻った。
真神学園の制服は種類が豊富で、自由に選び組み合わせることができるのが強みの一つ。
校章さえついていれば、自分でデザインすることも可能なのだ。
すでにある既存の制服のデザインは、カミノ家兄妹がそれぞれ考えたものだった。125種類のうちのほとんどは、ユキとマイナの作品だ。
「やっぱり、リボンは赤だよね」
大きな赤いリボンに触れると、結び目についたチャームが、チャリ……と小さく揺れる。
月に抱かれた桜のアクセサリーが、鏡の中でキラリと輝いた。
春をイメージした淡いピンクの口紅をつけていく。瑞々しい色合いが唇に広がり、まるで春に口づけているかのようだ。
(まだ試作段階だけど、綺麗な発色……!)
うるっと艶やかに発色するリップティントは、唇を美しく彩っていた。
「あとは、髪の毛!どうしようかな……」
鏡の前で、髪を軽く持ちあげる。
「羊ヘア?三つ編みカチューシャ?それとも、お嬢様風にサイドでハーフアップ?片側の一部を薔薇の形にして、垂らしてもかわいいんだよね〜」
慣れた手つきでヘアアレンジをしては、違う髪型も試していく。
ふと、机の上にある赤いリボンの紐が目に入った。
「やっぱり、いつもしている髪型にしようかな」
そう思い、机に向かうその直前……「わん!!」と聞き慣れた鳴き声に呼び止められる。
振り返ると────尻尾を左右に振りながら、赤いリボンの紐を咥えたふわが、座っていた。
どうやら机の上に置いてあるリボンとは別に、仕舞っていた缶から、同じものを見つけて持ってきたようだ。
その証拠に、様々な色合いのリボンが床に散らばっていた。
(……あとで片付けなきゃ)
マイナはリボンを受け取ると、ふわの頭を撫でる。
「ありがとう!」
「わん!」
そう伝えると、揺れ動いていた尻尾が高速へと変わり、お腹を天に向けた。
櫛を手に、もう一度鏡の前へ立つ。
丁寧に髪を梳かすと艶が増し、さらに光の輪に磨きがかかった。
マイナは手慣れた速さで、左側の髪の一部にリボンを編み込むと、三つ編みにしていく。そして、下の留める部分を蝶々結びにした。
「完成〜!いつもの髪型もかわいいしいいね!!これで決まりっ!」
『決まりっ!!』
「『イェーイ』」
マイナに続いてふわもそう言うと、一人と一匹でハイタッチをする。
ぷにぷにの肉球が気持ちいい。
病みつきになる肉球を堪能後。マイナは棚から可愛らしい桜型の香水瓶を手に取り、手首に吹きかける。
────瞬間、甘酸っぱいベリーが混ざった……桜シャボンの香りが広がった。
「いい香り〜!回復や浄化魔法がかかった香水も捨てがたいけど、初日だし緊張を解すリラックス効果の魔法と結界が付与されているシャボンの方がいいよね」
漂う桜シャボンの香りに、心や体がリラックスしていくのを感じる。魔法の効果も合わさって、より効果を発揮しているのだろう。
(清潔感があって爽やかな香り……それでいてほのかに甘い。……普通のシャボンバージョンもあるけど、こっちにして正解かな)
手元の香水を棚へ戻す。
そして両手首をそっと合わせ、香りを肌に馴染ませると、首筋にも移した。
「普段はオールマイティな魔法がかかった、ベリーと桜の香りが一番のお気に入りでつけているけど、シャボン系やフルーツ系も同じくらい好きだな〜」
マイナは、可愛らしいアンティーク調の香水瓶に触れる。お気に入りだけあって、他の香水よりも減りが早い。
魔法やおまじないがかかった香水は、【マフィー】や【魔香】【チャームコロン】とも言われ、魔界では一般的に売られている。
赤やピンク、様々な色や形の香水瓶に視線を移す。
可愛らしいものからアンティーク調、大人っぽいものまで────棚に飾られた装飾が施されている香水瓶は、もはやインテリアの一部でもあるのだ。
飾るだけで華やかになる香水瓶は、香りをまとうだけではなく目でも楽しませている。
(そういえば……この間作った新作の、桜シャボンの香水。魔界でも人間界でも、すぐに人気商品の仲間入りになったんだよね)
マイナとユキ、そしてミヅキと共に開発した香水は、魔界や人間界で常に絶賛の人気を誇っているのだ。
(まぁ、でも当然といえば当然か……5大人気の一つだしね。ベリーにシャボン、フルーツにスイーツ、そしてフラワーの各シリーズは、どこでも受け入れやすい)
カミノ家が経営する有名ブランドの一つには、香水も扱っている為、必然的に兄妹たちも関わることが多いのである。
「準備OK」
支度が終わり、一階に降りようとスクールバッグに触れたその時。
コンコン────とドアがノックされ、ドア越しにユキの声が聞こえてきた。
「マイナ、入ってもいい?」
「いいよー!」
そう答えると部屋のドアが開き、制服姿のユキが現れた。髪の一部を緩く縛り、いつもよりシンプルで控えめだ。
(あっ!あのヘアゴム、昔ユキお兄様にプレゼントした……まだ使ってくれていたんだ)
ユキの髪の側で揺れる銀の雪のチャームに気づき、マイナは嬉しさと懐かしい思い出に、心が温かくなるのを感じた。
「わぁー!いいじゃない。可愛い〜!!制服似合ってるわよ」
「ありがとー!頑張ってデザインしたかいがあったよ」
ユキはマイナを見た瞬間、顔を輝かせる。満面の笑みで褒められ、マイナもつられてふわりと微笑んだ。
「でも、ヘアアレンジはさせて欲しかったわ」
眉を下げて悲しそうに呟くユキは、「そうだっ!」と閃いたように、持ってきた鞄からカールアイロンを取り出す。
「コテで、毛先だけ緩く巻かない?」
マイナの髪に触れながら、ユキは首を傾げた。
「それ、いいね!お願い、お兄様」
「オーケイ!」
無駄のない動作でスムーズに始めるユキは、流石プロである。
アイドルとモデルをしながら、ファションデザイナーとしても活躍しているユキにとって、ヘアセットはお手のものだ。
「そのリボン。確か一つだけ、違う模様が入っているんだっけ?」
ユキは鏡越しに、マイナの制服を見る。
「そうだよ。リボンの下部分に、桜の模様が一つだけ入ってるの」
マイナが指で示した先には、金で縁取られたピンクの桜模様が密かに紛れていた。
「へぇ〜、面白いわね。他のバージョンのリボンにも?」
「うん。桜柄のリボンとコウモリ柄には、ハートの王冠模様が一つ。十字架柄のリボンには、薔薇が。薔薇柄のリボンには、コウモリが隠れているの」
「なるほどね……確か、薔薇とコウモリ柄のリボンのストライプ部分って、蔦模様とイバラ模様だったわよね?そのネクタイバージョン、ヒヅキとユヅキが珍しく興味を持ってたわ。あの2人は、そこまで服に興味を持たないから、兄としては嬉しい限りね」
ヒヅキはともかく……ユヅキはユキの言う通り、あまり服に興味を持たない。
いつも適当に選んでは、ユキに止められている。逆に止めないと、いつ着るのか分からない服が入っているのだ。
「よし、出来たわよ!」
仕上げのヘアスプレーをかけ終え、髪をキープさせるとユキがにこやかに言う。
マイナは立ち上がり、鏡の中を覗いた。
毛先だけをふわりと巻いた髪は、やわらかく揺れて可愛らしい。さらに可愛くなった姿にマイナは、頬を染める。
「わー!!可愛い!」
(魔法みたい……!)
嬉しさのあまり、勢いよくユキに抱きつく。華奢な見た目に反して、ユキはふらつくことなくマイナを優しく受け止めた。
「ありがとう、お兄様!」
「……!どういたしまして」
花が綻ぶのような妹の笑顔に、ユキは目を細める。
兄妹仲良く笑い合っていると────コンコン、とノックが響いた。
「二人共、そろそろ時間だよ」
「「はーい」」
スイの言葉に二人は返事をする。スクールバッグを持ってドアを開くと……その先には、ケープ付きマントに身を包んだスイが立っていた。
真神学園は高校も大学もある。制服は校章さえついていれば自由だが、マントは指定だった。
スイはマイナの髪に、そっと触れる。
「可愛いね!」
「ありがとー!お兄様もすごくかっこいい!!」
スイは一瞬きょとんとした後、クスリと笑った。
「そう?マイナにそう言われると嬉しいな!ありがとう」
透き通るような柔らかい声音は、いつも温かくて落ちつく。
「お待たせ。行きましょ」
ユキが荷物を持って後ろから現れると、スイは二人に視線を向けて首を傾げる。
「二人共、忘れ物はない?」
「「大丈夫」」
マイナとユキは、パチンと指を鳴らす。
すると────ケープ付きマントが現れ、そのままふわりと肩に掛かった。
「それなら、行こうか」
スイの言葉に二人は頷き、二階を下りていく。
リビングには、制服姿の三つ子がソファに座っていた。
ヒヅキは髪を少し後ろに縛り、スマホをいじっている。その肩にもたれるようにユヅキは、変わらず眠っていた。ミヅキは、前髪を少しだけピンで留め、テレビを眺めている。
三人が階段を下りてくると、三つ子達は気づいて視線を向けた。
「おっ制服似合ってんじゃん!可愛い」
ヒヅキはふっと口元をほころばせると、マイナの頭を撫でる。
ユヅキも目を少し開けて、「ん…似合ってる…かわい…い…スーzzz」と一言だけ呟いて、再び眠りに落ちた。
「いいね!すごくかわいい」
ミヅキもにこりと笑って褒めてくれる。
すると────。
「おーー!!!すげーー可愛いじゃん!!めっちゃ似合ってる!」
冷蔵庫から飲み物を取りに行っていたのだろう。
ショウが、ペットボトルを片手にリビングへやってきた。
「ありがとう、お兄様!お兄様達もかっこいいよ」
マイナは、ふわりと微笑んだ。




